女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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じゅんび!

「こんにちは、稲葉先輩。ひと月ぶりでしょうかー」

「こんにちは桃谷さん。久しぶりだね」

 

 ハンバーガー屋に入ったボクを迎えたのは、今日もおっとりとした様子の桃谷さんだった。ポテトをつまみながら待っていた彼女は、相変わらず気品のようなものが感じられた。彼女が食べていると、ジャンクフードすらも高級なフレンチ料理にすら見えてきた。

 

「それで、作戦の準備段階はいかがですかー?」

「うん、予定通り、俊樹といっぱい出かけて、たまにさりげなくボディタッチしてるよ。微妙に動揺してる俊樹の様子が面白くて、なんだかクセになりそうだよ」

 

 さりげなく手を握った時や、肩と肩が触れ合った時など、彼の表情をよく観察していると、動揺していることが分かった。夏休み前に桃谷さんの言った通りだった。

 

『秋山先輩はああ見えて、あなたの接触にドキドキしています。表情をよく観察してみてください』

 

 彼女のおかげで一歩進めた気がする。あの時は、心の中で桃谷さんのこと神や仏のように崇めたものだ。

 おっとりとした様子で、桃谷さんはボクの言葉にほほ笑んだ。

 

「それは良かったですー。せっかくですので、思い出話の一つでも聞かせてくださいな」

「あ、いいよー。この前、ボクらは海に行ってきたんだ」

 

 語りながら、ボクは回想に浸り始めた。

 

 

 

 

「突き抜けるような青空! 潮の香り! 綺麗な砂浜! そして、眼下に広がる大海原! うおおおおお! 海だー!」

「テンション高いな」

 

 高々と叫ぶボクとは対照的に、俊樹は冷静だった。

 

「お前なんでそんな冷静なんだよ! 海だぞ!」

「海だな」

「テンションひくっ! あげてこうぜ! イエーイ!」

「ういー」

「二日酔いの時のウチのお父さんみたいなテンションやめろお!」

「いやだって、想像以上の暑さでなあ。お前平気なのか?」

「大丈夫。なんてったって、この麦わら帽子があるからね」

 

 ボクは片手でつばを掴むと、得意げにクイッと上げた。

 

「……なんでそんな得意げなんだ?」

「だって、夏の砂浜の美少女って言ったら麦わら帽子と白いワンピースだろ!」

 

 得意げに言ってから、ボクは自分の恰好を見せびらかすように胸を張って、腰に手を当てた。

 

「……そうか」

 

 俊樹は、少し目を逸らして答えた。しかし、そんな誤魔化すような態度、今日のボクが許すとでも思ったか!?

 

「ほらほら! よく見ろ!  ボクの可愛さに恐れおののけ! そして褒めたたえろ!」

「やめろくっつくな! 暑い! うっとおしい!」

 

 ボクは両手で彼の両肩を掴むと、彼の体を引き寄せた。彼の顔が赤くなるのと同時に自分の顔も赤くなるのが分かったので、下を向き、麦わら帽子で隠す。

 

「分かった分かった! 似合ってる! 似合ってるから離せ!」

「そ、そうか? ふふーん」

 

 望んだ言葉を得たボクは、彼の体を解放した。「なんだコイツうぜえ……」という彼の言葉は、上機嫌なボクの耳は入ってこなかった。

 

「じゃ、着替えてくるからここ集合な」

「ああ」

 

 俊樹と別れ、ボクは水着に着替えるために女子更衣室へと向かった。中に入ると、既にたくさんの着替えをする人たちがいっぱいいた。肌色でいっぱい。けれど、もはや見慣れたボクはそれに動揺することはなかった。

 

「……これで、良かったんだよね」

 

 持ってきた水着を眺めて、ボクは改めてこれで良かったのか自問自答した。

 この水着は、栗山さんと片岡さんと一緒に買いに行ったものだ。

 薄いピンク色をした、可愛らしい水着だ。ワンピース型で、上半身までぴっちりと覆ってくれる。「稲葉さんは肌を出しすぎると、視線を集めすぎるから」とは栗山さんの言葉だ。

 

 着替えて外に出ると、露出した肌に太陽光が突き刺さった。少しだけ伸びをして、ボクは待ち合わせ場所へと向かう。

 

「お待たせ俊樹」

「おう。ッ……早かったな」

 

 俊樹はボクの姿を認めると、少しだけ視線を下にずらした。その様子に、ボクは自分の水着選びは正しかったことを悟った。

 

「あれー、今何を思ってボクから視線を逸らしたのかなー?」

「……」

 

 俊樹は答えず、無言で海の方へと向かって行った。

 

「おいおいー。照れ隠しなんてらしくないぞー」

 

 ボクはその背中を、うきうきとした足取りで追った。

 

 

 

「その後も、泳いだりとかー。水かけて俊樹に怒られたりとかー。一緒にかき氷食べたりとかー。夕暮れの潮騒に耳を傾けたりとかー。色々やったんだ!」

「なるほどー。楽しそうで何よりです……ところで」

 

 ボクの話をニコニコと聞いていた桃谷さんは、少し目を細めた。その様子に、どんなことを言いだすのかとボクは身構える。

 

「私の策、本当に必要ですか? あなたたち、放っておけばゴールインするのでは?」

 

 いつも悠然としている桃谷さんは、少し呆れているようだった。

 

 

「……まあ、あなたが困っているというのなら私は手を差し伸べましょう。そうでなければ、私のポリシーに反しますからね」

 

 一人納得したように呟いた桃谷さんは、改めてボクの方に向き直った。

 

「さて、それでは、告白作戦の大一番、夏祭りの段取りについて話しましょうか。いいですか、稲葉先輩。大事なのは、普段通りと特別な雰囲気の境界、つまりギャップですよ」

 

 貴重な桃谷さんのアドバイスだ。ボクは唾を飲むと、心して話を聞いた。

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