女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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なつまつり!

 鏡には、妹に浴衣を着付けてもらうボクの姿が写っていた。明るい黄色の、活発な印象を与える浴衣だ。ところどころに花の模様があしらわれていて、華やかな印象を強めている。

 後ろ髪は一纏めにして、お団子になっている。顔にはあまり目立たないが化粧。いつもより血色が良く見える。グロスでてらてらと光る唇が、なんだか艶やかだ。

 

「理子、これ本当に大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。姉貴は顔だけはいいんだから、似合うって」

 

 改めて、浴衣の帯を締める。いや、締めてもらう、と言ったほうがいいか。とにかく、帯を締めるという行為は、不思議と気合の入るものだなと思った。

 

 

「お、俊樹……! やっと来た!」

「悪い、またせ……た……」

 

 呆然とボクの姿を眺めて、彼は呟いた。明らかに動揺している。その様子に、ボクは苦労して浴衣を選んだかいがあったなあ、としみじみと思った。

 そのまま動揺する彼を全力で煽り倒そうと思うが、なんとか踏みとどまる。落ち着け。今のボクは、作戦の遂行中だ。冷静にならないと。

 

「えっと……浴衣、頑張って選んだんだけど、どう、かな?」

「……正直、驚いたな。まさかこんなに印象が変わるものか、とな」

「どういう印象だ?」

「その……普段の男っぽい感じとは違って、お淑やかさとか、女らしさとか、そういうものが感じられる。……お前が、それをいいと思うのかは分からないが」

「ううん。嬉しいよ」

 

 お前にそう言ってもらえるなら、本当に嬉しい。

 

「じゃあ、行こう」

「……その手は?」

 

 薄々答えが分かっているように、彼は問いかけてきた。

 

「決まってるだろ。恋人のふりだ」

 

 そんな嫌な顔するなよ。恋人のふりも、今日までだ。

 

『――浴衣姿は、あいさつ代わりのジャブです。しかしその破壊力は、相当のものになるはずです。稲葉先輩という魅力的な女の子が自分を好いてくれていることに気づきもしない秋山先輩の目を覚まさせてやりましょう。これが秋山先輩を日常から非日常へと連れて行く第一歩となります』

 

 桃谷さんは、このように語っていた。

 確かに、こういう恰好はボクの普段の雰囲気とはだいぶ異なるだろう。衝撃を与え、いつもと違うことを意識させるという目的は達せられたのではないだろうか。

 

「ふふ……」

 

 嬉しくて、掴んだ俊樹の手をにぎにぎしてしまう。彼がそれにくすぐったそうに身じろぎするのを、ボクは微笑ましい気持ちで眺めていた。

 

 

「お、見ろよ俊樹。わたあめ売ってるぞ」

「おお、本当だ。欲しいのか?」

「うん、行こう」

 

 並び立って歩き、わたあめの屋台の列に並ぶ。けれど、隣に立つ俊樹はどこか挙動不審だ。

 

「なんだよ。珍しく落ち着かない様子じゃないか」

「いやなんか……お前と一緒にいる感じがしないっていうか、別人と並んでいるみたいで違和感があってな」

「ふふん、そうかそうか」

 

 どうやら、浴衣の威力はボクの想像以上だったらしい。

 列の一番前にいき、店主に小銭を渡す。返ってきたのは、ボクの顔くらいはあるんじゃないか、という大きな大きな綿あめだった。

 

「……デッカ」

 

 内心で彼の言葉に同意しながら、ボクは白いふわふわに歯を立てる。口内に広がる甘さに、ボクは思わず頬を綻ばせた。

 

「うまい! 俊樹もどうだ?」

「いや、俺は……」

 

 なぜか遠慮する彼は、やはりいつもの態度とは少し異なるようだった。

 

「いや、ボク一人じゃこんなの食べきれないって。いいから食べて。ほら」

 

 ボクが巨大綿あめを突き出すと、彼は渋々といった様子でそれにかぶりついた。

 

「どうだ? 美味いだろ?」

「……甘いな」

 

 彼は小さく呟いた。

 

 

「祭りと言えば、やっぱり射的だよなあ」

「まあ、そうかもな」

「というわけで、行くぞ俊樹!」

「おい待て! お前浴衣で転ぶぞ!?」

「おっとっと」

 

 ついつい、いつものテンションで行動してしまった。ボクは大股に歩きだした足を戻し、小さな歩幅で、しずしずと歩き始めた。

 

「なあ、凄い列だけど本当に並ぶのか?」

「当たり前だろ。射的しなきゃ、祭りに来た感がないだろ」

「そうか? まあ、いいけどな」

 

 彼の言う通り、射的に並ぶ人は多く、しばらく待たされそうだった。

 

「それにさ、祭りに来て、その人混みの中にいるだけで、なんか祭りに来たなーって感じしないか?」

「……すまん、どういう意味だ?」

「分からんやつだなあ。賑やかな人の声とか、太鼓の音。人混みの生み出す熱気、客引きの声に、焼きそばの香ばしい香り。それから夜空に立ち昇る煙とか、そういうものから十分祭りは堪能できるって言いたいんだよ」

「あー、雰囲気か。それは確かにそうかもな」

 

 それに、お前と並び立ってここに来れただけで、意味がある。本当は、綿あめが食べられなくても、射的が出来なくても、お前が隣にいればそれでいい。

 まあ、そんなこと恥ずかしくて言えないわけだが。しかし、ボクはこれからそれよりも恥ずかしいことを彼に伝えなければ――

 

「わー! 今の無し! とりあえず今は考えない!」

「おお、どうした」

 

 俊樹が、見慣れた呆れ顔でボクを見ていた。

 

「やめろ。見るな」

「……フフッ」

 

 俊樹の珍しい笑い声に、ボクは思わず彼を見上げた。

 

「俊樹にしては珍しい反応だな。どうした」

「いや、なんていうか普段のお前に戻ったな、と思った」

 

 安心した、とでも言いたげに彼は呟いた。

 ……あれ、まずい。桃谷さんの作戦である、『俊樹を日常から非日常へと連れて行く』という目標が遠ざかるのではないか!?

 

「ぜ、全然普段通りじゃないぞ! ほら、見ろよこの髪!」

 

 ボクは彼に背を向けると、お団子ヘアーを指さした。

 

「おお、似合ってるぞ」

「ふぁ!?」

 

 急に素直に褒めるのやめろおおお!

 

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