女の子になったボクは、とりあえず親友を惚れさせることにしてみた   作:恥谷きゆう

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けいりゃく!

 放課後、ボクは俊樹を誘い学校の近所のハンバーガー店に来ていた。夕方の店内には学生服姿の若者の姿がそこら中に見え、店内は賑わいを見せていた。

 俊樹はポテトをパクパクとつまみながらボクの報告を聞くと、満足げに頷いた。

 

「そうかそうか、なんとか女子を誤魔化せたなら良かった。正直俺の手出しできないところでお前がヘマしてるんじゃないかと不安だったんだ」

「良かったじゃないよ。大変だったんだから」

 

 俊樹は分かっていないのだ。彼女たちの好奇心に満ちた顔の圧を。追及の手のプレッシャーを。

 抗議の意味を込めて、ボクは俊樹の手もとのポテトを三本かすめ、口へと運んだ。彼はボクを睨んだ。

 

「自分のがあるじゃねえか。何で俺の取るんだよ」

「ボクのはコンソメ味。ちょっと塩味が食べたくなったんだよ」

「じゃあ塩味を頼めばよかっただろうが」

「だって俊樹がどうせ塩味頼むから、それもらえばいいやって」

「もらう前提かよ……」

 

 不満げな表情の彼に、ボクはやれやれとため息を吐いた。ケチな奴だ。まったく、そんなんだから顔がいいくせに彼女のひとつもできないんだ。

 

「じゃあ、ほら」

「ムグッ……」

 

 ボクはコンソメ味のポテトをつかむと、俊樹の口へと突っ込んだ。

 

「……行儀が悪い」

「またまたそんなこと言ってー。美少女のあーんだよ? 嬉しくないの?」

「相手がお前だと微妙な気分にしかならんわ」

 

 そんなことを言いつつ、ボクの顔が近づいてきた時の彼は少し照れているようにも見えた。まったく、素直じゃないなあ。ボクは密かに満足感を覚える。

 

 そんな風に、ボクたちの間には弛緩した空気が流れていた。いつもと変わらない、何気ない放課後。

 ふいに、俊樹が真剣な顔に変わった。

 

「それよりもお前、気づいたか? お前の過去の記録、写真とかまで、書き換わっている」

「ああ、ボクも今日気づいたところだよ。ほら」

 

 ボクは昼休みに女子に見せたプリクラを見せた。中では、補正によって美少女度の増したボクの顔と、ボクに肩に手を回されて渋い顔をしている俊樹の姿が映っていた。

 

「……分かってはいたが寒気のする光景だな」

「そう? 俊樹の嫌がっている顔が一層味のある感じになっててボクは好きだよ」

「そうじゃない。この過去までもが書き換わっている異常な光景が、寒気がすると言ってるんだ」

「……」

 

 それは、ボクも写真を見た瞬間に感じた。なんというか、今までの自分が全て否定されたような、このボクの自意識すらも仮初であると世界から告げられているような、奈落に落ちていくような恐怖が、ボクの胸を襲ったのだ。だから、ボクはそれを見ないふりをしていた。隠そうとした。

 

 けれど、俊樹の心配そうな目を見ていると、不思議と言葉が漏れてきた。

 

「なあ、ボクは確かに、一昨日まで男だったよな」

「ああ、間違いなくな」

 

 俊樹は安心させるように力強く頷いた。冷え切った胸中に、暖かい息が吹き込まれたような感覚を覚える。

 

「ボクが男だった証拠なんて、もう君とボクの頭の中にしか存在しない。それでも?」

「ああ、俺が保証してやる。お前が男だったって」

 

 力強い言葉に、なんだか鼻の奥がツンとしてくる。けれどボクの心は、もっと安心を求めていた。

 

「――たとえば、ボクがずっと女のままだったとして、君は男だったボクを覚えていてくれる?」

「ああ、きっと死ぬまで忘れない。お前みたいに変なやつ、忘れてたまるか」

「そっか。……安心した」

 

 いつの間にか、目に涙が溜まっていた。ああ、この程度で泣くなんて、本当に女の子みたいじゃないか。ボクは気恥ずかしくて顔を逸らして、そっと目を拭った。

 

「あ、馬鹿馬鹿。ポテト取った手で目触るなって」

 

 俊樹は律儀にポケットに入れていたハンカチを取り出して、ボクに差し出した。

 

「ふっ……やめろよ、彼氏に慰められてる女の子みたいじゃないか」

「状況的には間違ってないな」

 

 大人しくハンカチで目を拭うと、もう涙は流れてこなかった。代わりに、また恥ずかしさに襲われる。

 

「……ボクが泣いたのは、女の子の体だからだ。男のボクなら泣いてなかったからな」

「はいはい、分かった分かった」

 

 くっ……相変わらず余裕綽々な奴だ。腹が立つな。

 

 でも、正直助かった。きっとこのまま一人で家に帰っていたら、この自分の過去が、記憶が否定されたような感覚に、一人で付き合うことになっていたのだから。

 ぼそりと、聞こえるか聞こえないか微妙な声量で、ボクは呟く。

 

「……ボクのことを覚えていたのが、君で良かった」

「え?」

「なんでもない。……そうだ」

「どうした?」

 

 どうにかしてこの感謝の気持ちを伝えようとしていたボクの頭に、突如として名案が浮かんだ。

 ボクはコンソメ味のポテトを一つつまむと、口に咥えた。

 

「ん」

 

 そのまま、俊樹に突き出す。ちょうど、親鳥が小鳥に餌をやるような姿勢だ。

 

「は?」

 

 先ほどまで優し気な光を湛えていた俊樹の目が、急に冷たくなった。

 

「こひびとごほっこ」

「恋人ごっこ?」

「ほっきーけーむ!」

「ポッキーゲーム? ……あほか」

 

 ボクの意図を理解したらしい彼は、しかしポテトを食べることはなかった。

 

「ん!」

「いやいや、ないわ」

「モグ……なんだよー。せっかくの機会だから青春の思い出を作ってやろうと思ったのに」

「人の咥えたポテトを食った記憶なんていらんわ」

 

 心底嫌そうに俊樹は言う。……それもそうか。

 

「ムムム……」

 

 ボクのあわよくば俊樹を惚れさせてしまおうという作戦は、やはり難しいようだ。想像以上にコイツのガードが堅い。せっかく美少女といちゃつくチャンスを恵んでやろうとしているのだから、素直に受け取ればいいのに。

 

「うーん……」

 

 ボクはうまいこと俊樹を動揺させる手立てを考えるために、腕を組んで考え始めた。

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