コア娘アーマードダービー   作:舌百

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依頼、契約

「胡散臭いな、却下だ」

「え〜そうと言わず、ね?」

 

目の前の若い男は物乞いするかのように手を合わせる。あの群衆に紛れて勧誘しなかったズル賢さは認めるが、なんというか胡散臭い。そう、いうならば王小龍のような。

 

「ならさ、依頼ってことで契約しない?」

「なんだと?」

 

耳をぴくりと動かして奴を見る。

 

「そう、これは俺から君への依頼。依頼内容は君のスカウト。どうかな」

「報酬を提示しろ。見合うものならば受けてやる」

「おっ、乗り気だね。そうだなぁ…俺の一生、どう?」

「今回の話は無かったことにさせてもらおう」

 

空の皿を持って席から離れる。

 

「わー待って待って!わかった!望むもの!望むものなんでもあげるから!」

「ほう?貴様、撤回はさせんぞ」

 

そう言って男を睨むと、奴は自分の発言に気づいてアッと言う顔になった。

 

 

トレーナー室の椅子に座り、目の前で正座する男を見下ろす。さて、報酬はどうしようか。金…はあまり要らんな。身の回りの世話…も要らん…。トレーナーの役割といったらトレーニングだが…。目の前の男を見る。目はボサついた前髪で見えない。金髪だし、話しかけ方とかも含めてホストみたいだ。見える部分からはこいつが若いという事がわかる。おそらくだが、トレーニングの腕は大したことないだろう。

 

「はぁ…」

「案内させられた上に正座させられて、挙げ句の果てにため息まで吐かれちゃった」

「つくづく使えないな、貴様」

「まだ何もしてないのにあの女王様と同じこと言ってくる…」

 

さて、いよいよどうしたものか。私の望むもの…ああ、良いものがあった。これを叶えられぬというならばそれまでだ。ものは試しに言ってみるか。

 

「貴様、トレーナーだな?」

「そうですね」

「ならば私を、かの皇帝と同格まで上げてみろ」

 

見るからに驚愕している。やはり無駄だったか。まあそれも無理はない…あの存在と同格にするのは到底不可能に近いと、私ですら思っているというのに。

 

「そんなんでいいの?」

「やはり無理だな、帰らせて…は?」

「大金払えとか言われたらどうしよ〜って思ってたから楽で助かったよ。それじゃ、よろしく」

 

正座を解いて足についた埃を払う目の前の男を見る。目の前のやつは握手を求めている。が、私はそれどころではない。想定外が過ぎて脳がロクに働いていない。なんでこの男はこんなにあっさり受けたのだ。

 

「不可能だと、思わんのか」

「実際あの皇帝様ができてるし、断頭台さんも同じくらい強いしね。なんとかなるでしょ!」

 

あまりにも根拠のない楽観的な意見に思わず吹き出してしまう。変なツボに入ってしまった。抑えようとするが、どうにも収まらない。

話せるくらいまで落ち着いたため、目尻に浮かんだ涙を拭う。

 

「フッ…実に面白い。いかにもその通りだな…ククッ…」

「そんなに笑われるとちょっと恥ずかしいんだけど」

「いや…悪い…フフ…」

 

椅子から軽く飛び降り、握手のポージングのまま放置された左手を掴む。

 

「貴様に決めた。よろしく頼むぞ、トレーナー」

「ああ、よろしく…よろしくついでに名前で呼んでくれない?」

「貴様の実力が証明できたらな」

 

手を解き、改めて部屋を見ると、机と椅子が二脚ずつある。もしかして他のトレーナーと部屋を分けて使っているのか?それにしてもおそらくこいつのものであろう机はほぼ何も置かれていないのに対してもう片方はやけに豪華だな。真っ赤な薔薇の入った花瓶や細かい装飾の散りばめられた紫の杯が観賞用に置かれている。

 

「貴様、あの机は誰のだ?やけに悪趣味だが…」

「あ〜それは俺が手伝わせてもらってる人の机だね」

「もしや先程言っていた女王様とやらか?」

「せいか〜い」

 

そう会話していると、外からヒールの音がコツコツと近づいてくるのが聞こえる。

 

「噂をすればってやつだね」

 

扉を開けたその人物は想像通りの派手な人物だった。黒に近い紫の髪に全体的に均整の整った美しい目鼻立ち、そして美しさを際立たせるナチュラルだが濃いメイク。一つ想定外を挙げるならば彼女の肉体である。トレーナーだというのにドレスをまとう彼女は腕や足を露出させているが、そのどれもが筋肉のついた細さだった。

それにしても、どう見ても外人だ。こんな人物まで居るとは。その人物は部屋に入ってきてこちらを見るや否や、軽蔑の視線を送ってきた。

 

「あら、野良犬が紛れ込んでるようね」

「ほう?私のことを言っているのか?」

「あなた以外にいないわよ。そんな汚い視線を向けないでちょうだい」

「フン…愛玩にしか役に立たない飼い犬はよく吠えるな」

「へぇ…」

 

一瞬で剣呑な雰囲気がトレーナー室を包み込む。私の傍にいる奴は睨み合いの雰囲気を受けてオロオロしている。

 

「で、あなたは何をしているの?」

 

巻き込まれないために離れようとした男に向けて、逃さぬように女が不機嫌そうに話題を回す。

 

「この子のトレーナーにならせてもらいました!」

 

金田が姿勢を正してそう答えると、目の前の女は一瞬呆れた表情をしたが、その後こちらの頭の上から足の先までを見回してきた。

 

「汚い野良犬は嫌いだけど、無能が担当するには勿体ないわね」

「ならば担当してみるか?」

「死んでも嫌よ。いえ…流石にあの死に方の方が嫌ね」

 

互いに皮肉合戦を繰り返していくうちに、わずかな違和感が芽生えた。なぜかはわからないがこの女、どことなくリンクスのように見える。いや、まさかな。

そう思った瞬間、トレーナー室の扉が開いた。

 

「すまん、メアリー。忘れ物をした」

 

それは、ウマ娘だった。濃い小豆色の髪に緑の目をした長身細身のウマ娘。丸い眼鏡を懸けたその人物は見るからに知的な雰囲気で立っていた。

 

「む…客人か」

 

その人物は私に気づいたようで、メアリーと呼ばれた人物と同様に私のことを見回してきた。

 

「ほう…それなりの素養はあるようだな、期待しておこう」

 

そう言うと、軽く私に笑いかけてから彼女のトレーナーの机の上にあった荷物が雑多に入った籠を掴むとそそくさと出ていった。

 

「いまのは…」

「ああ、彼女?アートマンっていうウマ娘だよ」

「アートマン…?」

 

アートマン…アートマン…直近でその名前を聞いたような…。ああ、アナトリアの傭兵が言っていた転生してきた人物か。いやまて、今のがオリジナルNo.2のサーダナもといアートマンだと?!それに気づいた私は、アートマンが出ていった方を見つめて呆然としてしまう。

 

「もしも〜し…大丈夫?」

「あ、ああ…すまんな。少し…いや、何でもない」

「そう?ならいいんだけどさ」

 

にしてもあれがアートマンか…。いかにも数学者といった雰囲気だった。戦争がなくなったから数学と信仰に傾倒したのだろうか。

 

「彼女もすごいんだよなぁ…三年生の四強の一人なんだよね」

「四強?」

「シンボリルドルフ、シュープリス、マルゼンスキー、アートマンの四人のことだよ。この人たちの中でも3000m以上では無敗、それが彼女さ」

「やはりベースが違うのだろうな」

「いいえ、私の育成が完璧だっただけよ」

 

肩にかけていたバッグをおろしていたメアリーが私達の間に割って入ってくる。そういえばこいつも一応トレーナーだったな。

メアリー…まさかこいつ…。

思考を始めた私を置いて自慢とおだてが始まった二人の間に今度は私が割って入る。

 

「貴様、少しいいか」

 

上機嫌で自慢をする女の話を遮って尋ねる。

見るからに不機嫌になったそれを無視して言葉をつなげる。

 

「貴様のフルネーム、メアリーシェリーであっているか?」

「ええ、そうよ。でもあなたのような雑種とは会った記憶がないのだけれど」

「ああ、私だって会ったことはない。というより会いたくない」

 

はぁ?という表情を浮かべた女は次の瞬間には合点がいったように手をぽんと叩いた。

 

「私を取り扱った記事で知ったのね。私有名だし」

「違う」

 

そう切り捨てて、少し悩む。私の思考の後ろで喚く声が聞こえるがそれを無視して思案を深める。

こいつに、リンクスの話を持ち出して良いのだろうか。今はこんなに平和ボケした雰囲気だが仮にも元リンクス。傭兵に傭兵と打ち明けるのは日常での戦争の火種となりかねない。しかも相手は悪名高きBFFの女王様。

ふむ…だが…。

どうするかはもう決めた。思案を終えて口を開く。

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