コア娘アーマードダービー   作:からす the six hands

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同胞、遭遇

夕方、今はルドルフとともに制服を買いに向かった帰り道だ。金は学園の理事長が全額負担してくれるらしい。私としては利益しかないが、こんなことに易々と金を使っているとそのうち破滅しかねないと思うのだが。まあ、貰えるものはありがたく受け取らせてもらおう。それにしても、ルドルフはうまくやったようだ。これも民草の彼女に対する信頼によるものなのだろうか。全く、素性不明な他人にここまで気を使うのは、いまいち納得できん。

ルドルフの方を見ると、赤い太陽に頬を照らされる彼女が映る。何度見ても端正な顔つきだ。レースなんかやらずモデルとして暮らせばいいのではないかと一瞬思うが、自分も人のことを言えんなと一笑に付した。学園へと続く川沿いを歩いていると、いきなりルドルフが駆け出した。

なんのことかと思い見ていると、彼女は少し先にいる女性に話しかけた。その女性はウマ娘ではなかった。談笑している様子から先程本で読んだトレーナーというやつだろうか。どんな面をしているのかと気になって、彼女に追いつくようにしてそばに行く。

 

「おや、こちらの可愛いお嬢さんは誰かな。」

「それはこちらのセリフだ。貴様がルドルフのトレーナーか?」

「いや、私は彼女のトレーナーではない。」

 

正面から見たその女は非常に美しい顔をしていた。歳は食っていそうだったが、それでもなお美人さを失っていない。それにしても、ルドルフのトレーナーでないならばこいつは一体何者なんだ。

 

「ふふ、彼女は私ではなく、シュープリス…昨日の夜君が出会ったウマ娘のトレーナーだよ。」

「…なんだと?」

 

待て、シュープリスだと?昨日のあいつ、シュープリスというのか?いや…まだ同名の人物の可能性もある。この世界のウマ娘は皆一様に変な名前をしているから断頭台という名前がいても何ら不思議ではない…。

 

「改めて、シュープリスのトレーナーのアンジェだ。君の名前を教えてくれ。」

 

アンジェ…いやまさかな…本当にまさかな…。私以前にも転移したリンクスがいるなどおかしいだろう。いや、おかしくはないのか…?私という例がいるのだからおかしくはない…。だが、受け止めたくない。レイレナードの英雄たちが皆こぞってウマやトレーナーになっているなどと…。

困惑と思考を繰り返していると、ルドルフが目の前に手を翳してきた。

 

「いや、意識が飛んでいるわけではないぞ。」

「む、そうだったか。」

「それで、私の名前だったか。」

 

名前を語るのは信頼できる相手にのみ、リンクスならば当然だ。だが、この世界での私はリンクスではない。それに、名乗ったところで私を狙って刺客が差し向けられることもない‥筈だ。この二日である程度分かったが、この世界では戦闘も、殺人も滅多に起こらない。殺人が起こったらニュースになるような世界だ。ならば名乗ったほうが便利ではある。

 

「私の名前は、ステイシスだ。」

「ステイシスか。良い名前だな。」

 

そういうと、アンジェは私の頭を撫でた。普段であれば愚弄するなと振り払う所だが、今の私には正常な判断力などない。目の前にいるのがレイレナードの烏殺し、それの中身かもしれないという可能性が私に色々なものを想起させる。そして、もしそれが本当だったなら私は、どんな顔をしてシュープリス…いや、ベルリオーズやアンジェと顔を合わせれば良いのだ。

ウマ娘として接すれば良いのか?それとも、ウマ娘の世界に染まったであろう奴にリンクスとして接すれば良いのか?いや、冷静になって考えると、あの連中がリンクスだった時代を忘れるとは到底思えない。普通にリンクスとして接すれば良いだろうな。落ち着きを取り戻して前を見ると、すでにアンジェはいなかった。

 

「どうしたんだ?沈思黙考、先ほどから何かを考え込んでいるようだが。」

「いや、なんでもない。気にするな。」

 

その後の帰り道は何もなく、寮に着いた。そして、寮の門の前にてルドルフは私の方を向き直った。

 

「ああ、そういえば。君の部屋はもう手配してあるんだ。美浦寮のこの部屋だ。」

 

と、部屋番号が書かれたメモを手渡してきた。

 

「…同室はいるのか。」

「ああ、最近君と同時期に来た子がいてね。悪い子ではないから大丈夫だとは思うが…。」

「まあ、文句は言っていられん…か。いいだろう。それでは、な。世話になった。」

「うん、私も楽しかったよ。」

 

そう言って先に寮へと向かう。ルドルフは学園の方へと向かっていった。何か仕事でもあるのだろうか。なるべく早く寮へと向かう。見られても問題はないが、普段着で校内を歩き回るのは推奨されんだろう。

 

 

寮の扉に手をかけ、部屋を見る。部屋の中はすでに電気がつけられており、窓の夕日を掻き消している。家具などは備付けのものしかない。そんな部屋に、自分の他にもう1人、ウマ娘がいた。

白い腰まである髪、寝ぼけ眼のような青い瞳、特徴的な長いアホ毛、白いワンピースを着た少女だ。それは私を一瞥すると、すぐに視線を持っている本へと移した。

 

「貴様、名前はなんと言う。」

「…ホワイトグリント。」

「貴様、まさか…!」

 

詰め寄り、顔を掴んで目を合わさせる。

 

「貴様、ラインアークのホワイトグリント、か?」

「…ッ。」

 

そう言うと、彼女の目に一瞬光が宿った。やはり、ビンゴだ。雰囲気もあの傭兵に似ていると思った。

 

「私はステイシスだ。」

「そうか…。」

 

少し耳を動かしたが、気にしていないようだ。…存外に反応が薄いな。もう少し驚くかと思っていたのだが、彼女は再び本を読み始めている。なぜだ、これすら想定の範囲内だとでも言うのか?

 

「貴様、私がいることを疑問に思わないのか。」

「…旧知の人がいた。」

「何?」

 

旧知の人ということはつまり、リンクス戦争時代のリンクス、ということだろうか。こいつがラインアークから出たという話を聞いたことがないから、というだけの判断だがリンクスと出会っているならば私の登場に驚かないのも納得がいく。

だが、ベルリオーズは今遠征中でいないはず。ということはもう1人のリンクスも来ているということだろうか。

私というものでありながら聞くのが怖い。かと言って聞かずにいるのも…。と顔には出さずに悩んでいるとホワイトグリントが口を開く。

 

「アートマン、そう名乗っていた。」

「アートマン…つまりサーダナということか?」

 

サーダナ、No.2のオリジナルリンクス。かつてはバーラット部隊を率いて眼の前にいる奴を苦しめた、らしい。私はあくまでも口伝でしか聞いたことがないから詳細がわからない。

それにしても、そんなやつまでが来ているとはなんとも不可解な世界だ。

死したリンクスが流れ着く世界だったりするのだろうか。

そんな考察は無粋か。もしかするとリンクス以外も流れ着いている可能性だって十二分以上にある。

 

「貴様は、これからどうする。」

「…全てはフィオナのために。」

「フィオナ・イェルネフェルトも来ているのか?」

「ああ。」

 

あの女までもが来ているのか。…なぜだ?リンクス以外にも来る可能性があるのか?法則性が一切見えない。もしかしたら完全にランダム選定なのか?

 

その後は二人共大して話すこともなく黙々と支度を進めた。奴も翌日からの編入となっているらしく制服やその他諸々の準備をしていた。のだが、なんか用意してるものが変じゃないか?催涙スプレーに警棒、防犯ブザーにテーザー銃…。一体どこで仕入れてきたんだ。

 

「おい、それ…どこで仕入れた?」

「フィオナが持っておけと買ってきた…女ならば持っておいて当然らしいが。」

「いや、女でもおかしいだろ。」 

「そういうものか?」

 

見るからに驚いた表情をしている。いや、不思議に思わなかったのか。その後はいらなそうなものを適当に吟味してやった。かつて同盟を組んだ相手だ、流石に恥をかかせるわけにはいくまい。

私の用意はただ制服と先ほどルドルフに渡された大量の教科書を鞄に詰めるだけで終わった。

明日は、同年代の連中と初の顔合わせとなる。私と張り合うのにたるものか、楽しみである。

 




ホワイトグリント

身長:168cm
体重:適正
胸:B
靴のサイズ:25.5

耳:一般的
尻尾:まとまってる

白のロングストレートヘアーに水色の常にけだるげな瞳

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