コア娘アーマードダービー   作:舌百

6 / 14
編入、畏怖

「本日は、編入生2人を紹介します。」

 

朝のホームルーム中にいきなり先生がそう言った。クラス中のウマ娘たちが沸き立つ。どんな子なんだろー、とか2人もいるんだーとかだ。かくいう私もすごく気になる。同期の黄金世代に匹敵する相手となるのか、それともただ策に使える駒に過ぎないのか。

 

「入ってきていいですよ。」

 

先生がそう言うと前の扉が開いた。さあ、どんなものかお手並み拝見と行こう。

 

 

教壇に立ち、クラスを見渡す。一眼見た時の印象は、失望だった。どいつもこいつも間抜けな面をしている。編入生が珍しいからか、私と隣に立つホワイトグリントを交互に見ては憧憬や期待の眼差しを向けている。仮にも戦場へと向かう存在が皆一様にライバルとなるであろう相手にアイドルを見た時のような顔をするのは、はっきり言って気持ち悪い。たしかにレースでは命のやり取りはない、ないが、鎬を削りあう場なのだ。強者への憧憬と嫉妬を抱くことこそあれど、友のような目線を向けるとはなんともまあ腑抜けた連中だ。

だが、5人ほど、見込みのありそうな連中もいる。真新しいものを見る眼をしているが奥底に星のような光を宿す者。純然たる闘志を燃やした瞳を宿す者。冷静なようでいて獲物を吟味するような瞳の者。王者たる余裕を全身に纏う者。そしてこちらに興味がないような素振りをしておきながらしっかりと力量を測る者。彼女らはつい先日雑誌で見たウマ娘と一致する。

ということは、この5人こそが黄金世代。期待の新人と評される連中だ。

良き戦士の雰囲気を感じ胸の高鳴りを抑えきれない。顔がにやけそうだ。私は戦いというものを楽しむ質ではなかったが、ウマ娘化のせいか好戦的になっているかも知れない。

そういえば、隣のやつはどんな顔をしているだろうか。こうした表情を向けられるのは慣れていないであろうから、さぞ狼狽えているだろうと思い横を見ると、意外にも堂々としていた。

…いやこいつただ上の空なだけだな。

立ってから数秒経った時、教師と思しき存在が口を開く。

 

「では2人とも、自己紹介をしてください。」

 

どちらから行こうか。そう思ってチラ見すると、奴もこちらに目を向けていた。その目は先に言えと語っていた。

 

「フン…ステイシスだ。」

 

そうとだけ言う。挨拶など最小限で構わん。

 

「…ホワイトグリント。」

 

ホワイトグリントもまた私と同様に必要最小限だけのことを口にする。2人の自己紹介が終わってから10秒ほど教室を沈黙が包む。教師は何をしているんだ。さっさと進行しないか。

 

「えっ、あ、終わり?」

「当然だ。それとも何か語らなくてはならんのか?」

「いや、そんなわけではないん…で、す、けど…。」

「ならばさっさと案内をしろ。時間の無駄だ。」

 

教師はバツが悪そうに私たちと生徒どもを交互に見ている。数回それを繰り返したのち、名簿に目を通す。

 

「えー、ではステイシスさんはスギノキューティーさんの隣に、ホワイトグリントさんはマックスジーンさんの隣にお願いします。」

 

案内され、教室の奥の方にいるウマ娘の隣の開いている席に座る。

 

「よ、新入り!アタシ、スギノキューティーって言うんだ。よろしくね。」

 

隣に座るウマ娘は豪快な笑みを浮かべてこちらに手を差し出してくる。

 

「…くだらん。」

 

一瞥だけをやり、そう吐き捨てる。相手は拒否されるとは思っていなかったらしく、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。数秒後には理解が及んだようで、怒りを露わにした。

 

「なっ…!アンタねぇ!」

「馴れ合いなど私には不要だ。」

 

目もくれずに一蹴する。言葉の通り、敵となりうる相手と馴れ合う必要はない。その相手がルドルフのような圧倒的な強者ならばわかるが、自身と同等の相手と馴れ合うのは損失しか生まない。怒りから立ち上がっていたウマ娘は私の言葉を聞いて離れていった。

 

その後は誰も私に話しかけることはなかった。皆一様に奇怪なものを見るように私を見ていた。傭兵以外の若者の集団に紛れるのは久々だったが、若者とはいつの時代も変わらぬものだな。異質なものは奇怪なものとして拒絶の対象となる。全くもってくだらない。それでは強者から学ぶこともあるまいに。ホームルームが終わり、放課の鐘が鳴る。

寮に戻り翌日に控えるトレーナー選抜レースに備えるかと思ったときに気づいた。全員寮とは別の方向へと向かっている。特段今日は祭日というわけではないだろうが、なにをするんだ?おそらくはこの学園に通うものならばして当然の行動なのだろう。

その流れについていった先にあったものは、芝とダートの2つに分かれる練習場だ。なるほど、この練習場で皆トレーニングをして本番に備える、ということか。そこでは、すでにジャージに着替えたウマ娘たちが走っている。流石に練習ともなれば皆真剣な顔をして走っている。こうした場で馴れ合うほどの腑抜けではないようだ。少し感心しながら見ていると、練習場にいた全員が湧き上がった。

なんの騒ぎだ、と皆が見る方に目を向けるとそこにはかの生徒会長、シンボリルドルフがいた。彼女も今からトレーニングのようでジャージに着替えている。彼女をじっと見つめていると彼女もこちらに気づいたようで軽く手を振った。そのモーションを目にした他のウマ娘は誰に向けて振ったかでガヤガヤと騒ぎになっている。生徒会長様が手を振ったのに反応しないのは流石に不躾かと思い、腰のあたりで小さく手を挙げる。それを見た会長はふふと笑ったように見えた。それにしても、彼女のそばにいる男は何者だろうか。手に持っているバインダーやルドルフに指示を出す様子などから察するにあれがトレーナーか。冴えた顔つきではないが、3年間を乗り切ったということはあれでも敏腕なのだろうな。

全員が練習の手を止めて彼女の一挙手一投足を見守っている。練習場には先程の活気はなく、談笑しているのなど当の会長とトレーナーだけだ。

軽い準備運動を終えた彼女は芝の上に降り立つ。彼女はしっかりと正面を見据えて両の足で地面を掴んでいる。

そして軽いフォームで走り出した。おそらく軽いアップのつもりなのだろう。だが、踏み込むたびに土が抉れていく。整ったフォーム、ブレない正中線。極限までの練習を積まなくては至れないと思わせるほどの走りだ。気がつけば息を飲んでその走りに釘付けになっていた。

まさしく風、その速度はアップというにはあまりにも速すぎ、究極だった。あれこそがウマ娘の頂点に立って全てのウマ娘を率いる存在だと、鮮烈に私の目に映った。

 

その後、寮に戻ってから何も手につかなかった。あの走りが脳内にこびりついている。速かった、圧倒的に。たしかに一昨日走った時の私も相当に速かったと思う。だがあれは格が違った。初めてネクストの速度に追いつけないまま撃破されていくノーマル乗りの気持ちを理解した。絶対的な力量差。幾多の研鑽をどれだけ積んでもたどり着くことのできない境地。その概念そのものを彼女は纏っているように見えた。そして何よりも恐ろしいのは、あの速度でまだアップだったということだ。つまり、私はただのアップを見て恐怖し、その場を離れてしまったということになる。他のウマ娘は怖くはないのか?あれほどまでに驚異的な存在、異次元の脚力を目の前にして、それでもまだ諦めずに走り続けることができるのか?少し、興味が湧いてきた。思い返せばここは勝手知らぬ戦場。いくら私が天才とは言え、何の情報もなしに戦えると思うほど傲慢ではない。カタログスペックでは語れぬ可能性というものはリンクス時代に幾度となく味わってきた。カタログスペックではない、体感でしか得られない情報を得るために関わるというのもアリではあるな。

そういえば、同室のホワイトグリントはまだ帰ってきていない。おそらくはフィオナの元へと赴いているのだろう。寮の門限まではまだまだ時間があるから当然と言えば当然だ。することがないので、社会情勢を知るために購買で買った新聞を読む。

紙面の表紙には黄金世代が取り上げられている。つい半月前にデビューを果たした新進気鋭のウマ娘たちに期待が集まるのは当然だろうな。この目で見て分かったが、奴らは確かに可能性がある。だが…あれがルドルフに匹敵するかと言われると否と断言できる。あくまでも現状の評価ゆえに最終年になればどうなるかはわからないが、あそこまで極まった走りをするものは出ないだろう。

かといって、私たちリンクスが足りうるか、と言われればそれもまた否である。可能性がないわけはないが、あれに匹敵するかは微妙な所だ。ひとまず、トレーニングとやらがどこまで効果的なのか、来たる本番に向けてどれほど伸ばせるのかが肝要となるな。

 

そんなことを考えているとホワイトグリントが帰ってきた。相変わらず死んだ魚のような目をしている。すでに風呂に入ったようで体から湯気が立ち、寝巻きに着替えている。特段会話も交わさずに交差する。私も今から風呂に入ってこようと思ったからだ。

タオルと寝巻き…といっても来た時に身につけていた服だが、それらをもって共有の風呂へと歩く。明日を完全な状態で迎えるためにも早めに寝たい所だな。




ウマ娘:シュープリス

身長:162cm
体重:適正
胸:B
靴のサイズ:24

髪:黒のストレートロング
目:真紅

勝負服
黒の燕尾服、赤のワイシャツ、白手袋、黒のスラックス

固有:Marche au Supplice
レース中盤に発動
レース終盤に近づくほど他ウマ娘の消費スタミナを増やす。自身が先頭にいる間のみ、他ウマ娘のスピードを上げ、かからせる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。