コア娘アーマードダービー   作:舌百

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境界、交流

SOUND ONLY、そうとだけ画面に映る緊急会議が行われている。参加者はメルツェル、銀翁、ジュリアス、オールドキング、そしてこの私、ハリだ。議題は無論先日のラインアーク襲撃に置いて回収する手筈であったステイシスの消失についてだ。

 

「状況証拠的には、どう見てもメルツェルが黒いのぉ。」

 

銀翁…ネオニダスが口を開く。今は議論の中盤、皆の意見としてはメルツェルが団長という座を奪い、ORCAの支配権を握るために意図的にやった、というのが今のところ濃厚な線とされている。

 

「前々から知恵が回る参謀だとは思っていたが、まさか悪質な野心家だったとはな。」

 

ジュリアスが皮肉たらしく言い放つ。当のメルツェルは何も言わない。先ほどから弁明もせず押し黙ったままだ。

オールドキングは先ほどから議論を煽るような発言を時折するだけで特に何もしていない。私は例のごとくずっとミュートだ。

それにしても…かなり意外だった。まさかメルツェルともあろう者が、かのマクシミリアン・テルミドールの最も信頼する人物が裏切った事、そして何よりも、最初の5人が彼を庇うでもなく糾弾する側に立っている事だ。

皮肉や状況整理だけで一向に進まない議論を耳にしながらコーヒーを飲んでいると、ついにメルツェルが口を開いた。

 

「諸君、私に言いたいことはそれで全てだろうか。」

「まあ、そうなるな。」

「さて、皆に一つ頼みがある。」

 

メルツェルの癖だろうか、勿体ぶった発言が多い。それにしても、頼みと言ったか。一体どんな頼みが飛び出てくるのだろうか。自らの保身のために弁明をするか、はたまた有用さをアピールして除外を防ぐか。

 

「私を潰す前に、一つだけ仕事をさせて頂きたい。」

「ほう。」

「私がいなくなれば首輪を外す役割を担うものも、テルミドールに変わって声明を発表するものも居なくなる。それはこの現在でも勝算の少ないORCAにとって深刻な損失だと、私は認識している。それ故にカラードから1人、知恵の回るリンクスを引き抜こうと思っている。」

 

彼の頼みは、謝罪でも、弁明でも、アピールでもそれでもなかった。そこにあったのは、純然たるORCAの理想を実現しようとする心意気だった。新参の私は判断に困る。というのも、完全にメルツェルが陰謀を働いたと思っているからだ。

それを聞いた他の人は黙っている、と思いきやオールドキングが口を開いた。

 

「裏切り者を、見逃すと思うのかい。それに、それすらも策略なんじゃねぇか?」

 

先ほどと同じような挑発するような発言だが、今回のは的を射た指摘だ。正直、さすがにここまで怪しい人物をのうのうと自由にさせておくわけにはいかない、他の連中もおそらくそう思っているはずだ。

だが、現実は異なっていた。

 

「ふっ…ふふ…メルツェルらしい。芝居はもう結構だぞ。」

「全く、儂らがお前さんが裏切ると思うのかね?冗談が上手いぞ、メルツェル。数年ぶりに大爆笑してしまったわい。」

「ほう、私は本気だったのだがね。」

 

張り詰めた空気感が一気に解ける。3人はすでに談笑ムードへと移っている。困惑しているのはおそらく、私とオールドキングくらいだろうか。

 

「さて、第一の議題はこの辺りで終わりにしようか。」

「ああ、そうだな。今最も重要なことは…」

「団長不在のORCAをどうするか、だな。」

 

最早そこに先程までの鬱屈な空気はなく、次をどうするかを見据えた革命家の意志を継いだ意見が交わされていた。まあ、主要な人々が良いと言うならそれで良い‥のかな。

それにしても、テルミドールは本当にどこに行ってしまったんだろうか。ラインアークの水底にまだいるのだろうか。

 

「そういえば、同時に消えたホワイトグリント及びフィオナ・イェルネフェルトの所在も気になるな。」

「ああ、そこもこれから解明させていかなくてはならんだろう。」

 

 

 

 

 

控え室の椅子に座り、未だ落ち着かない心臓を宥める。鏡に写る自分の顔はもとの白さ故に真っ赤に染まっている。ダラダラといまだに流れ続ける汗を服の裾で拭う。すると、上着の下に隠れていた肌に触れる空気が冷たく気持ちいいことに気がついた。

ここは私だけの控室。他の誰も侵入してくることはない。ならば、()()()()()()()()()()()()()。そう頭に浮かんだ次の瞬間には私は服の裾に手をかけ、勢いよく捲った。上のジャージを脱ぎ、顔を出し、長い髪をジャージの首元から抜いたとき、ちょうど部屋に入ってきていた白いウマ娘と目が合った。

 

「なっ…!」

「あ。」

 

私ともあろうものがこいつの気配を察知できず、挙げ句このような醜態まで見られるとは。恥ずかしいことこの上ない。腕にジャージの上を残したまま密かに赤面していると、奴はさも当然かのように部屋に入ってきて控室の椅子に座り、置いてある菓子に手をつけ始めた。

 

「…いや、何をしているんだ。」

「む?ああ、着替え中だったのだろう。俺…私は気にせず続けてくれ。」

 

奴は心底不思議そうに答える。

 

「元男の貴様が仮にも女の裸体を見るのはどうなんだ。」

「フィオナは見ても何も言わないのだが…。」

「それはあの女が異常なだけだろう。」

 

まじかこいつら。前々からバカップルだとは思っていたがよもやここまでとは。

そんなやり取りを交わしている間に私の体はクールダウンを終え、冷たい空気は気持ち良いものから少し寒いものへと変化した。

上のジャージを腕から外し、タオルで体を軽く拭いてから制服へと着替える。

 

「ところで貴様、なぜここに来たんだ?」

「ん…?」

 

ビスケットを頬張りながらやつはこちらを向く。レース終わりの私の控室に理由もなく来るわけがない、と思っての質問なのだが…。

この質問を聞いた眼の前のやつは、少しの思考の後に思い出したかのように手を叩き、口の中の物を飲み込んでから喋りだした。

 

「そういえば、フィオナを紹介しようと思って来たんだった。」

「はぁ…?あの女をか?」

「ああ、フィオナが会いたいと言ってな。私が先行して見てくると言って待たせているんだった。」

 

そう言うと、呆れる私を置いてやつは部屋から出ていった。なんでそんなことを忘れた?そしてなんでこのタイミングで言うんだ?ホワイトグリントの思考回路は前から理解しがたいが今回もいまいちわからん。

とりあえず、フィオナ・イェルネフェルトがここに来る、という事実だけはなんとか飲み込んで決心を固める。

少し待つと、再び扉が開く。そこにはウマ耳を生やした白髪ともう1人、金髪青眼の女がそこには立っていた。その女は前世で見た姿そのままであり、軽く30は行っていると思うが未だ顔は若々しい。

そして奴は引き締めた表情で一礼をする。その礼はいつかの会談で見たそれとそっくりそのままだった。そう、そっくりそのまま。奴と白いのが手を裏で繋いでいるところまで一緒である。

 

「貴様、そんな凛々しい表情したところで手を繋いでいるのは見えているぞ。」

「見せつけていますので当然です。オッツダルヴァ。」

「…その名で呼ぶな。」

 

頭が痛くなる。なんなんだこのバカップルは。しかも2人ともすまし顔でやっているのがなんというか、腹が立つ。

 

「あの時は仕方なく手を結んだが貴様のアナトリアの件、それを許したわけではない。あまり馴れ馴れしくするなよ。」

「…そう、ですか。」

 

少し残念そうにフィオナは下を向く。だがすぐにいつもどおりの真顔を貼り付ける。

 

「そんな表情を浮かべるのだな。」

「…私にはわかりかねますね。」

「フン…そうか。」

 

今更許しを請える立場でないというのはお互いに分かっている。それ故に私達は戒めのように隔絶をし続けるのだ。歩み寄るのは簡単だ。だがそれでは奴らが救われてしまう。それではかつて失った同胞があまりにも報われん。それは奴らとしても不本意だろう。

 

「それで、何の用事だ。」

 

流石に用事もなく来るほどアホな女とは思っていないが、こちらの世界に来て私も、あのアホ毛も少し気が緩んでいる。こいつまで平和ボケになっていないか、私には関係のない相手ではあるが不安だ。

 

「今日のレース、拝見させていただきました。圧倒的でしたね。」

「まあな。正直拍子抜けしてしまった。」

「今度やるレースでは退屈はしませんよ。」

 

……ん?何を言っているんだこいつは。文脈が何も続いていないぞ。普通あのセリフには賞賛とか宣戦布告とかそういうものが続くだろう。いや待て、これが宣戦布告か?

 

「紫菊賞に出てください。私のホワイトグリントも出ますので。もっとも中距離が苦手ならばそれで構いませんよ。」

「なるほどそういうことか‥。いいだろう。特段目標を定めていたわけではないからな。そこで勝負と行こう。それと貴様、あまり馬鹿にするなよ。」

 

こいつと再び交える事ができるのならばそれを逃す手はない。前の世界では八百長をしたがこの世界では決して手は抜かない。吠え面をかかせてやる。

 

「要件はそれで全てか?」

「ええ。本当は貴方の顔が見て見たかっただけでしたけど。」

「何を言っているんだ貴様は。」

 

私の悪態を気にもとめないように2人して踵を返して部屋を出て行く。全く、嵐のような奴らだった。

さて、そろそろ私も部屋を出るか。借りている場所に長居するのはあまり好きではない。まとめられている荷物を手に取って部屋の扉を押す。少し歩いて、スタッフ用出入り口が目の前に現れる。

 

ドアノブに手をかけて捻ると、昼間の強い日が流れ込んでくるのと同時に無数の人が私を囲った。

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