私と契約して魔法少女になってよ!   作:鎌井太刀

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第十話 私と契約して、人形劇をやってよ!

 

 

 

 アイナとアリサの二人組は、駅前周辺の捜索を行っていた。

 使い魔は人気の少ない治安の悪そうな場所を好む傾向があり、人々の昏い想念が渦巻く場所に引き寄せられる性質がある。

 

 それは使い魔に限らず、魔女も同じだった。人々の絶望を糧にするからだろう。

 世間では理由のない自殺や行方不明と言われている者のほとんどは、魔女の口づけによって操られた者達だ。

 

 だから人ごみの中、二人はそうした魔女の口づけを受けた人間を探していた。

 

 人助けという点では、確かに駅前など人の多い場所で探した方が効率は良いだろう。

 だが直接魔女や使い魔が姿を現す可能性は低かった。

 

 魔女や使い魔も馬鹿ではない。

 本能的に目立ち過ぎれば天敵である魔法少女に狩られてしまうことを知っている。

 それがかつて魔法少女だった者の記憶の名残なのか、その真実を知る者はどこにもいない。

 

「こうやって魔女の痕跡を探すのは、いい加減目が疲れますね」

 

 アリサが目頭を揉みながら言った。

 雑多な人ごみの中で魔女の痕跡を見つけるのは地道な作業だ。

 

 そんな頑張る後輩にご褒美をあげてもいいだろう、とアイナは思った。

 

「ちょっと休憩しましょうか? お姉さんが奢ってあげる」

「遠慮なくゴチになります」

 

 本気で遠慮の欠片も見られないアリサに、アイナは額に冷や汗を流す。

 

「……五百円以内でね」

 

 つい後輩の前で気前の良いことを言ったものの、中学三年生の小遣いなど高が知れている。

 見栄を張ろうにもこれがアイナの限界だった。

 

「十分ですよ。先輩の財布でお腹一杯食べようとか、浅ましいことは考えてませんので。丁度いいので、あそこの大判焼きにしましょうか!」

 

 アリサはツインテールを弾ませながら、アイナの腕を引っ張った。

 甘い物好きなアリサとしては餡子が食べられるだけで幸せになれた。

 ましてそれが尊敬する先輩の奢りともなれば、数倍美味しく食べられるだろうと期待に胸を弾ませる。

 

 だが幸せはあと一歩のところで邪魔されてしまった。

 

『リンネです。魔女の巣を発見しました。いまマコが結界を見張っています。場所は――』

 

 念話というキュゥべえに選ばれた少女達だけが使える通信で、リンネから魔女発見の報が入った。

 甘味を目の前にしてまさかのお預けを食らって呆然とするアリサを尻目に、アイナが苦笑しながら念話に返答する。

 

『了解よ、こちらもすぐに向かうわ。ニボシとユリエも大丈夫?』

『こっちもすぐ向かうよー。あーあ、今回はリンネちゃん達の勝ちかー』

 

 別に勝敗は競っていないはずなのだが、ニボシの残念そうな呟きが念話で聞こえた。

 アイナ達の班もこれといった成果がなかったところなので、すぐに駆けつけた方が良いだろう。

 

「そういうわけだから、大判焼きはまた次の機会ね」

「……今日の二挺拳銃は一味違いますよ。ふふふっ」

 

 昏い笑みを浮かべるアリサに少々引きながら、アイナは困った後輩を促してリンネに指示された場所まで向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 話は少しばかり遡る。

 あれから私は魔法で支配したマコを自宅へと連れ込んだ。

 

 連れ込むと言うといかにも如何わしい響きだが、残念ながら今回の目的はにゃんにゃんするためではない。

 仕込みを行うため、自宅の黒球を使う必要があったからだ。

 

 私はマコを黒球内にある倉庫へと監禁する。

 倉庫は学校の体育館ほどもある広さで、椅子と机と拘束用具が中央にポツンと置かれていた。

 

 マコの魔法少女衣装はすでに解除され、制服姿の彼女を私の魔力糸で椅子に縛り付けた。

 彼女のソウルジェムは濁り具合がよく見えるように机の上に置いておく。

 壁際にはアリスが佇み、すでに戦闘態勢をとっていた。

 

 これで準備は万端だ。

 私は今一度マコに銀杖を突きつけ、支配からの解放の呪文を唱える。

 

「<解放(リベラシオン)>」

「……あれ、ここは? リンネ?」

 

 私の支配下から解放され意識を取り戻したマコに、私は銀色の魔法少女衣装を見せた。

 驚きで目を丸くする彼女に向かって、私は改めて自己紹介してみせる。

 

「魔法少女としては初めまして。私の名前は【銀の魔女】リンネ。あなたを殺す者よ」

「冗談……だよな? ははっ、いつのまにキュゥべえと契約してたんだよ。驚いたなぁ」

 

 私は微笑みながら、マコの頬を殴った。

 魔法少女として強化された腕力によって、マコは縛り付けられた椅子ごと倒れる。

 

「悪いけど冗談じゃないの。頭の悪そうな笑顔なんて、浮かべないでくれる? 不愉快だから」

「……なんで? なんでこんなことするの?」

 

 マコは呆然と床を見つめ、バラバラになった意識を掻き集めるように私に問いかけた。

 

 だが私の返答は暴力だった。

 私はマコの頭を踏みつけ、サディスティックな悦びに富んだ声で語りかける。

 

「問いかければ答えてくれるだなんて、あなたちょっと勘違いしてない? 私はあなたを痛めつけるためにここまで連れてきたの。誤解も勘違いも曲解の余地もなく、私はあなたの敵なのよ」

「……仲間だって、信じてたのに。お前は、お前はぁっ!」

 

 悔しそうな顔を浮かべ、マコは身を切られるような悲痛な声をあげる。

 つい先ほどまで笑い合っていた仲間が理不尽な暴力を振るうことに憤り、そして恐怖していた。

 

 感情が高ぶれば高ぶるほど魔法少女はエネルギーを生む。

 ならば私は、彼女の魂を楽器に絶望の歌を奏でよう。

 

 さあ人としての尊厳を冒涜しよう。

 呪われた祭壇に生贄を捧げよう。

 

 あなたに救いなど、ありはしないのだから。

 いつか聞きたいと言っていた私の歌を聞くといい。

 

「ここは【銀の魔女】の住処。あなたで絶望と怨嗟の曲を奏でましょう」

 

 ――そして私は、マコという名の魔法少女を凌辱した。

 

 彼女はかつて、眩しいほど正しい魔法少女であろうとした。

 

 だが今の彼女は、私を呪う言葉を口にし、かと思えば涙ながらに許しを乞い、正気に戻っては憎悪の視線で殺さんばかりに睨む悪鬼と化していた。

 

 マコの魂が持つエネルギーの搾取作業は、黒球内部の時間で六時間にも及んだ。

 彼女の保有するすべての感情がエネルギーとなり、私の特製ソウルジェムへと吸収されていく。

 

 その代償に、マコのソウルジェムは穢れで満たされた。

 孵化するようにソウルジェムが歪み、グリーフシードへと姿を変えていく。

 

 

 

 そして魔女が生まれ出る。

 

 

 

「誕生を言祝ごう。誕生を呪おう。汝は生まれながらに呪われし存在。

 私はそれを摘み取る者なり。一振りの刃にてその首を断つ者なり」

 

 銀の魔力で編まれた魔力糸の網が魔女を捉え、黄金の剣がギロチンとなって魔女を断裁する。

 私は生まれ出てくる魔女を、生まれ出る前に断罪し処刑した。

 

 私の隣にはアリスが立ち、目の前にはグリーフシードとマコの死体だけが残った。

 私はグリーフシードを凍結させると、マコの死体にある欠損をそのままに、魔法で箱詰めにして持ち運び可能な状態にした。

 

 まだマコの死体には利用価値があるのだ。

 次なる絶望のために。

 

 私は黒球の外に出て、一通りの準備を整えるとアイナ先輩達に連絡を取る。

 手にしたマコの頭部には、この世の者とは思えないほど壮絶な死に顔が浮かんでいた。

 

『アイナ先輩、魔女を発見しました。いまマコが結界を見張っています。場所は――』

 

 実際のところ私はすでにキュゥべえと契約しているが、念話は契約前の少女でも素質があれば使うことができた。

 

 中継としてキュゥべえの存在が必須だが、奴らインキュベーターの通信網に圏外など存在しないので気にする必要もないだろう。

 

 そして私は、廃墟となったビルの所在を残りのエトワールのメンバー達に告げた。

 

 もちろん魔女を発見したというのは嘘だが、励起状態になったグリーフシードならばある。

 アイナ先輩の探査を誤魔化すことくらいはできるだろう。

 

 

 

 

 

 

 数分後、私は自宅のソファに座りながら、獲物たちが罠に掛かるのを魔法の銀幕で観察していた。

 指定した廃ビルの中にいるもう一人の私は字句通り、精巧にできた操り人形だった。

 

 私達魔法少女の体は魔法で簡単に修復できる。

 ソウルジェムさえ無事なら頭が半分消し飛ぼうが、魔法さえ発動できれば治癒は可能なほどだ。

 

 人智を越えた治癒を行うには自分の本体がソウルジェムであると正しく認識する必要はあるが、原理上は体を丸ごと消滅させられてもソウルジェムさえ無事なら再生可能なのだ。

 

 とはいえそれは極論であり、常人は肉体がなければ思考できないと思い込んでいるので、頭を吹き飛ばされればまず死ぬことになる。

 

 私はこれまで行ってきた様々な実験で、すでに自分の肉体を複製することに成功していた。

 私の本体はあくまでソウルジェムであり、肉体はただの外部パーツに過ぎないと意識構築した結果、自身の精巧な肉人形を複製することができるようになったのだ。

 

 掌に納まる程度の大きさであるソウルジェムは、代わりの効かない私の魂そのものだ。

 一方の肉体はいくらでも作れる代用品と化していた。

 

 ソウルジェムによる肉体支配はせいぜい百メートルくらいしかないが、意図的に魔法で操る分にはそんな厳密な制限などなかった。

 直接肉体を操作するならソウルジェムの方が圧倒的に有利だろうが、囮程度なら魔法の遠隔操作でも十分に可能だろう。

 

 それらの舞台材料を元に私は人形劇を演じてみせる。

 そうして私の言葉を疑いもせずやってきたエトワールのメンバー達が目にしたのは。

 

 マコの体を細切れにし、

 マコの血に染まった銀色の魔法少女衣装を着て、

 マコの生首を持った魔法少女――古池凛音の姿だった。

 

 言葉を失い硬直する彼女達の足元に、大事なお仲間の首を放り投げてやる。

 

 ボールのように転がったそれ。

 丁度良くマコの顔とご対面した一同は、揃って悲鳴を上げた。

 

「それ、あげるわ。私はもういらないし」

「ひっ!?」

「そ、そんな……うそ、だよね? リンネちゃん……?」

「っ、ニボシ!」

 

 ふらふらと私に近づいてくるニボシを、アイナ先輩が咄嗟に引き戻した。

 

 その直後に爆発が起こる。

 もしアイナ先輩のフォローがなかったら頭が吹き飛んでいただろう。

 と、思わせる威力とタイミングだった。

 

 実際はそんな簡単に殺すわけがないので、駆け出したアイナ先輩に合わせて魔法を使っただけだ。

 

 普通に近づいていたら、マコみたいに殴り飛ばしていただろう。

 勘違いしないように、私はもうお前たちの敵なのだと教えるために。

 

「……古池凛音。あなたは何者なの?」

 

 アイナ先輩が普段の穏やかな表情を消し去り、険しい顔で私を睨みつけた。

 本気で怒っているのがわかってゾクゾクするが、まだ足りない。まだまだ足りない。

 

「私は魔法少女を殺す者。つまりあなた達の敵です。騙してごめんね」

 

 てへぺろ☆

 ……なーんて、ちっとも悪く思ってない涼しげな顔で言いのける。

 

 それに真っ先に激怒したのは意外というかやはりというか、ユリエだった。

 

「あ、あ、あああああああああ!!」

 

 獣のような咆哮をあげ、得意のパペットすら使わず不得手な肉弾戦を仕掛けてくる。

 

「お前が! お前がマコちゃんを!!」

「そう、私が殺した」

 

 嘲りの笑みとともに、ユリエにカウンターを叩き込む。

 続けて倒れたユリエを踏みつけようとするが、魔法の弾丸がそれを阻んだ。

 

「……っ、お前は! なぜ笑っていられるのですか! 私達、仲間だったじゃないですか!

 エトワールって、あなたが名付けたんじゃないですか!」

 

 アリサは目を吊り上げ、涙目で叫んでいた。

 両手で構えた二挺拳銃は小刻みに震え、内心の動揺を現していた。

 

 それに対して、私は酷薄な笑みを浮かべてみせる。

 

「そんなの、お遊びに決まってるでしょ? 揃いも揃って馬鹿ばっかで、笑いを堪えるのが大変だったよ」

「貴様ぁああああああああああ!!」

 

 絆を真っ向から否定した私に、普段のクールなアリサからは似つかわしくない怒声を発した。

 

 幾つもの魔法の弾丸が私に襲い掛かる。

 銀杖を振って防御魔法を使おうとするが、やはり遠距離操作のため若干反応が遅く、何発か体に貰ってしまった。

 

 銀色の衣装のあちこちから、とめどなく血が滲み出る。

 

「私のパペット、あいつを殺して!」

 

 巨大なクマのぬいぐるみが不意に現れ、そのファンシーな外見とは裏腹な、凶悪な牙を剥いた。

 

 悪夢に出て来そうな外見だ。

 これ、子供が見たら絶対泣くだろう。

 

 私はクマの突進に吹き飛ばされるように、ビルを突き出た。

 丁度良かったのでそのまま飛行魔法で逃走を始める。

 

 楽しい鬼ごっこの始まりだ。

 

 それに女の子達に追いかけられるというのも、夢のようじゃないか。

 まあ少しばかり殺気が立ちすぎている気もするが。ヤンデレってレベルじゃねーぞ。

 

 いやはや、モテる女は辛いわぁ……なんてね。

 

 私に続いて頭に血が上ったアリサとユリエが真っ先に飛び出し、屋上を渡って私を追いかけてくる。

 

 ニボシとアイナ先輩も困惑しながらそれに続いた。

 途中、ニボシ達出遅れ組は先行組に静止するよう呼びかけ続けたが、頭に血が上ったアリサとユリエは止まらなかった。

 

 私の背後からアリサの魔法が襲い掛かる。

 途中いくつか良い物を貰ってしまい、肉体的な損傷はそろそろレッドゾーンに達しようとしていた。

 

 私は瀕死状態となりながらも、追手達を目的の<彼女>の元まで誘導する。

 

 <彼女>の居場所は遥か上空からアリスがずっと観測しており、私は常にアリスと情報をリンクしているため、見つけるのは容易だった。

 

 私は力尽きて墜落した風を装って、公園へとたどり着いた。

 

 

 そこは奇しくも<彼女>――リナと初めて出会った場所だった。

 

 

 リナは血まみれで降り立った私に驚いていた。

 

 当たり前か。

 彼女の前ではいつも、強く正しい魔法少女を演じていたのだから。

 

 その正義のヒーローという噴飯ものの存在は、今にも死にそうな格好をしていた。

 驚くなという方が無理だろう。

 

「し、師匠……?」

 

 彼女は魔法少女に変身していなかった。

 傍らにサフィがいるから、いつもの散歩なのだろう。

 

 もしかすると私を待っていてくれたのかもしれない。

 約束はしていないが、彼女はたまにこうして公園で黄昏ていることがあった。

 

 私は必死の形相でリナに叫ぶ。

 さもまずいことになった、とばかりに顔に焦りを浮かばせて。

 

「っ、リナ、逃げなさ……!」

 

 だが私の言葉は、最後まで紡ぐことができなかった。

 幾つもの魔法が襲い掛かり、パペットが私を押し潰したからだ。

 

 その時点で、私の複製は死んでしまう。

 

 観測していた計器の針が一つ沈黙した。

 だがアリスという観測者によって状況は変わらずモニターを継続している。

 

 私の操る人形劇はこれで終わり、そして始まりだ。

 

 あとは残された彼女達が勝手に踊ってくれるだろう。

 アリスがいないので私自らコーヒーを淹れつつ、魔法の銀幕を通して状況を見守る。

 

 アリサは私が潰された時点で正気に戻ったようだが、ユリエは私をミンチにしないと気が済まないらしく、執拗に何度も何度もパペットによって肉体を潰していた。

 

 潰れたトマトのような有様になった頭部の銀髪が、辛うじて私だった証だろうか。

 それすらも血で汚れていて、私だとは判別できないほどだ。

 

 そんな彼女に、銀の魔女から一言。

 証拠隠滅を手伝ってくれてありがとう。

 

「や、やめなさいユリエ! もうやめて!」

「どうして邪魔するの! あいつが、あいつが! マコを殺したのに!」

 

「……な、なにしてんだよ、アンタ達……姉ちゃんに、何してんだよッ!!」

 

 幼い少女の静止の言葉も虚しく、血に酔った彼女達はとまらない。

 

 私の複製は肉体的にはすでに死んでいる。

 それでもなお足りないと死体を弄ぶ魔法少女の姿。

 

 なんとも酸鼻な光景だと、脚本通りとはいえあんまりな有様だった。

 

 その初めて戦場に出た新兵のような有様に、某少佐風に絶頂を覚えるところだ。

 もっとも私は慎み深い淑女なので、そんなハシタナイ真似はしませんが。にゃんにゃん? なんのことかわかりませんね。

 

 そんな風に自宅のソファでそれを見ていた私は欠伸を一つ噛み殺した。

 ここからでも複製した肉体の修復は実は可能だったが、ここで私が死ぬことに意味がある。

 

「…………もう、死んでるよ。死んじゃったんだよ」

 

 生気の抜けた顔で、ニボシがユリエを睨んでいた。

 ニボシとアイナ先輩は途中から必死に二人を止めようとしていたが、私の裏切りによる動揺から抜け出せていなかった。

 

 そのため一歩遅れてしまい、その一歩差で私は殺された。

 

 いまニボシは何を思っているのだろう。

 私に「どうして?」と尋ねたい気持ちで一杯なのかもしれない。

 

 だがそれを知るすべは、いま彼女の目の前で消滅してしまったのだ。

 

 ニボシの視線に怯んだユリエが、ようやく止まる。

 そして自分が何をしたのか、何を創作したのかを見てしまい、嘔吐した。

 

 一連の出来事に固まっていたリナが、ふらふらと動き出す。

 血と肉と糞だまりとなった残骸に手を伸ばし、汚れた銀髪を手に取った。

 

「……はは、師匠、悪い冗談……だよな? いつもみたいに幻覚とか使ってんだろ? なんであんな攻撃で、あんたがやられてんだよ。なぁ……」

 

 汚れるのも構わずリナは私だったモノに触れる。

 その異様な光景に、アイナは怯えた視線で問いかけた。

 

「あ、あなたは、だれ? リンネちゃ……この人となにか関係があったの?」

「……うるせえ。黙ってろ」

 

 リナは光の消えた瞳で、エトワールの四名を一人一人確認する。

 誰が私を殺したのか、確かめるように。

 

 その視線に一同は怯んだ。

 アリサは武器を構え、ユリエは後ずさる。

 ニボシとアイナ先輩はそれに耐え、じっとリナと視線を合わせている。

 

 意を決してアイナが口を開こうとしたが、それよりも早くユリエが悲鳴を上げた。

 

「…………悪くない、わたしは、悪くない! 全部この女が悪いんじゃない! なにもかもこの女のせいで滅茶苦茶よ! 死んで当然じゃない!」

 

 泣き喚くユリエをニボシが力尽くで取り押さえるが、すでに手遅れだった。

 

 リナは涙を流していた。

 そして立ち上がり、ソウルジェムを掲げる。

 

 その手は、私の血で赤く染まっていた。

 

「っ、それは!?」

 

 

 

 ――真紅の魔力が迸る。

 

 

 

「……サフィ、こいつら駄目だ。許せねえわ」

「ヴァオン!」

 

 リナの呟きに、サフィが獰猛に吠えて答えた。

 

「師匠から……姉ちゃんから貰ったこの力、正しいことだけに使いたかった……」

 

 リナは魔法少女へと変身する。

 かつて姉が褒めてくれた自慢の姿。

 

「だけど、姉ちゃんが言ってた通り、魔法少女って正しくない奴の方が多いんだな」

 

 戦槌を手に魔法少女衣装を翻したリナは、激情を秘めた声で姉の復讐を誓う。

 

 

 

「――テメェら、全員ぶっ殺してやる!」

 

 

 

 ここに血みどろの復讐劇が幕を開けた。

 

 それを笑って眺めるは銀の魔女。

 舞台上の刃は観客席までは届かない。

 

 自ら淹れたコーヒーを飲みながら、私は喜劇を眺め続ける。

 

「性根の悪さは死んでも治らなかったみたいだ。やっぱり私を殺せるのは君だけだよ、アリス」

 

 そう嘯く私の言葉に、答える者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




偽広告:

 交わした約束があった。

 育んだ絆があった。

 だけど。

「こんなの、あんまりだよ……!」

 少女たちは告げられた真実に絶望し、涙を流した。

 育んだ友情も師弟愛も、家族の情すらもマヤカシ。
 銀の魔女にとって、すべてはペテンで茶番だった。

 全ての魔法少女が絶望し、銀の魔女がほくそ笑む。

 外道魔法少女りんね☆マギカ。本日も絶賛外道中!

 ――P.S.黒幕始めました。



(作者より)
 予想以上にアクセスが伸びて驚いています。
 感想頂けるのは嬉しいですね。モチベーションが上がります。
 なので、去年書きかけて終わっていた分の続きを執筆再開しています。
 ストックが尽きたら更新が遅くなりますが、完結目指して頑張ります。

 感想欄に返信はしない方針で行きますが、誤字の指摘などはなるだけ修正するようにします。
 予想以上に外道な主人公を応援していただき、ありがとうございますm( _ _ )m

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