魔女が生まれ出ようとする戦場で、一体の邪悪な操り人形もまた、その本性を曝け出していた。
人形は笑顔を貼り付けたまま、魔法少女達に絶望的な真実を告げる。
「ほらほらよく見て、あの魔女の姿を。
とってもユリエちゃんに似ていると思わないかしら?
それもそうよね。だってあの魔女はユリエちゃん自身なんだもの」
魔女とは、魔法少女のなれの果てだ。
祈った奇跡の分だけ周囲に絶望を振りまく、魔法少女の対となる存在。
コインの裏と表。異なる面を持っていてもそれは確かに一個の存在だ。
かつてユリエだった魔女が涙を流して暴れまわる。
魔女の涙は使い魔となって、彼女の好んでいたパペットへと変じていた。
生まれた使い魔は無差別に周囲の魔法少女達へと襲いかかる。
リナもアリサもニボシも、それを迎撃するのに手一杯だった。
なにしろ魔女の涙は止まることなく、次々と凶悪な使い魔を生み出しているのだ。このままでは物理的に押し潰されかねない。
そんな中、アイナだけが唯一余裕を保っていた。
使い魔はアイナの障壁を突破できず、ただ遠巻きに囲むことしかできなかったからだ。
そんな風に自らの安全圏を確保しながら、アイナは魔法少女達へ悠々と語り続ける。
彼女達、魔法少女の残酷な真実を。
「私達の魂は契約によってソウルジェムへと抽出されるの。つまり私達の本体はソウルジェムで肉体は外部パーツ、あるいは抜け殻と言っても良いかもしれないわね。
そして穢れが溜まりソウルジェムの限界を超えると【相転移】が始まり、希望は絶望に、ソウルジェムはグリーフシードへ、魔法少女は魔女へと転化するの」
それは不可逆の変化。
魔法少女が魔女になることはあっても、その逆は有り得ない。
魔女となったユリエも同じだ。
ああなってはもう誰も彼女を救えない。
たとえ殺しても、一度魔女になった彼女の魂は救われないまま。
グリーフシードとして残り続ける。
「貴女達も魔法少女なら当然、グリーフシードには何度もお世話になってるわよね?
あれは魔法少女だった者の魂に、私達の分の穢れを吸わせているの。
どうせ堕ちた存在ですもの、有効活用しなきゃもったいないものね。
でないと私達まで魔女になってしまうのだから、それは仕方のないことだわ。
たとえそれが死者に鞭打つような行為だとしても……ね。
私達は奇跡の代価にかつての仲間を殺し、やがて未来の仲間に殺される運命を背負っているの。
祈った奇跡に相応しいだけの絶望を振りまいて、ようやく世界は帳尻を合わせる。なんだかとてもよく出来たシステムだとは思わないかしら?」
魔法少女達はアイナの言葉に息を呑む。
そこにいるのはかつて「みんなの役に立ちたい」と願った少女ではなく、代わりにただ一人、銀の魔女の役に立つことだけを願う人形だった。
ギシリ、と戦槌を握る手に力が込められる。
リナは震える両手を必死に押さえ込んでいた。
だがそれは恐怖や絶望ではなく、激しい怒りの現れだった。
「……それでも、姉ちゃんが救ってくれた事実は消えない。
あたしの祈りは、変わらない! そうだろサフィッ!」
「ヴァオン!」
リンネが助けなければあの日、あの夕暮れの公園で、リナはすでに死んでいた。
サフィも助からなかった。
だからリナは絶望しない。
たとえ魔法少女の真実が醜いモノだったとしても、その事実は覆らないと知っているからだ。
不屈の魔法少女は己の武器を振るう。
真紅の魔力が迸り、暴風となってパペット達を吹き飛ばした。
「あたしがあたしとして、正しくあれる。そんな強さを姉ちゃんに貰ったんだ! なら、なにも変わらねぇ!
たとえそれが魔法少女の真実だったとしても、あたしは絶対に魔女にならねぇ!
最後まであたしを貫いてやる!」
それが魔法少女に命を救われた少女に残された、希望だった。
一方、勇敢に戦うリナとは違い、アリサは全身から力が抜ける思いを味わっていた。
正しいと思っていたことは、ただの勘違い。
魔女狩りとはつまるところ単なる同族狩りでしかなく、人殺しと何ら大差のない悪行だった。
「……うそ、それじゃ私達が今までやって来たことって一体……同じ魔法少女を殺すことだったの?」
今まで信じていた全てが裏切られ、アリサは目の前が真っ暗になる。
「違うよ、アリサちゃん。あれは魔女だ」
だがニボシは、そんなアリサの言葉を真っ向から否定した。
そんな風に割り切れないアリサは、ニボシに噛みつくように言った。
「でも元は同じ魔法少女じゃないですか!」
「それでも今は、違う。私達の敵なんだよ」
どこまでも冷たいニボシの言葉に、アリサの顔がくしゃりと歪む。
「……このままじゃいつか私達も、魔女になっちゃうんですよ? あれは、あの魔女は……ユリエ先輩なんですよ? どうしてそう簡単に割り切れてしまえるんですか! ニボシ先輩っ、あなたはどうしてしまったんですか! 正しい魔法少女になろうって言ったの、ニボシ先輩じゃないですか!!」
その言葉にニボシは表情を変えずに答えた。
「アリサちゃん。これが私の正しさなんだよ。嘆いていても現実は変わらない。このままユリエちゃんを放っておけばその分だけ誰かが犠牲になる。
なら私はその誰かを救うために、今ここで魔女を……ユリエちゃんを殺さなくちゃいけない。それが正しいことだと思うから」
「そんなの、おかしい……間違ってる! 正義の味方なら、ユリエ先輩も救われなきゃおかしいです!」
それにニボシは目を伏せて答えた。
「……それを可能にする『奇跡』の権利を、私達はもう使い果たしてしまったんだよ。私達魔法少女はね、始まりから矛盾してるの。
一度きりの奇跡を使い果たしたんだから、もう二度目の奇跡は起こり得ない。だから……魔法少女は、奇跡に頼っちゃダメなんだ」
両手のガントレットをニボシは握り締める。
まるでその手の中に希望はないとでも言うかのように、力強く。
「……私はただ『正しい魔法少女』としての在り方を貫く。それしかないから。だから魔女を倒す。たとえそれがどんなに無様なことだとしても、無意味なことでも。
私が私である限り、正しい魔法少女でいなくちゃいけないんだ。それが私の……」
言いかけ、ニボシは口を閉ざした。目をつぶり頭を振る。
「――どちらにせよ、戦わなくちゃいけない。私達魔法少女は戦わなくちゃいけないんだ。それが奇跡を願った、代償なんだから」
ニボシは立ち上がり、魔女へと向かう。
その後ろ姿はいつもと変わらない、正しい魔法少女の背中だった。
だがそれを見送ったアリサは、ニボシの言葉が理解できなかった。
いやいやをするように頭を振り、涙を流して俯く。
「わかりません。ニボシ先輩がなにを言ってるのか……私にはわかりません……」
立ち上がる理由も気力も、もはやアリサには残されていなかった。
リナとニボシの二人は、結界に篭ったアイナよりも魔女を退治する方を優先した。
戦うなら長期戦を覚悟しなければならないアイナよりは、魔女の方を速攻で片した方が楽だという判断だ。
魔女の方は時間を掛けるだけ無造作に使い魔を産み落としているのだから、実質選択肢などなかったとも言える。
アリサは身動きが取れず打ちひしがれている。彼女からは気力がごっそりと抜け落ちていた。
この様子だと彼女のソウルジェムもかなり濁っていることだろう。
アイナはそれを、笑って見ていた。
アイナは目の前の絶望的な光景に、深い満足感と喜びを感じていた。
元より彼女達の絶望はアイナの主が望むものだから。
主が喜ぶならばシモベである自分もまた嬉しい。
親の役に立ち褒められて喜ぶ子供のように、アイナもまた順調に事が運んでいることが嬉しかった。
全ては主の喜びのために。
「けど、まだ足りない。まだまだ足りないわね」
アイナは彼女達にさらなる絶望を与えようとする。
そうすればもっと主の喜ぶ状況になると思ったから。
だがその時、遠くの主人から新たな命令が届いた。
『――』
『……仰せのままに、我が主よ』
虚空に一礼し、アイナは翠色の衣装の裾を翻すと魔法の指輪を掲げた。
「少し、仕切らせて頂くわね」
翠色の魔力がオーロラのような光を放ち、アイナの結界魔法が展開される。
リナとサフィ、それから魔女。
ニボシとアリサ、そしてアイナ。
二つに分断された彼女達は、強力な魔法行使に為す術もなく囚われる。
勢力を望み通りに仕切り分けたアイナは、結界の向こうを透かし見た。
そこではリナが大量の使い魔に囲まれ、押し潰されようとしていた。
仲間意識が芽生え共闘されても面倒なので、分断したのは正しかったとアイナは主人の判断の確かさに頷く。
「あの赤い子は魔女に任せて、あなたの相手は私がしましょう。
だって私達、友達でしょ? ――ニボシ」
そして、ニボシのガントレットとアイナの障壁が激突する。
かつて仲間だった者同士の戦いが始まった。
結界の向こう側。
魔女とともに隔離された魔法少女、大鳥リナは無数の使い魔達に囲まれていた。
それはかつての恐怖、リンネと出会ったあの日の出来事を思い出すには十分な状況だった。
あの時はリンネが助けてくれた。
だが彼女はもう助けてはくれない。
正義のヒーローはやってこないのだ。
何度、戦槌を振るっただろうか。
何度、使い魔共を薙ぎ払っただろうか。
だが敵は海から押し寄せる波のように幾重にもリナを取り囲み、本体である魔女の元に進もうとしても、使い魔達が動く壁となってその進行を阻んだ。
リナの魔法特性は『再生』であり、頑丈さは折り紙付きだと師匠から太鼓判を押されている。
弱体化したとはいえ、エトワールを相手に対等以上に渡り合えたのは伊達ではない。
だがそんなリナにも弱点がないわけではなかった。
かつて師匠と交わした会話を思い出す。
いつもの公園に張った結界の中でヘロヘロになるまでしごかれたリナに向かって、かつてリンネは語った。
『リナ、きみは確かに強い。魔法少女の中でもきみは前衛として指折りの存在になれる逸材だろう。その強力な自己再生能力を生かすべく、私はきみに身体強化魔法を徹底的に教え込んだつもりだ。多少の攻撃は今のきみにとって牽制にすらならないだろう。
寄って潰す。それがきみの基本戦術になる。
私が教えた様々な魔法は、それを補助するための技に過ぎない。だからこそ、きみが気を付けることはたった一つ』
指を一つ立てて、リンネは言う。
『持久戦、長期戦は絶対に避けなさい。リナの力は強力な分、消耗が激しい。短期決戦、一撃必殺を心がけるように。無理なら即座に離脱すること。
でなければきみは魔力切れで魔法を使えない、ただの少女となってしまうでしょう』
その師匠の忠告を思い出し、リナは微かに笑う。
「師匠……魔力切れになったら、魔女になっちまうんだって。知ってたか?」
リンネの言葉からすれば知らなかったのだろうが、リナにとってリンネは何でも知っている存在だった。
だから知っていても不思議じゃないよな、と無邪気な信頼すら寄せていた。
リナは自身のソウルジェムをちらりと見る。
真紅の宝石は、穢れによって輝きを失いつつあった。
エトワール襲撃当初から大技を連発し、さらにアイナの強固な結界を前に無理な力押しをしたのが響いていた。
ただでさえ師匠から短期決戦仕様と評されたリナの魔力消耗率は高いのだ。
今みたいな包囲状態に置かれた戦況はリナにとって死地であり、絶体絶命と言っても良かった。
「……諦めて、たまるかよ! こんな雑魚の群れ如きにぃっ!!」
リナは自身の体を独楽のように回し戦槌を振り回す。
鈍器であるはずの戦槌が通った跡は、もぎ取られたような使い魔達のパーツが四方八方に飛散していた。
もし敵が生き物だったなら、辺りは血と肉の海になっていただろう。
だがパペットである使い魔達の死骸からは、汚れた綿と毛糸やボタン、布の切れ端がそこら中に舞っていた。
その残骸を食って、巨大化し始める使い魔達。
戦槌による物理的な攻撃が主体のリナにとって、目の前の使い魔達は相性最悪の敵だった。
戦っても戦っても一向に減らない使い魔の軍勢に、リナの心が折れかかる。
その隙を突くように使い魔の一撃が掠り、リナの帽子が吹き飛んだ。
――あの掌の温もりを、リナは覚えている。
「なにしやがんだ! テメェえええええええっ!!」
師匠との思い出の品を傷つけられ、リナは獣のように叫んだ。
――彼女から貰った力は、この程度で折れたりはしない。
けれどリナほど戦闘力のないサフィは、魔女の使い魔達に囲まれ苦戦していた。
同じ使い魔といえど、サフィは単なる魔女の使い魔ではない。
希望の魔法によって活力を与えられた使い魔であるサフィの方が、個のスペックは上だった。
だが数の暴力によって、個の優越は容易く無価値に成り下がる。
「サフィ!? 待ってろ、いま助けに――っ!」
相棒の危機を察したリナは、焦りを浮かばせて叫んだ。
だがサフィはリナに背を向けて、逆に使い魔の群れへと飛び込んで行ってしまう。
「待てっ! 待てよサフィ! そっち行っちゃ駄目だっ!!」
リナは立ち塞がる使い魔達をなぎ払い、相棒の名を呼んだ。
「サフィぃいいいいい!」
サフィはいつだって、リナが呼べば駆け寄ってきた。
だがサフィは初めて主人の声に背を向け、駆け出している。
その足を止めることなくサフィは雄叫びを上げた。
「ヴァオォオオオオオオオオオオオオオオン!」
サフィの体に無数の魔法陣が浮かび上がる。
それはサフィを使い魔として構成するための術式。
銀の魔女の手によって、高密度の魔力で無数に編み込まれた魔法陣群は、サフィの意図的な魔力のオーバーフローによって連鎖的に綻び、暴走を開始する。
消える間際の蝋燭の灯火のように、一際強く魔力をその身に帯びたサフィは、肉体が崩壊するにも関わらず使い魔達を蹂躙していく。
それは一瞬にも満たない僅かな時間だった。
だがその極小の時間で、魔女とリナの中間地点まで到達したサフィは、魔力暴走により爆発四散した。
サフィは敵中で自爆する事で、大量の使い魔達を道連れにして逝ったのだ。
自身の内に秘められた魔力の全てを暴走させることで、サフィは自らの主の為、魔女へ続く道を作り上げることに成功する。
目の前に開かれた血路を見て、リナは相棒の意図を悟った。
「…………サフィ」
二度目となるサフィとの別離。
体さえ無事なら『再生』の奇跡を願ったリナの魔法で、癒すことができたかもしれない。
だがサフィの体は字句通り木っ端微塵となってしまい、辺りには血煙と肉片の粕が散らばるのみ。
たとえそれらを全てかき集めることができたとしても、それは魔法の領域を超えた『奇跡』が必要だった。
だがリナの奇跡は、もう使い果たしてしまっていた。
リナは涙を堪えた。
ここで泣けば、その間にサフィが命をかけて築き上げた道が、再び使い魔達によって埋められてしまう。
それはサフィの死を無駄にすることだ。
そんな結末を許せば、リナは自分が許せなくなるだろう。
だからこそリナは叫んだ。
「うぁああああああああああああああっ!!」
激情が背中を押し、真紅の魔力光を後ろに曵きながら、リナは最高の相棒のことを想う。
サフィはリナが生まれた日、家の近くで捨てられた子犬だった。
病院からの帰り道に見かけた両親が、これも縁だろうと拾ったのが切っ掛けだったと聞いている。
リナからすればサフィは物心付く前から傍にいた兄弟のようなもので、大鳥家の番犬としてずっとリナを守ってくれていた。
十年間ずっと。
いまだ子供のリナだったが、犬であるサフィはすでに老犬といっても良い年齢だ。
いつか別れが来ることはリナも薄々と感じていたが、それはもっと先の出来事だと思っていた。
あの日、使い魔に殺されるまでは。
奇跡によって復活したものの、もしあのまま別れの言葉も言えず、何もわからないまま離れ離れになっていたとしたら、リナは一生後悔していただろう。
奇跡で蘇ってからは、学校に行く時以外は片時も離れなかった。
魔女と戦っている時も、いつも傍にはサフィがいた。
もっとずっと一緒にいたかった。
なのに、いつだって別れは唐突すぎる。
まただ。
リンネとサフィ。
またもリナは大切な者を失った。
それも同一の存在によって。
「こんの、クソ女ぁああああっ!!」
ありったけの憎悪を込めて、リナはユリエだった魔女に戦槌を叩きつける。
かつてリンネを殺し、いままた生み出した使い魔のせいでサフィを失った。
自身にとって怨敵と化した魔女に接近したリナは、俯いて泣く魔女の頭部らしき場所を力の限り戦槌で打ち付けた。
魔女が悲鳴を上げる。
だがその声すら苛立たしい。
「泣くなよ、クソ魔女! 鬱陶しい!」
そして最大の一撃が放たれる。
「ギガントブレイク!!」
超重量によって圧壊させられた魔女は、断末魔を上げる余裕もなくその身を滅ぼされた。
魔女を滅ぼすと、使い魔達は跡形もなく消え去っていった。
隔離された結界の中、唯一人の存在となったリナは、力尽きて倒れる。
長引いた戦闘のせいで、持っていたグリーフシードは底を付いていた。
魔女化したユリエからは、不幸にもグリーフシードは得られなかった。
全ての魔女がグリーフシードを落とすわけではない。
たまに今回のようなハズレも混ざるのだ。
最後まで憎たらしい女だと舌打ちするものの、リナの万策は尽きてしまった。
もうすでにリナのソウルジェムは、穢れで満たされている。
「…………助けてよ、姉ちゃん」
ここが死の淵だとリナは悟る。
だが最早、リナにはどうすることもできない。
一番の仇は討てたものの、敵の魔法少女はまだ多く残っているし、途中で力尽きるのは不本意だ。
リナは強く孤独を感じていた。
サフィが死んで、初めてリナは本当に一人になってしまったと思ったのだ。
走馬灯のように、かつて交わした約束を思い出す。
『あなたが望めば、私はいつだって駆けつける』
『――わかったよ、リナ。これからあなたは弟子じゃなく、私の妹分だ。魔法少女として、魔女から人々を守ってほしい。その代わり、私があなたを守るから』
「……嘘つき」
だが嘘つきなのは自分も同じだとリナは思った。
それどころか、先に破ったのはリナの方だった。
『あたしだって、姉ちゃんのこと守るに決まってるじゃんか!』
そう誓ったリナは、彼女を守れなかったのだから。
あまつさえ、リナの目の前で殺されてしまった。
ならばこれは罰なのかもしれない。
なにもできず、ただ見ていることしかできなかった無様な自分への。
穢れに満たされるソウルジェムを眺めながら、リナは一筋の涙を流した。
それはとても綺麗な雫となって、頬を伝い落ちる。
「…………魔女に、なりたくないよぉ」
そして――少女の涙に誘われて、銀の魔女が降り立つ。
「……リナ、約束を果たしに来たよ」
リナの師匠にして姉貴分。
なにより死んだはずの存在――古池リンネが、銀色の光に包まれて現れたのだった。
魔女データ:ユリエ魔女
属性:孤独
備考:寂しがりやの魔女。どれだけ使い魔を増やしてもその孤独が癒されることはない。また自らの世界に閉じこもっているため、どれだけ言葉をかけられても、周りに人がいても、それが届くことはない。