笛鳴らせ 猫踊れ
火の輪潜りもお手の物
今宵は楽しいカーニバル
檻の中は空のまま
臆病兎はお呼びじゃない
pi pi pi
鞭叩き いざや従え獣ども
ご主人様の命令だ
噛み付け「にゃあー」
引っ掻け「ふしゃー」
逆らう奴らはミナゴロセ
震える兎はしまっちゃえ
魔女「なきむしの鎧」の唄
宇佐木里美の首が刎ねられ、空高く舞い上がった。
それを成した天乃鈴音は、噴き出る血飛沫を避けるように、残された胴体から距離を取る。
これでまた一人、魔法少女の暗殺を終えた。世界の浄化へと近付いた。
そう安堵する間もなく、スズネの研ぎ澄まされた感覚は危機を嗅ぎ取った。
まるで何か致命的な歯車が嵌ってしまったかの様な。
これまで数多の魔法少女の首を刈ってきた経験が、今回のコレが致命的に違ってしまっている事を告げる。
スズネは咄嗟に、首なし死体となった里美から大きく飛び退く。
すると残された里美のソウルジェムが突如【相転移】を始めた。
「……っ!」
ソウルジェムが台風の目のように周囲へと暴風を撒き散らし、グリーフシードへと反転していく。
転移の際、局所的な台風の様に斥力が発生し、周囲の何もかもを吹き飛ばそうとしていた。
里美の近くに取り残されたままのかずみもまた、体勢を低くし硬質化した黒腕を地面へと突き立てて、吹き飛ばされないよう己の体を支えている。
スズネは鋭い眼で突如目の前に起こった【相転移】を観察する。
確かに首を刎ねたはずだ。
あのタイミングでは最早相転移する前に死亡していなければおかしい。
いくら魔法少女といえども、首を刎ねられてしまえば魔女になりようがない。
だが現実として、殺したはずの里美のソウルジェムは相転移を果たし、今また目の前で新たな魔女が生まれようとしている。
この異常、何者かの思惑を感じずにはいられない。
疑わしきは勿論宿敵である【銀の魔女】だ。
だがそれ以外の魔法少女の可能性も勿論ある。
そもそもプレイアデス聖団自体、目の前の宇佐木里美のように真っ当な魔法少女とはとても言い難い者共の巣窟なのだから。
双樹姉妹から知らされた報告の件もある。
次に聖団の魔法少女達を処理するなら、今度は首を刎ねるよりもソウルジェムを直接狙った方が確実だろう。
スズネは今後の方針を胸の中で密かに固めた。
「……かずみ」
スズネはどこか憂いた眼差しで、異形化したかずみの方へと視線を向ける。
彼女の存在はスズネの頭を悩ませた。
別に情が湧いたわけではない。
殺すか殺さないかの次元ではなく、彼女をいつ殺した方が適切なのか分からなくなったからだ。
【銀の魔女】が未だ姿を現さない現時点で殺すのは時期尚早のように思えるが、この調子では暴走したまま周囲に被害を与えかねない。
ここは一度引いて、様子を見るべきか。
このまま魔女化した宇佐木里美とぶつかり合わせ、見極める。
いわば高見の見物であり、正道の魔法少女ならば卑劣とも言える行為なのは自覚しているが、暗殺者であるスズネにとって無用な危険を冒す事は避けるべき事だった。
これまでに積み上げて来た犠牲を思えば、スズネが万全を期すのは最早義務とすら言えるだろう。
道程は果てしなく遠く、こんな所で躓くわけにはいかないのだから。
生じた迷いは一瞬だった。
生まれる魔女と異形化したかずみを見比べ、決断したスズネは自身の剣を目の前に翳し、己が魔法を行使する。
「――<陽炎>」
するとスズネの体が蜃気楼の如く揺らめき、その姿は周囲に溶け込む様に消えていった。
暗殺者は再び闇の中へと消え、残されたのは二体のバケモノ達。
新たに生まれし魔女と、<
蠱毒の坩堝と化した戦場で、生き残るのは果たしてどちらなのか。
暗殺者が監視する先で、バケモノ達がぶつかり合おうとしていた。
一方、天乃鈴音が突如として姿を消した後も、かずみの意識は未だ混沌の中にあった。
十二体もの
切れ切れになった無数の記憶の欠片達。
輝かしいものはほんの僅かであり、その殆どが澱のように淀んだ色を纏っていた。
淀みは絶望を孕み、波打つかのようにかずみの意識を掻き乱して、心と体の動きを乖離させる。
かずみの制御から離れた肉体は現在、暴走ともいえる状態にあった。
そこへ吹き付けてくる魔女から発せられる悪意の波動に、かずみの肉体は機械的に反応する。
高まる悪意に呼応するかのように、かずみは無自覚なまま拳を振るった。
黒く硬質化した巨腕は、ただ振るうだけで重機並みの破壊力を持つ。
だがそれは、魔女が誕生の際に放った衝撃波によって弾かれてしまっていた。
これまで里美によって維持されていた結界が、魔女へと反転した事で歪み始め、更なる異界へと変わり果てる。
閉ざされた世界を作り替えた魔女は、他の個体の例に漏れず奇妙な姿をしていた。
ホイッスルを巨大化したような頭部に、テントのように膨らんだ胴体。
腕らしき部分は鞭で出来ており、末端に行くにつれて無数に分裂している。
足はバネで出来ており、その場に立っているだけで上下に揺れて忙しない。
対峙するかずみはしかし、未だ正気とは言い難い状態だ。
自分という物が保てず、残された人の部分までもが歪み、その輪郭を保てていない。
このままでは目の前の魔女に引き摺られ、完全に魔女へと堕ちてしまうだろう。
だが酩酊にも似た拡散する意識を必死に繋ぎ止めるかずみに、一本の見えない糸が繋がれる。
『大丈夫だよ、かずみ。
君はそんなところで終わるような<器>じゃない』
それは道化師の仮面を被った少女だった。
どこか聞き覚えのある声が紡ぐ魔法が、かずみの意識を辛うじて繋ぎ止めていた。
だがその魔法は、他の誰かの意識までをも繋いだ。
かずみの目の前に、誰かの記憶が広がる。
『さあ、
白い靄がかった過去の情景の中。
そこでは一人の小さな少女が、両親から誕生を言祝がれていた。
そこは魔女になった<宇佐木里美>の記憶の中だった。
『里美、三歳の誕生日おめでとう』
プレゼントとして与えられたのは、一匹の小さな仔猫。
幼き頃の里美はその小さな命を前に、満面の笑顔を浮かべていた。
『わあ、かわいい! ずっといっしょだよ!』
それが里美と愛猫<サレ>との出会い。
物心付く前から共に過ごしたサレは、里美にとって大切な家族だった。
いるのが当たり前で、いなくなるなんて想像もできないくらい、里美はサレの事を可愛がっていた。
優しい両親に可愛いペット。
大好きな家族達に囲まれ、里美の日常は何不自由なく過ぎていく。
そんなある日の事。
中学生になった里美はその日、買い物に出かける予定を立てていた。
別に急を要する物でもなかったが、せっかくの休日なので出かける事にしたのだ。
そう思い立ち出かけようとする里美に、玄関口でサレが里美を引き止めるような鳴き声を上げる。
『サレちゃん、今日は随分鳴くのね?』
里美はサレの鳴き声を聞いて、単純に甘えているのだろうと思った。
『うふふ、甘えんぼさん。すぐに帰ってくるわ。だから我慢して待っててね?』
サレがこうして鳴くのは珍しいが、自分と離れるのが寂しいのだろうと里美は一人納得していた。
だから愛猫の頭を一撫ですると、里美は踵を返して出かける。
『バイバイ』
内にいるサレに向かって手を振りながら、里美は玄関の扉を閉めた。
――それが生きているサレを見た、最後の瞬間となった。
『……あと数時間早ければ、助かったかもしれません』
帰宅した里美が目にしたのは、泡を吹いて倒れているサレの姿だった。
慌てた里美が急いで獣医に駆け付けたものの、全ては遅きに失していた。
それは決して寿命などではない。対処すれば回避できる死でしかなかった。
サレのあの時の鳴き声は、里美に助けを求める声だったのだ。
――私が声に気付いてあげられれば、こんなことには。
愛猫の救いの声を聞き流し、何も知らずに別れてしまった自分。
里美は絶望し――数奇なる運命の果てに、一つの奇跡を願った。
『動物の言葉がわかる力を、どんな子でも助けられるように……!』
それが宇佐木里美の祈り。
助けを求める声を聞き逃してしまった、少女の後悔。
今度こそ、誰も見捨てない。
救いを求める声を聞き逃さない。
絶対に助けて見せる。
かずみは、そんな少女が願った過去の想いを知った。
だが現在の彼女の行動を振り返り、思わず愕然としてしまう。
……なんで?
最早言葉も出ない。無数の罵詈雑言がぐちゃぐちゃに思い浮かんで形にできない。
里美の過去とその願いを知って、かずみはただ怒りしか覚えられなかった。
――助けるために奇跡を願ったのに、どうして<わたし>は助けてくれなかったの?
それは
怒りが、憎悪が、混沌とした意識に明確な指向性を持たせてしまう。
何も考えられなくなるくらい目の前が真っ白なまま、ただただ攻撃的な衝動に染まっていく。
かずみは、彼女の願いが許せなかった。
自身の裡に取り込んだ姉妹達が決して許さないと声を上げている。
仮面の少女もまた、里美の願いの全てを唾棄した。
『ふざけるなよ宇佐木里美。お前の願いはどこまで傲慢なんだ』
言葉が分かっても、それを聞く<お前>が変わらなきゃ、結局は同じ事の繰り返しだと何故気付かない。
言葉が分かれば? 助けられたとでも?
なんだそれは。
助けられなかったのは「言葉が分からなかった」から。
だから「気付かなかった自分は悪くない」とでも言い訳してるつもりか?
『お前の願いは偽善の塊だ。反吐が出るよ。
かずみの悲鳴を聞き流したお前は何も変わらない。傲慢な偽善者に他ならない。
お前が振り撒く優しさは、結局自分に優しいだけのお飯事だ』
結局自分が可愛いだけの偽善者。
お優しい自分という幻想から覚めるのが怖くて、汚い自分を見つめるのが耐えられなくて、絶望した末に奇跡に縋って。
その果てが
だからお前は――お前達は屑なんだよ、と道化師は仮面の裏で吐き捨てる。
『さあ、かずみ! この傲慢なる魔女へ鉄槌を!』
その声に導かれるままに。
かずみは己の裡に抱え込んだ憤怒を解き放つ。
かずみの体が更なる異形化を果たしていく。
腕の黒化が全身まで広がっていき、かずみを黒い人型の何かへと変貌させていく。
その目だけは血のように紅く、けれども瞳は変わらず不気味な太極を描いている。
人の形という頚木から解き放たれた怪物が咆哮を上げた。
「GaaaAaAAAAaA!」
『ピィィイイイイイ!』
かずみに怯えたのか、魔女が悲鳴を上げるように頭部の魔笛を鳴らす。
するとその甲高い音色に支配されたのか、周囲を好き勝手に動いていた猫の使い魔達が一斉にかずみへと襲い掛かってくる。
四方八方から大量の使い魔達に襲われ、やがてかずみは全身を使い魔に覆われてしまった。
潰しても潰しても、使い魔はかずみの体に噛み付き、貼り付いてくる。
だが身体を猫の顎に蝕まれながらも、かずみは魔法を詠唱する。
それを邪魔しようとする使い魔共は逆に噛み砕いて吐き捨てた。
「ぐぎぎぎ! <ラ・ベスティア>ァアアアアアアアア!!」
命じる。命じる。
人造魔法少女【■■■かずみ】が命じる。
プレイアデスが一人、<若葉みらい>の
疾く従え使い魔ども。
お前達は悪意の泡沫、魔女の下僕。
絶望の根源から零れ落ちた塵屑の分際で、我が命に逆らうな。
暴力的な意思が、かずみの放つ魔力に乗って辺り一面に拡散する。
使い魔達はその魔力の波動に触れた瞬間に支配下へと置かれ、かずみの殺意を運ぶ道具と化した。
本家本元である若葉みらいの物より増強されたそれは、最早有象無象の存在に抵抗できるほど生易しい代物ではなくなっていた。
かずみは魔女の下僕である使い魔共を<
猫型の使い魔はその牙で親である魔女の体に噛みつき、その爪で切り裂いた。
魔女の抵抗によって幾ら叩き潰されようが一切怯むことなく、生みの親である魔女と心中するかのように食らいつく。
堪らずに魔笛の魔女が「ピィィイイ!」と甲高い悲鳴を上げる。
自身の使い魔を相手に抵抗を続けていた魔女の外殻が崩れ落ちると、中からは本体と思わしき、檻の中に入った兎の姿があった。
震えて涙を流す兎の姿は、かずみを支配する暴力的な衝動を無性に掻き立てた。
黒化した拳で檻を破壊すると、中に籠る兎を鉤爪と化した手で強引に引き摺りだす。
その弱々しい体躯で暴れ、泣いて逃げ出そうとする兎の頭を、禍々しく異形化した手で捕らえて離さない。
怯える兎を前にして、かずみは――笑った。
「あは、あハ、アハハハハハハハ!」
ガンッガンッガンッと兎の頭を地に打ち付ける。
何度も何度も。激情に身を任せるがままに鉄槌を下す。
破滅的な暴力により、兎の頭は呆気なく真っ赤に咲いた。
一撃で顔が潰れ、二撃目で耳が捥げた。
頭の骨が砕け、固体と呼ぶべき物は尽く粉砕され、やがてはボロ雑巾の様なナニカへと変わっていく。
それでも構わず、かずみは潰し続ける。
「アハハハハハハアハハハアハハハハ!!」
気が付けば兎姿の魔女は、いつの間にか里美の生首へと変わっていた。
肉が潰れ骨が砕け、脳漿が飛び散り手にした皮が剥がれる。
里美のパーマがかった髪とこびり付く皮と脂だけが残っても、かずみはその手を止めはしない。
何度も何度も打ち付ける。
止まることなき憤怒を原動力に、全て壊れろと声なき声で叫んでいた。
アスファルトに亀裂が走り、やがて砕けて砂塵と化す。
ぶつける先がなくなり、そこでようやくかずみはその手を止めた。
「……………………あ」
動きを止めたかずみの周囲には、耳に痛い静寂だけが残されていた。
ふと、かずみは己の手を眺めた。
黒く巨大化したそれは鋭利な爪を備えている。
誰かを害する機能しか持たない、正真正銘バケモノの手だ。
掌に巻き付いた幾つもの髪の毛だけが、里美の存在を証明する全てだった。
「――わたし、里美を……殺しちゃった」
呟いた言葉には現実感がなく、何もかもが嘘のように思えてしまう。
自分の体がバケモノである事は、何度も理解させられてきた。
だけどこの心だけは、ニンゲンのつもりだった。
血塗られた両手。
潰した感触が未だに生々しく残っている。
所詮は『つもり』でしかなかったのだと、この手が証明していた。
異形の目からは、無意識に一筋の涙が流れた。
「……ぁ」
ふっと、かずみの体から全ての力が抜け、そのまま倒れ込む。
張り詰めていた糸が切れたのか、壊れた人形のように意識を失った。
かずみが倒れるのと同時に、結界を張っていた者が消え去った為、辺りは再び雨の市街地へと戻っていく。
こうして人外のバケモノ同士の戦いは終わりを告げた。
魔法による隠形を解除した天乃鈴音は、遠くに転がっていた傘を拾うと、倒れた少女の元へと向かった。
かずみの姿は先ほどまでの黒く異形化したものではなく、一見すると普通の少女にしか見えない格好へと戻っている。
無造作に伸ばされた長い髪が雨に濡れたアスファルトに広がり、着ている服も所々裂けてその下の素肌を晒していた。
「……ここで殺した方が、あなたにとっては幸せなのかもしれないわね」
そう言いつつ、スズネは雨に晒されているかずみへと傘を翳す。
「そんなもの……求めるべきじゃないわね。
私もあなたも、所詮は同じ
倒れたかずみを、銀の暗殺者だけが見下ろしていた。
テディベア博物館『アンジェリカ・ベアーズ』。
プレイアデス聖団の拠点であるこの建物の地下深く、最奥にある機密区画にて、御崎海香は一人儀式の調整を行っていた。
床には
それは『和沙ミチル』を蘇生するための魔法陣だった。
聖団の総力を結集して作られたこの陣は、聖団メンバーの魔力を燃料に起動する。
ミチルの細胞から培養させて作ったクローン体を器に、強靭な生命力を持つ魔女の心臓を動力機関として埋め込み、そこへ『和沙ミチル』としての
クローン体、魔女の心臓、魂の六色錬成。
それ等が合わさりようやく完成するのがプレイアデス聖団の秘奥術式――生命創造の『
だがこの黄金錬成も最早万全とは言えない状態だ。
神那ニコが死亡した事で、既に魔方陣の一角が輝きを失ってしまっている。
その欠けてしまった陣を調整するために、海香は魔法書を片手に作業に勤しんでいた。
会議の後からずっと作業しているため、いい加減疲労も限界だったが、この陣の調整は海香にしかできない仕事だった。
ニコがいれば手伝いも頼めたのだが、よりにもよってそのニコが殺されてしまったのだ。
別に他の誰かが犠牲になった方が良かったなどとは思わない。誰であっても欠けてはならない大切な仲間達だ。
それにこの黄金錬成陣を起動させるだけならば、そもそも六人全員の魔力は必要なかった。
この陣の主な目的は、六人で協力する事により『魂の錬成』の負担を軽減する事にある。
言うまでもなく魂の錬成、生命創造の所業は神の御業。奇跡の領域にある大魔法だ。
魔法少女が単独で行使するには負担が大き過ぎて、自らの命すら奪いかねない。
その危険を極力減らす為に作られた魔法陣がこれだ。
確かにニコが欠けてしまったのは痛手だが、まだ致命傷というほどではない。
最低でも三人。ソウルジェムの負担から考えて、安全に起動できる最低人数はそれくらいが限度だろう。
それ未満の人数で行う場合は、自らの死を覚悟しなければならない。
下手に無理をして失敗すれば単なる集団自殺でしかなく、そうなってしまってはもう目も当てられない。
細心の注意を払いながら調整を行う海香だったが、突如として魔法陣から新たな光が失われる。
既にニコが欠けた一角には、かつて水色の輝きが宿っていた。
新たに失った一星。
そこにあった輝きの色は薄紫。
それは宇佐木里美の持つソウルジェムの色を表していた。
「これは、里美の……まさか、そんな!?」
「――海香!」
陣の異常を発見するのと同時に、牧カオルが慌てた様子で駆け込んできた。
決して無関係とは思えないこの急報に、海香は嫌な予感が収まらなかった。
「どうしたの! なにがあったの!?」
「サキが……里美の奴が――!」
息を切らせるカオルを落ち着かせ、詳しい話を聞き出す。
要約すると、カオルは通路の端でサキが倒れているのを発見したらしい。
カオルの呼びかけに意識を取り戻したサキだったが、そこでカオルに里美を止めるように懇願した。
理由を聞けば里美が、サキが匿っていた失敗作達を連れて、かずみの抹殺へと向かったのだと言う。
「早く里美を止めないと――!」
カオルから粗方の事情を聴き終えた海香は、最早全てが後の祭りである事を悟った。
また一人、仲間を失ったのだと。
「……もう、手遅れよ」
二色欠けた黄金錬成陣は未だ沈黙したまま、残された輝きだけが薄暗い室内を照らしていた。
プレイアデス聖団――残存四名。(御崎海香、牧カオル、浅海サキ、若葉みらい)
エリニュエス――残存?名。(天乃鈴音、榛名桜花、双樹姉妹、碧月樟刃、???)
銀の魔女――UNKNOWN。