グラスワンダー短編集   作:よたか(ほし)

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pixiv様にも投稿しています。
めちゃくちゃ短いのが2本あります。


けっこう大きめの鼻歌をがっつり聞かれていたグラスワンダーと、レースの映像を何度も巻き戻す羽目になるグラスワンダー

【けっこう大きめの鼻歌をがっつり聞かれていたグラスワンダー】

 

 

 

 

「…………別に、恥ずかしがることではないんじゃないかなぁ……」

 

「……」

 

部屋に、一人。

なんてことはない状況のはずなのに、普段よりも大胆になってしまうのはなぜなのでしょうか。

偉い学者さんたちは、この現象に名前を付けていないのかしら?

そんなことを考えてしまいます。

 

「いや……なんというか、味わい深かったよ、うん。グラスもそういうことするんだな~って感じでさ。いや、ホント。」

 

「……」

 

言い訳をしているかのような彼。

一体、どんな表情をしているのでしょうか?

うつむいて恥辱に耐えるばかりの私にはわからぬことではありますが。

 

「いや、僕も一人のときはしちゃうと思うな~」

 

「……」

 

鼻歌をしても一人。

いや、語感が悪いですね……

……鼻歌ロンリネス?

どうか、そこから何も聞けなくなってほしい。

 

「うん……ふっ。あっ、いや、分かるよ。……ね。テンション上がると、ね。……ぶっ……体を揺らしながら……ね。一人だと、つい、ね?」

 

「……」

 

一人だったら、こんなことにはなっていないんですけれども。

やんぬるかな。

 

「ふふふっ……くっ。ノリノリで……指パッチンして……」

 

「……」

 

……ふふふっ。

何故でしょう。

自嘲気味なこぼれるのは。

 

「……ねねっ、もっかい!もっかいやってよ!!最初から!」

 

「……」

 

「最後の”いぇ~い”も忘れずに!!……あっ!今度は動画も回していい?このかわいいグラスは黄金世代にも共有すべ……いてっ!」

 

尻尾一閃。

私が受けた心の傷は”ぺちっ”程度では済みませんが、今日はこれくらいで勘弁してあげます。

 

それにしても。

全部聞き終えた上で声をかけるなんて、極悪非道だとは思いませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【レースの映像を何度も巻き戻す羽目になるグラスワンダー】

 

 

 

「……うん。」

 

「……どう、走るべきでしょうか。」

 

レース映像とは何も、自分の走りを振りかえるためだけにあるのではありません。

ライバルの走りを見てその対策を練ることもできるのです。

 

「……」

 

「……」

 

レースさながらの、張り詰めた雰囲気。

画面の一点を見つめるトレーナーさんの目は真剣そのもので、話しかけるのを少し躊躇うほどです。

 

「……ふぅ。」

 

「……トレーナーさん。」

 

溜めた息を絞り出し、背もたれに体重を預けた彼。

眉間を指でぐりぐりとすることで、思考をまとめているのでしょう。

前回勝利したレースで、凄まじい食らいつきを見せた彼女。

そんな彼女との再戦。

準備も入念になるというものです。

 

「…………うん。」

 

「!」

 

満足げにうなずく彼。

……彼と一緒ならば、どんな困難も乗り越えられるでしょう。

 

「では、次の作戦を……!」

 

彼の慧眼は、どんな作戦を――

 

「ん?作戦??」

 

「え??」

 

「……」

 

「……」

 

「え?」

 

「えっ?」

 

……私が変なことを尋ねているかのような雰囲気なのはなぜでしょうか?

”何言ってんのこの子?”みたいな表情をされるのは、非常に不本意です。

 

「トレーナーさんが言ったんじゃないですか、”あの子のレース映像を見て研究しよう”って。」

 

「……?………………あーー!!うん!そう、そうだよね!?」

 

言うや否や、慌てた様子でリモコンを手に取っておもむろに映像を巻き戻し始める彼。

先ほどの張りつめた緊張感はどこへやら。

リモコンをぽちぽちする彼は、1分前の彼と本当に同じ人物なのでしょうか?

 

「あの……」

 

「……な、なにさ。」

 

「そんなに慌てて巻き戻しているのは……その、なぜですか?」

 

何度も見返すこと自体は不自然ではありません。

しかし、彼の様子は何というか……

あまりにも、変。

そう表現するほかないでしょう。

 

「…………………………から。」

 

「え?」

 

彼の掴むリモコンにそっと手を重ね合わせ、じっと目を見つめる。

しばらく目をきょろきょろと泳がせていた彼でしたが、観念したのかようやっと言葉を絞り出しました。

 

「…………あの子の走りを、見ていなかったから。」

 

「は?」

 

……?

彼は何と言ったのでしょうか?

 

「いやいや、彼女2着でしたよ?私と終盤競り合う映像……どアップですよ、どアップ。」

 

自分の口調が崩れているような気もしますが、それどころではないでしょう。

見ていなかった?

では、先ほどの真剣な眼差しは何??

 

「し、仕方ないだろ!君が走っているのが見えたら、ついそっちに注目してしまうんだから!」

 

「はぇっ?!」

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あかくなりながらいっても、ごまかされないんですからね……」

 

「そう言うグラスこそ、なんで赤くなってるのさ……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……もう一回、流すね。」

 

「次こそはちゃんと、見てくださいよ……」

 

……返事はありませんでした。

 

『――第3コーナーを回って』

 

再び流されるレース映像。

彼の瞳には、何が映っているのでしょうか?

 

……。

…………。

 

いけません……

何度も見返したとはいえ、レースの映像を見ると気分が昂ってしまいますね。

 

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