悪魔の薬売りは魔薬を運ぶ 作:月光画面
「すみません、元々は食事を対価に私が付いてきて貰っていたのに」
「いやそれはこうして食べ物を出してもらったのでいいんだけども……」
やっぱあれは食事を提供するから付いてきて欲しいで合っていたのかという今更の答え合わせが出来てホッとしている薬膳は右手に持ったトーストに一口かじりついた。
二人は真面目な話から一転して、緣が奥で調理してきた食事を摂っている。
緣は簡単に卵を焼いたパンで挟んだホットサンド。薬膳は緣がせっかくなのでリクエストを受けると言ってくれたので厚切りベーコンとスクランブルエッグにトーストを焼いてもらい食べていた。
緣は少しずつ自分で作ったホットサンドをパクつきながらテーブルの上に置かれている少なくなった薬の置いてある皿を見る。
「何だかんだと言いながらも魔素酔いの薬を飲んで貰えましたからもう目眩や見るものがぶれたりする症状はここから出た後も大丈夫でしょう」
「ここから出たらまたああなるって聞いたら流石に……他にもこいつに問題は起きないって言うし…………」
「何故そこまでその薔薇の魔獣を気にするのでしょうか? いえ、答えなくても良いですただの好奇心なので」
「好奇心で聞いてるのに答えなくてもいいのか……?」
「はい……?」
薬膳は自分と相手との微妙な認識の違いに違和感を覚えながらも食事を終えたので先の話の続きを促した。それは条件を飲んで、話を最後まで聞く、聞かせて欲しいという意思表示だ。
緣はそれを受けて首をかしげながらもそれに了承し、飲み物を再度継ぎ足してから魔素についての講義を始める。
話しやすいように、緣は薬膳の目の前に立ち、一枚のメモ用紙とペンを用意する。
「そうまずは……空気中に生物の体内にはたまた水や土の中にも存在する、物質的には存在しないけど確かに効力を、強制力を発揮する存在を魔素と名付けられました」
「なんだそれは、俺の体にもやっぱりあるのか?」
「えぇ、あなたにも私にも……細かい比率は違いますが同じ魔素があると断言できます」
緣が薬膳の目の前に座り、紙にペンで上から順番に生 力 地 空 火 動と少し区切ってから枯 衰 曖 霧 冷 静と覚え歌のような物を口ずさみながら書き列ねていく。
「『生命の水より出でて力をふるい地に立ち空を纏い火を燃やし動かした。
やがて枯れはて衰弱し曖昧に溶けて霧散し冷ややかとなり静止した』これは私が父から教わった魔素の始歌です」
それぞれに意味があり力があると緣は言い、父の話ができて楽しげな表情を浮かべる。
「これらを全部纏めて第一魔素、または十二元素と呼ばれています」
「第一魔素?」
薬膳が訝しげに言う。まるで第二やその続きがあるようだなと問いかけるように。
緣は楽しげな表情のまま頷く。
「えぇ、簡単に言うだけでも第二魔素である五大色素。前者二つが結合し多種に渡る変化を遂げた第三魔┃文素《もんそ》があります。ここまで説明すると時間がかかりすぎるので今はこういうものがあるのだと覚えているといいでしょう」
緣は紙に二つの動物を書いた。二匹とも猿の絵だと辛うじて分かる程度の画力だった。
薬膳は少し前のあの化け物の事を思い出して顔をしかめる。
緣は薬膳の嫌悪の感情に気が付いていたが気にせず更に書き足していく。
そして二つの猿の絵それぞれの周りに生 力 地 空 火 動と円で囲うように書き足してそれを指差した。
「十二元素の内、この六つは今現存する魔獣以外の生物に必ず一定以上に備わっている魔素で基本的にどんな事情があっても急激に変化を起こしません……例え死ぬような傷を受けたとしても生の魔素が低下するに合わせて他の魔素も低下するだけであり下限を割ることも無く、上限を突破することもない。全体のバランスが崩れることは無いのです」
片方の猿の猿に×を書き記し、頭の上に輪っかを作る。
「ですが、何らかの外的要因。魔術、魔力、神秘などの干渉を受けてバランスが大きく崩れる事があります」
緣は次にもう一つの猿の絵の横に大きく生と書いた。
そしてその生の字から矢印を猿の方へ向ける。
「生の魔素一つ異変を起こすだけでも要因は様々なものがあります。魔術や魔法による呪いによる生の魔素縮小状態での固定化、この場合は体は元気なのに衰弱していく、全身から力が抜けていくなどの症状があります。逆に外部から生の魔素を直接取り込むなど刺激して活性化させ、疲れているのに急速に回復する、致死量の出血を起こしていても生の魔素があれば多少の生命維持をすることができます」
「それって……」
「そう、裏の薬の事です。あれは便利なものですが油断してはいけません。直接体内の魔素を刺激、増幅させているわけなのですからそのプロセスは魔獣化のモノと同一なのです」
「…………っ」
薬膳はそれを表情に出さないまま恐怖した。
前に一度自分に使ってしまったあの『チョコケーキ』という薬、そしてあの時はそれしか無いとはいえ体が勝手に跳ねる程に影響を及ぼしていた『チョコケーキ』と『ホットココア』をジョンに打ち込んだ事。
それら全て、本当にリスクが無いままに恩恵を預かっていたのだろうか、本当は幾らかの可能性で自分が自分でなくなっていたのではないか、ジョンも魔獣となり自分を襲って来ていたのではないか。
今更ながら得体の知れない薬を自分に、他人に使っていたことによる無知ゆえの失敗の恐怖を味わっていた。
「…………と言ってもちゃんとした処理を施した薬は短時間で何本も接種しない限りそのようなことは起こりませんが」
「……それって何れくらいなんだ?」
「さて、その品質にも依りますが……一度に二本三本程度で変質変異を起こすのは売り物にはならないでしょう…………ですからその様に怯えなくても問題ありませんよ?」
薬膳が無言で水を飲む。緣の言葉には肯定も否定もせず、微動だにせず緣の話しの続きを待った。
内心を見抜かれた事にも動じず、隠していたつもり表情も自分のポーカーフェイスが甘かったのだと思いそんなこともあるだろうと納得した。
大畑にも、雲山にも内心で恐怖で混乱しているときにも表面上は堂々としていると隠し通せていたポーカーフェイスを見抜かれたことをそう納得した。
「さて、話を戻します。この猿の生の魔素が過剰に接種され、その器が壊れるほどに注ぎ込まれるとします。では何が起きるか……わかりますか?」
「……パンクする?」
「ある意味ではそうですね」
だが緣は問題はそこではないと、猿の絵に視線を戻す。
周りに描かれていた生の文字以外の上に生の字を書き連ねていく。
二つの字が重なり、それぞれが無茶苦茶な読めない文字になってしまう。
「正しい正解は他の領分を侵して侵食する。それはさながら川の水が氾濫して近くにある村を飲み込んでしまったかのように、他の相容れない物を無理矢理に巻き込んで広がっていく」
「……聞く限り、無事で済むとは思えないんだが」
「当然。溢れだした水は止められず、もっとあった場所に帰ることも出来ない。被害にあった場所も水の影響から逃れられず変わってしまう」
緣は無茶苦茶になった文字を今度は違う色のペンでその文字の上から新しく文字を書き足す。
それは元あった文字と入り交じった見たこともないような字。
存在しない字を見て首をかしげる薬膳。意味が分かっていないと理解している緣も書くのに合わせて説明する。
「本来混ざり会わないそれぞれの魔素が干渉し合い本来ならあり得ない形で魔素が存在することになる。当然現実の肉体にも影響が無い筈がなくそれは肉体の変質と言った形で表れる。生の魔素ならば代表的なのは肉体の強化、膨張、再生力の上昇等ですね」
聞く限りは良いこと尽くしだがそれだけではないと薬膳はあの黒い猿を思い出していた。あの猿は明らかに正気を失っていたし、元の目的や性格など完全に消失していたと見ている。だが逆に意識を保つ、理性と知性が有るようなあの彼女のような存在に関して疑問を覚えた。
相反する二体の魔獣を思い浮かべ考えるも答えは出ず、緣に魔獣した場合知性が残るのかどうかを聞くことにした。
「それが魔獣化だというのなら、その元の生物の精神に異常をきたしたりはしないのか?」
緣が足元に広がる蔦の一つを手に持って言う。
「します。変質するときに沸き上がる内側からの衝動に耐えきれなかった場合、ただその衝動を満たすために活動する魔の獣となるでしょう。元々の魔獣の語源でもありますね」
ですが、と緣は薬膳の体から伸びる植物の魔獣を指差す。
「稀に意思を持ったまま、知性を宿し言葉を交わす事ができる魔獣が居ます。その衝動に負けず、己を律した者や生まれ持ってしてそういう生物だった場合がそうなれるのです。あぁ、間違えないように人間から変異した魔獣は人の言葉を話すことはありますが殆どはただ喋れるだけで理性など存在しないので不意打ちには気を付けるようにしなさい。多くはありませんが表面上は何でもないようにして擬態する場合があります」
「そんな、どうすればいいんだ」
「全てを疑ってかかる、何も、誰も信じないこと。それしかありません。常に疑い、備えて、回避するしかないんです」
薬膳はそんなのは無理だと思った。そんな常に気を張り詰めたような生活ができるわけがないと。
(それしか無いのだとしたら、今目の前に居る織音さんの事すら信用できないと言うことになる。いやそれ以前に俺は大丈夫なのか? 魔獣と共生して、ほんの少しの変質で済んでいると言っていたが)
じっとりとした汗が背中に張り付き、息が浅く、早くなっていくのを薬膳は感じていた。それは自分自身への正気の疑いも含めての恐怖だった。
「……少し、脅しすぎてしまいましたね」
「え?」
「ごめんなさい。でもその心構えは必要なものなのです、裏に僅かでも触れてしまったのなら」
それが命を助けることになると緣は知っているから。だから素人の薬膳に脅すような真似までして印象付けた。
そしてそれは成功し、未だに息が少し乱れている薬膳に少しの申し訳なさと……ある感情を抱きながら不安を解消するための解説を始める。
「心配しなくてもそんな擬態をするような魔獣が蔓延るような事にはなりません。その筋の人間にはわかるような擬態ですし、見付け次第優先的に狩られています」
「そうだったのか」
「えぇ、そしてあなたの心配するあなた自身の魔獣化も非常に可能性が低いものとなっています。あなたの100%の魔素に1、2%を継ぎ足した今の状態でもあなたは100%の状態を保てている。おそらくはこの植物の魔獣と馴染めば馴染むほど注ぎ込まれる植物の魔獣の魔素が多くなってもその比率は変わらないものとなるでしょう。勿論リスクが無いわけではありませんが……まさにあなたとその魔獣は共生をしているわけですね」
薬膳の無言を気にせず緣は次の話をする。時間が余り無いこともあるがこれだけは話さないと帰せないというものがもう一つあったからだ。
「魔素については今はこれくらいで良いでしょう。次は魔術と魔法に関してです、それが終われば魔素の溜まり場の危険性、そうしてどうなるかを覚えてもらいます」
┗┓
俺は今、勉強をしている。
何故か必死こいて勉強をしている。
いや、何故かじゃないけど生きるために、危険を回避するためにしているんだが……ちょっとだけ俺の講師は長話が好きらしく既にかなりの時間が経っているのに終わる気配が見えない。既にメモ用紙として使われた紙の束はえらいことになってるし。
「流天さん、聞いていますか?」
このように別なことに意識を飛ばせば瞬時に察知されて注意される。
いや確かにわからないことがあればそれも気付いてくれるからかなりわかりやすく説明してくれるが……連続6時間ぶっ通しは俺どうかと思うんだ。それと途中で薬膳と呼ばれるのも何だがそれこそ学校みたいで辛かったので下の名前で呼ぶようにしてもらったり工夫をしてみたりもした。無駄だった。
「少し疲れてきましたか、ではおさらいだけして……終わりにしましょうか」
……声を出す気力もねぇ。
「まず、魔術。これはどういうものか答えてください」
「…………」
「声に出さなければ伝わりません」
頭の中で浮かべるだけで伝わらないかな……無理か。心なしか長時間の授業を聞いて萎れてきているような植物の魔獣の蔦を撫でながら考えをまとめる。
「…………魔術は、魔素の特質を利用した技術。その過程は大きく分けて三行程に別れており、『魔素の選別と結合』『効果の着色』『言葉の指向制御』である。これの利点は式さえ理解し、適正があれば誰にでも使える事にある。逆に不利点は反射レベルで習熟しなければ声に出して自分に言い聞かせて演算の補助をしなければならないこと」
「はい、合格です。裏の人間で魔素の存在を感じ取った事のある人間なら誰しもが使えるであろう技術です。言葉は第三魔文素であるので必ずではありませんが完全な演算が不可能ならば呪文を言葉にする必要があります。そしてその中でも代表的な魔術を覚えていますか?」
勿論、叩き込まれたからな。それに何故かこの知識だけは頭に直接書き込まれる様に記憶されたし。因みに適正っていうのはその人物の魔素の配分らしい。稀に一つだけ高かったり低かったりしてもそれが正常だったりする人物は適正が限られると言っていた。
この6時間は無駄ではない事を証明する為に頭の中でもう一度再確認しながら言葉にしていく。
「『血装』『言霊』『放出』この三つは誰にでも覚えられるように術式が公開されている」
『血装』は体内の魔素を血液に直接集めて循環させる事で身体能力を強化する。
対処法は体内なので干渉できず無理なので諦めてそういうものだと納得する。つまり無い。じゃあ何で教えた。魔術師は体が強いの説明だけでよかったのでは? 術式まで覚える必要は無かったのでは?
『言霊』はそれの声バージョン。声に乗せて放つことでその声を認識し、その意味が分かる者はそれに従ってしまったり、印象を強く植え付けられてしまう。
対処法は意識をしっかり保っていたり相手を疑っていたりしていたら効力が落ちる。
『放出』はただ単に体内魔素を一つの方向に向けて放つだけ。だがそれだけでも衝撃はあるし簡単なだけに魔獣が使ってくる場合もある。食らってしまえば最低でも俺がさっきなっていた魔素酔いにもなる可能性があるし、体内の魔素比率をそのまま放出できれば……簡易的な魔法のような事を起こせるらしい。魔法の説明に関しては多分次に問題として出されるから割愛、頭痛いし。
それでもって対処法はもう何か飛んできたら躱すしかない。
ごり押せって事ですね。いや知識があるだけで初見の際の驚きの分のロスが消えるのでそれだけでも充分なのだが。何かを向けられたら回避しなくてはいけないとわかるだけでありがたいし。
ちゃんと頭の中でも解説できるようになったと自分で満足したところで織音先生が微笑みを浮かべて頷く。
「はい、正解です。ちゃんと中身も理解しているようですね。先程調べた結果流天さんには何れも適正が低かったのでこう言うものがあると知識だけは入れといてください」
「……はい」
「どれか一つでも適正があれば私が教えられたのですが……流天さんの場合は全てが低すぎて適正にまで届かないので。効力が低くなっても使えるのは使えるのですがそれより知識を詰め込むことが必要だと考えました」
「いや、俺だっていきなり訳のわからん魔術や何たらを使えと言われないでホッとしているから、どちらかというと知識だけの方が嬉しいし。前提の魔素を感じることができないので元から無理だと思う」
「それはどうでもなりますよ。手荒になりますが」
一体何されるんだ……。
「それほど怖がらなくても、器から溢れない程度に魔素を体に注ぎ込み続けるだけですよ。変異もしませんが副作用で熱っぽくなる程度です」
「恐怖を感じるに充分なのでは」
「次に魔法です。こちらは魔術と違い余り対魔術師の中では普及していません。何故ですか?」
スルーですか。
ええっと魔法か、確かこれは魔獣が良く使うから覚えなさいと知識を詰め込まれたのでよく覚えている。
「魔術は万人が使えるように公式が存在するのに対して魔法はその個人の魔素比率や考え方によって発現する固有の魔術。その個人の存在そのものが術式であり、生まれながら持つ力と同じように本能で使えるので出が早く、その効果も様々な為に対処が難しい。その分使える人間は珍しいし、その中でも戦闘に使える魔法を持つ人間は更に珍しいが扱える場合法則そのものを相手するに等しいので注意が必要である。魔獣は基本的に変異する際に使えるようになる」
つまり? 出会ったら無理ゲー。
ゲーム的に言うなら魔術がレベルアップで覚えられる汎用技で、魔法が主人公しか使えない専用技みたいなもの。何がタチ悪いかって魔法が使えても普通に魔術が使える点なんだよな。
魔法は本能的に使える分無言で放つことが出来るし、法則が襲いかかってくるって重力とか慣性とかに対抗しろってことだからただの人間には無理ですねこれは……。
知らないところでこの世の中ちょっと地獄過ぎないだろうか。
「はい、及第点でしょう。これなら最悪死ぬ瞬間にどうして、と疑問に浮かばず理解して死ねるでしょう」
そもそも死にたくないんだが。
俺が苦悶も浮かべる面白い表情をしていたのか、俺の顔をちらりと見ると織音先生がクスリと笑い、手元のメモ用紙の束を纏めて始まる。
「冗談です。ですが魔法に関しては対策以前の問題なのでぱっと見で理解が不可能ならば距離を取ることしかできません。もっとも距離を取れるという幸運があっての話ですが」
そして織音さんはメモ用紙の何枚かを抜き出して穴を開けて紐でまとめる。昔の製本の様に読めるような形にするとまた何枚かを抜き出して穴を開け始める。
「次は魔素溜まり、どういう場所が溜まりやすく、溜まりすぎればどうなるかを説明してください」
確かそれぞれの魔素によって溜まりやすい場所が変わったはずだ。だがそれにも一定の共通点があって……溜まりすぎれば、何か一つ、二つと偏りすぎればその場所そのものが変異してしまうという話だった筈だ。
「魔素が溜まりやすい場所は生命の溢れる場所またはその逆。霊脈、活火山、深海などのその奥地に集まりやすい傾向がある。引き寄せられる魔素も十二の内のその場所に適した幾つかで全てが引き寄せられる。そして溜まりすぎた場所はこの世界からずれて魔界と言われる場所になり自然と魔獣が発生するような危険な場所になる。通常一般人が近寄っても大きな干渉を受けたり、魔界に落ちることはないが気分が悪くなったり、何かを感じたりすることがある」
魔界というのは何というか……ゲームのダンジョンのような存在らしい。魔素を一切感じないような表の人間には近寄ることも感じることもできないけど向こうから無理矢理干渉してきたり、運が悪ければ魔界に片足を踏み込むような事になるようだ。
今考えればあの彼女に会った場所も異常な場所だったし魔界と呼ばれるような場所だったのかもしれない。
もう、彼女が消えた今。確かめるすべは無いが。
「そうですね、合格です。ですが最後に人工的に魔界を発生させる事ができると付け加えていれば完璧でした。魔界はこの世界とは法則が違う場合が多々あるので必ず近寄らないように、既に魔素を浴びて、魔獣と関わってしまったあなたでは近寄るだけで飲み込まれるでしょうし少しでもオカルトの話がある場所は行ってはいけません」
「これで、終わり……か?」
おわって……つかれた……ていうか今からバイトかよ……。
というかこんだけ知識を詰め込んだけど大体の場合出会ったら即終了なんだよな、対策も一貫して逃げろ近寄るなだし。一応の対応策は幾つかで教えてもらったし、魔界に落ちた時の出方も教えて貰ったが……正直出来る気がしない。
天井を見上げてピクリともしなくなった俺を横目に見て一つ溜め息を吐くと織音さんは悩むように頭を抱える。
「……そうですね。これで説明を終わります」
俺が回答をしている間もやっていた紙の整理を終えたのか紙の本をもう一度束ねて横に置くと真剣な眼差しで俺の目を見詰める。
俺でこれだけ疲れているのに教える方のしんどさも相当なものだろう。出来るだけ佇まいを直して織音さんに向かい合う。
「これで最後です。今までの話を聞いて、あなたは、薬膳流天は本当に……その植物の魔獣と共にあれると思っていますか」