黒い魔法使い
物語が動き出す遥か昔…100年前、魔法界には著名な闇の魔法使いが存在した。
その者はかの闇の帝王の登場により存在感は薄くなったが、
未だに魔法界に大きな影響を与えた人物として
世界中で
そしてその数々の悪行と善行が織り交ぜて語られる彼には、奇しくも血を受け継ぐ者が居た。
彼が家族だと唯一はっきり言えるほどの人物...そして彼自身が生み出した
かつて史上最悪の魔法使いとして名を馳せ、欧州魔法界を大戦に巻き込んだゲラート・グリンデルバルドの誇れる、自慢の娘であった。
そんな彼女は、今現在、ヨーロッパ随一の険しい山々が連なる、オーストリア領内アルプス山脈付近に来ていた。
「…ったく、こんな蒸し暑い夏に来る事になるとは…。」
目に見えて悪態をつきながらも、私は足を止めて、改めてこの堅牢に建てられた城塞を見上げる。
空高く立ちそびえるこの無駄にデカい要塞は、かつての我が義理父が建てたヌルメンガード城と呼ばれる城塞である。
元は自分に敵対した者達を収監しておくための監獄だったのだが、皮肉にもそこに私の全ての始まりとも言える人は収監されている。
「…それじゃ、入れるか試してみますか。」
グッ、と身体に力を入れてみるが、やはり何も起きない。
「…ダメか。」
予想通り、この城には未だオーストリア魔法省にすら解呪できなかったほどの強力な魔法がかけられている。
恐らく、姿現し妨害魔法が城中、壁一面に張り巡らされているのだろう。
だからこそ、通常の姿現しでは何も起こらなかった。
「父上もよくやるものだ…こんな大規模な魔法をかけるなんて。」
彼自身の負債でもあるそれを、私は微笑と共に、今度は少し違った手で掻い潜ってみる。
「なら、これでは…。」
私は素手でパチン、と指を鳴らす。
すると、周囲の壁沿いに聳え立つ深い森林の視界が一転し、突然暗い直線の通路へと移った。
「…成功して良かった。」
今しがた使用した無詠唱魔法は、最近の私の研究成果の結晶だ。
姿現し妨害魔法を構築する魔法線…私に見えている呪文を構成する細い糸のような線の事を言う。
それを一部結び直すようにして、新たに呪文を上書き、改変するという事をして姿現しの妨害対象を私以外にしたという、少々卑怯に見える荒技を使ったのだ。
私には生まれながらにして魔法の素地となるこの魔法線が視覚的に分かる。
こんな体質になったのも、かの魔法の眼の原材料となる生物の血が私を作る際に入れられていたからなのだが。
そうして私は現在この要塞の中心地に入れた。
これがなければ屋敷しもべ妖精にでも頼むしかなかったが、彼らの純情さから言えば、悪の体現とも言える我が父上に会う事は願い下げだと嘆願されるであろう。
だから、私は家にいる屋敷しもべを置いて単独でここまで来ていた。
ウチの屋敷しもべ妖精は恐らくそんな事気にしない性格だとは思うが、出来る限り自分の家の事は自分で片を付けたいという思いもある。
私は城内に姿現しをした後、この薄暗く不気味な通路を抜け、道中の看守を目くらまし呪文で透明になりながらやり過ごし進み続けた。
そして遂にもう何個目か分からない通路をくねくねと曲がり、階段を上がっていくと、そこにはとある監獄があった。
他の通路沿いにあった一般囚の監獄とは違い、独房で、何重にも破壊・炎・呼び寄せ呪文等に対する反対呪文が重ねがけされた部屋で、重厚感も半端がない。
しかも扉の両隣には、通常の見回りの看守と違う、明らかな手練れの看守が二人常に張り付いている。
恐らくオーストリア魔法省の中でもトップクラスの闇払い達から選抜された者達だとすぐに分かる。
(…ふむふむ、では少し眠っていてもらいましょうか。)
私は右手を以って看守の前で人差し指と親指を交差させ、無詠唱で魔法をかけてやる。
「ぅ…。」
するとドサッと音を立てながら、硬くて冷たい床に派手におでこを打ちつけて一人が気絶した。
「…ッ、攻撃を受けた!至急応援を ぁがッ…。」
それに気づいた相方の看守もすぐに対応しようと見えないはずの私と反対方向へと駆け出したが、敢えなくまた一人と次々に夢の世界へと旅立ってくれた。
一方左手では杖なしで、看守が無力化された時のために設置されていた緊急連絡装置と警報装置を
(よし…あとはアレだな。)
私は鉄の扉の前に近づき、トントン、とノックをする。
すると、扉にかけられた魔法の線や、細い糸のようなモノは解かれ、次々に緩められていき、最終的には何の変哲もないただの扉になった。
その次に、後方に人避けの魔法(マグル避けの魔法の原理を応用して発明した)を、これまで通ってきた通路ごとに三層にも重ねがけする。
これで暫くは誰も近寄ってはこないはずだ。
そうして漸く、わざとらしく、ギィィー…と音を立てながらこの鉄の塊となった扉を魔力で内側に押し開けていく。
すると、薄暗い部屋の最奥から、しわがれた、されどよく聞き覚えのある声がかけられた。
「……何の用だ、我が愛しの娘よ。」
その声を発したのは、白髪を生やし、髭の伸びた老ぼれ…我が
「やっほー、元気してた?」
中の様子を見ながら、この鎖に繋がれ、ありとあらゆる魔法によって拘束された老齢の男を見下ろす。
「ふん…これで元気と言えるか?」
「…それもそうだね、スコージファイ。」
私が指先でチョコチョコと父上の方をいじってやれば、荒れ放題のヒゲは整えられ、何年も洗っていなかったであろう体は清潔感を取り戻していた。
そればかりか、部屋中のカビや汚れ、ホコリが瞬く間に落ちていき、空気中へと離散していった。
その一部始終を見た父上は、驚愕の顔で見返してくる。
「…我が身体に幾多にもかけられた拘束魔法に加え、部屋中の防護呪文を掻い潜って清めの呪文を使うとはな。こんな娘を生み出したのは間違いだったのかもしれん。」
「え〜、ひどぉーい。私、これでも父上の事慕ってるんだよ?」
私はわざとらしく頬を膨らませながら文句をつける。
しかし、彼はそんな仕草をどうとも思っていないのか、真剣な顔で睨み返してくる。
「そうなるように
「やだなー、おじさまったら容赦ないんだから。
…端的に言えば、報告のようなものだよ。」
「…良いだろう、話してみろ。」
ゲラート・グリンデルバルドは私の要件を聞いてから少し落ち込みながらも、顎を使って話の続きを促してくる。
「最近、全くと言っていいほど情報が途絶えたから、何かあったのかと英国魔法省を盗み見てきたんだ。
そうしたら、なんと驚いた事に、トムが死んでたみたいなんだよね。
いや、肉体の方がって言うのが正しいんだけど。
それで英国魔法省が一応、機能不全から脱して私達の活動にも抵抗し始めたって感じかな。」
「…奴をやったのはアルバスか?」
グリンデルバルドはさも当然の如く旧友の名を出すが、私は首を振り否定を返す。
「違う。とある男の子だってさ。」
「男の子…?いくつだ。」
彼が訝しみながら問うてくるので、髪をいじりながら素直に答えてあげる。
「んーとね…当時はまだ一歳だったって話だよ?」
「…バカな、まだ赤ん坊じゃないか。そんな奴が傲慢であさましくも、アルバスとマトモにやり合えるだけの魔力を持つ、あの
父上は同じ闇の魔法使いとしてあろうことかヴォルデモート卿を若造と言い放った。
その言葉には、実にかつて十年以上の間、世界魔法大戦に身を置いた歴戦のゲラートの姿が垣間見える。
「そこが不思議なんだよね〜。私もちょっと興味が出てきてさ。」
私は髪をいじるのをやめて、彼に真向かいに向き合う。
すると、彼も話の意図が読めたのか、私の目を見て問うてくる。
「……なんだ、今の活動を放り出してでもアルバスの厄介ごとに首を突っ込むのか?」
「残念…半分正解だけど、半分間違ってるかな。
私が
むしろ、英国に足掛かりを作れる事を加味すれば有益だと思うよ?
それに、どうやらその子は来年の九月にホグワーツに入学するみたいだし、丁度時期がいいかと思ってね。
…父上だって、あのダンブルドアには貸しがあるんでしょ?」
私が素っ気なくいうと「はぁ…」と大きなため息をついた父上がこう言った。
「確かに、アイツには返すべき恩がある。
お前が俺の代わりに果たしてくれるなら、
ありがたい事この上ないが…なるほどな。
ホグワーツには休暇が年に幾度かあったはずだ。
それを利用してヨーロッパでの活動も継続させる気か?」
「ご名答〜。さすがは父上だね、開心術でも使ったのかなー?」
ジッ…と、私が父上の目を見る。
その瞬間、父上はサッと目を逸らした。
「…何でもかんでも他人の心を覗くものじゃないぞ。
クイニーでさえもう少し弁えていただろうに…。」
父上は、かつて彼自身に協力してくれた懐かしい名前を…クイニー・ゴールドスタインの名を出した。
(彼女、結局あのマグルのおじさんと結婚したんだっけ…。
今も幸せに生きているのかな?)
頭の中の記憶を頼りに、昔を懐かしみながら父上に返事をする。
「えへへー、それ程でもないよ〜。…でも全然本気じゃなかったよ?」
不必要に開心術をかけながら言うセリフではないが、
どこかあざけながら言う私を嫌な目で見る父上。
それに対して私は何でもないかのように先程思い浮かんだ疑問を呈する。
「そういえば、クイニーおばさんはまだ生きてたっけ?
そこら辺の記憶はあなたが私を
私が何となく興味に駆り立てられて問いかけてみれば、父上は彼女の事をよく思い出したのか、懐かしむ表情で述べた。
「あぁ…マグルの夫の方は先に他界したとアルバスが話していたな。
稀にアイツはここにやって来て、昔話をしてくれたものだ。
例えば、あの何度も私の行く手を阻もうとした
確か若造は本を出版したんだとかな…ここ数年間、アルバスとの会話は途絶えたが。」
「ふ〜ん…。」
そこまで言った父上は、悲痛な表情へと変わり移った所で思考を一旦切り替えたのか真剣な表情へと再び戻る。
「…それで、トムの所在はわかるのか?」
「いやそれが全然わからないのよねぇ…。
ホークラックスを用いてる事から死んではいないと思うんだけど、いかんせん衰弱した肉体も持たない魂を探せという方がどうかしてるよ。」
クスッと笑った僕にただ「そうか…」とだけ返す父上。
「…あ、そうだ。その他に伝えるべき事としては、ヨーロッパ各地の勢力は現在拡大中だって事だね。
中々に熱き若い魔法使い達が大勢いるみたいで、協力者が結構増えてきたんだよね、まるで昔の
私がバッ、と両手を上げながら歪んだ笑顔で、近年進めている活動の内容を報告すると、案の定いつもの父上の渋い顔が浮かび上がった。
「…用心しろ、娘よ。同志が増えるのは良い事でもあり、反面魔法省のネズミが入り込んでるやもしれん。」
「その点に関してはもちろんだよ、父上!
魔法省の息のかかった連中は今頃開心術士達が尋問してから
私はそういった方面も抜かりはないのだ。
組織に加盟した人物の素性や経歴、思想的背景などは把握済みだ。
ある者は魔法使いとしての自覚なく育ち、
マグル達から気味悪がられ迫害を受け、魔力を暴走させるに至った者
路頭に迷い、魔法省に保護されるまで悲惨な人生を送った者
そして強いマグル界への恨みを抱くに至った者達…
ある者は悲劇の仮面を被った、
闇を葬るべく固い信念を持つ
少しでも不詳な怪しい経歴を持つ者がいたら、
面接という名の尋問で
今月、最もマグル世界に放逐された
「でも、父上の言う事も案外参考になるね〜。組織がデカくなる程、内側からの崩壊に気づきにくいってのが現実になるのは、正直恐ろしくてたまらないや。」
叔父はその言葉を聞いて「ふんッ」とかつての自分の経験を自慢する様に語った。
「当たり前だ。見かけだけ忠誠心を持っている輩や、目的もなく流れに身を任せて辿り着いた者達がどれほど多い事か…真の大義を理解する者達に出会うまでは全く気が抜けん。」
説教を垂れる様にプンスカプンスカと言い始める叔父は少し可愛かったため、クスリとまた笑ってしまう。
「…何を笑っている。」
「ふふふ、いや何でもないよ…それじゃ、そろそろ時間も迫ってきた事だしお暇させてもらうよ?」
「あぁ、あの様子じゃ、そうした方がいいだろうな。」
父上は扉の方を見ながら、その更に奥の奥、二つ下の通路から何人もの看守が慌てて走ってくる足音を察知して忠告をしてくる。
「…それと、そろそろ杖を買っておけ。
杖なしだと、その、なんだ…不便な時もあるだろう。」
「それもそうだね。来年までには揃えておくよ。
確か英国ではオリバンダーの店がいいんだったっけかな?」
私は優雅な仕草で左手をパチンと指を鳴らし、
父上に最後の言葉を告げる。
「じゃぁ父上、また来年会おうね…。」
『
私達が掲げる共通の標語を言ったのち、
まるで屋敷しもべ妖精のようにその場から跡形もなく姿くらましをした。
「はぁ…アルバスよ、私の娘をどうか頼むぞ。」
あの娘も、そろそろ魔法以外の面に関して知見を広めておくべきだろう。
教師としてなのか、生徒としてなのか、どのようにして我が娘がホグワーツに立場を作るのかは不明だが、あの子には得るべき友が必要だ。
ホグワーツは娘にその機会を与えてくれるだろう。
かつての私とアルバスのように、
共に…この魔法界を真の意味で変える者達を。
あの子の力は絶対的だ。
魔法に関して言えば、彼女の右に出るものはいない。
あのヴォルデモート卿ですら、
純粋な戦闘では歯が立たないかもしれない可能性だって十二分にある。
だが、彼女はいずれ自らの行いを確かめる時が来る。
自分に与えられた務めは、正しかったのか?
それに答えられるのは、友だけだ…
それを
前方の扉から大量の看守達が騒ぎ立てて雪崩れ込んでくるのを尻目に、ゲラート・グリンデルバルドはゆっくりと瞼を閉じた…。
1990年スタートチャートです。
帝王と不死鳥の騎士団とグリンデルバルドで仲良く3P(殴)したいと思います。