史上最悪を継承する者   作:YJSN

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今回は長いです。初めて一万文字行きました。








取引

1991年 7月 ロンドン もれ鍋店

 

バタンっ、と今回で2回目となるもれ鍋の扉を開く、黒いコートを羽織った銀髪の少女が現れる。

 

その様子を凝視する中にいた飲み客や初老の店主を無視しながら、その少女は中を見渡しながら歩く。

 

「…嬢ちゃん、ダイアゴン横丁ならそこの裏手に回りな。」

 

店主がにこやかな顔で迎えて私が求めてるであろう行き先を教えてくれる。

 

「…ありがとうございます。ですがなぜ私がダイアゴン横丁に行くと?」

 

一体どういう訳で私の目的を把握していたのだろう、とふと疑問に思ったことを聞けば、彼は自信満々に答えてくれた。

 

「なに、この時期になるとホグワーツの生徒達がよくここを通るもんでよ、あんたもこの前マクゴナガル教授と通って行ったから学校関係者かと思ってね。

 

ホグワーツの先生か生徒かは知らないが、関係者ならダイアゴン横丁以外ねぇわな!はっはっはっ!」

 

と高笑いする店主にぎこちない笑顔で返した私は「なるほど。」と納得してその場を立ち去り、裏手へとさっさと向かう。

 

「…バレてなくてよかった。」

 

私は今21歳相当の肉体年齢なのだ。

 

少々とはいえ、前回もれ鍋に来た時より身長が伸び、顔つきが大人びていたからバレるかとも思ったが、気づかれる事なく通れたので安心した。

 

叔父上譲りの銀髪と爽やかな雰囲気、容姿端麗さも彼らの気を散らすのに一役買ってくれたのだと思う。

 

「はぁ〜…叔父上も昔はハンサムだったのに…。」

 

今じゃ髪も髭もボサボサの老人だけど、と店の裏の勝手口を通ってレンガ壁までたどり着いた私は、かつての叔父を思い出しながら壁に向けて右手を伸ばす。

 

そしてトン、トントンと規則正しく適切な位置を人差し指で叩いていった。

 

 

ゴゴゴゴゴ・・・

 

 

すると、レンガ壁はガタンガタンと外側へと別れていき、その先の道をあけてくれる。

 

「…へぇ…。」

 

思わず声をあげてしまうほど繁盛するこのダイアゴン横丁に、私は心を打たれた。

 

中へ踏み込んでいけば、感知不可拡大呪文をかけられ、なおかつ上空には幻影呪文がかけられ、その繰り返しを受けたマグルにとっては存在しないも同然の通りが広がっていた。

 

私の目に映るのは数々の珍奇な魔法をかけられた物珍しい商品や、魔法界独自の食べ物やお菓子…。

 

「…フランス魔法省お抱えの魔法都市パリよりも賑わっている。」

 

英国独自の自由な空気が商売を繁盛させているのだろう。

 

フランスは闇の魔術に関する魔法製品にヨーロッパ随一で厳しい故に、検閲がかけられてしまい商人がまばらだ。

 

反対に最も検閲の緩いのがドイツ魔法省だ。

彼らは今私の組織のお抱え魔法省な上に、

魔法使い達の気質は狡猾さが目立つ。

 

つまり、何事においても全く手段を選ばない、冷静沈着である。

 

その特質は、かつて我が父上たるグリンデルバルドに敵対したドイツ出身の闇払い(オーラー)達にも見られる。

 

彼らは父上に対する反乱の際、こぞって闇の魔法を連発してきたものだから、かなりの戦闘被害を被ったと記憶の中で愚痴を漏らした叔父が垣間見得た。

 

おっと、閑話休題。話が逸れた。

 

まず私が行くべきなのは…あそこに決まっているが。

 

「グリンゴッツ世界魔法銀行、か。」

 

お上りさんのようにあたりをキョロキョロと見回しながら賑わう通りを歩いていれば、高くて白い堅牢そうな、されど縦に細長い建物が見えてきた。

 

文字通り、世界中に支店を構え、全ての魔法使い達の間で使用される共通の貨幣を作り上げ、世界経済を融合させた小鬼達の勤め先…。

 

パリにも支店はあったが、ここロンドンの本店は初めて見るため、新鮮味が沸き立つ。

 

支店よりも何回りも大きな銀行に来たのはもちろん資金をおろす為だ。

 

私は恥ずかしながらこの歳になっても杖を持っていなかった。

 

ダンブルドアも前回の会合の時、そのことを気にしており、

 

『ならばダイアゴン横丁へ行くとよいじゃろう。

あそこにはオリバンダーの店があるのじゃ。

きっと生涯相棒となる杖が、今も首を長くして待っていることじゃろうて。』

 

そういうわけで私は色々お買い物をする資金を手に入れるため、アルバスから貰った金庫の鍵を手にしながら、この堅苦しそうな建物の中に立ち入った。

 

中にいる小鬼達は顰めっ面を極めており、もはや怒っていそうなほどの雰囲気だが、私の容姿を見ると何やら奇妙なものでも見るような目つきで見つめてくる。

 

その視線を掻い潜り、受付のところまで来た私は、目の前の仕事に集中している小鬼に流暢な英語で話しかける。

 

「…コホン、預金を下ろしに来ました。」

 

私の要件を聞いた小鬼は、ゆっくりとこちらへ顔をあげてから相変わらず険しい顔つきで述べる。

 

「…鍵を拝借いたします。」

 

私は小鬼に銀色の鍵を渡し、「しばしお待ちを…。」と言われて手持ち無沙汰となり、辺りを見回す。

 

周りの小鬼達はハンコを押したり、書類をまとめたりで大忙しなようだ。

 

小鬼というのは、元来現金な性格で、対等な取引や真面目な仕事ばかりを好んで引き受けたがるという、屋敷しもべ妖精とは真逆の性格を持っている。

 

いや、屋敷しもべ妖精達が真面目じゃない仕事を好んでいる、というつもりはないが…。

 

色々と彼らという種族を観察すること数十秒、やっとこさ戻ってきた小鬼はスタスタと彼らの背丈の3、4倍は高いであろう机の上に戻ってきて、書類と羽根ペンを私の方に手渡してきた。

 

「フォートシュリット様、277番の金庫でございます。

それではそちらの羊皮紙に金額と署名を。」

 

全く愛想のない仏帳面な顔で支持されながらも、私は言われた通り必要な記入事項を浮遊呪文を利用した自動筆記で羽根ペンを走らせて書き込んでいく。

 

そして書き終わった羊皮紙を小鬼の方に投げるように浮遊呪文を無詠唱で放ち飛ばしてやると、小鬼はさもありなんとばかりに片手間で羊皮紙を掴んで確認する。

 

チッ…。

 

「…それでは、こちらがお求めの金額になります。

どうぞお受け取りください。」

 

私の些細な悪戯を回避されて御立腹な舌打ちを心の中で打ちながら、出された小袋に詰まったガリオン金貨をチャリンと歯切りのいい金属音を響かせながら受け取り、さっさとこの銀行を退出した。

 

ちなみに額はあんまり多くなかった。

アルバスはどこかケチなところがあり、

必要な分しか入れてくれなかったようだ、残念。

 

『無駄遣いせんようにの。』

 

あの狸爺…今世紀最高の魔法使いと言われながらどうせ懐は暖かいだろうに、なんとケチくさいヤツだ。

 

そんな事を思っている間に、目的のオリバンダーの店まで来れた。

 

目の前の古く年季の入った店の看板には『オリバンダー杖専門店 紀元前382年創業』と書かれてあった。

 

私は店の看板を「紀元前?ブリトン人も真っ青だな。」などと戯言を言いつつマジマジと見つめながら扉付近に近づくと、そこで思わぬ人物に出会ってしまった。

 

「…半巨人の…髭もじゃ?」

 

私が怪訝な顔で呟いてしまうと、目の前の私より身長も体格もデカい、整えられていない少し不潔な髭を生やした男は顔を顰めながらこちらの事を凝視してくる。

 

「なんだいお前さんは…よく俺が半巨人だとわかったな。」

 

突然正体がバレた事に対して訝しげに見つめてくるが、こちらは彼を知っている。アルバスとの話の中で出てきた大男の森番、ハグリッドである。

 

「私はフォートシュリットよ、ハグリッド。

ダンブルドアからあなたの事を聞いたのよ。」

 

「フォートシュリット…ああ、確か新しい闇の魔術に対する防衛術の助教授さんだったか。これは失礼、こっちもダンブルドアから話は聞いちょる。」

 

先程と打って変わって、私の素性を知ったハグリッドは納得したのか朗らかな笑顔で迎えてくれた。

 

「それはよかったわ…それで、店内に入りたいのだけれど、あなたが…その、大きくて通れないのよ。少し退いてくれるかしら。」

 

私は店の扉前に堂々と仁王立ちするハグリッドを指摘すると、彼は「おおう、すまんかった すまんかった、ほれ。」と、慌ててその場を退いてくれた。

 

全くどこか抜けているのか何というか…でもそれがハグリッド特有の性格なのだと、ダンブルドアとの会話を思い出しながら推察していく。

 

私はそんな少し鈍臭い彼にため息を漏らしながら、素早く店へと足を踏み入れていく。

 

さっさとしないと「助教授にもなろう人が、なんで杖の一本も持っていないんだ?」なんてハグリッドが機転を利かした質問をしてくるやもしれなかったからだ。

 

…いや、もしかしたらそんな事思いつきもしないだろうが。

 

彼の事は放っておいて、扉を開けて店の中に立ち入ってみると、そこには沢山の細長い箱が積み置かれた埃っぽい店内があった。

 

いかにも職人らしさが滲み出ている、古き良き老舗感が感じられるが、埃に関しては清潔ではないので、店内辺り一面に気付かれないよう、清めの呪文(スコージファイ)をかけておく。

 

そして、その次に注意深く店内を見渡してみれば、店の外からでも感じることのできた、特殊な魔法をかけられた()()()()がいた。

 

「…ハリー・ポッター…。」

 

そう思わず呟いてしまうが、それも仕方のない事なのだろう。

 

目の前にはようやく自分の杖に出会えたのか、嬉しそうな表情のハリーが杖職人オリバンダーと支払いの会計をしている最中だった。

 

私の呟きを聞いたハリーは後ろを振り向き、「あの…誰ですか?」と不思議そうな顔で私の方を見返してくる…。

 

 

 

 

 

 

 

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『予言?』

 

『そうじゃ、予言じゃ。』

 

目の前の顔を歪めたアルバスが、他の物事には一切の目もくれず真剣に話す。

 

 

 

 

 

 

闇の帝王を打ち破る力を持ったものが近づいている…

 

七つ目の月が死ぬとき、帝王に三度抗った者たちに生まれる

 

闇の帝王は、その者を自分に比肩する者として印すであろう

しかしその者は、闇の帝王の知らぬ力を持つであろう

 

一方が他方の手にかかって死なねばならぬ

一方が生きる限り、他方は生きられぬ

 

闇の帝王を打ち破る力を持ったものが…

 

 

 

 

 

 

その内容は、実に闇の帝王を討ち破る者が現れるという内容であった。

 

予言の中にあった三度抗ったというのは、回数を数えればポッター家とロングボトム家に該当するという。

 

そしてこの予言を知った闇の帝王は、その未来を変えるべく両家を血眼になって探したらしい。

 

結果として、すでにポッター家はその子を残して殺された。

 

ロングボトム家も両親はデスイーターの襲撃により、磔の呪文による過酷な拷問の後、廃人になり聖マンゴで引き取られているという。

 

もちろん、闇の帝王はこの時、ハリーにかけられた何らかの呪文によって肉体が粉々に破壊され、闇の陣営は敗北したという話は今世紀で最も有名な逸話であろう。

 

だがアルバスは、不死鳥の騎士団や、各国魔法省のコネを通じた連絡網を通して知っていた。

 

トムは肉体を失くしても、魂はこの世に留まり続けていることを

 

そして再び復活の機会を狙っている事を

 

これが、第一次魔法戦争の経緯であると粗筋を話してくれた後、彼は私に続けてこう述べた。

 

『…じゃが、予言はもう一つあるのじゃ。』

 

以上のような予言は、ホグワーツにいる占い学のトレローニー先生によるものだ。

 

普段のトレローニー先生は占い()に関しては右に出る者がいないが、その占い自体はめっぽう外れるという、全くの無能である。

 

だが、そんな先生でも時に常軌を逸した雰囲気でこのような予言をすることがあると、アルバスは語ってくれた。

 

そして、恐らくそれこそが本来のトレローニー先生の持つ…そして我が父上も所有していた『未来を読む力』なのだと推測される事をアルバスは語った。

 

父上と違ってその力を操れていない時点でその器はないに等しいが、それでも今現状この人の予言が何よりも重要だったのだ。

 

なぜならば、予言とはこれまで魔法史上、()()()()()()()ハズレた事が一度たりともないのだから。

 

大当たり とはいかなくとも、何らかの関連性を持ってその予言が間接的に成し遂げられる事や、稀に全くと言っていいほどその予言通りになる事がほぼ確定した事項…それが予言の力だ。

 

その強力な力を持つ予言がもう一つあるというのだから、聞かない訳には行かない。

 

アルバスはトレローニー先生が予言を解していた時に、何者かによる未来予知に対する妨害が行われ、半分までしか聞けていないという前置きをした上で、内容を話してくれた。

 

『確かそうじゃのう…。』

 

 

気をつけよ、闇の帝王よ…気をつけよ、抗おうとせん者達よ…。

 

闇の帝王を討ち滅ぼし、帝王に抗う者達との最後の決闘を挑む者が現れるであろう。

 

––––––––––その者は−–––––––––

 

 

『…じゃったかのう。「その者は」で切られてしもうて、いつものトレローニー先生に戻られた時は、わしも随分と内心焦ったものじゃ。』

 

 

 

ほっほっほ、と笑うが、その老人の眼は明らかに笑ってなどいない。

 

 

 

 

 

寧ろ剣呑な目で私の目を、目の中を、目の奥を見つめ続ける

まるで私の全てを見透かそうとするような…

 

 

 

 

 

開心術か…!

 

 

 

 

 

ギッと鋭い目つきでアルバスの開心術に対して、

この世で最も堅く閉ざされた暗い壁を心の中に立てる。

 

私の本気の閉心術は、父上のモノと同等以上に頑丈だ。

 

例えかつての組織の仲間、開心術のプロであったクィニーですら、

私の心は決して開かれない、永遠に…。

 

凍り付くような青白い目で、アルバスに対して徹底的に心を閉し、侮蔑の視線を送り続けてやると、彼も流石にこれ以上は無意味だと理解したのか一度目を逸らし、互いに矛を収める。

 

『…残念じゃよ、お主がわしに全てを見せてくれぬとは…。

二つ目の予言に当たる者がもしかしたらお主やもと、確信した上のことだったのじゃが…。』

 

『…乙女の心を無闇矢鱈に読もうとするな、アルバス。』

 

彼は私の闇の帝王を滅ぼすための手助けに関しては感謝しているようだが…今ので互いの腹づもりが漠然とではあるが、判明してしまった。

 

互いが互いを信用はしてなどいないが、互いに頼りにする…これからの関係は何とも複雑になるなと内心でため息をつきつつ目の前の爺に視線を向ける。

 

『本当はお主を心の底から信用したかったのじゃが、拒まれるというならば仕方あるまいて。』

 

『…本当に善意でやっているかどうかを確かめたかったのなら、そう言えばよかったじゃない。その程度の事なら素直に答えてあげるというのに。』

 

互いに緊張した空気を、冗談なのか本気なのか分からない言葉を交わすことで緩和しながら、今後のことへと話の路線を修正していく。

 

『…さて、フォートシュリット嬢よ、ひとまずわしらは最初の予言に対処せねばならない。

二つ目の予言に関しては…時がくれば、互いの態度をはっきりとさせようと思う。

 

それで話を戻すが、改めて問おう。

 

トムを封じ込めることは、わしら古き遺物(偉大なる魔法使い)に託された()()の、魔法界の命運を握る使命じゃ…違うか?』

 

彼の打って変わった真剣な表情と、人の善悪を左右するかの如く見定めるような目つきは、相変わらず魅力的だった。

 

この世には善悪のキッパリ分かれた物事など一つもないというのに…そう、例えば善のためならば、悪となる(より大いなる善のために)ように。

 

私は彼との将来的な対立を予測しながらも、目先の事にも目を向けるため返事を返す。

 

『同意見だわ。奴はあの穢らわしい純血思想を以って、

我々魔法族の分断と支配を目論む《共通》の宿敵よ。

 

私の目的は、すべての魔法族に地位と栄誉を齎すこと…決して帝王にも、そして()()()にさえも虐げられない、私達の世界(魔法界)を創ること。

 

このまま放置し続ければ、帝王は英国どころか、欧州魔法界にすら全面戦争を仕掛けてくる…故に傍観者である事は、()()は許されない。

 

あの時(第一次魔法戦争)のように…。』

 

私が己の信条とヤツの掲げる邪悪で魔法族すらも無意味に殺戮し得る思想の相違点を挙げながら、憎しみにも哀しみにも近い感情で述べれば、アルバスは深く相槌を打つ。

 

『フォートシュリット嬢よ、お主は正しい…()()()()()目を瞑れば、お主はどれだけ善き魔女であったことか…。』

 

アルバスは、彼自身もまた同じように魔法界の理不尽な立場(アリアナの悲劇)を味わい、得難い幸福を追い求めてきた過去があるように、私を父上と重ね合わせているのだろう。

 

懐かしさを覚えた表情で、私の考え・感情を否定せず、むしろその全てを抱擁し、肯定し、受け入れてくれる…手段という、ただ一つを除いて。

 

私はそんな彼の、暗に言いたい事を理解しながらも今はそれどころではないとこの話を切り上げ、次の考えるべき段階に進む。

 

『とにかく、今はその事より闇の帝王よ…それこそ、最初に取るべき手段はどうするの?

 

その帝王を滅ぼしてくれる予言の子供達なんて、正直言って今のままでは期待薄ではないの?これからどうやって育てていくつもりなのかしら。

 

…それにそもそも、予言に従う必要はあるのかしら?

私達ほどの()()()ならば、

予言を多少捻じ曲げてでも帝王をあの世に葬り去る事は不可能ではないはずよ。

 

勿論、肝心の帝王は肉体を失って彷徨う魂の残り滓のような状態だから「今すぐ見つけ出せ」なんて言われればいくらなんでも無理があるけれど。』

 

予言は条件さえ壊してしまえば、いくらでもねじ伏せてその先にある…いや、あった()()の未来を変えてしまう事もできる。

 

即ち、予言とは確定された未来でもあり、未確定の未来でもある。

 

予言の確定条件とは…予言の対象者達が、予言の起こる時期まで生きている事にある。

 

この条件から離れてしまうと、予言とは逸脱した世界線になる可能性があるため、帝王は執拗にポッター家とロングボトム家を狙っていたのだ。

 

だから、今現状私達に存在する選択肢は二つ…予言を利用して、生き残った男の子(ハリー・ポッター)を予言が起こるであろう時まで成長させてやるか。

 

それとも、私達(偉大なる魔法使い)が直々に、予言を無視した直接的な帝王との決戦を執り行うかだ。

 

勿論、単に奴の肉体を破壊するだけでなく、分霊箱(ホークラックス)の全破壊に至るまでだが。

 

その意図を先程の言葉に乗せて意見を返してみると、彼は十二分に頷いた後にこう述べる。

 

『わしもそこは承知しておる。

どちらの手段を取るかは、様子を見つつ決めるべきじゃろうて…。

もしかすれば、()()()()()()()取るかもしれん。

もちろん、お主やわしが使用できる()()は限られておるのじゃがな。』

 

…この男は、やはり狡猾だ。

 

いざ正義のための戦いに身を投じれば、

目的のために手段を選ばない、冷酷無慈悲な男になる。

 

アルバスは普段ならば、不死鳥の騎士団に所属する者達を決して()()などとは言わない。

 

彼らはアルバスにとってかけがえのない友であり、

教え子達や古い知り合いである。

 

にも関わらず、戦略上の手駒と発言する辺り、

アルバスの中にもやはり()()()()()()は残っているようだった。

 

私が右手で顎を撫でながら彼の事を注意深く、そして面白そうに見つめていると、彼自身もその視線に気づいたのか、少し拍子を置いて話の続きを進める。

 

『…ただどちらの手段を取るにせよ、

心配なのは追う事ではない ()()()()事じゃ。』

 

彼が発した言葉には一層警戒心と真剣みが増しており、

私はその意味を容易く理解した上で意見を挟む。

 

『…それで?弱った虫の息の帝王が、まさかこの最も守りの堅いホグワーツに侵入してくるとでも言いたいのかしら。』

 

私が半信半疑に彼の持つ推測に疑問を呈すると、彼は考えを呈する。

 

『…ないとはいい切れん。例えば配下の死喰い人(デスイーター)らを使えば、手段は幾多にも増えてしまう…不可能な事はなかろう。

 

予言の子、わしの見当ではハリーだと思っておるのじゃが、彼はまだ幼く、まるで赤子のようじゃ…。

 

そこを狙って来れば奴とて、ハリーを容易く屠れるじゃろう。

あの手この手を使ってトムはハリーを殺しにくる…。

それも直接ではなく、間接的にじゃ。

 

わしは予言を信じておる。

 

例え未来を捻じ曲げようと闇の帝王が努力しようとも、

定められたトムの運命を避けられんように、

道を真っ直ぐと正してやるのが、わしらに今出来ることじゃろう…。

そうすれば闇の帝王は自ずと滅ぶ。

 

そのためには、

ハリーが闇の帝王を討ち破れるようになるには、

もう少し時間が必要なのじゃ。

その時間を、お主に稼いでもらいたい。』

 

そう言い切ると、彼は後ろの校長室の執務机の横に立っている不死鳥フォークスを腕に乗せながらこちらをじっと見つめてくる。

 

私も佇む彼の目をじっと見つめながら、頭の中であれこれと思案し始める。

 

ハリーとネビル 果たしてどちらが予言の子であるかどうかは疑問が残るところだ。

 

しかし、やはり闇の帝王を一度肉体だけとはいえ滅ぼしている事から、可能性はハリーに軍配が上がる。

 

闇の帝王のかける死の呪文を跳ね返すほど強力な呪文をハリーとやらがかけたのか、或いはかけ()()()のか…いずれにせよ帝王の所在が不明な現状としては、予言の子とやらの策を採用した方が無難な判断と言える。

 

仮にアルバスと私二人でトムを打ち倒しても、奴の魂までは分霊箱(ホークラックス)による影響で完全には消し去れないだろう。

 

結局また今のような仮の平和を手に入れるだけであり、ヤツが本当の意味で死なないのであれば、何度でも甦り何度でも魔法戦争を引き起こし続ける事だろう。

 

分霊箱の手掛かりでも掴めれば別なのだが…今は静観するしかなさそうだ。

 

頭の中で今後の方針に帝王の不死を作り出しているあの忌まわしき悪しき分霊箱を探り当てることを追加する。

 

生憎私には奴が何を自分の魂の拠り所としたのかなぞ、

今の所何の見当もつかないし、

その辺の石ころにでも魂を引き裂いて入れられていれば私達にはお手上げだ。

 

それに帝王の分霊箱(ホークラックス)の存在について、

アルバスはまだ知らない様子だ。

 

…やはりコイツ(アルバス)の言った通り、

予言の案で通していくほかなかった。

 

私はその事を理解した上で、アルバスに続きを促す。

 

『…具体的に、その手段は。』

 

『ハリーを、どうか守ってやってほしい。

彼は幼いゆえに過ちも犯すじゃろう…。

時に命を落とすこともあるやもしれん。

 

じゃから、お主への頼みはハリーの守護じゃ。

 

場合によってはお主の持つあらゆるモノを犠牲にしてでも、この約束は果たしてもらわねばならん…どうじゃ、引き受けてくれるか?』

 

それを聞いた私は一旦目を閉じ、

自身の戦略と照らし合わせた上で頷きながら納得した後に、

目を開き彼に答えを告げる。

 

『…承知したわ、アルバス。』

 

私の返事を聞いたアルバスは、まるで重圧に気圧された緊張から解放されたような安心した顔になると、不死鳥を非常に開放的で簡素な鳥籠に戻して私に向き直る。

 

『…では、わしはお主にそのためのポストを用意するかの…。

じゃが、いくつか約束してほしいことがある、聞き入れてくれるかの?』

 

(まぁ、妥当よね…。)と頭の中で呟く私は、このように条件を課される点から見て、頼りにはされてるが警戒もされている立場を再認識する。

 

はてさて、この狸爺は一体何を要求してくるのだろうか…?

 

『まずお主を闇の魔術に対する防衛術の助教授として迎え入れようと思っておる。

 

もちろん、お主の本名は伏せてのぅ?

わしの古い友人ということにしておこうと思う。

 

その上でじゃが、第一にホグワーツでは体罰は禁止じゃ。

罰則は別の形で課してもらおうかの。

 

次に、生徒に闇の魔術をかける事も一切禁止じゃ。

お主がそこまで愚かではないとはわかっておるのじゃがの、保険じゃよ。

 

それとじゃが、あまり今年の闇の魔術に対する防衛術の先生には深く関わるでないぞ?』

 

基本的には生徒に危害を加えるなという内容で、

思ったより普通の要求であった。

 

こう、もっと私の行動を縛り付けてくるのかと思ったのだが、

この様子だとそう言うわけではなさそうだ。

 

『どうじゃ、守れそうかのう?』と私の返答を待っている間、再度私の目を覗いてこようとする鬱陶しい狸爺から視線を逸らして口を開く。

 

『その程度のことなら、言われずとも心得ているわ。もちろん守るわよ?』

 

『おぉ、そうかそうか、それはよかったのじゃ。

闇の魔術に対する防衛術の新しい先生に関しては、

また後で詳しく話そうと思う。

…ただ、もう一つ守ってほしいことがあってのう?』

 

その声にはこちらの腹の内を引っ張り出そうとするような、

相手の裏をかくような威圧感があった。

 

そして彼はティーカップを口につけ、紅茶を飲みながらこう言う。

 

『…わしの目の届くところで、ゲラートの真似事はやめることじゃの。』

 

その言葉に、私はフッ、と含み笑いをしてしまった。

 

(やはりバレていたか…。)

 

先月中、英国に組織から少々部下を送り込み、

ロンドン支部として新たに英国の協力者達と組織の拠点設置を狙ったが、

流石に頻繁なモノ・ヒトの出入りによって気づかれていたようだ。

 

『おっかしいなぁ。あの子達には不可知化の呪文と魔力感知妨害呪文を何重にもかけてあげたのに、一体どこでボロを出したのか…。』

 

『ふぉっふぉっふぉっ、わしでなければ見落としておったわい。』

 

…この爺…。

 

私はギリリ、と悔し紛れに歯軋りを鳴らしながら目の前の男を睨み付ける。

 

確かに、勢力拡大のために英国ロンドン支部を置こうとしたのは早計だったか。

 

しかし、彼がそのような()()()()挑発を行うのであれば、こちらも乗らないわけには行かず、牽制の意味を込めて口角を曲げながら述べる。

 

『けどアルバス、その子達は()()()()()()()()私の重要な戦力…傷付けた場合、この同盟関係がどうなるかは…わかっているわよね?』

 

それも私の持つ重要な手駒であり、闇の帝王への対抗手段という名文ならば、多少の事は同盟関係を保ち続ける条件として呑んでくれるだろうとの打算であった。

 

それに加えて更に、私が体内の膨大な魔力を一部漏らしてやれば、

彼は少し目を見開いて驚きの表情をもってしてこう言う。

 

後ろのフォークスは既に主人の危険を感じたようで、

グワグワ鳴き喚いて警戒心を剥き出しにしているが。

 

『…もちろんじゃ。その事もあってわしはまだ手出しをしておらん…。

じゃが、先程も言ったと思うが、

くれぐれもこの国の中で目立った行動は避けると良いじゃろうて。』

 

暗喩するかのごとく脅し文句をつけてくるアルバスは、

わざとらしく机の上にあった新聞数枚の束を片手で浮遊呪文を使い、

私の目の前まで見せつけてくる。

 

そこにはこう書かれていた。

 

【 黒い魔法使いの再来か? 】

《継承者を名乗る何者かがヨーロッパで活動を続けている模様。

その勢いは半世紀前、かつてヨーロッパ全土を覆った()()()()の闇の魔法使いに匹敵するやも…フランス魔法省によれば、……》

 

私の組織の事がまるっきり一面記事となったフランス魔法省お抱えの自由記者団 ド・ゴールの新聞があった。

 

また、スラッと片手を交差させて、裏の2枚目の新聞も堂々と見せつけてくる。

 

そこには、英国の日刊預言者新聞も今や英国魔法界では知らぬ者がいないほど有名なハリーポッターに関する記事の下の方に私の活動を伝える記事が出ていた。

 

『親切にご忠告をどうも…この雰囲気の中だと少し居心地も悪いし、私はここら辺で一旦帰るわ、色々準備しなければならない事もあるし。』

 

『…そうじゃな。長居させて悪かったのう?

ではまた9月に…。

フォートシュリット・グリンデルバルド嬢?』

 

ニタニタと朗らかな笑顔を貼り付ける爺には少し頭にきた。

 

アルバスがそのような手で私に牽制を込めてくるならば、

私も仕返しと言わんばかりに叔父上の見た記憶の中から、

彼の弱み(家族)の名前を思い出す。

 

そして、自身の思考が帝王のそれよりも邪悪に歪むのを理解しつつ、

同時に引け目を感じつつも、その邪悪な思考と言葉を口にする。

 

 

 

 

 

 

『えぇ、アルバス・ダンブルドア…

()()()()()()()()()()()()にもよろしく伝えといて頂戴。』

 

 

 

 

 

 

この言葉が、どれ程彼の心に深く突き刺さる鋭い剣になるかは、

私自身も深く理解している。

 

だが、手段を選ばない…それこそ私の長所であり、短所だ。

 

己の言動を何一つ恥じず、後悔もせずに校長室を後にしようとする私の背後には、苦い表情で見つめる老人の顔があった。

 

 

 

(お主は言ったはずじゃ、自分はゲラートとは違うと…。

じゃがゲラートを、我が最も信頼厚き、そして愚かでもあった友を完全に継承してしまったのもまた、事実やもしれぬ…。)

 

 

 

だからこそ彼の姓を名乗っておるのじゃろう…

グリンデルバルドという名を…という言葉は、

もはや校長室から足早に姿眩ましをしていなくなったフォートシュリットの耳には入っていなかった…。

 

 

 









闇の魔術に対する防衛術の助教授というのは、荒木ラキ様の英国魔法界陥落RTA 原作:ハリーポッターを参考にしました。よければそちらも読んでみてください。
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