少し耳障りな姿現しの音と共に、黒いコートを着こなした私はこのデカい城へ何度目かの来訪をしに来た。
「・・・相変わらず凄い魔法がかけられてるね・・・。」
見れば城には至る所に現代で言うプロテゴ・マキシマと似通った魔法やドラゴン対策なのだろうか、炎避けの呪文がかけられている。
およそ千年以上の歴史あるホグワーツ魔法魔術学校は、かつて我が父上や組織から身を守るために闇払い達・若き魔法使い達が隠れられる唯一無二の安全な場所でもあった。
そこに、皮肉にも私自ら足を運ぶことになるとは・・・と、自分自身を嘲笑いつつも城の中へと、この長い橋から歩み寄っていく。
ちなみに姿現しが許されているのは城の外までということになっているし、ダンブルドアが新たに設置した姿現し妨害呪文が現在も機能中なのは確認済みだ。
普通の魔法使い達はこの城に張り巡らされた姿現し・姿くらまし妨害呪文を突破する術を持ち合わせていないだろうから、今の私みたいに真正面エントランスから黙って入っていくしかないのだ。
ところが私はそれを強引に破ってでも教員棟の方に姿現しができるのだが、今ここでそんな目をつけられるような事をしてはならないと自分でも理解していた。
他の教員達は、恐らくダンブルドアの側近であるマクゴナガル先生くらいならば、ダンブルドア伝いに私の事をある程度
しかし、それ以外の教員は私の実力に関しては未知数として認識している事だろう。決して無意味に、下手に自分の実力をひけらかしてはならない。
特にスネイプ、奴は口数こそ少ないと聞いているが、ダンブルドアの話でも出てきた通り、今後の計画において頭の切れる重要な人物だ。一応、私の事を協力者として彼もダンブルドアから話は聞いているだろうが・・・。
奴に私の実力が見られ、正体が知られ、闇の帝王に匹敵する、などと噂されれば私は警戒されるどころか、帝王ごと闇に葬られかねない。
ゆえに今後ホグワーツ城内では、極めて慎重に行動すべきだと私は自分に言い聞かせながら、自分のトランクを浮かせて城の中へと入っていく。
しばらく歩けば、この城の屋敷しもべ妖精が姿現しをしてきて私の荷物を教員棟の自室に運んでくれると言ってくれた。
私は「ありがとう。」とだけ言って、彼に荷物は任せた。
そうして、時折授業を受け終わった上級生やヒマをしている生徒達に「新しい先生かな?」などと奇異の目で見られながら私は自室へと辿り着く。
中には粗末なベッドがひとつ、木机がひとつに、椅子がひとつ。
質素な部屋だったが、元々私は贅沢を好まない性格だったので特に不満はない。
部屋の隅をみてみれば、しもべ妖精が運んでくれたのか先程のトランクが置いてあった。
「さて、と・・・
私は一先ず、闇の魔術に対する防衛術の先生ことクィレル先生に会うことにした。
ダンブルドアにあまり関わるなと忠告されたばかりであり、一見すればもう矛盾した行動のように見えるが、これにはちゃんと理由がある。
今後の授業の打ち合わせや、教科書のどこから学んでいくかなど、教員としての仕事付き合いで色々と話すことがあったからだ。
だがそれと同時に、ふとつい先日ダンブルドアから聞いた話を思い出す。
『フォートシュリットよ、クィレルの件じゃが・・・。』
ダンブルドアは件の闇の魔術に対する防衛術の先生に近づくな案件の内容について、漸く話してくれるようだった。
彼はまるで子供のイタズラに困ったような顔をしながら、口を開こうとするが私はそれを手で制止し、先に述べる。
『・・・大方予想はついている。奴が闇の勢力側に付いている、とでも言いたいんでしょ?』
私がふっと笑うようにいってやれば、目の前の老人は大袈裟に驚いた顔をして私をさぞ誉め立てるように述べた。
『その通りじゃ。
さすがはフォートシュリット嬢、鋭いのう。
実はクィレル先生はこれまで世界旅行をしておったようじゃがの。
よくよく彼の訪問先を調査してみれば・・・
アルバニアへ行っていたことがわかったのじゃよ。』
ふむ・・・この狸爺の情報網は相当広いようだ。高々どこの馬の骨とも知らぬ男の一人旅の旅行先さえ割り出せるというのだから。
私もどこか他国へ行く時は用心した方が良いだろうな、など将来の移動手段を色々と考えているとさらに彼は話を続ける。
『その時からなのじゃ・・・クィレル先生が頭にターバンを巻き、忙しない口調になったのは。』
『つまり、アルバニアで心境に変化が訪れたってわけね?確かに可能性としては十分にあり得る話だけれど・・・どうしてヤツが
私が未だにダンブルドアの判断の根拠を疑問に思っていると、彼はこう切り出してくる。
『いやなに、風の噂なのじゃがの?アルバニアにトムが身を隠しているとか何とか、騎士団のメンバー伝いに聞いた覚えがあってのぅ。
情報元はアルバニア魔法省からで、ハイキング中だったマグルが恐ろしい呻き声を上げながら飛翔する霞のようなモノを見た事が発端じゃった。
それに、クィレル先生はあんなオドオドした人物ではなかったと彼を知る古い知り合いから聞いたのじゃ。』
ふむふむ・・・帝王の所在がアルバニアの森の中であったと分かったのは大きいが、現在地を把握出来てないなら振り出しに戻ったも同然だ。
とはいえこれでクィレルの身の回りから出てきたボロから状況証拠は既に揃っている。
これならば納得だ。私は首をコクリと縦に振り、肯定の意を示し、残る問題はいつヤツに仕掛けるかを議論する事だった。
『・・・なるほど?彼は晴れてデスイーターになったわけだ。』
『絶対的な確証は持てん。これまでわしが勘を外してしまった事はないが、僅かながらの良心にかけてクィレル先生を信じないのは、人の道理に反する。・・・じゃがの、今年は彼を利用し、試す算段を設けておるのじゃ。』
やはりやり方が余りにも生ぬるいな・・・。
私ならば、〔疑わしきは罰せよ〕組織命令第23号に従い、嫌疑のかかっているあらゆる者に対しては、容赦のない
そして用済みになれば、クィレルなどという下級魔法使いなど捨てるというのに・・・情をかけたようだな、ダンブルドア。
私はそんな詰めが甘すぎるダンブルドアを睨みつけるが、当の本人はニコニコと笑顔を顔に貼り付け、本心を悟られないようにしている。
『・・・それで?どうやってヤツの利用だとか、クィレルとやらが本当にデスイーターかどうかを確かめたりするのよ。』
私が何度目かのおうむ返しのような質問をさせられることに若干苛立ちが募ってくると、彼もそれを察してか自信満々にその答えを私に突きつけてくれた。
『・・・賢者の石じゃよ。』
「そ、そそそそれでは、その形でじゅ、授業をしてよよ、よろしいでしょ、です、ですか?」
私は白々しいにも程があると思いながら、目の前の男を冷たい瞳で見つめる。
その頭に巻いてある紫色のターバンからは、異様に黒く染まった悪の根源のような魔法線が垣間見えるが・・・私はここでは手出しをしない。
彼はダンブルドアの利用品のひとつなのだ。ここで彼との計画を反故にしては、我々の未来が危うい。
その上、あの禍々しい黒い呪文は恐らく、拠り所の呪文に近い構造だ。
拠り所の呪文とは、魂が現世に留まったままのゴーストや、肉体から離れてしまった魂を自身の身体の中に呼び込み対話する、高等魔法に数えられる内の1つである。
あの魔法線とクィレルの肉体との絡み具合を見るに、どう見たって入ってきてこんにちはと対話するレベルの呪文ではない。
恐らく魂を自身の肉体に
そしてこの状況下で寄生してくるような
これはアルバスに報告しなくてはならない事が1つ増えてしまったなと、クィレルに見られないようにして私は口角をニヤリと釣り上げる。
こうなれば失敗は許されない。私ならば行き場を無くした魂くらい、結界呪文で容易く閉じ込め、永遠に封印する事だって可能だ。決してヤツを逃してはならない、千載一遇のチャンスなのだ。
だから私は努めて平静を保ち、笑顔を父上譲りの淡麗な容姿に貼り付けながらこう言う。
「えぇ、ミスター・クィレル、それでいいですよ。今日は色々とありがとうございます。」
「い、い、いえいえ、わ、私もあなたとは、話せてここ、こ、光栄でした・・・。」
いつまでその茶番を続ける気なのか、若干興味もなくはないが、私は目の前の男と話していれば一日が悠にすぎそうな気がするので、「それでは。」と言い残して足早に退出した。
先程まで私達は今後の授業の方針や教科書の進め方など、色々煮詰めていたところだった。
だが、どうにもあの喋り方のせいで普通の倍以上の時間がかかってしまった。
私は
ヤツについて色々と思案しながら、用が済んだ教員棟を出て次は目的の大広間へと向かう。
今は夕方の5時半・・・すべての学年で授業が一通り終わった頃合であり、窓の外を見れば真っ赤な夕陽が落ちかけているのが見え、夕陽の眩しさが私の目の疲労を教えてくれる。
「・・・彼はもうすぐね。」
英国魔法界随一の英雄、ハリー・ポッターが入学する記念すべき日は今日、1991年9月1日なのだ。
ホグワーツの入学とその儀式は普通のマグルの学校と違い、朝ではなく夕食時に盛大に行われる。
それ故、今向かっている大広間には全生徒が集まり、今年はどんな新入生が入ってくるのかや、件の生き残った男の子 ハリー・ポッターのことでだいぶ賑やかになっていた。
私は彼らを巧みに避けながら、教員用の机へと向かい優雅に椅子に座る。
「・・・。」
隣には私の方をじっ・・・と見つめる薬草学担当のスネイプ先生がいたが、私は目線を一切合わせず、自前で用意していたシャンパーニュ産の高級酒をグラス片手に嗜む。食事の余興としては十分にいい味を出している。
そしてもう隣には我らが大不人気者のクィレル先生がいる。またおどおどしてるが、その顔の裏に
だがよく考えれば、非常に険しい顔を向けてくる切れ者のスネイプと、闇の帝王に挟まれたこの異常に窮屈な教員席は少し苦痛だった。
新たな生徒達の入学と組分けが早く始まることを切に祈りながら、私はワインをちびちびと嗜み始めた。
その後、数十分も経たないうちに遠くの方で汽車の汽笛がなった気がした。
大広間は生徒達の喧騒のせいで音も聞き取りづらいが、それでも微かに聞こえたその音は、恐らくキングスクロス駅の9と4分の3番線から到着したホグワーツ行き特急のものだろう。
更に十分も満たないうちに、大広間の扉は開けられ今年の新入生達が入ってきたのを皮切りに、大広間はザワつき始める。
彼ら新入生等の中にはもちろん、あの有名なハリー・ポッターもいた。この前オリバンダー杖専門店で出会った、眼鏡をかけて周囲を不思議そうに見回している彼だ。
そして、周囲の生徒達の喧騒が止んでから、彼らを引率してきたマクゴナガル先生が手の中にある羊皮紙を読みながらこう言う。
「皆さん、これからまず組み分けの儀式を行ってもらいます。名前の順にお呼びするので、呼ばれた人は前に来てこの組分け帽子を被ってください。頭の上に軽く乗せるだけでいいのですよ、分かりましたね。」
大広間の教員側に近い壇の上には、中央にひとつの古臭い木製椅子とその上にボロボロの組み分け帽子が二つポツンと置かれていた。
「アボット・ハンナ!」
一人目が選ばれ、短い組分け選考時間でハッフルパフへと組み分けされたのを皮切りにかの寮の方から拍手があがり、暖かい声援で迎えられていく。
次々に名前が呼ばれていき、その度に拍手喝采が送られていたが、この少女は中々に癖が強そうな見た目をしていた・・・恐らく中身もだろうが。
「ハーマイオニー・グレンジャー!」
茶髪混じりの賢そうな目つきをしたハーマイオニーと呼ばれた少女は、組分け帽子に寮の選考を少々悩まれるという事態になったが結局・・・。
『・・・グリフィンドール!』
甲高く告げられた寮名に、また大きな拍手がグリフィンドール寮から上がった。
そして、ついにその番が来た。
「ハリー・ポッター!」
その名が呼ばれた瞬間、大広間の中は静まり返り、彼へと視線が集中させられる。
皆、魔法界随一の英雄であるハリーの方から目を離さない。
彼を手に入れた寮は、帝王を倒した英雄を迎え入れられる栄誉を授かれるのだから。
『うぅむ・・・難しい、実に難しい。』
知覚魔法で強化された私の耳は組み分け帽子の独り言を漏らさず聞けた。
『スリザリンに入れば、間違いなく君は偉大な魔法使いになれる・・・名を歴史に残せるのだよ?』
「スリザリンは嫌だ・・・スリザリンだけは・・・どうかスリザリンだけはやめて・・・!」
ハリーはどうやら組み分け帽子からスリザリンに入れられようとしているようで、小声でその心から湧いて来ているだろう嫌悪感を隠さずに頑固として反対しているようだった。
すでに5分が経過しており、生徒達は口々にハリーが組み分け困難者だと言い始めた。
時間が刻一刻と過ぎ去る内に、組み分け帽子も根を上げたようで意を決したのか、口を大きく開きこう述べた。
『そうかならば君の意思を尊重しよう・・・グリフィンドール!!』
その言葉が発せられると共にものすごい拍手喝采がグリフィンドール寮のテーブルから湧き上がる。
反面、スリザリンのテーブルは白けた顔をグリフィンドール寮に向けていた。ダンブルドアから聞いた通りで、この二つの寮は昔から犬猿の不仲らしい。
だが周囲の事など知らない顔で、純粋なハリーはグリフィンドールのテーブルへと向かっていき笑顔で先程のハーマイオニーや赤毛の子に、上級生達に、同級生達に迎えられていた。
それからしばらく時が経ってから組分けが無事、全員分終わると中央の校長用の椅子に座っていたダンブルドアが笑顔で立ち上がり、ハリーを一瞬見た後嬉しそうな顔で話し始めた。
「よろしい、それでは諸君、寮も決まった事じゃし今年の連絡事項を伝えておこうかの。
まず、ミスター・フィルチ先生からじゃが、使用禁止の悪戯道具の項目が増えておるので、彼の事務室まで行く事じゃ。
・・・最も、確認したい人がおればの話じゃがのう?」
ダンブルドアはそう言うと、グリフィンドール寮のテーブルに視線を移して茶髪の双子兄弟と思われる二人組をチラチラと見つめる。
なるほど、今ニンマリと笑っている彼らは相当な悪戯好きのようで、校長直々に目をつけられる程厄介極まりないということか。
あの狸爺を出し抜くとは気に入った、私の授業に来た時にはグリフィンドールに5点差し上げよう。お小遣いだ。
「また、今年は先生が何人か変わられた。まず闇の魔術に対する防衛術の先生は新しく入ったクィレル先生と、助教授のフォートシュリット先生が受け持つことになった。皆拍手でお出迎えして差し上げなさい。」
紹介された私達二人は席を立ち上がり、片方はオドオドとしながら、片方は慎ましくお辞儀をしてから生徒達の拍手に包まれて座る。
ちなみに私の名前は姓の方は持ち合わせていないということになっている。何やら両親が不明だとか。つまり孤児設定だ。
いや実際には不明というか、父親しかいないんだが。
そしてその時、ハリーがこちらの方を驚いた表情で見つめていた。
よく耳を澄ましてやれば「あの時のお姉さん、先生だったんだ。」なんて隣の友達であろう赤毛の子・・・確かウィーズリー家の子か?に話していた。
「それと例年のことじゃが禁じられた森へは立ち入り禁止じゃ。
・・・そうそう、今年度中に命を落としたくないものは、3階右廊下の部屋には入らぬ事じゃの。以上じゃ。」
ダンブルドアは賢者の石に関する含みを
恐らく私の隣でダンブルドアを今なお観察しているクィレルを釣るための餌を撒いたのだろう。
現に今のダンブルドアの話を聞いてからずっと顰めっ面になり、何か考え事をし始めているようだから効果抜群なのは間違いない。
「腹も減っている事じゃし、皆食事にしようかの。」
最後にお腹を空かせたダンブルドアは自身も席につき、むしゃむしゃと味付けされた香ばしい肉汁ジューシーなチキンを手に取り、豪勢にかぶりつき始めた。
あーあー、そんな食べ方だと髭が汚れちゃうよ。
自慢の白髭に付いた汚れを拭き取っているダンブルドアに呆れた視線を送りつつ、私もスープなど軽い食事から適度に取って行く傍でハリーの事を見つめる。
ちなみに隣のスネイプ先生もハリーの事を見つめているが、私は彼のような睨みの効いた目できつく見つめてなどいないから、恐怖を与えない点では大丈夫だろう。
特筆すべき事は色々とあったが、私達は今年も無事彼ら新入生を迎えて一日を終えたのだった。
映画版も織り交ぜて描いて行きたいので、やはりあのダンブルドアの謎の『わっしょいわっしょいドハァァァ』ビームはなしです。新入生に何やってんだよ!