史上最悪を継承する者   作:YJSN

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予言の子

今は12月の真冬であり、城の外は銀色の雪景色に反射する光がギラギラと照り付け、凍えそうな寒さに包まれていた。

 

途中地下にトロールが入るだのハリー達がトロールを倒すだのと大きな騒ぎがあったのも束の間のことで、すぐにホグワーツには平和が舞い戻った。

 

もちろんハリーと愉快な仲間達はその後も暗躍を続けて、ついに夜中に歩き出した事をマルフォイ・・・純血の家系の坊ちゃんにチクられて150点を減点されたらしいが。

 

ホグワーツには寮ごとに善行・悪行に対する加点・減点システムが用意されており、学年末には寮杯の授与が行われどの寮が最も規律正しかったかを競い合う伝統が存在する。

 

件のマルフォイも50点を減点されていたようなので今回の事は痛み分けといったところか。

 

だがハリー達を見つめるグリフィンドール生の目が数段冷たくなった気がした・・・恐らくコツコツ貯めて来た150点をゴッソリ持っていかれて恨まれているのだろうな。

 

とまあ入学直後の数ヶ月は色々とあったが今はどこの寮も皆試験を終えてクリスマス休暇に入っているため、ほとんどの生徒は一度実家に帰った。

 

城の中からはいつもの喧騒が止み、城内に居残りの僅かな生徒達以外の話し声は聞こえなかった。

 

私もこの時期にもなれば、流石に教員の仕事をほとんど覚えきっており最初は色々と苦労した授業も楽なものとなっていった。

 

まあ雑用をクィレルに押し付けているのが仕事が楽になった原因かもしれないが。

 

 

 

 

 

 

丁度あの闇の魔術に対する防衛術の助教授として初授業をした時のことを不意に思い出してしまい、クスリと微笑んでしまう。

 

 

『そ、そそそそれでは、や、闇の魔術にた、たた対するぼ、防衛術のじゅ、授業をは、始めたいとお、思いま、ます。』

 

 

あまりにも辿々しい言葉遣いに呆れそうになるが、目の前のグリフィンドール生達はコイツの口調には慣れてしまいすっかり面白そうな目で見ている。

 

私はそんな彼らに浮遊魔法を利用してあらかじめ用意してあった羊皮紙を一枚パラパラと机に座る各生徒に渡していく。

 

『・・・それじゃ、始めるわよ。まず第一に、あなた達の闇の魔術に対する知識を知っておくわ。そこの羊皮紙に思いつく限りの闇の魔術と、それを使う上で何が重要か書いてみて頂戴。』

 

私はいきなりこの場を仕切り始め、彼らに5分程内容を筆記するよう指示した。

 

唐突な私の発言に皆一瞬「え?」と言った表情をしたが、私が険しい顔をすればすぐに机に向かって羽ペンを動かし始めた。

 

魔法界に入って間もないハリーには悪いが、これは現状の知識量を測るために必要な作業だ。黙って参加してもらうしかない。

 

どこを知っていてどこを知らないかを確かめなければ、勉強の始まりとして現状確認すらできない。学習計画の基本中の基本さ。

 

後ろでオドオドと『フォ、フォフォ、フォートシュリット助教授、あ、ああ、ありがとうござ、ございます。』などという奴にこの授業を任せておけば、期末試験がいつになるかなんて分かったもんじゃない。

 

授業の進行速度を加味して、この隣で立っている無能に代わり代行として全力で彼らに()()()()の授業をすることにした。

 

軽く5分が経過した頃合いに私がトントンと石で出来た床を踏み音を立てれば、生徒達の書いた羊皮紙は再び浮遊魔法で私の手元にバサバサと飛んでくる。

 

彼らが回答した内容を拝見してみると、やはり一年生で知っている闇の魔術なんてたかが知れていた。

 

スリザリン生の場合は『悪霊の炎』『切り裂き呪文(セクタム・センプラ)』など、多様な闇の魔法を知っていたのだが・・・。

 

どれも「わかりません」とか「蛇呼び出し呪文(サーペン・ソーティア)?」といった回答で、知識は皆無に等しい。

 

ただ唯一、ハーマイオニー・グレンジャーとネビル・ロングボトムだけが興味深い呪文を回答していた。

 

私は彼らの羊皮紙を手に取り、にこやかに回答者ら二人にこう聞いてみる。

 

『ほう、グレンジャー。君は死の呪文(アバダ・ケダブラ)を知っているようだね・・・四年生の内容なのに、よく教科書を予習しているようだね。』

 

グレンジャーはこの歳で許されざる呪文を答えられるとは、なかなか勉学において優秀なようだ。

 

彼女は私に指名されたのが嬉しかったのか若干笑顔で、されどあまり気乗りしない様子で答えてくれた。

 

『・・・はい、先生。死の呪文は、相手を死に追いやる強力な闇の魔法で、禁じられた呪文の3つの内最たるものとして有名です・・・。』

 

『ご名答、グリフィンドールに5点。』

 

彼らは子供のようにはしゃいで「やった!」だとか「いいぞハーマイオニー!」だとか小声で叫んでグレンジャーを称賛していた。

 

恐らくこの授業ではじめての得点を得て喜んでいるのだろう。

 

この後に控える薬草学の地獄のような授業を知れば、彼らグリフィンドール生

は決してそんな顔を出来ないだろうにと哀れみながら、私は再度彼らに向かって呪文の説明を行う。

 

『死の呪文は相手を即死させる強力な呪文だ。・・・ノートに取らないのかい?』

 

グリフィンドール生達はその言葉を聞くと慌てたように一斉に羽ペンを動かし始め、自身の羊皮紙に書き連ねていった。

 

それを見た私は彼らの筆記時間を気にして少し拍子を置いてから言葉を続ける。

 

『その呪文を回避する術は無く、その呪文を使う時に最も重要な事は・・・グレンジャー、何が必要かわかるかな?』

 

必死になって手をブンブン挙げているグレンジャーを指名してやれば彼女は自信満々だが、やはり言うには忍びない感じでその答えを告げる。

 

『・・・憎しみです、先生。死の呪文を使うには相手を死なせてしまう程の、強い憎しみを必要とします。』

 

『その通りだグレンジャー。教科書をほぼ完璧に予習しているね?グリフィンドールに3点。』

 

彼らの・・・というよりグレンジャーの功績を讃えて加点していってやれば、彼らは再び子犬のように喜んでおり、可愛らしいものだと感じる。

 

『死の呪文において最も大切なのは相手を憎しむ気持ちだ。その思いが強ければ強いほど、時には建物そのものに死の呪文をかけれるほど範囲の拡大された強大な呪文になりうる・・・。』

 

この呪文はかつて我が父上が敵対者によく使っていた呪文であり、なおかつ私にとっても古くから愛着ある呪文だった。

 

父上とともにしてきた、時に残虐であり時に甘い蜜のような手段に後悔はない。既に私は理想以外のあらゆる善良なる良心を吐き捨てた。

 

魔法界を左右する道をいずれ別つと分かっているならば、そこに慈悲はなく、ただ互いの信条を貫き通す事が、私達魔法使いに出来る最後の高潔なる手段だ。

 

 

 

・・・だからだろうか、ダンブルドアにもこう言われてしまった。

 

『お主を闇の魔術に対する防衛術の助教授に抜擢したのは、ひとえにお主がその分野に関してはわしよりも詳しいじゃろうと思ったからじゃ。』

 

その推測は大当たりだ。私は今世紀、最も悪しき闇の魔法使いになる・・・それ故に闇の魔術に傾倒する異端の一人なのだ。

 

 

 

だが、反対にこうも思うと私は生徒達に向けて再び口を開く。

 

『・・・闇の魔術は一般的に最悪の呪いとして知られているわ・・・唱えてはならない禁じられた呪文としてね。

 

でも、考えて欲しい。

闇の魔術にも、使い方次第では友を、大切なものを助ける力になってくれる事がある。

 

・・・それが君の憎しみと怒りを犠牲にしてでも守りたいと願うものならば、これらの呪文にも使う価値はあると、私は断言しよう。』

 

目的を達するためならばいかなる手段をも躊躇ってはならないとキッパリ言い放った瞬間、何も知らないマグル生まれの生徒やハリーを除いて生徒達からはかなりの奇異の目で見られる。

 

(・・・闇の魔術の使用を薦める先生なんて珍しいでしょうし、仕方のないことよね。)

 

私は全くと言っていいほど闇に染まらない彼らの純情さを理解しながら、再びネビル・ロングボトムの書いた『磔の呪い』を議題に出していく。

 

その背後ではクィレルが私の背中をジッと見つめていることに気づかないまま・・・。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・早いものだね。」

 

私は深く長い回想から戻って生徒達が食事片手に楽しく談笑し合う光景をいつもの大広間に重ね合わせながら、フライドエッグを適当にフォークでつついて食べる。

 

教員は基本的に城に残って多少の仕事をしなければならないが、生徒の大多数は家に帰って休暇を過ごす。

 

だから先ほど述べた通り城の中はガランとしており、私が今食事中の大広間の中なんて静けさが漂っている。

 

だが、全員が帰ったというわけでもなさそうだった。グリフィンドール寮のテーブルの方を見てみれば案の定、そこにはまだ人が疎らにいた。

 

その中には件のハリー・ポッターとロナルド・ウィーズリーもいて、彼らは魔法使いのチェスとやらをしているようだ。

 

よくよく会話を知覚魔法で強化された耳を使って聞いてみれば、何やら興味深い話題が上がっていた。

 

「ハリー、ニコラス・フラメルって誰のことなんだろうね。・・・それにこの前のあの番犬だって。ハリーも見ただろう?あの三つ頭があった化け物!」

 

「うん・・・でもハーマイオニーがクリスマス休暇で帰っちゃったから、僕らに出来る事なんて今は何もないよ。大人しく彼女が戻ってくる年明けを待ったほうがいいと思う。」

 

・・・罠にかかったね、ハリー。

 

私は彼らの会話を聞きながら悪戯心を抱くかのように思った。

 

「うん、そうだね。」と言ってチェスに戻る赤毛のロンというハリーの友人を見つめながら、何と簡単に引っかかった事だろうと笑ってしまいそうだった。

 

ニコラス・フラメル・・・賢者の石の生成に成功した錬金術師であり、ダンブルドアの古い友であった。

 

その名は錬金術界隈では知らない者がいないほど有名だったが、いかんせん錬金術などという分野は複製呪文が完成して以来あまり人気でなかった上に、当の本人が現在664歳という事でかなりの老齢だ。

 

更にはダンブルドアが彼の隠居生活に配慮して態々ニコラス・フラメルに関する報道を規制するなど、これでは名が埋もれてしまうのも無理はない。彼ら三人組が図書館で普段から必死になって探しても中々出てこないわけだ。

 

・・・とはいえ私は知っている、ダンブルドアが敢えて賢者の石に対して杜撰な警備をしている事を。

 

普通あの石を本気で守るならば3階右廊下の部屋に幾重にもして感知不可呪文、不可視・不可知化呪文に数々の死に追い込めるトラップをしかけるはずだ。

 

それこそ教員ですら二度と立ち入れないほどの邪悪な呪文による、非道なトラップの数々を・・・。

 

なのに、奴はそれをしない。まるで盗んでくださいとでもいわんばかりに、4つほどのトラップしか置かれていない。それも一年生が知恵を出し合って解けてしまいそうな。

 

その理由を私は知っている。と言うか本人から直接聞かされていたのだ。

 

 

 

 

『・・・実はのう、既に策を練っておるのじゃよ。』

 

『・・・もったいぶらないで早く言わないと焼き殺すわよ。』

 

何度目になるかわからない爺の焦らしプレイに耐えかねた私は表情筋をピクピクさせながら目の前の老ぼれから答えを待つ。

 

彼もそんな私をニコニコ顔で見つめながらさぞ楽しそうに話し始める。

 

『・・・前にも言ったが、例えわしとお主でトムを打ち倒したとしても、完全にはやり切れんじゃろう。トムは何らかの方法で肉体は滅んでも、魂だけはこの世に残り続ける事ができる。』

 

私はそのカラクリを知っている。

 

ホークラックス(分霊箱)だ。

 

情報元は第一次魔法戦争時の我々の諜報員からの報告書であり、帝王の異様な容姿とその善性の著しい欠如から判断がつけられた。

 

奴は無意味に、傲慢に、同じ魔法族を殺しその魂を生贄に自分の魂を引き裂き、自らの分霊箱に収め隠すという史上最悪の魔法を使用している・・・それも単なる自分の下らない欲求を満たすために。

 

もちろん、私はその事をまだこの老人には伝えていない。

 

奴が分霊箱にした品々の内の最初の一品でもわかるなら話しても益になるだろうが、現状この爺に聞けることはなさそうだったからだ。

 

この爺にあいつの趣向がわかるとは到底思えないし、時が来ればアルバス自身がそのカラクリの正体に気づくはずだ。

 

・・・だが私は一瞬同じ魔法族が、何の崇高なる目的もなく殺害された事実を認識してギリリ、と歯軋りをしてしまう。

 

老人はそれを気付いてるのか気づいてないのかわからない素振りで続きを話す。

 

『・・・だからじゃ、尚のことハリーが必要なのじゃ。彼には帝王を打ち倒せるようになってもらわねばならん。』

 

『予言に固執する余り、他の手段を見失っちゃわないかしら・・・まるでかつての()()()のように。』

 

私が皮肉を込めて言ってやるが、彼は本気で予言を最優先事項と考えており、首を横に振って再度言ってくる。

 

『・・・わしの事は何と言おうと構わん。じゃがハリーが帝王を倒す鍵になることには何の疑いようもないことじゃ。・・・お主は協力する、そう言ったであろう?』

 

『・・・えぇ、そうだったわね。しかし一つの事に夢中になるあまり、他の事を考慮し忘れてはならないと、そう忠告しているだけよ、アルバス。』

 

『もちろん、その忠告はありがたく受け取っておこうかの。』

 

『・・・わかったわ。それで?ハリーに帝王をけしかけてもらう上で、どうやって彼をそのレベルにまで叩き伸ばすつもりかしら。』

 

私がいかにも怪訝そうに問うと、老人は安堵したような顔で私の方を見て話し始める。

 

『前にも言ったのじゃが、最初にあの子に課すべき試練として賢者の石を用意させてもらった。現状弱りきったトムは必ずこの石を手に入れんとするはずじゃ・・・恐らく彼の元で働くクィレルは石を狙って今にも動いておる。その機会を利用するのじゃよ。』

 

・・・なるほど、理解した。

 

この男がどれほど()()()()()かを・・・恐らく闇に堕ちている度合いで言えば私と同レベルだ。

 

『・・・つまり貴方は我らが偉大なハリー君をデスイーター相手に対峙させるつもりね?』

 

『そうじゃ、そして試すのじゃ。彼の勇気と、知恵を・・・。』

 

常人からすれば気の動転した話だと考えられてもおかしくなどない。

 

私は呆れ顔でものも言えずに、盛大なため息を吐きながら彼から目線をそらして問題点を指摘しようとするが、それは彼に止められた。

 

『言いたいことはわかる。じゃが、ハリーには強くなってもらわねばならぬ・・・そうでなければならんのじゃ。』

 

強い瞳で、されど残酷で冷酷な目で私に語りかけてくる彼は一昔前の父上に共通する部分があり、見つめているだけで感慨深く思ってしまう。

 

『・・・あんなまだ何も知らない赤子同然の少年を敵地に放り込んで、無理矢理にでも成長させるだなんて・・・随分と堕ちたものね、アルバス。』

 

『先ほども言ったが、わしをなんと思おうが、罵ろうが構わん。それでハリーを助けてもらえるならば本望じゃ・・・それに既に用意はしてある。教員達には幾多のトラップをしかけてもらい、最後の仕掛けも完了したのじゃ・・・ハリーにも()()は見てもらったしのう。』

 

()()というのはみぞの鏡の事だろう。

 

逆名、望みの鏡。

 

自分が最も心から欲する望みを写してくれるという、魔法界でもその一つしかない非常に希少な鏡だ。

 

恐らくだがハリーはクリスマスプレゼントとして父親の持っていた透明マントをこの狸爺から貰ったのだろう。

 

それを利用して夜中に城を出歩き、あの鏡の虜になってしまっていたということが推測できる。

 

最もアルバスの方から誘導するような形であったのは否めないが。

 

『・・・だからって、万が一私が面倒見きれずに死ぬ可能性もあるのよ?絶対にあの帝王とやらから全ての障害を防ぐことはできないかもしれない・・・それでは元も子もないじゃない。』

 

『じゃから尚のことお主には全力でハリーを守ってもらわねばならん・・・ハリーが死に近づいた時、彼を守ってやるのがお主の果たすべき役目じゃ。』

 

『・・・。』

 

私はとことんこの爺に利用されるらしい。目の前の老人は『どうじゃ?受けてくれるかの?』と笑顔を装いながら返答を待っている。

 

・・・正直、乗り気にはならない。

 

予言に固執するアルバスに、今のままでは大して力もないハリー・・・。

 

そのハリーですら、これから先恐らく全ての場面において闇の帝王との死地に向かわされ、その度に学び、成長を強要される。

 

なんとも、なんとも葛藤に満ちた非道なる手助けだが・・・。

 

 

 

 

『・・・約束は違えないわ。

この理不尽な世界を変えるため・・・魔法界により大いなる善をもたらすために(For The Greater Good)・・・。』

 

『・・・助かる、フォートシュリットよ。』

 

 

 

 

あの時の老人の顔を思い出しながら、私は目の前でチェスをして喋っている当の二人組を見つめる。

 

「・・・あとでヒントでも渡すか。」

 

珍しく彼らを本気で手助けする気が起きたのは、私の中の心境の変化なのかも知れない・・・死にゆく彼らを全力で守ろうと思う、私に残った僅かな良心のせいなのかもしれない。

 

その前にひとまずこのクリスマス休暇中の仕事を早く終わらせてパリの自宅に戻ることにするか、と我が家を待ち遠しく思いながら私はその夜を終えた。

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