クリスマス休暇はあっという間に過ぎ去り、もうじき春に入りかけそうな頃・・・。
どうやら私が送ったメモに書かれた場所をハリー一行は真夜中に探り当てたようだった。
そしてそこに置かれていた禁書『20世紀の偉大な魔法使い達』の中に載っていたニコラス・フラメルの章を読んで、彼についてようやく理解したのだ。
ちなみにこの本が禁書指定を食らったのは、ひとえに錬金術師であるニコラス・フラメル及びその賢者の石に関する詳細な記述が含まれていたのと、闇の帝王とそのむごい歴史を綴っていたからだ。
石によって死を逃れられる選択肢を生徒に安易に見せない、或いは闇の帝王の使用した闇の魔法の数々や残虐な歴史を目の当たりにさせないためにもこの本は禁書指定される必要があったのだ。
だがそんな本もハリーを強化するためにあっさりダンブルドアからプレゼントされた、死の秘宝のひとつである透明マントで見張りのフィルチとその猫を掻い潜ってハリー達は賢者の石の事をばっちり把握した。
ちなみにニコラス・フラメルについてはハグリッドがウッカリ口に出してしまった事が原因で調べる事になったらしい。
やはりダンブルドアがあの天然な性格のハグリッドにこの事を吹き込んだのは、彼ら三人組に見つけさせるためだったのだろう。
全く狡猾で抜け目のない男だ・・・とはいえ、これでようやく舞台の幕開けの準備が整ったといえよう。
今学期末の試験が多少彼らにとって難しかったのと、出された課題の処理で多忙だったのを除けば、時間は十分にあったはずだ。
その証拠にクィディッチの試合の件ではハリーの箒に呪文がかけられるという事態が発覚した。
私は直に見ていたわけではないが、恐らくこれはクィレルの仕業だと推測できる。
おおよそハリーを箒から振り落とし即死させるまではしないでも、彼が抵抗できなくなるまで怪我を負わせて
あの男も遂に帝王から叱責されたのか、行動を起こし始めたという事だ。
更にハロウィンの時にトロールが城内に侵入したことをヤツが真っ先に報告したことを加味すれば、クィレルの立ち位置は今ホグワーツの中では非常に怪しい。
彼らグリフィンドールの三人組がその事実にたどり着いてくれている事を願いながらも、私は目の前の生徒達の提出してきた課題に目を通していく。
闇の魔術に対する防衛術の教室には今クィレルは生憎居なかったが、恐らくヤツを疑うスネイプにでも捕まって尋問されているのだろう。
スネイプは普段傲慢な態度で物言いも厳しいが、賢者の石を守るために実は色々と暗躍してくれていたりする。
もちろん大のグリフィンドール嫌いでスリザリンを贔屓しまくるという欠点はあるが、それでもクィディッチの試合の時はハリーの箒に対して反対呪文を唱えて危害が及ぶのを防いでくれていたと後にダンブルドアが話してくれた。
彼がやらなければ観戦中のダンブルドアが代わりに反対呪文をかけていたと本人も述べていた事から、やはり私は別に見に行かなくてもよかった。
だがそれにも関わらず事後にあの狸爺から小言を受けてしまったのも事実だった。
『お主も次からはクィディッチを観戦しに来るのじゃ。スネイプ先生がおらんかったら、ハリーがほんの少しだけ危うかったしのう。』
どうせあんたが止めに入るだけだろなんて正面切って言うつもりもなく、適当にあしらい返事を返して会話を終わらせたが。
確かに単なる子供の遊戯と断じて油断して見に行かなかったのはハリーの警護上宜しくないのは否めなかった点を見れば、今回の非は私の側にもある。
ダンブルドアがクイディッチを欠席するなんて万に一つもないからこそ奴に任せれば良いと思っていたが、思い返せばやはり私も見ていた方が良かっただろうと少し反省した。
私は数日前の苦いやり取りを思い出しながら、手を止めずに課題の評価点を付けていく内に、ドタドタとこちらに走ってくる足音が三つも聞こえた。
向かって来ている人物達におよその当たりをつけながら顔を上げてみれば、予想通りそこには件のハリー達三人組が息も絶え絶えになりながらも、教職員の執務室内に走り込んできていた。
「・・・どうしたんだい?そんなに焦って。」
執務室にノックもなしに入り込むなど少し礼節が欠けると感じた故に冷たい顔を三人組に向けた。
私に余計な仕事を増やすなと暗に視線を送ってみるが、彼らはそんな事気にも留めず私に早口でこう言い放った。
「先生!大変なんです、賢者の石が・・・石が盗まれそうになっているんです!」
「マクゴナガル先生にその事を言っても取り合ってもらえなくて、それで私達先生にならと思って、それで!」
ハリーの後にキーキー音が響き渡り、思わず耳を塞ぎそうになる。
グレンジャーだったか?彼女が訴えてくるのを鼓膜がイカれそうになりながら手で制して溜息をつきながら彼らの訴えに答える。
「・・・石は万全に守られているわ。何一つ、欠片の綻びもなしにね。」
お決まりの台詞を言うしかなかった。
ダンブルドアからは以下のように忠告を受けていた。
彼ら自身に石を見つけさせ、
故に石の守りが盤石であると大ホラ吹きをして、彼らを賢者の石へと誘導せよと。
私達教師陣が完全に油断して頼りにならないと思い込ませる事が狙いなのだ。
まぁだからこそ彼らはこんなにも必死に訴えてきてくれているのだろうが、私達はそれを手助けする事はできない・・・彼らの命に関わる事以外は。
目の前にいる三人組はそのような事情を欠片も知らないがために、必死に石に危険が迫っていると訴え続けており、次には大きな爆弾発言をしてしまう。
「フォートシュリット先生!マクゴナガル先生も同じ事を言いました。けど本当に危ないんです!スネイプが賢者の石を・・・!」
だから、私には何も手出しは・・・・・・何?
私は今ハリーの口から出た一つの単語に頭が、思考が固まった。
「・・・何て・・・」
「石が盗まれる前にどうにかしないと・・・先生・・・?」
私はハリーの話など耳に届かず、ただ唖然としながらもう一度開きかけた口を開く。
「・・・今、なんて言ったのかしら。」
それを聞いたハリー達は何か不味いことでも話したのかと三人で顔を合わせた後、恐る恐ると言った形で先程の話を繰り返し伝えようとした。
「で、ですから先生!スネイプ先生が賢者の石を狙おうとしてるんです!その証拠に右足を噛まれて怪我をしていました・・・あれは三階の右廊下にいる
私はそこでハリーの言葉を手で制して、努めて冷静に当たり前のことを彼らに説明する。
「いいかしら?スネイプ先生は曲がりなりにもホグワーツの先生なのよ?・・・確かに、スリザリン贔屓が過ぎる所だってあるけれど・・・。
そんな石を守っている先生が盗むわけないじゃない。それくらいわかるでしょ?」
「「「・・・。」」」
私は彼らの予想していたはずの犯人がクィレルからスネイプ先生になっていた事に驚いてしまい、開いた口が閉じない。
確かにあの男は元
そのためにヤツは曲がりなりにも十年以上薬草学の教授をやってのけているのだ。
私は心底馬鹿げた彼らの推理に呆れながらも、このままでは誤った答えのまま石に突き進んでしまうと思い、再度彼らには正しい推論と取るべき行動を示唆してやる。
「・・・確かに怪しいと思うこと自体は無理もないわ。
けれど、もしスネイプ先生以外の他の誰かが石を狙っていてそれを阻止しようとしてスネイプ先生が動いていたのだとしたら・・・貴方達はとんだ勘違いをしていると言うことになるわよ?」
それを聞いて「うっ・・・。」とロン・ウィーズリーが呻き声を漏らしてしまうが、それでもハリー達は他に怪しい人物が思い当たらないようでこう言ってきた。
「・・・ならスネイプ先生以外に誰が・・・。」
「消去法で行くわよ。まずマクゴナガル先生に森番のハグリッド、ダンブルドアはもちろんフリットウィック先生・・・以上に述べた先生達は20年を越すベテラン教授よ。長年ホグワーツに勤務している時点で、闇の魔法使いではないと断言できるわ。」
「じゃぁ・・・今年新しく入ってきた先生の中にいるって事ですか・・・?」
「その可能性は十二分にあるわね。加えてスネイプ先生ももう10年くらいはホグワーツに勤務しているわ。だから残るは・・・。」
そこで私が口を止めてハリー達の方をジッ、と見つめると彼らも察したのか、驚愕の表情を貼り付けながら私の方におずおずと向き直る。
「く、クィレル先生と・・・フォートシュリット助教授・・・!」
絞り出した答えは私と私の同僚の名前であった。
「・・・言っとくけど私である確率は1%未満よ。私はダンブルドア直々に推薦されてここに来たんだから。・・・怪しいのはどちらかと言うと。」
「・・・そんな、クィレル先生が・・・まさか・・・。」
あまり信じられない様子といった感じで彼らは顔を互いに見合わせているが、可能性としてみればヤツは実際かなり怪しいだろう。
以前はマグル学の教授をやってたそうだが、一年前に世界の魔法界を見るだのと行ってアルバニアに行ったきり、その頭にターバンを巻き始めたそうだ。
今年度に新しく雇われた訳ではないが・・・それでも、これまでアイツの取ってきた行動と相まって尚更疑わしく思える。
「・・・まぁ、アイツは以前、マグル学の教授をしてたって言うし、一年前の旅から戻ったばかりだから、何とも言えないけれど…。
それでも、思い返してほしい、ハロウィンの時に侵入してきたトロールを最初に発見したのは誰だった?」
「そ、それは・・・。」
「それにスネイプ先生が足を怪我したとして、それはいつの事だった?」
「えっと・・・確かトロールがハーマイオニーを襲った・・・そうか!あの隙に賢者の石が盗まれる可能性があったからスネイプ先生は三階の右廊下奥の部屋に行ったんだ・・・。」
「推測が正しければそうなるわね。・・・そして最近スネイプが向けるクィレルへの視線は妙に鋭くなりつつある。」
そこまで言い切った時、彼らも半分納得半分疑っているくらいにまでは目が節穴でなくなったらしい。
だが、ハリーはいまだに信じられないといった表情でなおも私に詰め寄ってくる。
「で、でも!スネイプが犯人の可能性だってまだ」
「そこまで知りたいんなら、今夜貴方達で石を守りに行けばいいじゃない・・・。
今夜は期末試験が終わって生徒達も疲れ切って早めに寝ている上に、先生達も仕事が増えて忙しい・・・機会としては絶好だと思うわよ?」
彼ら三人組に石を守らせるよう教唆すれば、ハリー達はその目を丸々とした後に輝かせて再度、私の言ったことを確認してくる。
「い、いいんですか!?真夜中に城内を出歩いても、本当に・・・。」
「・・・私は何もみなかった事にするわ・・・少なくとも私はね。けれど、寄り道はしない事。それから行きだけはグリフィンドール寮の手前で待っているから、見送りしてあげるわ。
本当に何かあれば私が駆けつけるから、すぐに戻ってらっしゃい。約束は11時くらいでいいわよね?」
私が深くため息をつきながら許可の旨を言い渡せば、ようやく頼れる先生を見つけれたんだとばかりに彼らは喜んで「ありがとうございます、フォートシュリット先生!」と礼をいってきた。
だがその中でもグレンジャーはまだ11歳だというのに、普段の授業態度から見て取れるように意外と頭がキレるらしく、疑問符を浮かべた顔でこう聞いてきた。
「その・・・なぜ先生は一緒についてきてくれないのですか?」
ゲッ、それを聞くか・・・という声を出しそうになりつつも、私は平然を装って彼らについて行けない言い訳を申し立てる。
「・・・貴方達はどうやら
それに貴方達の悪巧みに協力してるってバレれば教師失格だし、貴方達のせいで懲戒免職を喰らうなんて私はごめんよ。」
なんともギリギリな回答だったが、ハーマイオニーは「確かにそうね・・・。」と小声で言った後、すんなりと納得してくれたようだった。
この子は成績優秀で学年末の試験でも高成績を叩き出した事で先生の間では非常に有名だ。
なぜレイブンクローに入らなかったのだと組み分け帽子に問いただしたかったくらいだが、今はそんな事言っている場合じゃない。
また何か悪ガキ三人組に余計なことを頼まれないうちに、彼らにはこの多忙な執務室からは退散してもらう事にする。
「それじゃ、何かあれば必ず助けに行くから、今夜ちゃんと準備しておくのよ・・・この
フフッ、と不敵な笑みを浮かべながら手のひらをくるりと返す合図をして退出を促した。
まあ、この程度の助太刀なら彼らの課題解決に影響はしないだろうし、ダンブルドアも許してくれる事だろう。
仮に本当に命に危険が迫れば、この城の妨害呪文を全て掻い潜ってでも姿現しをした後に死の呪文を即座に
そうして彼ら三人組も私が味方についてくれるということもあってか安心した表情でこの教室を素早く後にして行った。
「はぁー・・・ダンブルドア、しくじったわね。」
いくら何でもスネイプを疑わせ、私に協力するよう求めるなんてあまりにも滑稽な話だった。せめてマクゴナガル先生にでも頼まれてほしいものだ。
彼らがあんなに一所懸命に石を守るスネイプを犯人だと勘違いしてしまうなんて、守ってやっている本人からすれば苦労が水の泡に思えてくるだろうに。
彼ら自身にあの悪戯っ子の仕掛けのようなトラップを解いてもらって賢者の石の部屋までたどり着いてもらわなくてはならないという目的自体は変わらないのだが・・・。
いかんせん私の方でも仕事が沢山あるのだから、三人組に構ってやる時間があまり無いのも事実。
「クィレル・・・今だけはお前を心の底から恨んだぞ。」
仕事を私にほっぽり返してどこで何をしてるのやら・・・その答えは大体予想がつくが。
私は愚痴を吐きながらも、目の前の山積みになった生徒達の課題や試験の回答への評価をチマチマとつけていくのだった。