サブタイトルはパスファインダーのイントロ時のセリフ『話すところ?』の改変。でも(ry。
いいセリフを見つけられなかったので使いました。
専用機持ちは各々の班で割り当てられた生徒達にISの操縦方法を教えていった。
「ISっつっても自分の手足の延長だと思えばいいぜ。いつも歩いてる風に歩いてみな。……おお、やるじゃねえか! その調子だ!」
司の教え方はごく普通に、出来たら誉めて失敗したら助言する。司の人格達はISの人格ということもあって、ISをどう動かせばいいかを全て知っている。
なので少しずつ、出来るまで教える。それまでは次の項目には進まない。前の項目が出来なければ、次の項目など出来るはずもないからだ。
IS操作は基礎からしっかりやらなければ、上達しないのだ。
そんなこともあって、司の班の生徒の評判はとてもよかった。個別で教わりたい、と言い出す生徒まで出てくるほどだ。一夏やシャルルの班は訳あってクラブのような空気になっていたが、評判はよかった。
対して他の班はというと……
「歩行の際は膝を水平方向に対して90度上げて、次に足首を膝を軸に45度回転させて、最後に足首が向いている方向に足を出せば上手くいくはずですわ」
「ISの操縦なんて感覚よ感覚。自分ができるやり方で覚えるのが一番だわ」
「………」
(((((き、気まずい……)))))
上から順にセシリア、鈴音、ラウラ、そしてラウラの班員となった女子生徒達である。どの班も教え方が上手いとはお世辞にも言えない。ラウラに至っては教えることもせず、ただ女子生徒達に見下すような視線を向けるのみである。
(おいおい、この授業中に終わらなかったら放課後居残りだぞ? あいつらそれ分かってんのか?)
一番最初に班員全員の基本動作を終わらせた司が上述の三班を見ながらそう思うも、なんとか全員基本動作まで行い、授業は終わった。
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その日の授業を終えて、司は部屋のベッドに横になっていた。セシリアは、アリーナで自主練に励んでおり不在だ。
話し相手もおらず司が退屈そうにしていると、部屋のドアがノックされた。
「斑鳩君、いますか? 山田です」
「おう、ちょっと待っててくれ」
司はベッドから跳ね起き、ドアを開ける。
「何の用だ? 山田センセ」
「お知らせですが、今月下旬から男子も大浴場が使えるようになります。時間別にすると、色々と問題が起きそうだったので、男子は週に2度の使用日を設けることになりました」
「そうなのか? そいつは嬉しいお知らせだな」
口ではこう言っているが、本当はそんなこと思っていない。理由は言うまでもなく、顔のツギハギと身体中にある傷痕だ。一夏に見られでもしたら、間違いなく問い詰めてくるだろう。
「なので、この事を織斑君とデュノア君に伝えておいて頂けますか?」
「イエスだぜ」
司は山田先生の要望に頷く。
「それではお願いします。わざわざ休憩中にすいませんね」
山田先生は一度頭を下げると、仕事があるのか少し早足で戻っていった。
「さあて、一夏の部屋までタイムアタックといくか?」
足の準備運動をしながらそう言う司。持っているスマホのストップウォッチを起動し、
「レース開始!」
その掛け声でスタートボタンを押してスタートした。
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「記録は8秒43! なかなかいいんじゃないか!」
司はスマホのタイムを確認し、一人盛り上がる。
そしてここに来た目的を思い出し、一夏の部屋のドアをノックする。
余談だが、現在の一夏のルームメイトは箒ではなくシャルルである。そのためシャルルの部屋まで移動する必要はない。なにせシャルルの部屋はここなのだから。
「よお一夏、シャルル! 起きてるか?」
司がそう言うと、ドアの向こうからドッタンバッタンと忙しない音が聞こえて来て、慌てた様子でドアが開けられた。
「つ、司!? な、何の用だよ……!?」
一夏の様子が明らかにおかしく、表情を焦りの感情が大半を占めている。まるで、司がこのタイミングで来たことが非常に拙いと言う感じだ。
「山田センセからの伝言だ。今月末から、俺達も週に2回大浴場が使えるようになるみたいだぜ」
「そ、そうか! それは嬉しい知らせだな……!」
織斑は、焦った感情を隠そうと、無理矢理嬉しそうな笑みを浮かべようとしている。全く隠せていないが。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ッ!? そ、そんな事は無いぞ……!?」
「おいおい、明らかに動揺しすぎだろ」
全く隠せていない一夏に司は呆れる。
「ったく、とりあえず伝えることは伝えたからな」
司はそう言って自分の部屋に帰った。
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(ま、隠してることは十中八九、シャルルが女ってことだろうけどな)
部屋に帰りながら司はそんなことを思う。
シャルルの見た目や声は、男の娘という分類になるだろうが、仕草や反応は誰がどう見ても完全に女なのだ。
周りの生徒達は気づかなかったようだが、とある理由もあって司の人格達は全員気がついていた。
首を突っ込んだら間違いなく面倒ごとに巻き込まれるため、司は知らないふりをしておくことにしたのだった。
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司が一夏の部屋から自身の部屋に戻り、腿上げをしているところに、セシリアが自主練から帰ってきた。
「ただいま戻りましたわ」
「おう、お疲れさん」
セシリアが戻ってきても、司は腿上げを続ける。
対してセシリアは、不機嫌そうに自身の鞄をベッドに投げ付ける。
「どうした? 珍しく不機嫌そうだな。なんか嫌なことでもあったか?」
そのセシリアの行動を司は見逃さず、すかさずセシリアに問う。
「私、先程まで織斑さんとデュノアさんと合同で訓練していましたの。そしたら、急にボーデヴィッヒさんが織斑さんに戦いを挑んできた上に、織斑さんがそれを断った瞬間発砲してきたんですのよ。デュノアさんが防いでくれたお陰で全員無事でしたが」
放課後の第一アリーナでは、予約制だが自身の専用機もしくは学園の訓練機を利用して自主練を行うことができる。ただし監督者の許可がない状態での模擬戦は禁止されている。
「ハァ? バカなのか?」
それを知っている司はそんな言葉しか出てこなかった。
「私もそう思いましたが、どうやら織斑さんと彼女には、並々ならぬ因縁があるらしいんですの。どちらかと言えば、彼女が一方的に敵視してると言った方が正しいですが……」
「ふーん。あ、シャワーなら先に使っていいぜ。俺はあと腿上げ100回を10セットやってから入るからな」
「お気遣い感謝いたしますが……あまり無理はなさらないでくださいまし」
セシリアはシャワー室の方へ向かう。シャワー室がある洗面所のドアが閉まるのを確認して、司は腿上げを再開する。
「因縁ねぇ? あの一夏が、過去になんかやらかしてるとも思えねえが。もっと情報が欲しいところだな」
(奴の情報なら、もう既に集めてあるぞ)
司がぼそっと呟くと、それを待ってましたと言わんばかりにクリプトが言う。
(おおクリプト! いつの間に集めたんだ?)
(深夜にな。学園にいる人間の情報は、可能な限り集めている。これも司を守るためだ)
クリプトは人が寝静まる深夜に一人、ISを起動させてこの学園の人間全ての情報を集められるだけ集めていたのだ。そして裏がある、もしくは裏がありそうな人物をブラックリストに入れて、司になんらかの害がないようにしているのだ。
因みに司の人格全員がシャルルが女だと知っているとある理由というのは、クリプトによるシャルルの情報のリークである。
(奴はドイツ軍のIS特殊部隊、シュヴァルツェ・ハーゼの隊長だ。過去に『出来損ない』と呼ばれていた時期があったらしい。だが、織斑千冬の特訓を受けた結果、部隊最強の座に上り詰めた。そのこともあって、織斑千冬を狂信している)
(ん? じゃあなんでその弟の一夏を敵視すんだ?)
(第二回モンド・グロッソで織斑千冬が二連覇を逃したのは、織斑千冬の二連覇を防ぐために織斑一夏を誘拐した奴等がいたからだ。織斑千冬は織斑一夏を助けるために自ら誘拐犯の所に向かった。もちろん試合は不戦敗だ。因みに誘拐の件を織斑千冬に伝えたのは、ドイツ軍だ)
そこから先は、言われなくても理解できた。
(なるほど。愛しの教官サマが、二連覇を逃したのは一夏のせいだからってか。とんだ迷惑だ)
気持ちは分からなくもないが、恨む相手を間違っている。司は面倒な奴だな、と心の中で呆れる。
(アイツは今、復讐する対象がすぐ近くにいることで我を忘れかけてる。アイツの動向に注意しな)
ヴァルキリーが横から言う。彼女は元々、大切なものを奪われた人間の復讐のために作られたISだ。復讐に我を忘れる人間の目をすぐ近くでずっと見てきたため、復讐しようとしている人間がどんな目をしているか、彼女には分かる。
ラウラも、復讐に燃える人間の目をしていたのだ。
(ああもちろんだ)
司は腿上げをしながら答えた。
クリプトはラウラがなぜ『出来損ない』と呼ばれているかの理由も知っていますが、今後の展開の都合上省かせていただきます。
学年別トーナメントで使う人格
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ヒューズ
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シア
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マッドマギー