おそらく、自分の小説の中で一番白熱したアンケートだったと思います。最初はパスファインダーに票が入り、次にオクタン。ヴァルキリーの票が少ないと思いきや一気に票を伸ばしてオクタンに並び、オクタンが最後の最後で引き離す。見ててめちゃ楽しかったです。
因みにヴァルキリーが選ばれてたら、試合の最後に冗談半分で口説いて、セシリアが超赤面するエンドでしたw
色々書きまくってたら、5000字を越えてしまった。
1週間後。遂にクラス代表決定戦の日を迎えた。
司はこの日までに、第二アリーナを使って訓練を積んでいた。やれるだけの準備はしてきたと思っている。
(脚の準備は万端だ。早く戦いたいぜ!)
司は興奮を抑えながら、順番を待つ。司の出番は二試合目からである。
因みにその横では、一試合目に出る一夏と箒が話している。
「……なぁ、箒」
「なんだ、一夏」
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか。気のせいだろう」
「ISの事を教えてくれる話はどうなったんだ?」
「…………」
一夏の言葉に箒は目をそらす。
「目・を・そ・ら・す・な!」
箒が目をそらした先に回り込んで一語一語発音する一夏。
司が聞いたところによると、一夏はコーチを箒に頼んだのだが、実際にはISではなく、剣道ばかりしていたらしい。話が違うと箒を問い詰めている真っ最中なのだ。
(ま、俺達と違って一週間程度で覚えれることなんかたかが知れてるだろうからな。純粋に体を鍛えてる方が効果があるって考えたんだろ)
司はそれを見てずれた解釈をする。
すると、千冬と山田先生がやって来る。
「千冬姉……」
一夏が呟いた瞬間、
――パァン!
と、一夏の頭に炸裂する出席簿。
「織斑先生と呼べ。学習しろ。それと……斑鳩」
千冬が司の方を向く。
「織斑の専用機の搬入が遅れている。よって斑鳩、お前とオルコットの試合を先に行う」
「おお、先にやっていいのか? よっしゃ! 早くやりたくてウズウズしてたんだ!」
司は足をその場でバタバタさせる。
因みに一夏が何故専用機を持っているのかというと、学園が保有している打鉄という訓練機ISの予備がないため、特別に学園で専用機を用意することになったのである。
「さて、こいつのお披露目だ!」
司はカタパルト前に立ち、ISを展開する。
司の体が強い光に包まれる。そして光が晴れると、ISを纏った司が立っていた。
司の顔には緑色のゴーグルと黒いマスク、頭にヘルメットのようなものが取り付けられており、今までの包帯と布を巻いている姿とは全く違う。そして何より、装甲が最低限しか取り付けられておらず、ほぼ全身剥き出しの状態だった。更には全ISの共通装備である、カスタム・ウィングが無い。要するに、飛行が出来ないのだ。
これが、飛行が出来ない代わりに陸上での機動力に全てを費やし、陸戦型ISという新しい枠組みに分類されることとなった、第三世代型IS『オクトレイン』である。
「それが……司の専用機……!」
一夏は初めて見る司の専用機に興奮を隠せていない。
「オクトレイン、出発進行!」
司はアリーナ内に向かって走って行った。
そしてピットから飛び降り、空中で見事な一回転を決めると、綺麗に着地して見せた。
「ヒャッホー! 何回「いいね」が貰えるかな!」
司が前を向くと、セシリアがIS『ブルー・ティアーズ』を纏い、空中で待ち構えていた。
「やっと来ましたのね………って、あら? 最初はあなたが相手ですの?」
「悪いな。一夏の専用機の搬入が遅れてるみたいでな、先に俺が戦うことになったのさ」
「そうですの……それはさておき、それが……あなたの専用機ですか」
セシリアはじっくり見定めるように司の全身を見る。
「何と言うか、装甲が少なすぎではありませんこと? そんなのでは、かすり傷ですら致命傷になりかねませんわよ?」
「ハハハ、大丈夫さ! それが強みでもあるからな! さて……あれこれ話すのは後にしねえか? こっちはもう準備できてんだ」
「そうですわね。言っておきますが、手加減はしませんわ」
「当たり前だ。手加減なんかしたって、どっちも面白くない」
司とセシリアが互いに相対した。
『両者とも、準備はいいか? それでは、試合開始!』
千冬の掛け声と共に、試合が開始された。
セシリアは、スナイパーライフルを構えて躊躇なくレーザーを放ってくる。
それを予想していた司は、その一撃を難なく避けた。
「流石に初撃は避けられましたわね……」
「試合開始前からずっと俺の方を見てるんじゃ、狙ってますって言ってるようなもんだぜ?」
「それは盲点でしたわ」
しかしセシリアはそれでも余裕の笑みを浮かべている。
「それならこれはいかがっ!」
セシリアはレーザーを何発も放つ。逃げ場を完全に埋められており、これは常人ではまず避けられない。
だが、司は違う。
「レディ、ステディ、ゴー!」
司は避けようとするのではなく、なんと自らレーザーに向かって走り出した。
(ふっ、血迷いましたわね)
セシリアはそれを見て勝ちを確信した。弾幕が如く濃密に迫るレーザーを見て、血迷ったと思ったのだ。
しかし、そんなことは全くなかった。
司はレーザーが目前まで迫った瞬間、飛び上がって体を捻らせてレーザーをスレスレで回避した。
「「「「「「!?」」」」」」
セシリアも含め、会場にいる人間全員が驚愕の声を挙げた。
だがセシリアはすぐに我に返り、司に向けて幾つものレーザーを再び発射する。
「ふっ、ほっ、ハハ!」
しかしセシリアの放つ全てのレーザーを、僅かな隙間を掻い潜るようにして避けていく司。それを見たセシリアは追撃も忘れ、思わず声を荒げて聞いた。
「ど、どうすればそんな無茶苦茶な回避方法が思い付きますの!?」
「こっちの方がスリルもあって楽しいからな!」
司はかなり速い速度でセシリアに近づいていく。純粋な陸上機動力で、オクトレインに勝てる機体は、今のところ存在しないだろう。
(くっ……速い……! 最低限の装甲しか付けていないのは、これほどまでの驚異的な陸上機動力を産み出すためだったということですのね!)
レーザーを放ちながら、セシリアはそう考えた。
セシリアが放つレーザーは、ことごとく司に避けられている。撃つ場所を変えても、フェイントを入れても、全て避けられてしまう。
このままでは、自分の苦手な近距離戦に持ち込まれてしまう。
しかしセシリアは冷静に次の一手を考えていた。
(ですが見た感じ、彼のISにはカスタム・ウィングがついておりません。恐らく飛行能力と装甲を犠牲にすることで、あれほどまでのスピードを出せるようにしているんですわ。それなら、空を飛べるわたくしの方が有利!)
セシリアはレーザーを撃つのを止めると、高度をとりだした。
そして背面にあった4枚のフィン・アーマーを展開する。
「そろそろ本気で行かせていただきますわ。これが我がイギリスが誇る第三世代型IS『ブルー・ティアーズ』が誇るBT兵装………その名も同じ、〝ブルー・ティアーズ〟ですわ!」
その4枚のフィン・アーマーが射出されると、縦横無尽に動き回り、その先にある銃口からレーザーが放たれてくる。
「おお! ようやく本気のお披露目か!」
司はそれすらも回避する。しかし全ては避けきれず、一本のレーザーにかすってしまった。
(流石にこのスピードじゃ避けきれねえか。そろそろ反撃に移るとするか)
司がそんなことを考えていると、セシリアが一旦攻撃を止めて話しかけてきた。
「そろそろあなたも本気で来ませんこと? 先程から回避ばかり。最初は驚きましたが、このまま回避だけを行うのなら、わたくしが勝ってしまいますわよ?」
「ああ、俺もちょうど反撃に移ろうと思ってたところだ。もうスリルは十分に楽しんだからな。今度はこっちの番だぜ?」
司はそう言うと、右手にナイフを出現させた。
「それがあなたの本気?」
「いんや、こいつはメインウェポンさ。俺には、こいつが一番合うんだ」
「それはいいのですが、その短いナイフでわたくしとどう戦うつもりですの? 言っておきますが、あなたの専用機が飛べないことは既に見抜いておりますわ」
セシリアは既にオクトレインが飛行能力を持たないことに感づいていた。故に、自身の間合いでかつ司が絶対に攻撃を加えられないであろう上空へ飛び上がったのだ。
「ハハハ、ISは大半が飛べるからな。むしろオクトレインみたいな飛べない奴の方が珍しい。でもって、対抗策を持ってないとでも思うかい?」
そう言うと司は脚部に神経を集中させた。すると脚部の装甲が開き、そこからスラスターらしきものが幾つも現れた。
「それは……?」
「直ぐに分かるさ。そして、こいつも追加だ!」
司はは両肩から伸びているコードを掴むと、オクトレインの両脚部に接続した。
「レース開始!」
そして司はセシリアの方へ走り出す。その速度は、先程の比べ物にならない。
(ッ! 先程より速い!)
それを視認したセシリアは驚愕するが、慌てずにフィン・アーマーに命令を下した。
「さあ踊っていただきますわ! このわたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる
「悪いな!
その言葉と共に、フィン・アーマーから幾つものレーザーが射出された。
「ハハハ! こんなもんかい? これくらいなら目を瞑ってても避けられるぜぇ!」
とてつもない速度でアリーナを縦横無尽に駆け回る司。セシリアは司を狙い何度もレーザーを射出するが、今度はスレスレですらない。
(速すぎる……! 目で追うのがやっとですわ!)
流石に瞬時加速には及ばないが、並のISの飛行速度は優に上回っている。ここまで速く動くものを狙った経験がセシリアにはなかった。
そんな想定外の状況は焦りを産み、焦りは油断を産む。
「ここだ!」
セシリアが油断し、フィン・アーマーの攻撃が疎かになったのを司は見逃さず、脚部のスラスターを起動させる。
「緊急脱出を開始!」
司がそう言った瞬間、スラスターが一斉に射出し、司はウサギのように一気に飛び上がる。
司は途中に浮いていたブルー・ティアーズのフィン・アーマーを次々と踏み台にし、セシリアの方へ一直線に向かっていった。
「……はっ!?」
セシリアが司が直ぐそこまで近づいていることに気づき振り向くが、もう遅い。
「捕まえたぜ! ほらプレゼントだ!」
司はセシリアの背面装甲を掴むと、腰の辺りから手裏剣のようなものを取り出し、思いっきり突き刺した。
そして司はセシリアをナイフで切り付けると、スラスターを射出させてセシリアを踏み台に、地面へ戻っていった。
「くぅっ! 一体何ですのこれは!?」
セシリアがスラスターの射出に耐えながら、自身の背中辺りについた手裏剣のようなものについて司に問う。
「気を付けな。そいつは、」
ピ、ピ、ピ、ピピピ……!
不穏さを感じさせるその音が手裏剣のようなもの『アークスター』から発せられた瞬間、セシリアは全てを理解し、顔を青ざめさせた。
「爆弾だぜ」
司がそう告げた直後、アークスターは炸裂した。
ーーーーボガァァァァン!!!!
「あぐぁっ!」
ゼロ距離爆発の衝撃に耐えきれず、真っ逆さまに落下してしまうセシリア。直ぐに体制を立て直そうとするが、違和感に気づく。
(何故、体を起こせませんの?)
最初は訳が分からなかったが、セシリアはすぐに答えにたどり着いた。
ブルー・ティアーズが、機能を停止していたのだ。
それはつまり、体制を制御する方法どころか、飛行する能力でさえも失ったということ。
何故、ブルー・ティアーズが機能を停止しているのか? これには先程司が使った爆弾、アークスターに秘密がある。
アークスターは特殊な爆弾であり、爆発には距離に応じて機器の機能を一時的に停止させる効果がある。それはISも例外ではない。
故に、ゼロ距離で爆発を食らったブルー・ティアーズは、文字通り全ての機能を停止したのだ。
全ての機能を停止したブルー・ティアーズは、シールドバリアーどころか絶対防御すら機能していない。このまま地面に激突してしまえば、物言わぬ肉塊になってしまうのは言うまでもない。
「いっ、嫌ぁぁぁぁぁァァァァ!!!!」
自分が肉塊になることを想像したセシリアは、死に対する恐怖から悲鳴を挙げる。しかしあと数十メートルで地面に激突するというところで、ブルー・ティアーズが再起動する。
だが、セシリアにその地面に激突する前の数秒で、体制を立て直す能力はなかった。
アリーナに轟音が響き渡り、砂煙が舞い上がる。その光景を息を飲みながら見る生徒達。
砂煙が晴れると、そこにはボロボロなセシリアがいた。絶対防御により死にはしないが、シールドバリアーは落下時の衝撃に優に突破されているため、セシリア自身に対するダメージは相当のものだ。
「……っ……! ……ぅぅ……っ!」
それでもなおセシリアは立ち上がる。
「まだやるのか?」
司はセシリアに尋ねる。
「当たり前……ですわ……! わたくしは……イギリスの……代表……候補生……にして……オルコット家の……当主……! こんな……ところで……挫けて……いられませんわ……!」
息も絶え絶えに答えるセシリア。機体も身体もボロボロな彼女を支えているのは、彼女の代表候補生としての、そして名高いオルコット家の当主としてのプライドだった。
「そんなんで戦っても、お前の勝利は万が一にもあり得ないぜ?」
「それでもっ……! わたくしは……あなたに……立ち向かわなきゃ……いけないん……ですのよ……!」
(わたくしはまだ……あなたについて……何も知れてない……!)
輝きを失っていない真っ直ぐな目で司を見据えるセシリア。セシリアには、この戦いで司の謎の真相を突き止めるという目的があった。しかしそれは未だに達成されていない。加えてセシリアには、先程言ったようにプライドがある。その両方が相まって、セシリアに立つ気力を与えているのだ。
「お前はよくても、お前の身体と機体はよくないって言ってるぜ。終わらせるぞ」
「っあ……!」
司はセシリアに向かって、ナイフを突き出す。セシリアはそれを避けようとするが、身体が十分に動かず、避けられなかった。
ナイフが当たると、残り僅かだったブルー・ティアーズのSEが全て削られる。SEが0になると、既に身体的な限界を迎えていたセシリアもその場に倒れてしまう。
『そこまで!! 試合終了! 勝者、斑鳩司!』
そのアナウンスが聞こえた瞬間、会場内が歓声に包まれた。しかし司はあまり喜んでいないようだ。
「……試合に勝って、勝負に負けるとは、こういうことを言うのかね」
司は倒れたセシリアを担ぐと、脚部のスラスターで飛び上がり、ピットへと戻っていった。
機体名『オクトレイン』
SEを少し消費してとてつもない速度で走るという単一仕様能力を持つ機体。身軽さと機動力を重視した結果、装甲が最低限しかなく飛行能力を持たない。その代わり両肩から伸びるコードを両脚部に接続することで、SEを脚部に付いている特殊なスラスターで推進力に替え、とてつもない速度での走行を可能としている。スラスターの射出の出力を調整し瞬間的に射出することで、その軽さ故に上空へ跳び上がることもできる。
一応機体の解説を入れておきます。分かりづらい方は、オクタンのアビリティとウルトをISの単一仕様能力に置き換えたものだと思ってください。
最後はオクタンにとって、ちょっと納得のいかない終わり方となりました。ただのクラス代表決定戦にも関わらず、本気の殺し合いをしているかのごとく自分を酷使するセシリアを、あまり快く思わなかったようです。
セシリアはヒロインに……
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なる
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ならない