セシリアを担いで司がピットに戻ると、一夏が出迎えた。
「すげぇな司! ビューン! って走って、ピョンピョーン! って跳び上がって! ドカーン! って! 見てるこっちがハラハラしたぜ!」
一夏は興奮し過ぎているのか、語彙力が死んでしまっている。それでも司には、なんとなく言いたいことが分かった。
「こいつはそういう戦い方が得意な機体だからな。で、織斑センセ。一応こいつ持って帰ってきたが、どうすりゃいい?」
司が言っているのは、未だ司の背中で気絶しているセシリアのことだ。
「先程救護班を呼んだ。直にやって来る。それより、次は貴様等の試合だぞ。斑鳩は補給を受けてこい。その様子だと、すぐに終わるだろう」
「え!?」
一夏は急に予定が変更されていたことに驚く。因みに本来の予定ならば、三試合目に司と一夏の試合は行われる予定だった。
「俺と司の試合は、三試合目じゃ……」
「馬鹿者。気絶までしている負傷者に戦えと言うのか」
千冬の言う通り、セシリアは随分と負傷している上に気絶している。いつ目を覚ますかも分からず、今この場で目を覚ましたとしても、戦える状態とは言えない。
「織斑、早く展開しろ。時間は有限だ」
千冬が一夏に言う。先程の試合中の時間を使って、初期化と最適化は済ませたため、一次移行は完了している。晴れて一夏の専用機となった『白式』は今は待機状態で、一夏の腕にガントレットとして装着されている。
ところが今までISに乗ったのは、先程の初期化と最適化が初めてだったため、一夏は展開の仕方を知らない。
「とは言っても……展開のやり方なんて……」
「織斑君。自分が、ISを纏っている姿をイメージしてみてください」
山田先生が一夏に助言をする。一夏は目を閉じて言われた通り、先程の白式を纏っている自分をイメージしてみる。
すると目を開けた時には既に白式を纏っていた。それを見た千冬は補給を受けていると思われる司に目を向ける。
「斑鳩、補給はまだか?」
「丁度終わったところだぜ!」
司が補給を終え戻ってくる。
「よし。では準備が出来次第、第二試合を開始する。貴様等は、アリーナで待機しておけ」
千冬がそう告げると、一夏と司はカタパルトに立つ。
「白式、行くぜ!」
「オクトレイン、出発進行!」
一夏は飛行し、司は走る。そして二人ともほぼ同時に、ピットからアリーナへ飛び出した。
そして一夏が、出てきたピットから奥の方、司が手前の方に立った。
「言っとくが、手加減はなしだぜ」
「おう。種がバレてる分、今回は最初から本気で行かせてもらうぜ」
一夏は『雪片弐型』と呼ばれる刀剣、司はナイフを構え、お互い相対する。
『それでは、試合開始!』
千冬の掛け声が聞こえた瞬間、一夏が司に突っ込んだ。
「はあああっ!」
「おっと!」
両肩のコードを脚部に接続しようとしていた司は、コードから手を離し回避を行う。
避けられても残心で直ぐに司の方を向く一夏。
「そいつを使わせるわけにはいかないぜ」
初撃は避けられてもいい。コードを脚部に繋がなければ、あのとてつもないスピードは出せない。あのスピードになったら、自分の手に負えなくなると一夏は確信している。
「ハハ、なら普通の速さで戦うしか無さそうだな」
司はコードを脚部に繋がず、ナイフ片手に突っ込んで行った。
ーーーガキィィィン!!
ナイフと剣がぶつかり、甲高い音を響かせる。
司は余波を入れず何度も何度もナイフを一夏に向けて振るう。
「ハハハ、どうした? 防戦一方だぜ?」
司の猛攻に、一夏は守りに徹せざるを得なかった。
(速すぎて守ることしかできねえ! どうすれば……)
「ほら、俺からのプレゼントだ!」
このままナイフで攻撃し続けても埒が明かないと判断した司は、腰からアークスターを取り出し、一夏に投げる。そして一夏の雪片弐型を踏み台にし、一気に後方へ下がった。
(ヤバいっ! こいつは爆弾だ!)
急いで自身にくっついたアークスターを剥がす一夏。剥がしたアークスターを司に向かって投擲するが、あっさり避けられてしまう。アークスターを避けた司は、ナイフを真っ直ぐに一夏目掛けて突き出す。防御が間に合わなかった一夏は、ナイフを諸に食らってしまう。
「ぐあああっ!!!」
司のナイフを諸に食らい、衝撃で後方へ吹き飛ぶ一夏。なかなか高威力だったようで、気づけば白式のSEは半分まで下がっている。
「おお、今のは痛そうだったな」
倒れ伏した一夏に向かって呑気なことを言う司。
「位置について、用意ドン!」
司は両肩のコードを脚部に接続し、脚部のスラスターを出現させる。次で決める気のようだ。アリーナを駆け回り、助走をつける。
「ハハ、緊急脱出を開始!」
スラスターを射出し、上空へ跳び上がる司。ナイフを両手で構え、逆さの体制になると再びスラスターを射出し、一気に降下する。
「アミーゴ! なかなか楽しかったぜ!」
一夏に司のナイフが迫る。当たれば一夏は間違いなく敗北する。
観客全員が目を塞いだ。
その時、一夏の雪片弐型が変形し、エネルギーの刃を形成した。
「!」
司は本能的に危険を感じ、スラスターを横に射出し体を横に翻した。
しかし、若干遅かった。
「はぁっ!」
「うおあっ!」
エネルギーの刃が、司を若干掠める。そう、これは一夏の『死んだふり』作戦である。
着地に失敗し、転がり込む司。
「クソっ……痛えよ……」
司は少しふらつきながらも立ち上がり、オクトレインのSEを確認する。そして司は、そこで見た数値に驚きを隠せなかった。
(は……30!? さっきの加速でSEが減ってたとしても、さっきの掠りだけで600近く減ったってのか!? これじゃ速く走れねえ!)
直撃ならまだしも、掠めるだけでここまで減るのは異常だ。先程危険を感じて回避に徹していなかったら、間違いなくSEが0になっていただろう。
これが、白式の単一仕様能力『零落白夜』。自身のSEを力に代え、圧倒的な攻撃力で相手のSEを全て削り取るという、諸刃の剣の能力である。
「避けられたか……」
「久々にビビっちまったぜ。ちょっと掠っただけでSE殆ど持ってかれちまうんだからよ。でもこれぐらいが丁度いいハンデだろ?」
「もう守ってばっかじゃないぜ。そう言ってられるのも今のうちさ」
先程の零落白夜で一夏のSEも、司のSEと大差ない。次の一撃で、決着が着くだろう。
「さあ、もう終わりにしようぜ」
「おう、望むところだ」
両者得物を構え、睨み合う。
そして同時に走り出した。
「そらよ!」
司がアークスターを投擲する。
「二度も食らうか!」
対して一夏は雪片弐型でアークスターを一刀両断する。
「「はあああああああ!!!」」
両者共、得物を突き出し、ぶつかり合う。
直後、静寂が訪れた。
観客が見守る。
少し経ち、千冬のアナウンスが響いた。
『斑鳩のSEが織斑より0.1秒早く0になった。よって勝者、織斑一夏!』
会場内が歓声に包まれる。
司はその場に座り込む。
「リーチの差には、勝てなかったか……」
勝敗を決めたのは、リーチの長さだった。一夏の雪片弐型が、司のナイフが一夏に当たるより先に司に当たったのだ。
一夏が司の元にやって来る。
「お疲れ司。流石に純粋な操作じゃ、司には敵わないな」
「一夏も、初めてとは思えないくらいよかったぜ」
司は一夏から差し出された手を取り、立ち上がる。そして一夏の肩に手を置くと、一言だけ告げた。
「じゃ、クラス代表頑張れよ」
一夏はセシリアを余裕で倒した司に勝ったのだ。結果から、クラス代表になるのはほぼ間違いないだろう。
それを聞いて一夏は先程の清々しい表情から一転、焦りの表情を浮かべ、
「忘れてたああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
と叫んだのだった。
セシリアはヒロインに……
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なる
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ならない