異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐   作:劉鳳

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第8ラウンド 展覧試合予選会‐前編‐

 

トレーニングに勤しみ、鍛え続け、あれよと言う間に展覧試合の日がやって来た。展覧試合が開催されるのは、ヴァルカ王国城内に併設してある闘技場である。街の闘技場と規模は同じだが、こちらは仰々しい飾り等があしらえており、よく言えば豪華、悪く言えば悪趣味な造りであった。

 

『いよいよッスね、功用さん……』

 

『ああ……』

 

竹田と功用はそう言葉を口にする。山賀と真田は黙して軽くウォーミングアップをしている。開会式故にこの日は試合は行われないのだが、いついかなる時でも臨戦態勢を取れるよう、彼等はそのルーチンを続けている。かく言う功用自身も、ここに来るまでに体を温めていた。自分達が無能認定を受けている為、他の決闘者から要らぬ妨害を受ける可能性を考えての事である。

 

開会式に同席したアルは開会式に集まった決闘者と貴族達の圧力に緊張しながらも、落ち着き払った四人の姿を見て、幾分冷静に周りを見ていた。

 

『皆しゃん、他の決闘者達は十人以上もの中から選抜された四人の人が決闘者として出てきましゅ。大丈夫でしゅか?』

 

『アル、心配すんな。この前顔を出した大場君や西郷さんより圧を感じるような人間はいないよ。それに、今の俺の状態は向こうにいた以上に切れてる、抜かり無しさ。』

 

功用の本来の適正階級はミドル級である。日本人がいくら体格で外国人に見劣りすると言っても、それこそ個人差であると断言する。功用の身長は175cm、ミドル級では小さい方だが、横幅はクルーザー級もかくやと言わんばかりのガタイ、リーチも180cmと割合長く、欧米の選手に全くひけをとらぬ処か、規格外とも言うべきパンチを放てる。ウェルター級挑戦は厳しい減量の毎日であったが、六階級制覇の第一通過点を、最も選手層の厚いこの階級に定めた本人の意思により、破竹の勢いで世界王座戦までかけ上がって来たのだ。

 

異世界に飛ばされ、その夢は絶たれたが、その闘争心は消えず、開き直って体を鍛え上げた。結果、功用の肉体は、六階級制覇の最終目標であるクルーザー級並の肉体を実現させた。減量を気にしなくて良いと言う事は、筋力も持久力もその気になればつけ放題と言うわけだ。

 

『功用さん、えらくゴツくなりましたね……まあ俺もライト級の体格からミドル級並に仕上がりましたけど。』

 

竹田の体の仕上がりも上々だった。163cmの小柄な体だが、その背中は蟹の甲羅を彷彿とさせるような盛り上がりを見せ、それでいて無駄な肉は一切無い。ライト級の速さに、ミドル級の攻撃力と打たれ強さが合わさったそれは、現世のムエタイ界で言うならヘビー級あたりの選手と見紛う体格になっていた。

 

『二人の競技は体重の刻みが厳しいからね、それを取っ払えばそりゃ強いさ。』

 

そう言う山賀も見事な体の仕上がりを見せていた。身長183cm、体重108kgと言う重戦車と形容するその体、つけれるだけ筋力と体力をつけた。四人の中では縦も横も最大の山賀が更に肉の鎧をまとったのなら、並の相手ではまず倒されない。

 

『やっぱり三人はトップアスリートだね。この短期間でここまで変わるとは。』

 

真田がそう呟く。真田は自衛隊で血の滲むような訓練を課されてきた為、基礎能力は来たときとそれほど変わっていない。しかしそれはハンデではなく、自衛隊員の身体能力がそれだけ高いと言う証拠でもある。

 

そんな四人に付き添うのは、マークス家当主のアルと、メイド長で下級貴族の娘であるハーフオーガのヤヒメと、マナの兄であるエルフのハルマ、そしてマナ。ここに彼等が選ばれた理由は若年ばかりのマークス家のメイドや執事の年長者だからに他ならない。それでも功用達と比べて子どもである為、みんな緊張しているようだった。そんな彼等に、功用達は改めて感謝の意を送る。

 

『みんな、緊張するのも無理は無いか。でもここまでみんな良く俺達のサポートをしてくれた。ありがとう。』

 

『ハルマっち、ミット打ちに付き合ってくれてありがとね。』

 

『ぼっ、僕のような細くて弱い人間が何処まで貢献出来たか分かりませんけど、兄ちゃん達がそう言ってくれたのなら、うっ、嬉しいです。』

 

『ヤヒメさん、特製の食事、どうもありがとう。お陰で短期間に体を作り上げる事が出来たよ。』

 

『わっ、わだすはジロー様達がすっ、好ぎだがら、美味しいご飯、作っだだげ……でも、ありがど……』

 

『マナちゃん、いつも優しい言葉をかけてくれてありがとう、何度も励みになったよ。』

 

『タケシさん……必ず勝って、今度は……ちゃんとデートしましょうね。』

 

『俺達の後ろには、こんな素晴らしい人達がついてるんだ、憂うな、自信を持て、そして、ベストを尽くそう。』

 

こうして、展覧試合(正確には本戦予選会になるが)への気合いを入れたのだ。

 

 

一方こちらは特等来賓席である王族達の場所。開会式に並ぶ人間を見て、苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる人間が一人……ヴァルカ王国、第一王女、オリヴィア・レイア・ローズ=ヴァルカ。勿論原因は目下に写る功用であった。

 

(あ、あんっの野人、何のうのうと出て来てんのよ!いっ、いくら醜聞を恐れて公表しなかったとは言え、メンタル鋼どころじゃないでしょあいつ!)

 

功用はそんな視線を察したのか、第一王女の方を睨み付ける。睨み付けた時に力を入れすぎたのか、周りの決闘者が若干警戒心をもって功用を覗いたが、功用自身は特に気にしない。

 

(くっ、無礼な奴。で、でも無能認定されたあんたなんか、こっ、怖くないんだからね!本戦に出てくる私の決闘者の噛ませ犬にしてやる、覚悟しなさい!)

 

王女の蔑んだ目線を感じつつ、再び開会式の挨拶をする貴族へと目を向ける。ヴァルカ王国の宰相、マスル侯爵、山賀と因縁のある相手のスポンサーの姿は、正にザ・貴族と言った出で立ちであった。彼等のチームは本戦のシード枠であり、予選で当たる事は無い。しかし、功用としては予選をとっとと勝ち上がる事しか頭に無かった。居並ぶ決闘者達を見据えるが、威圧感は一部を除いて感じない。五十もの貴族達とその決闘者達に感じた率直な感想は、

 

『この様で俺達を雑魚扱いか。』

 

と、全く意に介さない。しかし、功用は口でそう言いつつも、油断を一切しない。かつ、極端に不遜な態度は、スポンサーたるアルの評価を下げる為に自重している。

 

『戦いの時に、わからせる、これだけは変わらない。』

 

功用は開会式の終わりまで、内なる闘志を抑え、その時を待つのだった。

 

 

『え、いきなり戦うの?明日からじゃなかったの?』

 

そんな間抜けな声を発するのはハルマだった。予選開始は翌日なのだが、デモンストレーションであるオープニングマッチに、功用達のチームが呼ばれたのだ。デモンストレーションの翌日には自分達も出場する為、戦いの疲労を残したまま戦わねばならない。

 

『つまりは嫌がらせって奴か。で?その対戦相手は?』

 

『第一王女のサブチームでしゅ!いわゆる二軍なんでしゅが、百人規模のチームの中で一軍を含めた八人の中の四人でしゅ!まずいでしゅね……』

 

『あわわ……そんな相手とオープニングって……』

 

しかし、功用達はそれを聞いて笑みを浮かべた。

 

『いい機会だな、俺らに対する印象、変えてやろうぜ!』

 

『『『応!』』』

 

 

昔からオープニングマッチは開催されていた。王族が早めに潰しておきたい貴族の新生チームを選び、疲弊させる。事が国家の代理戦争故に、汚い裏の工作が起こるのだ。因みに飯に下剤を忍ばせたり等の卑怯な手も使われるし、別チームの補欠戦士が袋にする事も珍しくない。

 

功用はこちらに来てそう言った情報を仕入れていたので、食事は持ち込み、チームで動き、絡まれる確率を減らすように気をつけている。また、当主や侍従が幼い為、誘拐されて人質にされる可能性を考慮して、会場の安全な場所の把握に努めていた。

 

オープニングマッチ、相手チームのスポンサーを聞いて、功用はやはりと驚かない。王族特有の長く伸びた鼻っ柱をどうへし折ってやろう?戦いつつ、アル達の安全をどう確保するか?算段はとっくに終わらせ、会場中央のリングに向かう。

 

功用達を迎えたのは、割れんばかりのブーイングだった。元々アルが最下級貴族である事で、貴族系の観客からは舐められていたが、何処ぞの姫様(ばか)が、決闘者は無能認定ばかりと要らぬ情報を流していた為、歓迎等されない。

 

『凄いヤジッスね川島さん、某縦縞の野球ファン並に品がねぇ。』

 

『だからいい、そう言うブーイングに対しての返答は、いつぞやの鴎球団がやったように完膚なきまでに捩じ伏せて、観客のヘイトを応援していたはずの側に向かわせてやればいいのさ。』

 

功用は敢えて悪い顔で微笑んだ。実のところ、観客の大半は非貴族たる市民階級以下の人間が多く、観客が手の平返ししやすい事をアルから伝え聞いていた。ブーイングもプロレスで言うヒールに向けられる煽りと一緒、そうと分かれば戦いやすい。

 

『よし、みんな、明日の試合は俺が大将だから出番無いし、オープニングマッチ、俺一人でスイープするよ。』

 

『ちょっ、無茶じゃないッスか川島さん?!』

 

『いや、川島さんには考えがあるはずだ、ここは彼に任せよう。』

 

『僕も同じく。川島君はこの会場にいる人間に何の圧力も感じなかったと言った、世界ランカーの直感を信じよう。』

 

『……わかったッス、ただ、油断はしないでくださいよ!』

 

心配する竹田に、功用は今日一番の悪い笑顔でこう答える。

 

『俺がデビューしたてのボクサー以下のいきり野郎共に負けると思ってるのか?……まあ見てな。』

 

功用はグローブを突き合わせ、リングにかけ上がった。

 

 

 

『ッシッ!』

 

『ヴォェッ!』

 

功用のパンチが相手の腹にめり込む、相手は何が起こったのかも分からぬうちにダウン、失神した。この光景が四回、あっさりとし過ぎて会場も完全に静まり返っていた。

 

『しっ、勝者、コウヨウ・カワシマ!』

 

『なっ、何だよあれ、あいつ無能認定受けた雑魚じゃなかったのかよ?!』

 

『ぜっ、全員たった一撃で倒してしまったなんて……』

 

会場が静寂の後にざわつき始めた。最初はズルをしただ、相手が油断し過ぎだと喚いていた観客達、しかし、功用が全く同じ箇所に、的確にワンパンチでノックアウトする様を見せつけられては、嫌でも認めるしかなかった。

 

『ふん、本当に新米ボクサーの方が手強かった位だ、鍛え直してこい!』

 

川島功用、彼に、手心の二文字は無い。

 

 




バトルはしょってあっさりしてますが、後半にバトルを書きますのでご容赦ば。

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