異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐   作:劉鳳

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第9ラウンド 展覧試合予選会‐中編‐

 

オープニングマッチを難なく勝利した功用は、心配するアルを安心させる為、回復所に行った。

 

『凄いなあんた、怪我が無い処か、疲労も全く溜まってないなんてな。』

 

回復所のドクターは素直に驚いていた。オープニングマッチの王女側の人間は二軍にして他の一軍にひけを取らぬ決闘者ばかり、それを無傷で倒してしまったのだ。

 

『この感じなら、ハンデにもならない、貴族達にしっぽ振ってるあいつらをのしてくれよ!』

 

回復所のドクターは、この世界の市民階級だった。上級貴族とその決闘者に対し、余り快く思って無かったらしく、功用の戦いぶりは胸がすく思いだったと言う。功用はそんなドクターに笑顔で返す。

 

『ああ、いきり散らした馬鹿達の長い鼻っ柱をへし折ってやるさ!』

 

『やっぱりコウヨウしゃんは強いでしゅ!展覧試合、この調子で頑張りましょう!』

 

 

『あの野蛮人め……』

 

王女は不機嫌さを隠さずそう吐き捨てた。拳のみで戦う功用の戦い方に、見下しがあったのは否定しない。問題なのは、スキルを持たない純然たる無能認定の男に、自分の決闘者を叩きのめされた事実を受け入れられないのだ。そんな中で、王女を更にいらいらさせる事態が発生していた。

 

『また拳で戦う人間がやって来るなんて……』

 

 

 

ヴァルカ王国は現在、度重なる誤算に喘いでいた。無能認定者の展覧試合出場、オープニングマッチでまさかのスイープ、そして……

 

『私をここに連れて来た理由を教えて貰おうか?返答次第によっては私は容赦しない。』

 

数人の武装した近衛兵達がピクリとも動かず倒れていた。目の前の男はただ呼吸を整えて王座に座る国王と、側に立つ王女の二人を睨み付けた。王女はこのデジャブ溢れる展開に吐き気と目眩に見舞われたが、国王の手前、何とか堪えた。しかし、目の前にいる男の出で立ちが、憎き無能召喚者と何処と無く似ていた為に、気持ちは穏やかでない。

 

『人をモノ扱いする輩は嫌いでね?特に人をゴミを見る目で見る人間はラビィを殺した奴等を思い出すんで不愉快だ。』

 

ピーカブースタイルで構えたボクサー、もし功用がこの場にいたら、興奮を抑えきれなかったろう。マイケル・ギーグ・アームストロングが、此方の世界に転移したのだ。時間的には功用が転移して僅か三分と言う時間だったが、次元の歪みの影響か、半年ものラグが生じていた。

 

『あ、あの無能召喚者と同じ出で立ち、みっ、見るだけで不愉快ね!』

 

王女の言葉を聞くや否や、マイケルは目にも止まらぬ速さで王女の側に飛び込み、王女のすぐ後ろにいた兵士を打ち抜いた。兵士は殴られた勢いで地面に叩き付けられ、そのまま失神した。

 

『同じ出で立ち、か……聞き捨てならないな。君達、話を聞かせてくれ。但し、先程のような返答では、この男のようになるぞ。』

 

まるで飢えた虎のごとき威圧感を出しながら、マイケルは言葉を放つ(因みに転移者はもれなく自動通訳のギフトを貰っております)。命の危険を察した国王と王女は、マイケルの言葉に素直に従った。

 

事情を聞いたマイケルは、功用がこの世界でしっかり生き残っている事に安堵しながらも、人を使い捨ての道具に拐う異世界のやり方に怒りを抑えられない。

 

『自分勝手なものだな……殺されたって文句は言えない事を平然と、それも一万人以上もやったのか君達は……』

 

マイケルは尊厳を踏みにじる者を赦さない。子供の頃、学校で飼育していたウサギを殺した同級生を殴り殺し、宿命のライバルと言われたマニュエ・ロウジョンコムとの試合を妨害したマフィアを殴り殺した……尊厳を踏みにじる者は、例え国家権力であろうとも、彼は怯まないし容赦しない。

 

場の雰囲気がかなり危ない事を察した神官が、マイケルの能力を鑑定したいと出ていく。あくまでも悪意無くそう言う神官の言葉を信じ、それでいて周りへの警戒を一切緩めない。

 

マイケル・ギーグ・アームストロング

 

年齢:24歳

 

スキル:魔法不発。バフ、デバフ、状態異常無効(半径100m以内、直接触れる回復魔法のみ有効)

 

 

『こっ、これは……なんと恐ろしい事だ……』

 

国王が怯えを見せた。マイケルは能力を持っていたが、それは自分すら含めた相手の魔法と言う魔法を無効化する力であった。逆に言うならば、このスキルを持つ者は己の鍛えた肉体のみで相手と戦う事を強いられる為、本来ならば無能認定を受ける所謂外れスキルであった。しかし、国王は目の前の男の尋常ならざる力を見て、能力との相性が最も生かされる人間だと悟った。

 

『お父様、この者は無能認定なので『マイケル・ギーグ・アームストロング〔殿〕、貴方に有能認定を授けよう。』

 

一同は驚愕した。国王自らが有能認定を即座に取り付ける等前代未聞だった。

 

『国王陛下、そうお呼びした方が宜しいか?尤も、私のいた国ではもとから王はおらず、一番偉い者でも閣下の尊称しかないのでそこまで畏まるつもりはない。』

 

『構わぬ。何れにせよ、多くの民を守る為に代理戦争と言う形を取って異界の人間を拉致してきた事実は覆せぬし、そのような事をする人間にへりくだる必要も無い。』

 

国王は本能的に目の前の男の強さを悟った。その強さは、現在ヴァルカ王国で権力を持つ召喚者である四旗大将すら凌ぐと感じた。国王も元は名うての聖騎士と言われた男である、箱入り娘の王女と違い、実力を悟ったわけだ。

 

『ありがたく、その言葉を頂戴する。それで……私をどうする気だ?』

 

今だ嫌悪の目でマイケルを見つめる王女や近衛兵を横目にしながら、国王に問う。国王はややあって答えた。

 

『ヴァルカ王国内における自由を保証する。もしそなたが望むのであれば、どんな望みにも応えよう。』

 

その言葉を聞いたマイケルは僅かに微笑んだ。

 

『ならば一つ、宣言する。私は代理戦争の道具にはならない。代わりに、決闘する事があれば進言しよう。今はこの国全体を知りたいのと、この体をより強くする為に修行をしたい。場は存在するのか?』

 

『そなたにうってつけの場所は四旗大将(しきたいしょう)の修練場をおいて他に無いな。』

 

『ありがとう、ならばそれでいい。近衛兵の者には気の毒な事をした、私も苛立っていたのでな。』

 

マイケルはこうして、王直々に自由を約束された。マイケルに付加された称号は一代大公、この称号を持つ者は国王と同等の扱いを受ける。

 

 

 

その日の夕方、国王の直近である四旗大将が集まり、会議をする事となった。会議の場には、王子や王女、有力上級貴族が集まり、当然ながら第一王女の姿もある。王女の顔を見て、一同緊張の眼差しを向ける。

 

『なあ王女殿下、なんで不機嫌な顔してるんだ?』

 

最初に沈黙を破ったのは、四旗大将の一人、ヨンナム・アン。釜山出身の留学生で、スキル:炎竜(フェイロン)の持ち主。

 

『お父様……もとい、陛下が直接召喚者に一代大公の称号をある男に与えた。』

 

『『!!!』』

 

一同騒然となった。一代大公、その者限りの一代称号であるが、国王ですら裁けぬ権限を持つ、令外(りょうげ)の存在。召喚者に与えられる事はまず無いと言われた称号を、国王が即座に与えたと言う事実は、余りにも現実離れしていた。

 

『不敬ながら、陛下はご乱心にあらせられるのですか?』

 

そう言葉を発したのは、四旗大将の一人、東郷マリア。日系スコットランド人二世で、剣聖のスキルを持つ。

 

『いや……陛下は騎士時代に名を馳せたお方、戦う人間だからこそ悟ったと……』

 

王女自身、納得はしていない。相手はただの拳で戦う男。しかし、オープニングマッチで二軍が同じ拳で戦う人間にスイープしている事実をすっかり忘れている。

 

『んでも話に聞けば外れスキル持ちらしいじゃん?何ビビってんの?』

 

軽口を発する男は王来栄(ワン ライエイ)、香港出身のビジネスマン、魔法スキル:天臨(あまのあらわれ)の使い手である。

 

『何にしても納得いかないな、俺達が苦労して公爵位まで上がったってのに。』

 

不満を口にした男は塩田永莉夫(しおた えりお)、四国出身の元日体大大学院生、スキル:拳神(けんしん)を持つ格闘戦士。彼は四旗大将筆頭であり、日体大でレスリング部に所属していた肉体派であった。

 

『不満を口にしたくなるのは構わないが、まず私の事を知ってからにしてくれないか。』

 

『『『何時の間に!!!』』』

 

マイケルがその場に現れた。下は白いタンクトップに黒のスラックス、上には白地に金の刺繍が描かれたガウンを着て、音も無く入室した彼に皆が驚く。

 

『ぼっ、ボクサーかよ……例の無能認定の男とだぶるな。』

 

王の軽口はややひきつっている。マイケルから放たれるプレッシャーが凄まじいのだ。

 

『すまん、自己紹介がまだだったな……私の名はマイケル・ギーグ・アームストロング。アメリカはアーリントンの出身、職業はボクサーで、WBA、WBC、IBFのウェルター級王者だ……宜しく。』

 

その経歴を聞いた塩田は固まっていた。塩田も畑違いとは言え、格闘技をやって来た人間である、マイケルが口にした三団体は時折ボクシングの生中継で聞き覚えがあったし、マイケルの顔に見覚えがありすぎた。

 

『よりにもよってマイケル・ギーグ・アームストロングがここに来たのか……゛アンタッチャブル゛、゛タイソン、メイウェザー級の逸材゛、゛エンペラー・オブ・ボクシング゛……色んな渾名で呼ばれてる最強王者……成る程、国王の判断は正しい。』

 

塩田が余りにも早く相手を認める様に、周りが困惑していた。それもそのはず、ボクシングが世界的スポーツとは言え、競技人口が多いわけでは無い。スポーツ中継が積極的に行われているのは主に北米であり、日本も余り力を入れていない。

 

『なぁ、塩田よ、彼、そんなに強いの?』

 

『ああ……試合を見たボクサーはおろか、総合格闘技の選手やキックの連中ですら、彼の試合を見て青ざめた位には……』

 

何事にも動じない塩田の怯えたような表情に、一同は沈黙するしか無かった。

 

 

予選会当日、功用達は改めて戦う順番を決める事になった。オープニングマッチで暴れた功用は大将、他の三人が其々体重順に並ぶ形をとった。

 

『と言う訳で竹田君、先鋒宜しく。』

 

『ウッス、簡単に行くかは分からないですけど、行ってきます!』

 

自分達の出番が回って来た所で、闘技場に入場する。一回戦の相手は、ロンヤー伯爵の決闘者チーム『インビジブル』。剣術を主とした白兵チームである。

 

『武器持ちチームかぁ、ちょっと不安。』

 

『と言うか素手で戦う人間の方が珍しいと思うよ?』

 

『まっ、まぁそうなんすけどね……』

 

竹田は割と緊張するたちである。いじめられっ子であった時代が功用よりも長く、自信がいまいちわかない。しかし、功用は知っている、竹田が人一倍努力を重ねて来た事、単身本場タイに渡ってラジャダムナンスタジアムで素晴らしい戦いをしていた事を。

 

一方、インビジブルの面々は、功用達が三浦以外武器を持たない相手である事に余裕を見せる。

 

『大将のボクサー以外で気をつけないといけないのは、あの如何にも自衛隊員な兄さん位だ。後は格闘技系ばっかだから間合いに詰め寄られなければ勝機はこっちだ。』

 

インビジブルがチーム名に透明を冠した理由は、速い剣戟により、見えない何かに斬られるように周りからは見える様から拝借したのだそうだ。召喚者で有能認定を受けた者の多くは、その能力に驕り、高ぶり、努力を積まない者が多い中、彼等は切磋琢磨してその技術を磨いた。幸運だったのは、スポンサーたるロンヤー伯爵が、若い頃は騎士として有名な猛者であった事か。彼等を優しく厳しく鍛え上げ、優勝候補に名前が列せられるチームとなった。

 

『富岡君、先鋒の竹田って男はムエタイ選手のようだね、接近すると危ない。』

 

インビジブルの大将長谷川がそう評価する。長谷川は元警察官で、武道の心得があり、冷静に分析する。

 

『肘と膝、それにあの脛は凶器と見ていいでしょうね……ナイフが武器の僕としてはその懐に入りたい所ですが。』

 

富岡は元警備員で、警棒による制圧術を心得ている。武器がナイフであるのは、警棒による制圧術を活かす為である。

 

『俺達はギリギリ有能認定を貰った身だ、油断しない。それに、ギリギリ又は無能認定受けた人間にはな、皆あっちの世界で強かったのが有能認定者に比べてかなり多いんだ。あっちの大将はボクシングの東洋王者だ、重い階級のオリンピック金メダリストだ。』

 

リーダー長谷川の言葉で全員が功用の存在を思い出した。ミドル級で日本人史上二人目の金メダリスト、プロ入り後も着実に力を付けてきた功用には大手飲料会社二社のスポンサーが付いていたので、地上波での試合の放送も二試合経験している。格闘技に興味のある者なら、功用の存在はかなり有名ではあった。

 

『何れにせよ、あの大将と戦うまでに、先鋒の俺が出来る限り倒しますよ。先ずは俺と戦いの間合いが似ている彼を倒さねば……』

 

富岡はナイフの手入れをしながら、その時を静かに待った。

 

 

『オープニングマッチをスイープした無能認定者の集まり、あんたはどう思うの?』

 

マイケルの有能認定に納得のいかない王女は、敬語も使わずにそうごちる(一代大公の身分は国王と同格)。マイケルは特に気にせず答える。

 

『無能認定の見直しを要求したい位には強い。と言うより、大会参加者の集団を見て分かったが、無能認定ギリギリの人間に実力者が目立つように思うがな。君達は我々の世界の人間を少々舐めているようだが。』

 

マイケルは真顔でそう語る。決闘者の認定を出しているのは国王や王女と言った王族のお付きの神官が直々に出しているのだが、扱いに関してははっきり言って無能有能に関係なく使い捨ての駒としか見ていないのが現実だった。マイケルはそれを即座に看過し、率直な意見を返しているのだ。王女は不貞腐れた顔でマイケルに返す。

 

『私はあんたみたいな拳で戦う野蛮人を認めない。』

 

『それは君が言っていい発言じゃないと思うよ?そもそも、此方の世界に私達を拉致したと言う事実を軽く見過ぎだ。君は父親である国王陛下の裁定に納得がいかないのか?』

 

マイケルは殺意を込めて話す。王女が影に複数名の兵士を潜ませている事を見抜き、いつでも彼を殺そうとしている事を見透かしている。

 

『どうやら分からず屋のようだな君は。私は君の国の人間の為に働く義理はミリ位はあっても、義務は無い。それに……また屍を増やしたいのか?』

 

マイケルは既に力を顕現している。魔法が無効になっている状況、後は飛び道具に気をつければマイケルには危険も無い。一方の王女は王女でよからぬ事を考えていた。

 

『私があんたに襲われたってここで泣き叫んだら、どうする?』

 

『忍ばせている兵士が証人になって私を犯罪者に仕立てあげると?下らん。』

 

マイケルは王女の浅ましさに呆れも何も無く、静かに睨み付ける。一代大公の身分剥奪の条件は国王に手をあげた者(・・・・・・・・・)と言う一文にあり、王女の行為は越権行為であり、国王の意思を尊重しない反逆行為にあたる。

 

『革命かクーデターでも起こしたいのか君は。』

 

『拳で戦うあの野蛮人に私は殴られた。それが気に食わない。』

 

隠れていた兵士達が武器を手にマイケルを取り囲んだ。マイケルはため息を吐くと、目の前に迫る二人を軽くジャブで倒す。

 

『王女よ、実力のある者を認める事位の鷹揚な心は持ってもらいたいものだ。特にカワシマ、彼に対してはな……』

 

踊り出てくる兵士達を殴り倒しながらマイケルはそう口にした。

 

 

〔さあ始まりました!展覧試合予選大会第一試合、その実力は実証済み、見えない太刀筋で相手を倒す様からその名を付けた、チームインビジブルの登場です!〕

 

大きな歓声の中、インビジブルの面々が決闘の広場に入場する。軽装の革鎧と各々の武器を手に、威風堂々とした入場をする。

 

〔対しては、今大会の台風の目、なんとメンバー全員無能認定と言う異色の存在、しかしオープニングマッチで見せた圧倒的実力、インビジブルとの白熱した戦いの行方は?マークス騎士爵のチームだぁ!〕

 

こちらはブーイングと歓声半々の中の入場、しかしブーイングはおさまり、歓声はオオッと言う驚きの声に変わる。先鋒の竹田が黄色地に金色の刺繍を誂えたガウンに身を包む。頭にはムエタイの試合で付けるモンコン、腕にはパープラチアットと言うお守りを身に付け、6オンスグローブをはめている。次鋒の真田はスプリッターパターンの灰色の迷彩に身を包み、頭にはヘルメット、手にコンバットナイフを携えた出で立ち。副将の山賀は、真新しい柔道着と黒帯、頭には旭日の鉢巻を巻いて、手にはオープンフィンガーグローブをはめたシンプルな姿。そして、大将である功用は……フード無しの黒いガウン、背中には赤い刺繍で描かれた龍。8オンスグローブ、ボクサートランクスにリングシューズと言う姿。つかみと言う意味でのインパクトはこちらが勝ったようである。

 

『ふんっ、派手な衣装に身を包んでカッコつけやがって……皆、手加減するなよ!』

 

インビジブルの面々は若干の不快感を顔に出しながら、功用達を見る。対する功用達は先鋒の竹田がガウンを脱ぎ、武舞台に上がるとワイクーを舞いだした。本来なら音楽と共に舞うのだが、音楽を奏でる者などいないので、純粋に自らの身体の仕上がりを見せるデモンストレーションになっていた。

 

『竹田君、頑張って!』

 

『うす、やってやりますよ!』

 

 

〔先鋒、ヒデヨシ・トミオカ、ケンサク・タケダ、前へ!〕

 

レフェリーに誘われ、両者はリングに上がる。インビジブル先鋒富岡秀吉(とみおか ひでよし)は、両手に持つナイフで目にも捉えきれない速度で懐に入り、喉笛をかく、素早さ特化のファイターである。対して、竹田は利き腕である左を顎にあて、右腕を前に突き出すサウスポースタイルで静かに構える。

 

〔始め!〕

 

開始の号令と同時に飛び出したのは富岡だった。既に能力の強化はしているのか、ただひたすらに竹田に接近する。

 

(速い、しかし、目に捉えらぬものでもない!)

 

竹田は冷静だった。富岡の前に出した左手に冷静に右ジャブを当て、体勢を崩す。ハッとしながらも富岡は直ぐにバランスを整え、右に構えたナイフを上から下へと振るう。先端の速さだけ見れば時速200km/s相当まで達しているであろうそれを、竹田は肩の稼働域等で予測して避ける。

 

体重を乗せた一撃故にバランスを大きく崩した富岡はしまったと顔をしかめるが、その時には既に、竹田の左膝が富岡の顔面を正確に捉えていた。鼻が潰れ、鼻血がダラダラと流れる顔面に、竹田は間髪入れずに右肘打ちを富岡の顎に食らわせる。富岡の意識はそこで完全に刈り取られた。

 

〔勝者、ケンサク・タケダ!〕

 

オオオオと歓声が上がった。勝負は時間にして1分程だったが、緊迫感のある雰囲気は十分に伝わったらしい。竹田は運ばれて行く富岡を一瞥しながら、歓声に応える為、拳を天に突き上げた。

 

 

『まさかヒデちゃんがあっという間にやられるなんて……』

 

『本当にあいつら強ぇな……やっぱ実際に戦わないと分からんぜ。』

 

インビジブルの面々は先鋒富岡の敗退に動揺していた。富岡は切り込み隊長として今まで活躍し、本選でも優勝候補の猛者達相手に善戦してきた男である、動揺しない方が可笑しい。

 

『あのムエタイ選手、とにかく間合いの外からチクチクと攻略するのが吉と見た。あたしが富岡君の仇取ってくるよ。』

 

〔インビジブル、次鋒、サダコ・ウノ、前へ!〕

 

インビジブルの次鋒は、身の丈位の長さの手槍を持った長身の女、宇野禎子(うの さだこ)。元は文系の高校生だったが、こちらの世界で生き残る為、力より技で押せる槍術を懸命に体得した。

 

(素人……では無い。血の滲むような鍛練を積んだのが分かるな。)

 

彼女の身体は、女性的なラインからハッキリと分かる程、背中の筋肉と太股が発達していた。一筋縄ではいかない事を悟った竹田は、しっかりと宇野に正体した。

 

〔始め!〕

 

『ヤァッ!!』

 

『くっ!』

 

開始の号令の瞬間に距離を詰めてきたのは富岡と同じだったが、長柄の武器を持つ分、宇野の攻撃はあれよと間合いに達していた。ダッキングでかわしつつ、タイミングをはかる竹田だが、宇野の突きの連撃はとてつもなく速い。

 

(なんつー突きの速さだよ!ボクサーのジャブのリーチをそのまま長くした感じ、近付けねぇ!)

 

神経強化(センス・ギアアップ)!』

 

宇野は神経の伝達を強化する魔法を唱えた。この技は身体にあるありとあらゆる神経の過敏さを上げる事により、通常の二倍もの五感反応能力を得る、同時に、痛覚も倍加されるため、攻撃を受ければ激痛が走る諸刃の剣でもある。

 

感覚が削ぎすまされた宇野の攻撃は、竹田の肩や太股に槍先が掠めて行き、じわじわとダメージを与えていった。瞬き一つでもしてしまえば槍が体を貫く程に、竹田を追い詰めていく。

 

(能力持ちってのを抜きにしても隙が無い……ならば!)

 

竹田は前進する道を選んだ。槍の根元を過ぎれば得意の接近戦に持ち込める。しかしその動きを既に読んだのか、宇野は一歩後ろへと下がり、再び突きを見舞う。

 

『まずい、あの宇野とか言う女性は竹田君を肉体心理両面で追い込むつもりだ……』

 

『竹田君に勝ち目は、あるのか……』

 

真田や山賀達が徐々に削られていく竹田の様子に焦る中、功用だけはしっかりとその瞬間を見据えていた。

 

(竹田君、中々に我慢強い。一撃を狙ってるな。)

 

 

宇野の攻撃により、竹田は全身のあちこちに切傷がついていた。傷一つ一つは小さいが、それらが複数、血も着実に流れている為、失血により意識障害も出始めている。更に隙間無く攻撃される事で体力をも奪われ、動きも精彩を欠きはじめていた。

 

(さぁ、落ちなさい!)

 

宇野は最後の追い込みとばかりに、刺突のギアを上げる。そして遂に槍の一撃が竹田の右肩を大きく抉った。竹田がぐらつき、膝をガクガクさせながら何とか立っている状態に追い込まれた。宇野はここぞとばかりに渾身の刺突をかけた。

 

『トドメよ!』

 

『うぉらぁあああ!』

 

『ガハッ!……そん……な……』

 

その刺突を敢えて切られた右肩にかすらせながら、槍を掴み、竹田は宇野のテンプルへ左膝蹴りを炸裂させた。神経強化による痛覚の倍加も合わさり、テンプルへの打撃によるダメージは宇野の意識をあれよと言う間に奪い去った。信じられないと言う表情のまま、宇野の意識は闇へと消えていく。

 

『はぁっ、はぁっ……へっ、勝ち誇った瞬間ってのは……隙だらけなんだぜ?お姉さん。』

 

ガクンと膝をつきながら、ダウンした宇野にそう言葉をかける竹田。しかし、その勝利の代償は大きく、このまま戦闘の継続は難しそうだった。

 

『みんな、すんません……ちょっとダメージ受け過ぎました……後は頼みます。』

 

『竹田君……おう、任せな!目ぇ覚めた時には、帰る準備する位には捻ってやっからよ!』

 

武舞台から降りた竹田は功用の言葉を聞くと安心したように倒れ、すぐさま医務室送りとなった。

 

 

 




ここも改稿しました。うん、第二王女って言ってるのに皇太子はねぇだろと思い、更に各所もちょい直しました。

一話辺りの文字数はどの位がいいですか?

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