異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
展覧試合予選会、二回戦。この二回戦の勝者が展覧試合本戦に出場する事が出来る。展覧試合に出場する戦士の九割以上の者は有能認定を受けている。それが意味する事は、常人では試合に出られないと言う意味、常人ならば。
テムジンの大将、
『大関の名に負けぬよう、一生懸命に相撲に取り組みます。』
と、真っ直ぐな人柄溢れる言葉を残す。その言葉通り、大関昇進後の場所で全勝優勝、来場所は綱取りと言う期待の中、父の訃報で帰国する最中にこの世界へとやって来た。
召喚された時、彼の能力は無能認定を受け、あわや奴隷送りとなったが、彼は必死に逃亡し、たまたま近くを通りかかったトール上級騎士爵の元に駆け込んだ。トールは無能認定を受けた彼を、温かく迎え入れた。彼もまた、有能無能の認定に疑問を持つ人物であった。朝白狼はメキメキと力を付け、前回の大会本戦に出場を決めた事で、その身分の保証を確実にした。前回大会で彼と戦い、辛くも破った西郷は言う、大関は強い、次にやったら勝てるかどうかとまで言わせる程であった。
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『大関、何だか今日は上機嫌ですね?』
チームメイトの
『うん、とっても。なんてったって僕と同じ無能認定の人間が、自分の持てる力だけでここまで来てるんだもの。』
朝白狼は上機嫌に言う。無能だなんだと言う連中なんて糞食らえ、気骨のある人間は敵チームであれ尊敬に値する。朝白狼は重さ二百貫はあろうかと言うテッポウ木に張り手を噛ませる。バシンと大きな音と共に、その周囲の地面が僅かに揺れる。
『大関のテッポウはホントに人を殺せる位強いですわ!』
そう驚くのは
『芳乃ちゃんも調子は良さそうだね、あのチームはかなり強そうだけど、みんなの調子もいいし、僕の出番は無いかもね。』
『しかし、侮れんですよ。何と言っても、王女の二軍をスイープする程ですからね。』
そう釘を刺すのは
『ふふふ、そうだね、油断はダメだね。前回大会も僕らが無能と思ってた予選の連中はぼこぼこにしちゃったもの、だから当事者たる僕らは冷静に、だね。
よし、ならば僕が次鋒に行くよ。梵君が先鋒。一気に片を付けて、先輩としての意地を見せてやろう。』
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その頃功用達は、次の対戦相手であるテムジンとどう戦うかを話しあっていた。展覧試合は基本的に選手を自由に入れ替える事が出来る。だが基本的にメンツを気にするスポンサーたる貴族らは大将を動かすのを躊躇うのだ。しかし、功用はここで自らを先鋒にしてくれと志願した。初戦においてオープニングマッチしか戦っていない事もあって戦いを求めていたのもあるが、テムジンも大将たる朝白狼が次鋒と言う早い出番でかち合う事が前回大会のデータで分かっていたからである。
『どうも朝白狼は、予選会では早めに出て相手を蹂躙し、本戦で大将として出ると言うパターンが多いらしい。先鋒でない理由は相手の出方を見る為らしい。』
向こうチームには参謀的存在である和泉と、朝白狼仕込みの相撲の使い手である梵の存在が大きい。先鋒は梵で既に登録していると言う。
『ガチの大関とその大関によって鍛え上げられた人間に頭脳明晰な魔法使い、とどめがバレエの動きを殺人術に昇華したお嬢様、隙が無い。』
そう言いながらも功用の顔はやる気に満ちていた。相手が強ければ強い程燃えてくる、功用とはそう言う人間である。
『全くこの人には叶わねぇや、ならば俺、大将やります!』
竹田が自信満々にそう立候補して大将を志願する。山賀も真田もそれでいいと言って特に気にしていない。このチームは基本的に誰しもが大将を張れる強さを持つ、拘りと言えば勝つことのみだ。
『無差別級の競技、相撲。張り手と言うストライカーな戦い、掴み、投げと言うグラップラーな戦い、なにより体重が100kgを優に越え、そして腹回りの厚い皮下脂肪……ボディブローは通じないと考えて差し支え無いな。しかし、こちとら六階級制覇を目指していた口よ、体格の壁なんていつかは当たると思って対策は取ってるさ。』
功用は最終目標と公言していたクルーザー級、更には最重量であるヘビー級すら視野に入れていた。拳のみ、かつ上半身全面と側面しか攻撃出来ないボクシングと言う競技故に今までは階級差を考慮しなければならなかったが、展覧試合に階級や反則は無い。攻撃部位が増えると言う事は、ある程度の体格差があろうとも対処は可能だと判断している。当然、油断はしない。大相撲中継で朝白狼の相撲を見ていたからこそ、彼の強さを侮るつもりは無かった。
『かつての大横綱である
そう言う功用の顔はニヤリと笑っていた。己の持つ能力のみで強い真の猛者と対峙できる楽しみ、功用にとってはそれこそが生き甲斐だった。
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あれから三日が経過し、展覧試合予選会第二戦目が行われる。観客は満員御礼、賑やかな中で、両チームが入場した。互いに騎士爵のチームと言うのもあってか初戦と違い、功用達チームへのブーイングの偏りは無い。何より、the PROUDとテムジンの戦い方は貴族だ平民だと言う拘りを捨てる程にクリーンかつアグレッシブだった為、人気となっていた。
『しっかりと歓迎ムードの中で試合か、これはこれでテンション上がるな。』
功用としてはブーイングでもガソリンになるという超がつくポジティブ思考であるのだが、惜しみ無い声援の中で試合となるとまた違う力に変わると考えている。五輪で金メダルを取った時以来だろう声援の大きさ……功用はかつてを思い出す。プロデビューから驚異的な強さで勝ち続けてきた功用、しかし観客はウェルター級と言う階級に君臨するマイケルに勝てると思っている人間はいなかった。日本王者、東洋王者を取った時でも、お情けの拍手が入った程度で、世界王者になる等微塵も思われず、期待もされなかった。しかし功用はそんな中でこそ力がみなぎる。下馬評を覆し、戦いに勝利する。だから声援でもブーイングでも力になるのだ。
だがそれは、テムジンの大将である朝白狼もそうだった。
『こんなに声援を受けるのは去年の本戦以来だね、両国国技館の千秋楽でもここまで声援を受けた事無いよ。』
朝白狼は両国国技館での扱いを思い出す。非常に堅実で逃げの無い理想の相撲を取りながら、その声援が自分に向けられる事は殆ど無かった。異国の地よりやって来た相撲力士は過去あれど、理想の相撲、そして力士のあるべき姿を研鑽してきた彼に、観客は余りにも冷たかった。日本人力士に応援が行くのは仕方がない、問題は自分と同郷の力士と取り組んですら自分に声援が向けられない。朝白狼は幕内最高優勝を果たした時の賜杯授与の時の人のまばらさをその目に見ていた。僕が相撲を取ってはいけないの?そう思いつつも、大好きな相撲を続け、理想の力士をひたすらに目指して稽古を続けた。
『そして……この世界に来て、声援を送られる。偏見も何もかも取っ払って、ただ試合を楽しみにしてくれる人々、僕はやっと本気で戦えるんだ。』
朝白狼は、前回大会以上にその力を感じていた。かつ、目の前にいる功用の放つ力。恐ろしさよりも、クリーンな戦いを恨み無しに出来ると感じられる気迫、それが彼のやる気を更に上げていた。
『梵君、彼は強いよ。ただ、僕のぶつかり稽古に堪えてきた君なら、勝てる!それに僕がしっかりもしもの場合を乗り切る、頑張れ!』
『大関……ごっつぁんです!』
テムジン先鋒の梵が気合い十分にリングに上がってきたのを確認すると、功用も竹田にグローブを締め直して貰い、そして拳を胸の正面でぶつける。
『川島さん、重量級二連戦になりますけど、もしもの時は俺達がいます、頑張って下さい!』
『ああ……行ってくる!』
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脱字があったので修正しました。
後、相手方の貴族名もわけあって修正してます。
一話辺りの文字数はどの位がいいですか?
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1000字程度でよかよ
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2000から3000字程度は欲しい
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3000字から5000字は無いとね
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5000字以上は書きやがれ