異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
開始の号と同時に、功用は構え、朝白狼は立ち会いから張りさしを見舞う。功用はダッキングでかわし、朝白狼の右側面に回り込む。回り込む力を利用してジャンプ気味に朝白狼の顎を捉えるが、太く鍛えられた首と、常人離れした顎の力で脳の揺れを押さえた。
朝白狼はその巨体に見合わぬ素早さで功用と正体すると、その体をぶつけて来た。当たった瞬間に5m余り吹っ飛ぶ。しっかりと地面に足を付けていたら、腰骨等の重要な部位を損傷していただろう、功用はその強さに舌を巻くが、朝白狼も、きっちりステップで体を浮かしてぶちかましを軽減した功用に内心驚いていた。
『ふー、流石スーパーヘビー級の競技の大関だ、あんなもんまともに当たったら死ぬぜ。』
『一筋縄では行かないねぇ……むん!』
離れた功用との距離を再び詰める朝白狼、競輪選手もかくやと言う筋張った太股から発する突進力、功用はアウトボクシングで牽制しながら、離れ過ぎずくっつき過ぎず間合いを確保しながら、一発一発朝白狼に打撃を与えるが、朝白狼に有効な打撃は入らない。
(大関の動きがいい、こちらの攻撃を食らう寸前に威力を流すように打撃を逸らしている。踏み込んだパンチを打っていれば即座に掴まれて終わりだ。)
功用はそうしっかりと分析をしていた。体重を乗せたパンチが入れば、いかに体格に勝る朝白狼でも大きなダメージを被る。しかし朝白狼は攻撃を最小限の動きで流してしまう。
『素早いね、梵君を倒すだけはある。でも息が切れて来たんじゃない?』
朝白狼の指摘は当たっていた。先程の梵に食らった上手投げによる肺の圧迫ダメージは残ったまま。スタミナに自身のある功用でも、距離を取りステップを踏み続けるアウトボクシング戦法を続けるには少しきつく感じていた。
『ふっ、察しが良いんだな大関……ならば、戦い方を変えるか。』
功用はガードを上げた。所謂ピーカブースタイルと呼ばれる構えに移行し、大関の懐へと入り込む考えである。
『ちょっ、川島さん!あれ、大丈夫なんですか?!』
『分からない。しかしアウトボクシングでは埒があかないと悟ったのかも知れない。』
『だが投げ技のある相手の懐へと入るのは極めて危険だ。川島君は一体何を画策してるんだ?』
周りの心配をよそに、功用は構えながらややベタ足に近い足運びで朝白狼へと向かう。朝白狼はそれに対し、リーチを活かした張り手を連発する。張り手をしつつ功用を掴む機会を伺う。深追いせずとも体格のアドバンテージはこちらにあると見て、断続的に張り手を浴びせる。
(大関は俺が飛び込んで来るのを分かっているようだな。張り手は重いがそれほど脅威で無い感じからすると、俺の腰の辺りを掴んで来るのかもな。)
功用の読み通り、朝白狼は張り手により怯む隙を逃さず、腰を掴んで投げを打つ時を待っている。功用は敢えてその誘いに乗った。
(懐に!)
頭を振りながら左よりに潜っていく。朝白狼は待ってましたとばかりに腰、正確にはトランクスの腰の部分に手を掛けようと手を伸ばすが、視界から功用が消えた。
『っらぁ!!』
『グフッ!』
低く屈みこんでからのカエル跳びパンチが、朝白狼の顎の下、喉仏に直撃した。絶望的な体格差をむしろ活かし、朝白狼の視線の死角から狙いを定めた一撃、遂に有効打を当てる事に成功した。間髪入れずにワンツーを左側の顔面に叩き込む。朝白狼は堪らず功用に抱きつこうとするが、クリンチをかわすように間合いをあけ、今度は右側面に回って右ストレートをテンプルへと叩き込んだ。
『ははは、結構打ったのにまだ倒れねぇ、頑丈過ぎだぜ大関。』
朝白狼に有効打を浴びせながらも、いまだぐらつきもせず立ち続ける彼の姿に、功用は呆れる他なかった。
『いやー、中々に痛いよ川島君……効いたよ、幕内最初の頃に横綱の張り手を受けた時よりも……』
その目は血走っていた。幕内に上がるまで、痛みを伴う打撃を受けた事が無く、その幕内でも優勝する頃には受ける事も無かった激しい痛み……それは横綱を目指す男が一度心を折られるような感触……しかも目の前にいる自分よりも小さな男がそれを出したのだ。功用はそんな朝白狼に拳を突き出す。
『大関、俺には自慢出来る武器がこれしか無いんだ。何かが特に恵まれて生れた訳じゃない、ただひたすらに練習を積んで鍛え続けて来た。
大関は確実に強いから、俺はこの武器で確実に大関を倒す。』
その言葉を耳にした朝白狼は薄く嗤う。自らを研鑽してきたのは相手も同じ、ならば自分も敬意をもって鍛えた武器を抜くだけだと。
『仕切り直しだ、ちょっと顎が痛いけど、高名護部屋の寒稽古に比べればまだ堪えられる。』
『そうこなくっちゃ!』
ー
功用はインファイトを続ける。朝白狼の最大の武器、それは鮮やかな上手投げである。強力な足腰で四つに組み、素早く投げの形に移行するそれはネオ・ウルフスペシャルと呼ばれている。かつての大横綱千代の富士が得意としていた上手投げに付けられた別名にあやかったものだが、豪快さの面においては遥かに凌ぐ為、ネオと付けられている。
朝白狼は防御を捨て、ひたすらに得意の四つ相撲へと持っていく為、被弾覚悟で功用に潜り込もうとしている。功用も防御は無駄だと割り切り、潜り込む瞬間にアッパー、前からのぶちかましにはストレート、そして張り手にはクロスカウンターで応戦した。ストレートを放った時に、朝白狼は鼻を骨折し、鼻血がだだ流れになっていた。一方の功用も、クロスカウンター時に反対方向の張り手を返され、鳩尾にダメージを受けた。互いに消耗の様相を呈しながら、朝白狼が功用の左フックを掻い潜り、上手投げの体勢に入る。
『これで決めるよ!』
ガッチリと腰を掴んで、腕を引き上げ、腰をひねり、流れるような動作で放たれ、功用は地面へと叩き付けられた。石造りのリングの上で投げを放つ意味は、死に直結する、朝白狼程の人間が放ったら普通の人間ならまず生きてはいまい。
しかし、功用は地面に接触した後、転げるように受け身を取ると、その勢いのまま立ち上がった。
(大関、とんでもねぇ上手投げだな、受け身を取ったが、肩甲骨が折れちまった……だが、肩上にパンチをする以外なら問題無い!)
涼しい顔をしながら、再びステップを踏む功用を見て、朝白狼は驚きを隠せない。土をつけるだけの投げではなく、比喩抜きに殺しにかかる投げを放って、それでも目の前の男は立ち上がったと言う事実を受け入れられなかった。
『ははっ……いい加減、眠って欲しいね、僕の心が折れちゃうよ。』
『俺にも意地があるんでね……それに、アルの目の前では絶対に倒れないと決めたんだ、行くぞ!』
功用はピーカブーのまま朝白狼に再び肉薄した。朝白狼はならばと再び四つに持っていく為にそれを迎え入れる。
(投げが効果が薄いなら、捕まえてさば折りを……ちょっとエグいかも知れないけど……)
さば折りは相手にのし掛かる形になり、膝を破壊する技である。掛けた側の体重と相手自身の体重が一気にかかる為、危険な技とされている。体重170kgの朝白狼と、88kgの功用、合わせた重さに加え、朝白狼側からの圧力を掛け続けられる。捕まれば功用は足を確実に封じられる。だが功用に逃げの一手は無い。突き出された左手をかわして懐に入り込み、先程破壊した顎へ屈みからのアッパーを当てる。
『ぬがっ!』
朝白狼が堪らずぐらついたのを見逃さなかった。アッパーを引き戻した勢いを付けて左フックを顎に浴びせる。そして更に引き戻した勢いで右フック、相手の体勢が崩れたのを見てデンプシーロールからの連撃で攻める。
『うおらぁ!!』
そして最後は渾身の右ストレートを鼻へと放った。朝白狼は遂に仰向けに倒れた。
『ふふっ、つっ、強いな君……僕の負けだよ……』
脳震盪で視界がぼやける中、朝白狼は目の前に立っているであろう功用に賛辞を送る。功用は倒れた朝白狼の手を握り、それに応えた。
『次にやる時があれば、また宜しく……楽しかったよ大関!』
〔勝者、コウヨウ・カワシマ!〕
レフリーが勝者の名を告げると、功用は拳を挙げてそれに応える。激闘を繰り広げた両者に、周りから大歓声が飛んだ。功用はそれに礼で応えると、再び顔を引き締め、テムジンの残った二人に目をやる。
『さあ、次だ!』
朝白狼の戦いを見ていた二人は、彼の元までやって来て、朝白狼を医務室へと運ぶ手伝いをした。戦う意志が無いように感じられた功用は言葉をかける。
『あれ?戦わないの?』
『大将たる大関が負けたんだ、今回は退散するよ。スポンサーのトールさんも来年に向けての目標が出来たってポジティブに捉えてるみたいだしね。』
『ダメージの無い大関をここまで追い込んだのは貴方だけですの、それに、負けた事で収穫が出来たと、大関も思ってますわ。だから来年にまた戦えるように頑張りましょう?』
『だから必ず勝って絶対一番を取ってくれよな?』
『ああ、必ず……』
二人の言葉に、功用は首肯し、拳を突き出した。こうして展覧試合予選会での戦いは幕を閉じた。
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王道展開にしようと思って書いてたけど、王道って難しいよね(;´Д⊂)
一話辺りの文字数はどの位がいいですか?
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1000字程度でよかよ
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2000から3000字程度は欲しい
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3000字から5000字は無いとね
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5000字以上は書きやがれ