異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
『事情を話して貰おうか、姉ちゃんよぉ…』
『あっ、あわわ…おっ、落ち着きなさい…』
『落ち着けるわけねぇ!俺を元に帰せ、MSGで世界タイトルマッチするんだよ!要らんことするな!』
川島功用、22歳。絶賛オコである。MSGで世界タイトルマッチが行われようとしていた矢先、いきなり変な場所に飛ばされれば誰だって切れるだろと功用は愚痴る。話は20分程前に遡る。
『おおっ、殿下、今度の男は見た目は強そうですじゃ!』
その声の主が目の前に現れたように感じた為、功用はファイティングポーズを取る。当代最強の世界チャンピオンとの試合を邪魔された功用はギラついた目を回りに向ける。
『無礼な、殿下が面を上げいと言うまで我慢できんのか!』
口うるさそうな近衛兵が功用を押さえつけようと出てきたが、見事なウィービングからの右ストレートを顎に入れ、近衛兵はガクンと膝をついた後、そのまま倒れた。
『なんと!ジェフが倒された!何が起こったのじゃ?!』
世界ランカーのパンチは速い、基本的に時速30から40km/hのスピードであるが、素人目には目に止まらぬ速さに感じるであろう。功用のパンチは軽量級ランカー級のスピードに、ウェルター級の重さが加わったもの、更に元がミドル級なだけに、一発の重さが違うのだ。
『一つ、質問に答えな。人を拉致しといて言葉が足りないにも程がある…ちゃんと事情を説明してくれ。それとも、ここにいる鎧着た兄さんのように床とキスするかい?』
鋭い目を、殿下と呼ばれた少女に向けたまま、集まった近衛兵数名への警戒を解かない。近衛兵の持っている武器は刃渡り70cm程の両刃剣、弓を持った兵士はいない。近衛兵とは別に、貴族のような小太りの中年が二名と、最初に声を聞いたいかにもな神官風の男がいる。
『貴様、丸腰の分際でそんな態度、処刑されたいのか!』
『処刑?』
『くく、運がいいな貴様は。殿下は心の広いお方、貴様を下級奴隷の戦士として飼ってやるとよ…』
『豚が喋るな…』
そう言うと目の前の兵士二人に兜ごしにパンチを打つ。グローブごしで威力も何も無いと思うだろうが、ボクサーにとってグローブは凶器である。衝撃が面で広がる為、クッションの無い兜ごしに脳を揺さぶる。
『ぐおっ!』
『王族なら人を拉致してもいいと?』
言葉を終えるとしっ!と息を吐きながら、鎧の隙間に正確なフックをかまして行く。武器を持たない相手とたかを括った近衛兵は既に四人が伸びていた。
難を逃れた近衛兵二人は、目を合わせると、一人が背後に回り込み、背中を狙うよう剣を上段に構えた。前にいる兵士は剣を斜め上に構え、何時でも斬りかかれる体勢に入った。
『おのれ下劣な奴隷風情が!』
『だから豚が喋るなっつったろ…』
ドスッと音を立て、背後にいた兵士の顔面を殴った。兜の重みもあってか、兵士の首が曲がってはいけない方向に向いていた。前にいた兵士は功用が背後を向いた瞬間に剣を振り抜いたが、それを予測した功用は殴った拳を戻すと同時に剣をかわし、渾身のアッパーを喰らわせた。
『さてと…豚は黙ってろよ?』
『うぐ…』
『殿下だか何だか知らねぇが、聞き捨てならねぇ言葉が出てきたな。下級奴隷だ?説明を要求する。』
『うっ、薄汚い奴隷風情ガボア!』
『喋るなと、言った筈だ…仏の顔も三度までって知ってる?知らないか、神ガー神ガー言ってる世界っぽいもんな。』
頭に来た功用は口が減らない小太りの男の顔面を殴る、歯が何本か折れ、首が減し曲がっていた。
『まー、一言で言うなら、何度も言わすなって事さね。説明をしろ、さもなくばこうだ。言っとくが俺は悪人じゃねぇが聖人でもねぇ、悲しい時に泣き、怒った時に吠える人間だ、偉い立場だからと言っても言って良い事と悪い事の区別位はしてもらいたいな。』
因みに、功用は日本にいた時に偉い人にあった事がある。今上陛下と園遊会で謁見し、その身に纏うオーラとは裏腹に非常に謙虚な腰の低さに驚き、平伏したものである。
『劣悪などこぞの小説作品の王族だな……まあ我が国の陛下が立派過ぎるのもあるが……さて、さっきから黙ってばっかで答えてないな、殿下とやら。』
『えっ、はっ、はい……』
少女は少し半泣きになりながら事情を話した。
功用が引きずりこまれた世界、この国の名はヴァルカ王国。百年程前まで、隣国四国と血で血を洗う戦争を行っていた国。国が疲弊していく様を見た五つの国の首脳達は、戦争をしない代わりに、其々の地域の代表となる戦士を戦わせ、最後に残った地域の代表が十年間覇権を握ると言う、何処かで聞いたような代理戦争的な話で国の安定をはかっていた。
かつ、その戦わせる代表の選出は異界の地から召喚された人間に限ると言う。これは、異界の地の人間を引き込んだ際に、神からの思し召したるスキルなるものを授かる為、戦いを優位に進められると言うものだった。
『んで?そんなつまらねぇ事の為に、俺はここに連れて来られたと……ふざけんなよ?』
『おっ、落ち着いて……でも、異界の人間のスキルの強弱ってのがあって、強ければ厚待遇、国の援助を受けられるのよ。』
スキルは召喚された時に誰にでもつく。ただ、強弱があり、弱認定を受けた場合、異界の人間の扱いは……特に女性の場合、悲惨な末路を辿ると言う。
『てめぇらの都合でこっちに来た上に、奴隷?今ここで殺されてもおかしくねぇぞコラァッ!』
『ヒッ!まっ、待って!しっ、神官よ!この者を鑑定するのじゃ!このままだと絶対嫌な予感しかせぬ!』
『はっ、ははっ!』
神官と呼ばれた男は、鑑定と呼ばれる力で、功用のステータスを覗いた。ステータスの表示は功用にも見えた。
コウヨウ・カワシマ 22歳
スキル:(解読不能)
能力:(解読不能)
『ひっ、姫様!こやつは無能ですじゃ!』
『ほう……ならば奴隷に落としてアバァ!』
『こんだけやられてまだ言うかコラ……てめぇらの奴隷になるつもりはねぇ、俺は俺の道で元に戻る術を見つける、てめぇら、覚悟しとけよ?』
功用は姫をぶん殴ると、そう言い残して謁見の間をかけて行く。捕まれば処刑あるいは彼等が言ったように奴隷にされる。既に騒ぎを聞きつけ、多くの兵士が道を塞ごうとするが、ロードワークで鍛えた足の速さ、そしてボクシングの技でそれらを回避、撃退していく。
『いてぇ!なんだこいつは!ほっ、ほんとに無能者なのかよ!ばっ、化物だあ!』
『だからてめぇらの物差しで人をはかるなっての!』
そして功用は城から脱出した。
ー
ったく、何が異世界だ、何が無能者だ、失礼な連中だぜ。馬鹿がハッスルこいたせいで世界タイトルマッチがおじゃんになった上に、異世界から帰る宛がねぇんだから俺は不戦敗だ。マイケル……すまん。あんたと戦いたかったが、どうやら無理そうだ。俺はこっちの世界に骨を埋めざるを得ないらしい。
それにしても、スキルとか言うやつがこっちに引き込まれてから大方の人間が受け取るらしいが、俺のような何も受け取らなかった者も少なからずいるらしく、そう言う人間は奴隷に落とされて悲惨な目にあうと言ってたな……ふざけんなよ、くそ野郎共。自分等が勝手に引っ張って来ておいてそれとか、俺がはいそうですかと認めるものかよ。
とは言え、あてがねえ。どうするかな……ん?なんだあれは?おっ、なんか人が騒いでるな、何してんだ?
『疾風のスキルを持つ俺を倒してみな、金貨25枚をやるよ、出来る奴がいるならな。』
……なんだオイ。スキルって堂々と言ってるって事は、俺と同じ世界の人間かよ……何かチャラい野郎だな。
『ぬぬぬ、異世界の戦士だかなんだか知らぬが、その調子に乗った鼻っ柱へし折ってやる!』
おっ、なんか斧を持ったいかにもな奴があいつに挑戦するぞ。お手並み拝見と行くか。
『
『ぶおっ!!』
『おお、目にも止まらぬ一撃でマサカリのドーブを倒したぞ!』
……いや、スロー過ぎてあくびが出るぜって位の速さだぞ?あんなんでハイスピードとか言ってる時点で察しだな、下らね。興味無いんでとっととあてを探そ、今はあてを見つけないとな。
『最強の格闘家たる俺に、勝てる奴はいねぇよな、ヒャハハハ、俺TUEEE!』
……今何て言った?聞捨てならねぇな。最強の格闘家っつったな?全ての格闘家に謝れよ棚ぼた野郎! 気が付いたらグローブをはめ直していた。
『へぇー、金貨25枚ねぇ。その位の価値があるか、俺試したいなぁ、最強の格闘家さんよ。』
ー
功用は上着を脱ぎつつ、周りの人間を押し退け、目の前の男の前に立った。功用の足元には、目の前の男にやられたであろう人間が数名、呻きながら転がっている。男は功用の姿を見ると、声を発した。
『へぇ、お前強そうじゃん。』
ボクシング世界ランカーの肉体に、余計な脂肪は無い。各所筋張った筋肉の造形は、見るものを驚かせる。
『君、名前は?俺、功用ってんだ。』
『自分から名乗ったのお前だけだしな、特別に教えてやるよ。俺の名は
格闘家と言った言葉にいらっとした。功用は先程の動きで、田島が格闘技なんてろくすっぽやった事の無い素人だと看過していた。能力を持って付け上がっている典型的馬鹿だと。
『へぇ、あんたが最強の格闘家ね……俺、拳闘士なんだけど、勝負するわ。あっ、因みに金貨は本当にあんの?』
『くくっ、ほら、俺の腰に下がってるこれだ。お前、本当にやる気か?』
功用は特に感情を出すでも無く、首肯する。後々に知ったが、この世界には拳闘士なる職は無い。闘技場で戦う人間の内で、徒手空拳で戦う者は少数いるものの、他の武器持ちの者と同様、決闘者と統一呼称されている。だが、田島はこちらの世界の人間ではない為、それに気付かない。また、功用が名字を名乗らなかったので、召喚者である事も察していない。
『俺TUEEE見て戦うんだからお前も好き者だなオイ。』
『随分と自信満々だねぇ。ところで、君いつくよ?随分若く見えるけど?』
『17歳だよ。この年齢の俺にそこに転がってるオッサン達のされてやんの、ダッセwwwお前もそうなりたいのか?』
嘲笑うような口調がいちいち癪に障るが、ボクシングの記者会見時にこんな感じで煽って来た対戦相手と遭遇してきたので、顔には全く出さない。
『さあね……んじゃ始めようか、田島君。』
『へっ、思い知れ、俺の疾風の拳を!』
田島はこちらの顔面にストレートを放った。脇も開いていてモーションに無駄が多いそれを軽く掻い潜って、功用はボディブローを当てた。田島はその一発でガクンと膝を折り、胃の内容物をぶちまけた。
『ヴォエッ!』
『ふぅ、素人の動き過ぎて力を特に入れる必要なかったよ、君の負けだ。後、格闘技をやった事の無い人間が、格闘技を語らないで欲しい……わかったかい?』
『はっ……は……ひ……』
功用は田島の腰に下がってる袋を取ると、周りを囲む野次馬を押し退け、町に消えて行った。
ー
やっちまった……素人にレバーブローはヤバかったかな?まあ身体強化とか出来る筈だから大丈夫だよな、スキル持ちって言ってたし。にしても、スキルの有り無ししか見ずに人の強さを判断するなんて、この世界のお偉いさんは狭量と言うか、無能と言うか。そもそも、スキル持ちだから強いって訳でも無いみてぇだな。
『あっ、あの……』
ん?なんだまだちっちゃくて可愛い坊っちゃんだな、どうしたの?
『わっ、わたしの、決闘者の代表になってくれませんか?』
めんどいので断る、と言いたい所だが、行くあてがないしなぁ。それに、殴った姫の関係者で無いなら大丈夫かな?まあ何かあったら叩きのめすだけよ。
『良いよ。所で坊や、君の名前は何て言うの?』
『わっ、わたしの名前は、アルクルス・ファン・マークスでしゅ!きっ、騎士階級のマークス家の当主でしゅ!』
ショタコンではないんだが、何だか食べちゃいたくなるような可愛い坊っちゃんだったので、俺はグローブを外して握手する事にした。にしても、弱々しい、小さい手だな……
ー
ヴァルカ王国には、王族、貴族階級が存在する。王族は国王、皇太子、皇太子以外の王子王女、王族御三家の順に位が高い。貴族は大公、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、そして騎士爵が上騎士爵と下騎士爵がある。爵位の無い者も、豪商や豪農等は、戦争以前からの豪族だったので、伯爵~下騎士爵相当の位を持っている。これら上級民の下に市民、農民、平民、賎民(上級奴隷)、奴隷が存在する。
異界の召喚者は国を代表する決闘者となる為、スキルを持つ者は厚待遇、スキルが無いかまたはスキルが弱い者は奴隷落ちになる。特に上級スキル持ちは王族の近衛兵士相当の扱いを受ける為、伯爵相当の扱いを受ける。上級持ち以外の人間は、能力にもよるが貴族と契約を結び、決闘者としてのバックアップを受けるのだが、能力無しの者には、ただの奴隷として過酷な現実が待っているのだ。
『なのに、君は俺を欲していると。俺はスキル持ちじゃないぜ?スキルと言えるスキルは、ボクシングって言う格闘技をやって来た事がスキルかな?』
『いえ、スキル持ちとかそういうんじゃなくて、わたしはあなたがちゅよ……強いから、その、スカウトしましゅた!』
舌っ足らずな言葉遣いが介護欲をそそる少年貴族、アルクルス・ファン・マークスは、弱冠五歳。父が謎の事故により他界し、正妻の一人息子である彼が、わずか五歳にして爵位を継いだのだが、幼い故に、父の妾の子である異母姉が実権を握っているらしく、肩身の狭い思いをしているのだと言う。中世の貴族が一夫多妻的だったと言うのは話に聞いてはいたが、それにしても、貴族と言うのは身内を政争の道具としか思っていないんだなと、功用はまたちょっとオコの状態になった。
『お姉しゃんがわたしの事を認めてくれるには、決闘の大会に出れる人を四人集めて、その……せめてヴァルカ王国の代表になって貰えば……しゅごくむじゅかしいんでしゅけど。』
『なーる、そう言う事か。面白そうじゃねぇの。坊っちゃん、いや、アルって呼ぶね、俺は一人目でいいぜ!宜しくな。』
深刻に話すアルとは対照的に、功用は明るく答えた。
『いいんでしゅか?!でも、何で?』
功用はここまでの経緯を話した。世界チャンピオンと対戦する目前にこの世界に引き込まれ、城での騒ぎ、そして先程出会った同郷のいきり野郎を退治した事。その上で理由を話した。
『格闘家としての、名誉って奴じゃねぇけどさ。あっちの世界チャンピオンにはなりそこなったけど、こっちで世界チャンピオンになるチャンス、それが一旦冷えた俺の心を甦らせた。
それにアル、お前さんの境遇を聞いたらさ、何だか助けなきゃって思ってよ……正直な話、あっちの世界で俺を応援してくれた子供達に似てたってのが一番の理由だね。』
『コウヨウしゃん……』
うるうるした眼を功用に向けてくるアルの頭を優しく撫でながら、アルの自宅であるマークス邸へと向かう。
(マイケル……あんたとやれなかったのは心残りだが、俺はこっちの世界でチャンピオンになってやるよ。もし戻れた時は、改めてタイトルマッチを申し込むぜ、それまで誰にも負けんじゃねぇぜ!)
†
一話辺りの文字数はどの位がいいですか?
-
1000字程度でよかよ
-
2000から3000字程度は欲しい
-
3000字から5000字は無いとね
-
5000字以上は書きやがれ