異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐   作:劉鳳

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お蔵入りにしようかと思ったキャラクターを折角だから出そうと思ったらカオスになりました……ボクサーばっか来てるのは、功用とマイケルのイメージに引っ張られたからと解釈して下さい。


インターバル3 尚も重なる偶然

 

 

階級を越えた最強のボクサー、pound for pound。川島功用はオリンピックで金メダルを獲得し、順調に戦績を伸ばしているものの、まだランキングに載ってはいない。と言うのも、チャンピオンベルトを巻いていない事、PFPランカーらと比べて試合数が少ないからだ。だからこそ、ウェルター級の王者にでもなれば、現PFP一位のマイケル・ギーグ・アームストロングを押さえて一位になる事も不可能ではない。

 

しかし、中にはそのマイケルを一位に認めない者も多い。選手人口と言う意味では軽量級のフェザー級から中重量級のミドル級、最重量級のヘビー級と、ウェルター級以外にも猛者がいる。しかも、ボクシングの歴史においてそれら人気階級の史上最強王者が今代に君臨している状況、世界は空前のボクシング黄金時代にあった。

 

PFF四位、ライト級のマニー・ウォンジョンカム、35歳。戦績63戦60勝3敗。KO率は78%を誇る、タイ出身のボクサー。デビュー戦が25歳と言う、遅咲きながら才能を開花させた。祖国タイを離れ、海外での試合でしのぎを削り、WBCライト級の王者を戴冠したのが27歳の時。それから数年間、ライト級の王者であり続け、30歳でライト級の四団体統一王者となった。最初に王座を獲得したWBCの連続防衛記録は20回を誇る。彼の強さは流れるような速いステップと、えぐるように放たれる渾身の右ストレートである。

 

PFP第三位、ミドル級王者のリョーヴィッチ・グロフク、28歳。戦績37戦36勝1分。身長177cmと、ミドル級ではそこまで大きく無い肉体ながら、リーチは脅威の190cmを誇る。長いリーチを生かしたアウトボクシングスタイルながら、KO率60%を越える強打者。カウンターの鬼と言われ、相手のパンチの打ちはじめを狙った知覚外から繰り出されるジャンプフックカウンターはヘビー級に匹敵する破壊力を誇る。

 

そして、PFP第二位は、マイケル自身が現代ボクシングにおいて最強と呼んでいる男、ヘビー級王者、ジャック・マーセラル・ルイス、26歳。戦績は40勝無敗全KO。200ポンドを越える規格外の化け物が集まるヘビー級において史上最強と目される男。アマチュア界で無敗のまま、17歳でデビューしてから僅か6戦目でIBF王者となった。それから1年半でヘビー級主要四団体統一王者となった、彼がまだ21歳の時である。身長185cm、リーチ192cmと、ヘビー級の中では特に大きくない身体だが、体重は120kg、体脂肪率は10%を切る鋼の肉体を誇り、他のヘビー級ボクサーと比して筋肉の張りが段違いである。

 

彼の強さは流れるようなフットワークから繰り出される雨あられのようなラッシュ。彼の試合を見たものは言う、軽量級のボクサーのような動きだと。往年の輪島功一を彷彿させる変則的なスタイルから、モハメド・アリを彷彿とさせる正統派なスタイル、タイソンもかくやというインファイト、華麗で思わず見とれてしまうアウトボクシングと、試合に応じてスタイルを変えるが、共通するのは人間離れした速く、重いパンチ。公開練習にて取材記者達はヘビーバック打ちを目の前で見せてもらったのだが、ヘビーバックがまるで風にあおられたビニール袋のように舞うのだ。音は銃弾でも撃ったような激しい音を響かせる。ヘビー級ボクサーで無ければ死んでしまうであろう破壊力、そのヘビー級ボクサー達ですら彼のパンチをまともに食らえば即座に意識を刈り取られ、立ち上がる事が出来ない。試合会場に常に救急車が待機している事から、彼がいかに強いかが分かる。

 

彼らとマイケルを合わせたPFP上位四人、彼等は世界ボクシングBIG4と呼ばれ、ファイトマネーは皆100万ドルを越える。大会は何処の国に行っても主要な競技場が貸し切られ、かつ満員御礼。全員が高いKO率を誇る王者である事から、試合時間が短く、中継局泣かせであるにも関わらず、客はひっきりなしに入る。功用からすれば、どの階級に挑戦しても、当代処か、歴代最強のチャンピオンと戦う事になる運命だった。このように強豪犇めく今代においては日本人の世界王座者が付け入る隙が無く、日本においてはボクシング熱が若干冷めていた。

 

そんな中、日本人で唯一王座を持つ者が一人、WBA・WBCスーパーフェザー級に存在する。功用と同じワジマジムの戸髙侑二(とだか ゆうじ)。ワジマジムに誕生した最初の世界王者である。年齢24歳、戦績32戦30勝2敗、KO率はなんと100%と言う希代のハードパンチャー。彼も功用と同じくオリンピックで金メダルを獲得して、鳴り物入りでデビューした経緯を持つ。階級はかなり違うものの、功用とスパーリングをして互いの力を高めあう事で、名勝負を繰り広げられるボクサーとなった。階級が重い人間が集まりがちなPFPのランキングで5位にランクインしており、更に強い者を貪欲に求めている。今の階級に満足せず、階級を一つ上げて、ライト級の王者たるマニーと戦う事を宣言した。彼は言う、

 

『日本人がもうチャンピオンになれないって認識、特にライト級以上はあり得ないって声、俺と功用が変えてみせますよ。

 

俺はマニーであいつはマイケルと、既に倒す相手を定めてるので。日本のみんな、楽しみにして下さい。』

 

戸髙はスーパーフェザー級のベルトを返上し、ライト級へと階級を上げた。ライト級日本王座をあっさり獲得、東洋王座ももぎ取り、ライト級の世界ランキングは四団体共に10位以内に入った。マニーとの挑戦権をかけた試合では、WBCランキング三位、フランスのポール・ラフォーレを4RTKO勝ちし、戸髙は、後楽園ホールにてタイトルマッチを行う事となった。開催権はマニーにあったが、マニーは敵地でこそ力を発揮するのだとうそぶき、戸髙のホームたる日本での開催を決めた。

 

四団体統一王座戦と言う事もあり、日本の観客はこぞって後楽園ホールに集まって行った。十数年もの間、世界を襲った未曾有の感染症により、日本ボクシング界は冷めに冷めた。野球やサッカーと言ったメジャーなスポーツでは明るい話題が増えたが、ボクシング等の格闘技については数人が話題になる程度で、世界的ボクシング黄金時代の中で日本人の王者不在が続いていた。戸髙はそんな中でスーパーフェザー級王座を獲得した日本ボクシング会の救世主だったのだ。そんな次世代の英雄たる戸髙がBIG4の一人と、しかも四団体統一王座を懸けた試合に挑むとあって会場は満員御礼となった。

 

〔只今より、本日のメインイベント、WBA、WBC、IBF、WBO四団体統一、世界ライト級タイトルマッチを行います!

 

まず青コーナーより、挑戦者戸髙侑二選手の入場です!〕

 

アナウンスと共に歓声が上がり、入場曲が流れる。LUNA SEAの名曲、end of sorrowと共に乗りながらステップを踏む。満員の観客が彼に割れんばかりの声援を送る。戸髙はその声援に応えるようにシャドーをする。キレは申し分無い処か、過去最高の仕上がりを当事者でない周りですら感じている。スーパーフェザー級タイトルマッチの時と違い、階級が上がり、減量苦から解放されたその肉体からの動きは肉食獣のそれである。

 

リングインと共にガウンを脱ぎ捨て、その完璧な肉体を見せつける。腹筋は勿論の事、盛り上がった背中とハムストリング、戸髙は花道入場できっちりと体を温め終えた。

 

〔続きまして赤コーナーより、チャンピオン、マニー・ウォンジョンカム選手の入場です!〕

 

軽中量級の王者を多く輩出したタイ王国、その出身である彼こそ、軽中量級激戦区たるライト級の主要四団体統一王座を制した男である。

 

身長162cm、リーチも166cmとライト級ではかなり小柄な部類であるが、むしろ小柄であるからこそ増量して筋肉の鎧を纏えるとポジティブに考えて肉体改造を施した。打たれ強いムエタイ上がりの多いタイの選手の中でも屈指のしぶとさ、それでいて有効打を殆ど貰わないと言う反則的な防御力、そして自らの体を追い込んで手に入れた鋼のごときヒッティングマッスルから繰り出されるパンチは、ジャブですらダウンを奪える力を持つ。

 

スーパーバンタム級からスタートしたキャリアで、ベルトを獲得し続け、ライト級王座獲得により、四階級制覇を達成。更にWBCの防衛記録は20、世界戦38勝無敗の文句無しの強さ……誰しもが言う、彼がもう少し大きかったら、マイケルとウェルター級の王座を争っていたと。

 

年齢は35歳だが今だ衰える気配処か、益々強くなる怪物。そんな彼はただ微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと入場して行く。入場曲はかのプロレスラー、ジ・アンダーテイカーの入場曲でもある、葬送行進曲のアレンジ版。対戦相手の戦意をまるで葬儀のようなテンションに落としてしまうファイトスタイルから、セコンドが彼の為にアンダーテイカー版以上の威圧的アレンジにしたものを流している。

 

マニーの放つ静かなオーラと相まって、先程とはうって変わって会場は静まりかえる。手に付けるグローブからトランクス、リングシューズの紐に至るまで真っ黒で固めたそれとは対照的に、タイ人にしては肌の白いマニーの体と言う、二つの極端な色合いが彼の存在感をより際立たせる。

 

花道をゆっくりと歩きながら、リングロープに手をかけ、軽々とトップロープを飛び越えた。難なく衝撃を分散する着地をすると、礼拝を四方にする。静まりかえっていた観客達は歓声と拍手を送る。マニーも完璧な肉体を仕上げていた。

 

リングに上がったマニーの方を、戸髙はずっと目を逸らさずに捉え続けている。BIG4の共通点、それは相手を本人自身が特に威嚇しないのに、対戦相手が好戦的になり落ち着きを失う。観客は戸髙がそれに呑まれているのかと心配する程に、マニーが微笑みを向けたままであった。

 

 

しかし戸髙は特に好戦的にならず、相手の体をチェックしていた。166cmの戸髙から見ても小柄に見えるマニーだが、その分体の厚みを付けれる為、最高の仕上がりを見せる戸髙と比べても圧倒的な筋量を印象づける見た目をしていた。検量時と比べても筋肉の張りには変わりなく、一筋縄で行かない事を感じた。しかし戸髙に気負いは無い。現在アメリカのMSGでタイトルマッチを行っているであろうジムの同期である功用と切磋琢磨して練習を積んで来たのである。やるべき事をやったのならば、後は心置きなく戦うだけである。

 

互いに対面し、レフリーの説明を聞く間、目を逸らさずに相手を見続ける。レフリーの説明が終わると、どちらからともなくグローブを合わせ、距離を取る。

 

〔ラーウンドゥワーン!……〕

 

カーンと大きくゴングが鳴り、再び互いにグローブを合わせ、同時に直ぐ間合いを詰めて右ストレートがクロスした。

 

 

『ブフォッ!!』

 

神官が二人のストレートをもろに受けた。それを見て驚きと共に、その姿に思わず失禁してしまった第二王子。国王に黙って異世界召喚をしたのだが、偶然に偶然が重なり、功用以降召喚した人間はボクサーばかりと言う事態が続いた。勿論召喚された二人からすればたまったものでは無いが。

 

『Mr.マニー、どう思う?』

 

『さあ……ただ、私達は余り歓迎されないみたいだね?なら一つ、タイトルマッチを邪魔された鬱憤を晴らそう、サムライ。』

 

『おう!』

 

二人はそう言うと、王子達の兵士十数人をボコボコにした。マイケルや功用と比べても見劣りしないボクサー、しかも今回は二人である。背中の守りがある状態の彼等に手も足も出ない。倒しきった後も構えを崩さず残心を取る二人。そこに、走って駆けつける音が聞こえた。二人は目で合図をし、いつでも攻撃出来る体勢を整えた。しかし、そこにやって来た人間達を見て、二人は目を見開いていた。

 

手にバンテージを巻いた、二人よりも大きい男が二名、トレーニングウェアを着て立っていた。

 

『なぁジャック、あっちの兄さん確かマニー・ウォンジョンカムさんだよな?』

 

『ああ、間違い無いぜリョー。しかも隣にいるのは極東のサムライボーイ、ユージ・トダカ……そうか、彼等は試合中に……』

 

彼等も無断召喚に巻き込まれた形だった。ロードワーク中に目映い光と共に、気が付いたらエントランスにいたらしい。彼等と合流した事で各々が経緯を説明し、更に腰を抜かしている王子に問い詰め、事情を吐き出させた。四人のリアクションは功用やマイケルと同様に怒りに満ちていた。

 

『ひぃぃ、なんで召喚されてくんのが野蛮人ばっかなんだよぉ!これじゃ姉上の事笑えないじゃないか!』

 

『やかましい、〇たれ、殺すぞ!』

 

『サムライ、まぁ落ち着け。それにしても能力を持つか……なら先程我々に殴られた神官にちょいと話を……ああ、見事に失神してる。まずは治療してあげないとダメか。』

 

王子への苛立ちはあるが、体格的に有利な人間が暴力と暴言で解決するのを良しとしないマニーの提案により、神官は近くの治癒術使いに治療され、改めて彼等四人の能力を見て貰う事となった。結果は外傷治療の能力が付いた戸髙、痛覚麻痺の能力が付いたマニー、骨格維持の能力が付いたリョー、功用と同じく、解読不能のジャック。結果は四人共に無能認定を受けた。この世界の人間にとって有能かどうかとは、すなわち人間離れした力を付与されたか否か位のものであり、素体の強さはカウントされない。功用と朝白狼等の無能認定者が活躍しても判定基準はこの有り様であった。

 

嫌な予感を感じた四人は再び王子に詰め寄り、無能認定を受けた者の末路を聞いた。奴隷として売り捌かれ、男は死ぬまで肉体労働、女は娼婦……更に先程の言葉に引っ掛りを覚えたので問うと、四人は驚きと共に怒りが再び沸いて来たのだ。

 

『ヘビー級、ミドル級、ウェルター級、ライト級、そしてスーパーフェザー級の王者だった人間を拉致って、挙げ句の果てには勝手に無能認定して奴隷送りとかよぉ、流石に許す気にはなれねぇよ。あっちの世界のボクシング熱をくっだらねぇ理由で下げられたんだからよ……』

 

『同様だな。だが今はユージの同期コウヨウ・カワシマやマイケルらとコンタクトを取るのが先……の前に、王子とやら、ケジメを取って貰おうか。』

 

『へ?』

 

『『『『受け取れ!!』』』』

 

『ギャアアアア!!』

 

王子は四人のパンチを受けた。最後に喰らったヘビー級のジャックのパンチを受けた後は、糸が切れた操り人形の如く体がぐしゃりと言う感じに倒れた。

 

『た、たふけて……ガボッ!』

 

四人は倒れた王子に一瞥もする事なく城を出た。四人もボクシングの猛者が目をぎらつかせて歩く姿は誰も止められないし、止める者もいなかった。異世界に新たに舞い降りた拳闘士達により新たな波乱を呼ぶ事になるのだが、それはまた別の話。

 

 




あくまで外伝ですので、彼等が功用と絡むのは少しだけにしたいと思ってます。ジャックをチョイ役にしたのはヘビー級の無敗王者とかマイケルもマッツァオなんで……異世界じゃなくて普通のボクシングストーリーに登場させないともったいないのもあるんで(普通ってなんやねん)

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