異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
格闘技、特にプロの形態を採っているものは、緻密な計画のもとに試合までの時間を過ごす。山賀は競技柔道故にプロの形態は採っていないものの、こちらの世界に来てからはプロの方式に身を変えている。
柔道界が誇るとまで言われた山賀は、柔道着を来た朝白狼を相手に、乱取りをしていた。朝白狼はモンゴルの幼少期にブフの他に柔道もやっており、初段で黒帯、相撲の関係からか腰周辺を掴んでの投げは得意である。
『山賀君、ドンと来なさい!西郷さんは有能認定者で僕位の圧力はあるんだ、手心無用だよ!』
『はい!』
山賀は素早く懐に潜り込もうとするが、朝白狼はそれを許さない。日本代表レベルの選手ですら容易に懐に入れぬ上に、ナックルパートも織り混ぜてくる。
『西郷さんは総合格闘技スタイルも身に付けている、打撃を上手く掻い潜るのも忘れないで!』
『ぐっ、了解!』
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所変わってこちらは武器を持つ穴吹が真田の稽古相手をつとめていた。先を布で包んだレイピアを構え、銃剣を模した模擬刀を持つ真田に、間髪入れない神速の突きを見舞った。
『ツァッ!またやられた……』
『真田さん、切っ先を見て避けるんじゃありません。相手の視線と肩の稼働域を見て避けるのです。侯爵家の吉田さんに島津さんは生半可な動きでは一瞬で死んでしまいますわ。さっ、もう一度!』
『レンジャー!』
動きを見極めるコツを伝授する彼女は、レンジャー部隊まで行って骨を軋ませてきた真田に期待していた。他のチームは有能認定者で武器持ちではあるが、軍隊戦闘を極めた彼ならばコツさえ掴めば必ず圧勝出来ると。故に模擬戦だが突きの速さ等は本気である。
『ここ、なっ?アブッ!』
『避ける方に意識を飛ばしすぎですわ、避けると同時にしっかりと倍返しなさい!』
『れっ、レンジャー!』
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同時刻、竹田は梵と和泉に頼んで、先に布を巻いた棒を使った実戦練習を行っていた。勿論竹田は己の身一つである。縄のバンテージを巻いた上に革だけと言って差し支えない8オンスグローブをはめ、和泉に強化された肉体から繰り出される梵の棒術が襲いかかる。梵は相撲もそうだが、穴吹に武器の扱いも教わり、その中でも棒術が得意だった。樫に似た木から削りだされた堅い棒による攻撃は、ムエタイのホープの蹴りの如くダメージを与える。
『ぐっ、滅茶痛い!』
『きっちりと筋肉の厚い部分に反らして流すんだ!得物持ちばかりだから完全にかわすのは難しい、竹田君は素早さが売りなんだろ?』
『うっ、うす!もういっちょお願いします!』
この訓練自体は竹田の希望で始められたものだった。本場タイで修行した折り、向こうのムエタイ選手達の鋼の堅さと称される脛打ちを受け続けた事と、バナナの木を蹴り続けると言う練習により痛みそのものは慣れてはいたが、その時以上の痛みを伴わなければ練習にならないと感じていた。何より竹田は実戦の怖さ、しかも下手をすれば死ぬ状態を肌で感じた為に、多少の無理を自らに課していた。
『ウグッ、なんの!ジャアアア!』
棒が振るわれた瞬間を狙って懐に入るが、梵は棒をスライドさせるように持ち変えると、竹田の鳩尾に突き入れた。
『ヴォエ!』
『飛び込んでくる時の視線がバレバレだ、もう少し意表をつかないと相手に手玉に取られるぞ!』
『うす!!』
梵と和泉の激を受けながら、竹田はギラギラした瞳でファイティングポーズを取り、再び突進していった。
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『しゅごいでしゅねコウヨウしゃん……』
『そらそうよ、なんたって侯爵家がギリギリ勝てたって位のチームだからね。』
彼等の練習風景を呑気に見つめる二人。しかし決してサボっている訳では無い。功用はスパーリングパートナーたる大場の到着を待っているのだ。大公爵家は高い有能認定者を多数擁するチームではあるが、その大将たる大場より強い人間はいない。そして彼は功用にまだスパーリングで土を付けてすらいない。雷撃を伴う拳を実戦さながらに使いながらスパーリングをする為、治療役のチームメイトである
『それにしてもオオバしゃん、ずっとコウヨウしゃんと練習してましゅけど、大丈夫なんでしゅかね?大公爵様は下級貴族とその決闘者を嫌ってましゅから……』
『アル様、その心配は無用だ。』
『回復専門のあたしから見ても、川島さん強いんだもん。』
『おっ、大場君、浅香ちゃん、こんにちは。』
『つーかあんた既に相当練習したでしょ?めっちゃ汗だくなんだけど。』
功用は大場と浅香に挨拶をする。しかし大場は功用の状態を見て苦笑する。アルとみんなの練習を見ている前、縄跳びとロードワーク、サンドバッグ打ちを数回ローテーションでやっていたのだ。
『能力的ハンデを背負って俺が勝てないってのがね……日本王者と世界ランカーの差を感じるよ。』
そう呆れつつも、大場は体をアップし始める。功用より10cm小柄な体でウェルター級並の肉体を獲得し、心肺強化と雷撃の魔法を駆使する事で、体格差を補って余りある強さを誇る大場。彼も努力家である。
『そんな事は無いさ。大場君は俺以上に若いし、体の成長が自然とついてくるって。まあ勿論スパーでも負けの二文字は嫌だけど。』
功用は功用で更に汗を流す為か、シャドーボクシングを始める。大場想定の動きらしく、やや振り下ろすようなパンチも織り混ぜている。大場は毎日シャドーの時点で驚いていた。
『えげつねぇ……振り下ろしに混ぜて心臓震盪狙ってくるチェストブローを打つとか……』
『でも大場君のチェストブローはガチで心臓止めちまうだろ?あいこあいこ。』
大場は苦笑するしかなかった。彼自身のチェストブローはあくまで雷撃を纏っている為に、心臓に打ち込む事で心臓震盪を引き起こし命を刈り取る必殺技なのだが、功用のそれは純粋な身体能力で打ち出されるものである、似て非なる別ものなのだ。
『まああんたらと当たるまでに絶対勝ちに行くから。』
『のぞむ所よ!ってわけで、スパーリングやるぜ?』
『ハイハイ……今日こそ土付けるぞ!』
功用と大場はグローブを付けると、激しい実戦そのもののスパーリングを開始するのだった。
展覧試合本戦まで、後1ヶ月。功用達のボルテージは確実に上がっていくのであった。
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