異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
初戦を軽々突破した功用達、シードと当たる次の試合、優勝候補の一角、ヤマカシ。柔道100kg超級元日本代表、西郷を大将とする、近接戦闘をメインとした武闘派チームである。一人一人が非常に強いチーム故に、功用達は作戦を立てる事となった。
『さて、連戦は厳しい感じだから、一人一人当たる事にするかい?山賀君は西郷さんと万全の状態で当たりたいと思ってるだろうから、俺は副将に回るとして、竹田君と真田さんの順番どうしようか?』
功用は因縁のある西郷と戦うのは山賀であるべきと思っていたので、副将に回る事を予め伝えていた。山賀の方はと言えば、ギラギラとした目付きを向こう側にいる西郷に向けたまま、その時を待っていた。竹田も真田も気をつかって敢えて山賀を刺激せぬよう、残りのメンバーを見やる。先鋒に構える小柄な男は、以前アルの邸宅には来ていない初見の人間だった。
『あの人はそういや見た事無いッスね、未知数の実力者ってのが怖いなぁ。』
『武器は取り回しの良さそうなナイフを持っているね、動きの所作が自衛隊のそれそのものだな。じゃあ僕が行くよ。もし負けた時は後の竹田君が連戦になってしまうけど、大丈夫?』
『何言ってんですか真田さん。俺達二人は切り札があるでしょ?一人一人当たってきっちり勝ちに行くッスよ!!』
竹田は紐のバンテージを巻いた両の拳を合わせながら次鋒の島津を見据えていた。竹田はフェミニストではあるが、戦う事に関しては男女の区別はしないと割り切れる人間でもあった。その様を見て真田も安心して臨戦態勢を整える。
『そう言う事だ、川島君。もしもの備えはしている、後はなるようになるだけだ。』
『よし、ならばトップバッター、頼むよ真田さん。』
功用の声に真田は綺麗な敬礼で応え、リングへと上がる。会場からは初戦すら上回る歓声とブーイングが渦巻いていた。ブーイングに関しては、以前から人気実力を伴っているヤマカシ寄りのチームの者で、無能有能のブーイングでは無い。
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一方のヤマカシ、此方も作戦を確認していた。チームの戦う順番は基本的に固定、次鋒以降の三人は前回大会に引き続いてとあり、戦う順番も実力順である。先鋒の男、彼は今大会が初の出場となるが、此方の世界に来てからあれよと頭角を表し、先鋒に抜擢された。
『西島さん、どや?相手の〔元〕同業者さんは。』
『無能認定者と聞いていたが、彼は強い。私も陸上自衛隊の特化訓練を受けた身ではあるが、彼は陸自のエリートたるレンジャー部隊の人間だったと聞く、小細工は通用しない、故にこれで勝負する。』
西島は冷静に分析する。フル装備で出てきた真田に対し、ナイフ一本、西島自身、銃の扱いは不得手であり、最も得意なナイフによる白兵戦闘を敢行するつもりだ。
〔両チーム、先鋒、前へ!〕
レフェリーに促され、両者が対峙する。真田は銃剣装備の小銃を構え、西島はナイフを構える。西島の全身が青く輝く、肉体強化済みである事は、予選会での戦いと、前回の中西の戦いを見ているので容易に想像出来た。真田はそちらに関しては問題していない。
(自衛隊仕込みの戦い、彼の錬度がどの程度か?問題はそこだ。)
〔始めぇ!〕
開始の声と共に両者が動いた。飛び出す速さは肉体強化の関係もあり、西島に歩があった。脇を締めて低い体勢を保ちながら、ナイフを横手に迫り、すれ違い様にナイフを振るう。真田は銃剣の先でそれを冷静に受け止め、体を横にしながら逆袈裟に切り付ける。西島はそれを素早く避けて地面を蹴り、ナイフを突き入れるが、それを予見して真田は銃底でナイフを受ける。銃底は予め鋼鉄仕込みにしてあるので貫通はせずに弾かれるように互いの体が飛ぶように離れた。
『くっ、強い……ナイフの軌道も私の踏み込みも読まれている。』
(うむ、動きは速いが、まだ大丈夫だ。)
西島は改めて真田を強敵と見た。一方の真田は、何かを得たように冷静であった。身体能力は西島が圧倒的と見られたが、真田は戦闘勘の鋭さでそれを補っている。互いに得物持ち故に、有能無能関係無く、一撃が即負けに繋がるが故に、後は冷静でいられるかどうかに勝負がかかる。距離が離れた事で、真田は小銃のバースト射撃を放つ。西島はそれをなんと前に進みながら避けた。
(馬鹿め、そんなのはとっくに想定済みなんだよ!正確な射撃故にどこ狙うかすらも分かる!)
西島は小銃を持つ右手の指辺りまで迫った、間合いの死角に入りさえすれば、ナイフによる攻撃の方が速い。西島は躊躇い無くナイフを真田の腹部へと押し込んだ。
『?!』
『甘い!』
ナイフの感触がダメージを与えていない事に違和感を持った時には小銃を手放し、腕を取って反対方向に曲げ、腰を掴んで地面へと叩き付けた。
『がはっ!』
『やったぁ、横綱直伝の腕ひねりからの上手投げだ!』
竹田が叫ぶ。元々自衛隊で近接戦闘術を会得していた真田だが、真に肉体をぶつけ合う相撲の技を練習で取り入れる事により、長柄の武器の間合いの中に入られた時の対処を会得したのだ。近距離の、それこそナイフが腹に刺さる一歩手前まで引き付けてそれを行う胆力は厳しいレンジャー訓練により恐怖を圧し殺せる精神を培ってきた真田ならではと言った所か。
『まだ、戦いますか?』
『……ぬあああ!!』
真田の言葉を受け、頭に血が上った西島はナイフを逆手に構えて、あり得ない体勢から一気に立ち上がり、真田に切り掛かってきた。
『アブぇ……』
真田は銃剣を喉に突き刺し、西島は白目を剥いて倒れた。銃剣を抜いた真田は、ピクピクとして動かなくなった西島に敬礼を送っていた。
『同じ自衛隊員として、貴方と戦えた事を誇りに思います。』
真田はそう言うと、リングを降りた。その表情には、涙が浮かんでいた。
『真田さん……心中お察しします……』
『ああ……自衛隊員同士で殺し合うのは流石に堪える……』
真田の気持ちを察してか、功用は言葉を控えた。真田も真田で喜ぶに喜べない勝利に、そう応えるのが精一杯であった。
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『西島さん!救護班、直ぐに医務室に!まだや!まだ息がある!』
吉田がそう言うとチームの補欠達が担架で西島を運んで行く。回復魔法が存在する世界故に処置次第で助かる見込みがある為、吉田の判断は正しい。
『……殺してやる……』
次鋒の島津はthePROUDに強い殺意の目を向けながらリングへと上がっていく。
『西島君が負けたか……やはりあのチームは決して侮りは許されぬな。』
西郷は真田の躊躇いの無い戦いに戦慄すら覚えた。しかも相手は一人一殺を旨として消耗無しの人間で戦いを繰り広げる事が読めた。並びを見ると大将は山賀になっている、thePROUDは強い上にあくまでも一戦一戦を大事に戦う、その戦う相手が強ければ強い程に……
『島津、本当に殺すつもりで行くのだ。』
『殺すつもりではなく……殺す。』
島津の目は強い殺意を孕んだまま、次鋒竹田を睨み付けていた。
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一方の竹田、島津の視線と真田の戦いで歓声無く静まり返った会場の雰囲気にやや緊張していた。
『うう、胃が痛い、あの姉さんめっちゃ睨み付けてくるし、歓声がなんかシーンとしてて嫌だし……』
竹田は元々気が弱い男である。ブーイングには慣れてはいるが、対戦相手の視線には中々慣れる事が無かった。しかも人生でもこれ程に向けられた殺意は無い。そんな竹田に、功用は声を掛ける。
『竹田君、緊張するなとは言わないよ。ただ一つ……周りの目なんて気にするな。ムエタイで培ってきたその肉体は本物だ、大丈夫!』
『オップ……へへっ、なんか気が楽になってきました、行ってきます!!』
言葉と共に背中を叩く、若干痛いが、その痛みは自然と竹田を縛る緊張を断ち切ってくれた。竹田は顔を二三回張ると、今度は負けじと島津へと睨みを入れる。だがそれは決して殺意を含ませたものではない、戦う相手に対して失礼の無いようにと言う竹田なりの気遣いであった。
〔始めぇ!〕
開始の声が響き、島津は無表情のまま、竹田は僅かに微笑みながら、正面から激突した。
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西郷さんチームとの戦いですが、構想的にはまだふわふわで結末が決まってません。前編より後はちょっと時間空くかも知れないです。