異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐   作:劉鳳

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第23ラウンド thePROUD対ヤマカシ‐中編‐

 

ヤマカシの次鋒、島津夏海は生まれた時代と性別を間違えたと称される程の猛者である。鹿児島の名家の出身で、文武両道、特に武に関しては示現流免許皆伝の腕前を持ち、その太刀筋は男ですら敵わぬと言われた程。示現流を学んでいた流れで習い始めた薙刀も強く、剣道も二段で、全国大会で吉田に負けるまで誰にも負けた事が無い。

 

見た目は非常に美しい女性だが、一人称以外は粗野な男的印象を受け、気に入らない相手に対する対応は苛烈で容赦がない。薩摩の狂い桜と称される彼女は、戦いに関してはそれこそ確実に息の根を止める事を信条としている危険人物だった。

 

『くそガキ、一気に殺してやる……』

 

『ならこっちは返り討ちにしてやる、来いよババァ!』

 

『え゛ぇええええ!!』

 

猿叫を上げながら島津は真っ直ぐに迫って行く。肉体強化無しでも下手な短距離選手よりも速い足を誇る島津の踏み込み、更には女性にしては大きな180はある長身、素の状態で200kgに達する背筋力、それらを最大限に活かす肉体強化の魔法を合わせた神速の初太刀、竹田はそれを寸ででかわし、脇に入り込んでローキックを左足に当てる。

 

『小癪なガキめ!』

 

『ワッ!危ねぇなマジで……』

 

ローキックを当てた後に即座に逆袈裟に斬り込むそれを辛うじてかわし、竹田は額の汗を拭う。竹田は改めて初太刀の振るわれた地点に目をやる。硬質な石で出来たリングに数m程の亀裂が走っていた。避け方が悪ければ胴体が持ってかれたであろう。

 

『よそ見をするな!』

 

殺意マシマシな声と同時に、左右十撃は放ったであろう袈裟斬りを放って来た。竹田はそれをミリ単位に近い間合いで避けながら再びローキックを当てた。島津はそれに対し足元を切るような軌道の剣戟で返すが、竹田はジャンプでかわすと言うより、片足ずつ高速で跨ぐようにかわした。ジャンプでかわすと体に隙が出来てバラバラにされる、竹田は本能的に察したのだ。そしてそのように避けたので隙を生じず、再びローキックを左に当てる。執拗な位にローで攻める、と言うより上半身側に攻めいる隙が無い為このように地味な攻撃に至るのだ。

 

『どうした糞ガキ、恐ろしくてまともに攻撃出来んか、腐れチン〇め!』

 

『その可愛い顔で品のねぇ言葉、表情、ある意味恐ろしいよ……』

 

竹田は呆れた言葉を出しつつも、島津の剣戟を避け続けた。竹田自身、ローで攻める位しか対策しようが無い。視線が外れ、かつ相手も必殺になり得ないと分かり切った攻撃ではあるが、有効打である事に変わりはない。

 

『能無しに用は無い、死ね!』

 

『クッ!!』

 

数度目の袈裟斬りが竹田の右肩を抉り、更に握りを返してそのまま首を斬りに行く。竹田は肩を切らせつつ首への軌跡を逸らし、ローキックを再び当てた。

 

『つまらん、やはりこのまま死んで行け!』

 

『フッ……』

 

島津が縦一閃に竹田を両断する体勢へと移った時、竹田が嗤った。観客は竹田が勝負を諦めたのかと一瞬思っただろう、しかしそれは違った。島津の体勢がぐらついたのだ、本人に痛みは感じない、しかし、左足に力が入らず体勢を崩した。

 

『今だああっ!!』

 

竹田はその瞬間に飛び膝蹴りを島津の顔面にめり込ませた。島津の整った顔が歪んだ、しかし竹田は容赦せず、首に組み付き、首相撲からの膝蹴りの連打で攻めた。島津が殺意を鈍らせていない上に、得物から一切手を離していないのだ、容赦すれば自らの首が黒ひげゲームの玩具宜しく吹っ飛ぶ。予想通り島津は首相撲をされた状態からサーベルを竹田の左脇腹にめり込ませていた、竹田の脇腹に深さ3cm、幅にして30cm余りの傷が走り、(はらわた)が飛び出掛かっている。

 

『こ、殺して……やる……』

 

『いい加減……しつけぇ!!』

 

首相撲のまま、膝蹴りと脳天への肘打ちを叩き込む、竹田も出血により意識障害が出始めているが、島津の意識が無くなるまでは倒れまいと歯を食い縛った。

 

『かはっ……』

 

島津の意識が遂に切れた。竹田は島津を引き剥がすと、切り口を押さえながら、拳を上げた。

 

〔勝者、ケンサク・タケダ!〕

 

バイオレンスな幕切れに最初は静まり返っていた観客だったが、竹田のその様に感化されたのか、歓声が上がった。それを聞いた竹田は力つき、そのまま仰向けに倒れた。

 

『川島さん……山賀さん……後は、頼みますよ……』

 

そう言うと意識を手放した。後に仲良く島津と医務室に運ばれ、意識が回復した後一悶着があったが、それはまた別の話。

 

 

真田に担がれながら退場していく竹田、補欠達に運ばれながら退場していく島津、両者に惜しみない拍手が送られる中、副将を努める二人は複雑な表情を浮かべていた。殺し合いの様相を呈していた先程の試合、この二人からするとやり過ぎであると感じていた。島津が本気で殺しに掛かって来ていたので仕方無く竹田もそれに応えた形ではあったが、血生臭い殺し合いではなく、純粋な戦いと言うより試合がしたいと思っていただけに、余りにも猟奇的に過ぎたと思っている。

 

『武器有りの、それも殺しが認められてるような試合言うても……あんまり気持ちのええ事やないわ……夏海と違って私そんなに殺意マシマシな戦いしとうないもん。』

 

『今更何人かボコして命まで奪ってる俺が言うなだけど……殺しを見世物にしてるんだなって……まあ回復してもらえるからそうそう死にはしないのかもだけど、もし首とか飛ばされた日にゃ流石にね……』

 

リングに上がった二人はそう言いつつも、互いの顔を見ながら、構えを取る。吉田如音(よしだ ゆきね)は剣道四段、全国大会優勝の猛者である。いわく、竹刀で人を軽く殺せる豪の女傑、いわく、戦う為に生まれたサイボーグ……扱いとしては島津に近いイメージを持たれていたが、本人は気さくで優しい女性であり、島津のような危険人物では決してないのだが、立ち振舞いに無駄が無い所から、島津以上の猛者である事を嫌がおうにも実感するのである。

 

『赤穂が育んだ天剣女(あまのけんにょ)……だっけか、吉田ちゃんのキャッチフレーズ。こうして対峙するとそう呼称されているのが分かる。』

 

『本当はこの剣道の腕を殺し合いに使いたくは無いんやけど……これは試合であり、代理戦争なんや、ごめんな……本気で行くで。』

 

吉田は防具に竹刀と言う、剣道の出で立ちであったが、吉田の持つ力によって、先程の島津の真剣以上の凶器に感じられた。

 

『竹刀で戦うのは侮りやない、慣れた得物で戦うのが私としては一番なんや、その辺は理解出来るはずや、兄さん。』

 

『ああ、勿論。俺のこの拳と一緒……だからこそ手加減すんなよ?吉田ちゃん。』

 

〔互いに……始めぇ!!〕

 

開始の合図と共に吉田の体が白銀に輝き出した。肉体強化の最上位魔法、超越豪体(プラチナム・ブースト)を発現させたのだ。

 

『め゛ぇんっ!』

 

『ぐおっ!』

 

神速の面をかわすが避けきれず、左肩に直撃を受けた。僧帽筋が半分程断裂する感触を味わった功用は、距離を詰めようとするが、胸に凄まじい速度の突きを入れられ、近付けない。心臓震盪を起こす程の突きの強さに顔をしかめつつも、視線は外さない。外せばその瞬間に必殺の一撃を受けるからだ。

 

(速い、そして痛い……竹刀でも人を殺せるってのはデマじゃねぇな!)

 

もとい有段者に得物を持たせれば恐ろしい事は功用も折り込み済みであるのでさして恐れていないのだが、吉田の気迫は自分を軽く殺しにかかる程に強い。功用は冷静にどう彼女を倒すか思考を巡らせる。吉田は肉体強化による防御力に加えて、防具も身に付けているので、生半可なパンチは通用しない。狙うならば面を揺さぶるようにして首に打撃を加えるのが最適解だが、吉田はそれを想定しているのか、首から上のパンチをことごとく小手の連撃で防いでしまう。衝撃で骨にひびが入っている箇所すら出ている。

 

『いてて……手首の付け根に正確に小手当てすんだもん、やるな吉田ちゃん!』

 

『全然怖がって無いリアクションなのが嫌やわ……前会大会の大関さんよりやりづらいわ。』

 

互いの出方に正直に答える二人。肉体的ダメージは功用の方が大きく蓄積している。対する吉田はダメージ無し、持久力の方もまだ息は落ち着いており、余裕があった。しかし、吉田はだからこそ恐れている。肉体的なダメージよりも、精神的ダメージの方こそこう言った勝負においては明暗を分けるのだと。吉田は心を落ち着かせて、一気に力を放った。

 

『ドオオオオッ!!』

 

吉田の声に反応した、ほんの一瞬の隙に空いたボディに胴の一撃を入れた。太い丸太に思い切り殴られたかのような衝撃が走り、功用が数m吹っ飛ぶ。鍛え上げた腹筋越しに衝撃が内臓を駆け巡る。

 

『グフッ……中学校の部活でエースの先輩から貰って以来の衝撃だ……』

 

『うっ、嘘……』

 

功用は吐き気と意識障害を押さえつけながらそう口にする。一方の吉田は、大抵の人間がそのまま起き上がる事も出来なくなる最高の一撃を放ちながらも立ち上がった功用に恐怖すら感じていた。

 

(本当に何者なん?私の胴はそうそうダメージを減らせない筈……)

 

『よぉやく、アドレナリンが出て来たぜ……へへっ、行くぜ!』

 

『ひっ!』

 

功用の目は焦点が定まっていない、しかし、完全にブレーキを切ったのか、その表情は嗤っていた。吉田は長引けば長引く程に危険だと本能的に理解し、喉笛に向かって必殺の突きを見舞う。功用は避ける事無くそれを受け、竹刀を遂に掴み上げた。

 

『うっ、動け……』

 

『おおおらぁあ!!』

 

功用は渾身の力を振り絞った右フックを面を被った吉田の側頭にめり込ませた。防具越しに衝撃が走り、テンプルに到達、パンチの衝撃で首が斜め後ろに曲がっていた。吉田の体から力が抜けていき、そのままリングに倒れこんだ。

 

『はぁ、はぁ……だめ、動けへん……頸椎が……こっ、降参や……ありがとな、お兄さん……』

 

体が麻痺を起こしながらも、その表情は穏やかだった。涙を浮かべてはいたが、吉田は悔いの無い戦いをして、満足したのか、そのまま意識を手放した。

 

〔勝者、コウヨウ・カワシマ!〕

 

 

コールが上がると会場から大歓声が起こったが、功用はそれに応える事なく、吉田を優しく抱き抱えると、ヤマカシの方へと行き、用意していた担架へと寝かせた。

 

『吉田ちゃんを迅速に治療してあげなよ?』

 

自らも無視出来ぬ傷を負いながらもはっきりとした歩を以て歩く功用を見て、西郷は声を掛けた。

 

『大将が負けた時点で今までの勝ちが帳消しになる。ここで俺と連戦し、体力を減らす事も出来るだろうに……お前は山賀が俺に勝つと確信しているのか?』

 

『さあね……でも山賀君は強いよ、あの朝白狼関からのお墨付きを貰う程にはね。んじゃ、俺も治療してもらわなきゃだから行くわ。』

 

呑気さすら漂わせながら去っていく功用に、西郷は何とも言えない気分になった。一方の山賀は、功用達が無事に一人一勝を以て万全の状態で西郷と対決出来る状況を作った事に感謝しつつ、静かにアップをはじめていた。苦戦と言う苦戦をこの世界に来てしなかった山賀だが、遂に自分でも勝てるか分からない程の強敵と当たる事に、恐怖よりも悦びを感じていた。

 

『先輩、私はあの時よりも強くなりました……その成果を、お見せ致します。』

 

静かに、しかし激しくその闘志を出しながら、自らが呼ばれる時を待った。西郷の方もアップを終え、いよいよその時が来た。

 

〔両チーム、大将、前へ!準備はよろしいか?〕

 

レフェリーの言葉に二人は頷くと、レフェリーがその手を上げて開始の合図を送る。

 

〔始めぇ!!〕

 

thePROUD対ヤマカシ、大将同士の試合が開始した。

 

 

 

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