異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
お互い大将のみの状況となった両チーム、しかしこの状況でもヤマカシが優位だと言われているのは大将たる西郷の強さだろう。前回大会ベスト4、優勝チームたるマークハイト王子のチームHAYABUSAと事実上の決勝戦と呼ばれた激闘を行った。あの島津や吉田ですら次鋒までで力尽きる中、大将との直接対決まで倒れる事無く戦い続けたフィジカルの強さ……前回大会においてテムジンの朝白狼、優勝チームHAYABUSAのミハエル・ドラクラと共に個人における最強候補と言われている。西郷のバックボーンは柔道、五輪の強化選手に指定される程の猛者。
異世界召喚と言う形で此方に来てからは、MMA寄りの打撃にも取り組んだ。柔道の投げで倒した後に倒れた相手へのパウンド、膝蹴り、マウントからのパンチや目潰し、金的への攻撃等、武器を使わぬ
そんな西郷の心を、今目の前に立つ、後輩である山賀が果たして満たしてくれるだろうか?
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(なっ、なんだこの山賀から放たれるプレッシャーは?!)
山賀はあくまで構えているだけに過ぎ無いのだが、明らかにこちらを倒せる、そう言う圧を感じたのだ。
(
西郷の心は満たされようとしていた。その顔はまるで肉食動物が牙を剥くがごとき表情……対する山賀は仏のようなアルカイックスマイルを浮かべたまま……
対照的な二人が間合いに入った瞬間、西郷は倒れ込むような姿勢を取り、足を挟み込んでから山賀の胸倉を掴んで引っ張った。競技としての柔道では禁止技とされる
西郷は即座にこれを手で防ぐと、今度は山賀の胴体を足で挟み込み、胴着を掴みながら足で胴体を絞めて行く。これまた競技柔道で禁止されている胴絞めと呼ばれる危険な技、膂力のある人間がこれをかけると、内臓を破壊してしまう恐ろしい技となる。
『蟹挟みはかわされたが、これはどうかな?綺麗な柔道等で俺は倒せんぞ!』
足に力を入れ、ギリギリと胴体を締め付ける。しかし、山賀はそれでも慌て無い。体を上手く捻ってホールドを弛めると、西郷の締めつけから逃れ、フリーになっていた左腕を極め、腕ひしぎ十字固めに移行、西郷の左肩を脱臼させた。
『ぐぅ!やるな……だが、これは試合ではない、命を賭けた代理戦争だと言う事を忘れてはいまいか!!』
そう叫ぶと、西郷は腕ひしぎの体勢が伸びきった状態の山賀をひっくり返し、馬乗りする。しかし、山賀も即反応してマウントポジションを回避、片足をロックしたハーフガードポジションに留めた。だが西郷が上の状態を保持、腕力に任せて山賀の左腕を取り、アームロックをかける。
『くっ、流石先輩……だがまだまだぁ!』
バリバリと靭帯が切れる音を立て、そして肘の関節が外れ、だらりと力なくぶら下がる。顔をしかめる山賀、しかしやられっぱなしではない。アームロックに夢中になっていた西郷の隙を見逃さず、今度は西郷の胴着の帯を握ると、身体の起き上がる反動を活かして上下を入れ替える。マウントポジションの状態に持って行った。しかし、山賀はそこから殴るのではなく、身体を起こして距離を取った。
『なっ?!……山賀、この野郎……あくまで柔道で俺を倒すつもりか!』
外れた関節をはめつつ立ち上がった西郷。最上位の
『天才柔道家西郷康生を倒すのは柔道の技と決めている。あくまでも洗練された
『愚かな!あの体勢から殴るなりフロントチョークに移行すれば貴様の勝利だった!戦いは非情なのだ、甘い気持ちで勝てるか馬鹿野郎!』
西郷は山賀へとテイクダウンを奪うタックルをかました。100kgを大きく越える男の矢のようなタックル、例えるならば車に跳ねられるのと同じ威力。総合格闘技ならばやや横にかわしながら膝蹴りで迎撃するが、山賀はなんと手を前に出して止める構えを解かない。
(山賀、柔道に拘った貴様の負けだ!)
西郷は山賀の左足を掴んだ。後は身体を密着させ、膝を捻るように倒れ込めば膝の靭帯を断裂させながら背中を固いリングに叩きつければ終わり……にはならなかった。左足を西郷が掴んだと同時に、山賀は右足を目一杯踏ん張って身体の向きを変え、回転するように身体を入れ変えると、西郷を半立ちの状態に持って行き、神速の大外刈で逆に体勢を崩した。しかも大外刈の足は西郷のアキレス腱に命中、断裂させた。
『ぐおおおっ!やっ、山賀ああ!』
そのまま倒れ込むと同時に、送り襟絞めに移行、しかし西郷は絶叫しながらも、山賀をそのまま抱えたまま、リングへと叩きつけた。強く背中を打ち付けられ、山賀は口から血を吐いたが、その間に三角絞めに移行し、西郷の首を思い切り絞め付けていく。
『ぬぉ、れぇ!』
西郷は三角絞めを極められた状態のまま、再び山賀を持ち上げ、今度は更に高い位置から山賀の背中を叩きつける、リングが破壊される程の衝撃、山賀の口からの出血が更に増したが、山賀は三角絞めを解かず、極めた部分をこれでもかと絞め上げて行く。
『かっ……くぅあ……』
『私は……あなたが意識を……ガフッ!……手放すまで……解かないぞ!!』
西郷の顔がみるみる青ざめて行く、もう落ちる手前だが、山賀も明らかに口から吐いた血の量が1㍑を越え、危険な水域に達している、既に我慢比べと言う次元では無かった。
『お、れ……は……』
『負け無い……そう、言いたいんだね……けど、柔道に拘った私を……卑下したあなたに……』
そう言うと山賀は三角絞めを更に強く極めた。持っている腕は既に関節が外れる処か靭帯も完全に断裂、絡めた足は動脈静脈共に西郷の首から上へ血を送らぬ状態になっており、顔色は人間がしていい状態を越えていた。
『負けるかぁ!!』
『ガフッ……』
最後の力を振り絞ると、西郷は遂に全身の力が抜け、下の穴、上の穴と言う穴から液体を垂れ流してそのまま倒れた。山賀は漸く技を解き、フラフラになりながらも立ち上がった。西郷は完全に伸びたが、幸いにも強化魔法の影響か、横に倒れた状態にするとすぐに呼吸を再開しており、死に行くような状態には無かった。山賀は一礼して胴着を正した。
〔勝者、ジロー・ヤマガ!ヤマカシ大将の敗北により、チームthePROUD、勝利!!〕
レフェリーによりそう告げられ、山賀の手が高々と上げられると、場内は今日一番の大歓声に包まれた。優勝候補の一角、ヤマカシを倒すと言う、端から見れば大番狂わせな試合の結果はたちまち国中に行き渡り、thePROUDは名実共に強チームと認められた。
しかし、同時にそれは、これから汚い手にさらされるリスクも増えて行くと言う事も意味していた。今はただ、医務室に向かい、肉体を回復する事に意識を集中したいと思うthePROUDの面々だった。
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