異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐ 作:劉鳳
優勝候補ヤマカシを撃破し準決勝に進んだthePROUD。準決勝までの三日間、各貴族からの妨害があったものの、サブスポンサーのテムジン、ヤマカシの四人、そして個人的付き合いから協力関係にある大場の支援により、返り討ちにしてきた。
中には、奴隷の装着物を着けたまま特攻させて巻き添えを喰らわそうと言う非道な輩までいたが、マークス家の向かい隣の借り屋で睨みを利かせているマイケルの存在により不発に終わった。決闘者が駄目ならアル達子供を狙えばと考えた不届き者については、四旗大将により綱紀粛正の大義名分の元に切り伏せられた。これは、平穏無事に準決勝を迎えられた功用達の裏で行動していたヴァルカ王国国王直下四旗大将達の話。
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アン・ヨンナム
『アバッ!』
『やれやれ……嫉妬にしたって彼等の事を執拗に狙い過ぎる。優勝した所で彼処の坊っちゃん自体の身分はせいぜい二階級上がる程度だし、無能無能と抜かして舐めてたのはてめぇらの方だろって感じなのに……全く貴族は馬鹿の集まりかよ。』
四旗大将のアンが刺客の首を事も無げにはねながらそう愚痴る。展覧試合と言う代理戦争によって国家間の無用な戦は確かに無い。しかし己の身の安全が確保された状況と言うものは、時に人間を愚者に変える。特に貴族連中は仮に戦争になっても前線に出る気等持ち合わせていないので、どうしても多い。この世界に来て七年、世界情勢を見て来たアンの見解は間違い無く真実である。
『最初に来た年は素直に異世界に来たって嬉しかったな……』
アンはこちらに召喚される前、韓国の兵役真っ只中だった。故に、こちらの世界で有能認定を受け、最初の頃は浮かれていたものだ。しかし、召喚者の末路を知ると、どんなくそったれな思い出しか無かったにしても元世界の方がマシだった事に気付く。
『確かに兵役の頃の待遇はくそったれだった、地獄だった。でもたった二年その地獄さえ耐えたなら、後は別に何も縛りもない。それに比べてこっちは……人間扱いなんてされちゃあいない。』
『オバッ!!』
気持ちを叫びながら、マークス家の邸宅に近付く者の首を次々とはね飛ばして行く。公爵待遇とされる四旗大将である彼等も、蓋を開けてみると西郷達と同じような状況で戦わせられていた。それでも待遇はとても良かったので多少の不条理は受け入れるつもりだったのだ、国王の大号令を都合良く解釈し、自分達召喚者を消そうとする馬鹿達が暴挙にさえ出なければ。温厚だったアンも、流石に堪忍袋の緒が切れていた。
『俺は今非常に虫の居所が悪い……俺達異世界の人間をくそみたいに扱って来た報いは受けろ、死をもってな!』
『ばっぱけもんだぁ!!』
『あっ、あんな化け物に勝てるわけがねぇ!逃げろぶぁっ!』
『逃がさねぇっつったろ……オモチャにされた分はしっかりと返してもらぁ!!』
怒りのまま、アンは夜通し刺客を狩り続けた。後日、この夜にとった百人規模の首級を、刺客の雇い主の邸宅に送り付けた。その首級一つ一つに、国王の側近たる四旗大将の刻印を刻んで。
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王 来栄
同時刻、王は暗殺を生業とするナハト伯爵の家を襲撃していた。
『先帝の時代から召喚者を暗殺してきたあんたらの事は知ってる。出来レースな展覧試合を作って来たってのも知ってる……だがな、今上陛下がそれを望んでない以上、あんたらの行為を許す気はない。』
暗殺部隊をあらかた片付け、ナハト伯爵の首に短刀を突き付けながら王はそう呟く。
『四旗大将がこうして動いた……意味は判るか、外道。』
底冷えする程の視線を送りながら、ナハト伯爵へと声をかける。ナハトは声にならない声をあげながら、首を縦に振る。四旗大将、それは、国王の手足であり、国を滅茶苦茶にする悪を断罪する者である。夜盗レベルなら、国の兵士が直接捕らえるが、貴族相手では兵士達は捕らえる事が出来ない。それら免罪符を盾に悪事を働く貴族を成敗する事を託されたのが四旗大将である。彼等に狙われたが最後、死の道しかない。
『さて、あんたら鎮圧した所でまたどっかの馬鹿貴族がつまらん事を働くだろう。だから、あんたの首を利用させて貰う。屋敷の扉にド派手に飾ってやる……死んでも楽にはしねぇ!』
『ヒイイイ!たっ、助けでぇ!アブおぇ!!』
敢えてゆっくりと刃をめり込ませながら首を切り離して行く。逆さ吊りにしているために意識は首を切り離してしまうまでは無くならない。悶えに悶えた末に、ナハト伯爵は絶命した。
『汚い連中の末路ってのは、最後はこうなるのが相場だ……俺達も似たようなもんだが、少なくとも、この世界の最低限のルールは守るつもりだ。』
そう言うと、王は無造作に置かれたナハト伯爵の首に唾を吐きかけ、蹴飛ばした。
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東郷マリア
『この世界の貴族は、主君に唾するような人間ばかりなのかしらね……』
そう吐き捨てるように言葉を投げる東郷の前に散らばる、数十を超える屍、その中に、腰を抜かして失禁しているマルナ侯爵とその令嬢。四旗大将の実力を見誤った者の顛末をむざむざと見せつけられ、声をあげる事も出来ない。
『言わなかったかしら、私達四旗大将の動く理由……散々に扱われて来た召喚者の身を守る事、国に仇なす者を例え貴族であろうとも始末する。四旗大将に選ばれるのは能力無しであろうとも中隊程度なら壊滅出来る実力がある者のみだって。あれだけ喧伝してたのにそれも聞かず、あまつさえ穏便に済ませようとした陛下の言葉をどうとらえたら馬鹿をするのかしらね……』
透き通る声はむしろ彼女の冷めきった表情をより恐ろしくさせた。目の前にいるマルナ侯爵とその娘はただ助けを乞うように顔を歪ませるだけだった。勿論、彼女はそれを許さない。
この世界に来る前の彼女は、旧財閥の令嬢で、平穏な日々を送っていた。しかし突然この世界に召喚され、順風満帆なエリートの道を閉ざされた。幸い有能認定を受けたが、戦いによってしか自分達の生き残る道が無い状況に晒された彼女は、優しさを捨て、己の力を磨く事に全力を注ぎ、結果四旗大将にまで上り詰めた。それはひとえに、同じ境遇の人間を生まぬ為に、元世界で一度も汚した事も無い自らの手を、数えきれぬ程血で汚しながら……
過去を回想しつつ、目の前にいる令嬢の首を掴むと、そのままへし折った。
『へぎゃっ!!』
『ア、アスナーー!!』
『心配いらない、あんたもすぐ死ぬ。』
『おべっ!!』
何の感慨もなく、マルナ侯爵の首を持っていた鉈で切り飛ばした。
『……死ぬのが怖いのなら、最初から手を出すもんじゃない……せいぜい彼の世で懺悔しなさい。』
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塩田英莉夫
『終わったな……やってみると案外呆気ないものだな。』
三人が其々任務を終えて塩田の元に戻って来た。塩田自身もその手には数名の貴族の首級を携えていた。彼がこの日その手で殺した者の数は三百余り……潰した貴族は十家にも及んだ。圧倒的な実力を以て狼藉を働いた者達を情け容赦無く屠る様は四旗大将の別名である死刑執行人の名をそのままにあらわしているようだった。
『レスリングに汗流していたあの頃……俺は幸せだった。勝手にこの世界に召喚されて有能だと宣われるまではな。』
殺した貴族の首級の一つを足で踏み潰しながら塩田は戻らない時に涙していた。名誉も力も手に入れた彼だったが、大学で同期生らと共に切磋琢磨して共に笑い、共に泣いた頃と比べれば虚しいだけだった。
『川島……お前はまだ目の輝きを失っていない。ならばそのまま腐る事無く突き進め、俺達が露払いをする、やれるだけやってみせろ……』
無能認定を受けながら、己の力を以て真っ直ぐに駆け抜けている功用達を見て、虚しい心に僅かに残った希望を実現する為、塩田達四旗大将は狩りを続けるのだった。
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朝が明けた。城下町は変わらず賑わいを見せていたが、この三日間で二十余りの貴族がお家断絶となった。四旗大将によって始末された刺客の数は優に二千を超えた。それだけの人間がこの世から消えたにも関わらず、街の賑わいが変わらないと言う事は、それらの貴族や刺客、私兵が国にとって要らぬ存在であったと言う証明になっている。展覧試合の裏で、彼らがこうして汚れ仕事を請け負う事により、何時も以上に展覧試合が熱く、素晴らしいものになっていくのだが、功用達はそれを知る事なく、ただ次の試合への準備を進めていくのだった。
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随分と時間が空いてしまい、申し訳無い。プライベートで転職の準備に明け暮れていたので、かなりエタってしまいました。