異世界で格闘しますた‐スキルなんて無いが、格闘技術はある‐   作:劉鳳

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第7ラウンド 決闘者らの邂逅

 

ヴァルカ王国のとある貴族邸。屋敷の大きさ等は王族の王子級の広さを持つ所から、爵位を知らなくとも、そこの主が有力貴族である事を誰もが察するであろう。

 

ヴァルカ王国大公、ソラウデューク大公爵。大公家であるフズィワ家の本流、その主がウィリアム・グラン・゛ソラウデューク゛・フズィワである。年齢は50を越えながらも若々しく、かつその眼光は見るものを膝まずかせる。異世界決闘者を100人以上従え、隣国との展覧試合でヴァルカ代表として何度も出場経験があり、二回も優勝した実績を持つ。

 

そんな大公爵家では現在、騒がしい雰囲気を纏っていた。屋敷に雇用していた決闘者の一人が、なすすべなく倒され、医務室に運ばれたと言う情報が入ったからだ。異世界決闘者は貴族との雇用が決まるとある程度の自由がまかり通る。その事で、フリーファイト的な事をして力を見せつける者も珍しく無い為、普段はそこまで騒ぎにならない。騒ぎになっている理由は、その決闘者が〔ただの〕人間に負けたと言う事実だった。

 

疾風(はやて)の陽平がたった一発の拳で倒されたらしい。にわかには信じられんな。』

 

『何でも陽平を倒した男はコウヨウと言う男で、拳で闘うと言う意味の拳闘士(けんとうし)を称していたそうだ。』

 

『拳闘士ねぇ……』

 

功用がこちらに来て最初に倒した決闘者が、よりによって大公爵お抱えの戦士だった。彼が負けてから特定が少し難航したのは功用が名字を名乗らなかった事も大きい。何れにせよ、強力なスキルを保持する者が、この世界の力自慢に負ける事は、闘技場戦士位でしかあり得なかったので、騒ぎが大きくなったのだった。リーダー格の男は、拳闘士と言う言葉に反応した。

 

『御館様の耳には既に入っているらしい、この屈辱は展覧試合の前に晴らせとの事だ。』

 

『短く言ってるけど御館様激オコじゃねぇか、どっ、どうなるんだろ……』

 

『とりあえず落とし前つける為にそいつを試合前にボコればいいんだな?任せな、俺は陽平に負けないスキル持ちだぜ?それに、拳闘士を名乗ってやがるのが気にくわねぇ。』

 

『おっ、大場さん、あんたが行かなくても……』

 

大場と呼ばれた男は、腕をコキコキと鳴らし、ウォーミングアップをする。

 

『なーに、ちょっと最近練習ばかりでな、実戦感覚を戻しに行くだけよ。確かそのコウヨウってのは街外れの下騎士爵のとこの決闘者って話だったな、それになんか名前も引っ掛かる。まあちょっくら焼き入れてくらぁ。』

 

 

 

一方、別の場所でも騒ぎが発生していた。ヴァルカ王国の宰相を勤めるマスル侯爵の屋敷である。屋敷の決闘者が集まる宿舎に、遺体が二つ運ばれていた。

 

(ほむら)鳴門(なると)破戒(はかい)庄谷(しょうや)が闘技場で負けただと?しかも相手はこの世界の戦士と無能認定の男?信じられん、信じるもんか!』

 

一人の男が二人の遺体を見て尚事実を受け入れたくないようだった。

 

『しかし真実であるようだ。ここ半年の間に、この世界の有力戦士と、我々と同じ世界の戦士が闘技場で異常な強さを示していると耳にした。』

 

固い口調の女戦士がそう呟く。ヴァルカ王国の闘技場は世界中の戦士が集まる場所で、異世界決闘者もたまに顔を出しては賞金稼ぎをしていると言う話を耳にしていたが、スキル持ち、しかも高いスキルを持った人間が負けた等と言う話は初めてであり、動揺もさもありなんだった。

 

『鳴門を殺したのは近接戦を挑んだオーガの男だそうだ。奴はまだ闘技場にいる。しかし、庄谷を破った男は既に闘技場の戦士を辞めたらしい。』

 

『何か情報は無いのか?』

 

『闘技場で名を馳せた奴だから名前は直ぐ判明したよ。確かジロー・ヤマガだった……もう名前からして俺達の世界の人間だな。』

 

『山賀だと?』

 

一人の男が名前を聞いて反応を示した。鎧や剣で武装した他の面々と比して軽装なその男の目は、険しさを放つ。

 

『さっ、西郷、どうしたんだよ?』

 

『俺の勘が正しければ、柔道100kg級日本代表の山賀治郎だ。俺の大学の後輩で、才能の塊みたいな奴だった……そうか、奴も来ていたのか。』

 

西郷と呼ばれた男は、悪魔のような笑みを浮かべながら拳を握りしめた。

 

『そいつは俺の獲物だ、俺がこの手で伸してやるよ。』

 

『はぁ、ああなったら西郷さんは止められへん、まっ、鳴門君を殺したオーガの方は後で片付けるとして、西郷さん、展覧試合まで後三ヶ月しかないんやから、無理せんでな……』

 

『くくっ、心得てら。それで奴の居場所は?』

 

『下騎士爵のマークスと言う人の所に最近決闘者として招かれたらしい。少林寺拳法三段の庄谷がなすすべなくやられた相手だ、念のため私らも行こう。』

 

 

その頃、功用達は、朝一のランニングを終え、各々の筋力トレーニングに励んでいる最中だった。功用は注文していたサンドバッグ(正確にはそれを真似て作った模倣品)に向かって拳を叩き込んでいた。まるで銃でも撃ったかのような激しい音、ドドドドッと言う、素早いラッシュの音を聞いた一同は、改めて功用の凄まじさを感じる。

 

『あ、あの人ってウェルター級ッスよね?パンチの音がマ〇ク・タ〇ソンのヘビーバック打ちみたいな音してんですけど……』

 

『アマ時代はミドル級だったらしい、かつ計量後だから栄養も取って元のウエイトに戻ってるわけさね、そら重いパンチになるさ。』

 

『にしたってあの音はおかしいですって、体重乗せたローキックとかでないと出ない音してるもん……』

 

『あの絶対王者マイケルが戦いたがるのも頷けるな。』

 

そう話しているうちに、功用は独特の挙動を見せる動きでラッシュを叩く。

 

『変則型デンプシーロール……』

 

『トリッキーな動きまで出来るのか、流石に世界ランカーだな。』

 

功用は最後に、感触を確かめるように腰を稼働させ、ボディ辺りを意識した位置に右フックを叩きつけた。

 

『うぇ?!なんつーボディブローだよ……マジで人やれますよあれ。』

 

『ふぅ、すっきりした。やっぱサンドバッグあるといいね。』

 

先程まで鬼気迫る表情でサンドバッグを叩いていた男とは思えない位の穏やかな表情で、功用は練習を終える。

 

『俺にはこれしか取り柄が無いんでね、異種の格闘技や剣術に立ち向かうのはこれが最善なのさ。』

 

そう言うと今度は縄跳びに移行していった。練習熱心なリーダーに苦笑しながら、今度は竹田がサンドバッグに向かう。

 

『なら俺も、自分の取り柄を鍛えますか!』

 

そう言うと竹田は功用に代わり、サンドバッグ打ちを始めるのだった。

 

 

半刻程過ぎた頃、マークス邸前にとある集団が集まってきた。マスル侯爵の決闘者西郷と女性二名、そして大公爵の決闘者である大場が、マークス邸前で鉢合わせしたのだ。

 

『これはこれは大場さん、去年の展覧試合以来やないですか?』

 

『吉田、それにそっちは西郷と島津か?目的が被っていると見える。』

 

『ああ、その通り。尤も、用事のある人物は其々違うようだがな。主要メンバー三人でくる辺り、おたくの所の誰かが強敵にやられて敵討ちか?こっちはこっちで陽平がやられてイライラしてらぁ。』

 

『ふん、似たようなものだな。まあ、私は戦えれば誰でも良いのだがな。なんなら君とここで手合わせしてもいいのだぞ?雷神(デウス)の大場君。』

 

『……島津よぉ、俺は手加減てもんが出来ねぇんだ、売った喧嘩を後悔させてやろうか?』

 

お互いが睨みをきかせ合う中、この場に不釣り合いな声がその場に響いた。

 

『あれぇ?お兄ちゃん達アル様の知り合いなのぉ?』

 

マナの末弟のマーシーが玄関前を掃除しようとその場に来たのだ。余りにも小さい子どもに皆がぎょっとした。

 

『な、何や小さい子どもやないの……僕、危ないからあっちに行っててな。』

 

『でも今からここを掃除するの、仕事はちゃんとしないと駄目なの。』

 

自分達を見ても物怖じしない少年に、皆がたじろいでいた。そうこうしているうちに、朝練を切り上げた功用が、玄関前にやってくる。

 

『マー君玄関掃除?偉いねぇ……あれ?あんたらは?』

 

『『『!!』』』

 

呑気なテンションでそう言う功用とは裏腹に、ここに来た全員が身構えた。何よりトレーニング終了直後で上半身裸だった為、緊張状態の見事な筋肉が露になっていたのも一因か。対する功用は何やってんだろう位の感覚だった。

 

『あ、あんたまさかここの決闘者さんか?』

 

『ん?まぁそうだけど?君達は?あー、失礼、先にこっちが名乗らないとだね。俺は功用、あっちではボクサーやってました、宜しく。』

 

功用が特に威嚇も何もしない為、肩すかしを食らった彼等は素直に自己紹介をし、事情を説明した。功用は特に侯爵の決闘者側である西郷の血走った目が気になっていたのだが、事情を聞いて納得した。

 

『そう……でもそれだと何か矛盾してるなぁ。山賀君、初めて俺らの世界の人間を殺したのは昨日、ここの前当主のお抱えの決闘者だったんだよね、だからちょっと引っ掛かっててね。』

 

『西郷さん、夏海、この人嘘はついてへんみたいやな……もう少し詳しく話を聞かせてもらいましょか?』

 

『分かった。んじゃ、山賀君達を連れてくるよ。あっ、でもその前にここの当主様に許可を貰わないと。アル、どうなの?』

 

『コウヨウしゃん達がいいなら大丈夫でしゅよ!』

 

『まっ、また小さな子ども……』

 

功用は改めてアルを紹介した。目の前にいる可愛らしい少年が当主である事に一同驚きを隠せない。

 

『立ち話も疲れましゅから、中へ入って下しゃい、それにマーシー君が掃除出来ないのはかわいそうでしゅ。』

 

アルの言葉に一同は従った。一応各々上級貴族の決闘者ではあるが、下級であれ貴族の当主に失礼な態度は取れない為、そのように動いたのだが、小さな子どものリアクションに皆ペースが乱される感じに戸惑うのであった。

 

『何か調子狂うな、西郷よ……』

 

『ああ、そうだな大場……あの手合いはどうも苦手だ。』

 

 

アルに連れられ、広間に着いた彼等は、トレーニングを終えて着替えを済ませた山賀達の姿を目に入れた。西郷は山賀に強い視線を送っていたが、山賀はそれに落ち着いた表情で彼を見返す。

 

『西郷先輩……あなたもここに?』

 

『おう……山賀、久しぶりだな。あれから二年経ったが、日本選手権は優勝したか?』

 

『ええ……世界柔道の日本代表にも選ばれましたが、そんな最中に飛ばされました……先輩も、失踪したと思っていたら、ここに来ていたんですね?あの先輩が死ぬはずは無いと思ってましたから。』

 

最初に言葉を交わしたのはこの二人だった。西郷康生(さいごう こうせい)、22歳。山賀と同じ大学の先輩であり、柔道部の主将だった男である。山賀がくる二年前、大学のインターカレッジで100kg超級の大学チャンピオンに輝いた男、その僅か一週間後に此方の世界に引き込まれた。有能スキルを持ち、マスル侯爵に召し抱えられた彼は、この世界で何不自由無い生活を送ってはいたが、何処か心が満たされ無い生活が続いていた。

 

『強い人間と戦いたい、それなのにこの世界で強い人間はここにいる大場達を除いて殆どいなかった。特に、投げ技に関して言えば誰一人としてな。』

 

『先輩はそれこそ周りから嫉妬される程に強かったですものね……』

 

『お前は、無能認定を受けた、そう聞いていたが、うちの人間を軽くのしたと聞いてな、それで気になった事があってな……単刀直入に言おう、お前……破戒の庄谷を、殺したか?』

 

西郷は本題に切り込んだ、ここに来た目的はそれなのだ。山賀は視線を逸らす事なく、

 

『庄谷さんと戦ったのは事実ですね、あの時は体落としで倒しました。でも殺してはいません。彼は試合後に自力で起きて悔しがりながら帰りましたね。』

 

『そうか……しかし、破戒の庄谷を倒したのは事実(・・・・・・・)だと……無能認定と言うものがあてにならぬ事が証明されたな。』

 

西郷は山賀の口調から、事実である事を察した。闘技場での戦いは、極端に急所を狙った攻撃で倒されぬ限りは、回復役が付いている為、あのゴブリンオーズのような怪我位までなら死ぬ事はまず無い。

 

『となると改めて犯人探しになるな……それにしても、お前にそうして貴族のスポンサーが付いたのならば、何れは闘う事になろう、楽しみにしている。』

 

『ええ、先輩。その時は胸を借りさせてもらいますよ。』

 

山賀と西郷が握手した事で、侯爵側の件は終了した。ここまで黙して聞いていた大場は、挙手して話しを振った。

 

『俺達大公家の方に関して、いいかな?特にコウヨウさんだったかな?あんたに聞きたい。』

 

『いいよ!』

 

快く返事した功用にやや引きながら、大場は大公家の決闘者が負けたてん末について功用に問うた。功用はそのまんまやった事を話した。

 

『疾風の陽平を簡単に仕留めるとは……確認するが、あんたは何者なんだ?』

 

『川島功用、君らと同じ世界の人間さ。尤も、日本からではなく、アメリカのMSGからここに飛ばされてきたんだがね。マイケル・ギーグ・アームストロング、ウェルター級の絶対王者と対戦する為にわざわざアメリカにまで飛んだのにこのざまさ。』

 

『川島……名字を聞いて漸くピンと来たよ、日本人初のウェルター級世界王者になれる男が遂に生まれそうってね。ああ、改めまして、俺は大場秀樹(おおば ひでき)、ライト級の日本王者だった……そう言えばわかるかな?』

 

大場秀樹、20歳。北九州の出身で、荒れた学生時代を過ごした。高校の時にボクシングと出会い、僅か二年でメキメキと頭角を表し、プロテスト合格から半年でライト級の日本王座に輝いた。その話は同じボクシングをしている功用の耳にも入っていた。

 

『門司の竜巻野郎、メディアはそう囃し立ててたな。まるで竜巻と比喩されたデンプシーロール、階級は違えど耳に入るさ。君はスキル持ちだったね?ならば確実に俺が倒した陽平君よりも強い、これだけは保証するよ。』

 

『世界ランカーのお墨付きを受けるなんてありがたい話だ……俺のスキルは電撃だったから、疾風の陽平のような素早く動ける力を持ちたかったが、あんたにそう言われると自身になるよ。』

 

『ところで大場君、ここに来たって事は、落し前をつけると言う事なんだろうけど、今からやる?俺は何時でもいいよ。』

 

功用は同じボクサーである大場とやるならそれもいいと思っていた。階級は大分違うが、向こうはスキル持ち、ハンデも考えずいい勝負が出来ると見込んでいた。しかし、大場は首を振らない。

 

『川島さん、闘うならば展覧試合で……幸いうちの大公爵は事情を話せば分かる人故に、今回の件は何もない事にしようと決まってたしね……もとい今のあんたと対決したところで、勝てる見込みが無い……ボクシングで飯を食っている以上、勝てるように鍛えてからにしたい、尤も、スパーリングしに来るかもだけど。』

 

『おっ、思ったより慎重だな、だからこそ楽しみでもある。西郷さんと大場君、それにそちらのお二人さん、闘う時は展覧試合で。互いに恨みっこ無しだぜ?』

 

『勿論やで。』

 

『楽しみにしているよ。』

 

こうして彼等は何もせずに帰っていった。

 

 

決闘者達が帰ってすぐ、功用は率直な感想をみんなに聞いた。竹田は大場に、山賀は西郷に対して楽に勝てる相手ではない事を感じたと言う。真田は、大場に付いていた女戦士に関して知っているらしく、詳しく話をした。

 

『彼女の名は島津夏海(しまづ なつみ)、薙刀と示現流の達人である、武道ガール……彼女は警察官だったな。自衛隊と警察の交流会で警察側の武道演舞に出ていたから覚えてるよ。』

 

いわく、生まれる時代と性別を違えたと言われる程の強さを持つ、薩摩おごじょ。

 

最後に功用は、関西弁で話していた女性について思い出したと言う。

 

『吉田って言ってたから間違いない、剣道日本一の吉田如音(よしだ ゆきね)……たまたま練習終わりにテレビつけたら剣道の全国大会やっててね、スポーツ好きな俺は見てたんだけどさ、彼女の動き、ありぁとんでもなかったよ。優勝インタビューの気さくな関西訛りと童顔が中々チャーミングで記憶に残ってたよ。』

 

『何れにせよ、弱い奴はいないって事ッスね。だからこそ燃えて来ましたよ、練習どんどんやりましょう!』

 

竹田が俄然やる気を出したのを見て、皆が頷く。いきなり飛ばされた世界で、いきなり無能扱いされ、いきなり奴隷落ちされた彼らにとって、世界を見返してやるチャンスを手に入れた。無能認定を覆してやろうと意気込む彼らの目に、一点の曇りもなかった。

 

 

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