ああ、もしも。彼を見付けたのが俺でなかったのなら、俺の心は救われるのに。
ありもしない願いを抱いて、見ないようにと蓋をする。そうならないようにと、俺が生きてきたのはそういう道だ。
ああ、もしも。彼女が俺を憎んでくれたのなら、俺の心は救われるのに。
そんなちぐはぐな願いをまた増やす。そうならないようにと、細心の注意を払ってきたのは他でもない俺だった。
ああ、もしも。あの子が死んでしまっていたのなら、俺の心は立ち止まれるのに。
願ってはいけないということは、わかっている。許されない。それは、俺の全てを否定することになる。
それでもと。俺は祈ってしまう。この未来が違えたのならと。そうすれば、全て。
もしも、もしも。許されるなら。
どうか俺を見逃してほしい。
この命は全て、贖いのために。
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赤井秀一が姿をくらませた。そんな知らせが僕の元に届いたのは、新一くんの存在が大きかったに他ならない。彼はどうやら、僕と赤井の仲を取り持ちたいようだから。
こちらとしては、もう赤井秀一という個人に特別固執してなにかがあるわけではない。全てはあの日、清算された。赤井がヒロの死に関する真実を僕に告げた日に、僕はその罪を生涯背負っていくことを決めた。僕の所為でヒロが死んでしまったのなら、僕はもうヒロの分まで生きるしかないのだ。
というか、他にも友人がぼろぼろ死んでしまっているので、誰よりも長生きしてあの世でバカ笑いしてやると決めた。さっさと死んでしまうから、お前らは色々な楽しみを知らずに終わってしまったんだよ、ざまあみろ! そう言って、僕はあの世で笑うと決めたのだ。
もちろんそんな胸の内は赤井にも誰にも告げていないが、話してくれたことを感謝すると言った後の赤井の顔は、思い出すと見ものだった。
極悪人のような目元が完全に緩んでいて、大きく見開かれていた。なんとも間抜けな表情だった。僕に殴りかかられたり、僕が自暴自棄に暴れたり、そんなことを想像していたのではないだろうか。失礼だな。
まあ、赤井に対してそういった態度ばかり取っていたのは他でもない僕なので、その辺の言葉はきちんと飲み込んだ。
ああ、でも、そうだ。思い返すと、確かにあの時の赤井は様子がおかしかったような気もする。
僕に、君は強いなと笑った彼は、本当に赤井秀一なのだろうかと我が目を疑うほどに、穏やかで、普通の人に見えた。鋭さもなく、威圧感もなく。彼は心の底から、僕の言葉に安堵したように見えたのだ。
そうして二、三瞬きをする間に、いつもの赤井に戻っていた。ニヒルな笑みを携えて、彼は小さく呟いた。
「俺は弱くてな」
表情とセリフが逆なんじゃないかと口を挟む暇もなく、続いて赤井は口だけを動かして、音は僕の耳には届かなかった。彼にはなれない。そう口元が動いた気がしたが、結局、僕にはその『彼』が誰なのか、検討などつかない。何故なら、僕は赤井と親しくなどないからだ。
「だからね、新一くん。僕に赤井が蒸発したって言われても、困るんだよ」
「心配じゃないんですか」
「別に。どこでだって生きていけるだろ、あいつは」
そう、どこでだって生きていける男だ。赤井秀一という男は、そういう男だ。僕が知っているのはそれくらい。だから、赤井がどこに消えようが興味はないし、死んでいたって、ああ死んだのかと簡単に悼む程度で済む話だ。
『君は強いな』
脳裏に浮かぶのは、僕を強いと評した、どこにでもいそうな普通の男で。どこででも生きていけそうな強い男ではなかった。ああ、なんだって。僕が赤井を心配してやらないといけないんだよ。腹立つ。
そんなお前を僕は知らない
俺は、人殺しだ。