贖い   作:赤穂あに

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世良真純が尊敬する兄

 秀兄がどこかに行ってしまった。ボクの一番上の、強くてカッコいい兄さん。

 新一くんにもママにも吉兄にも、誰にも何にも告げずにどこかに行ってしまった。そういうところは、まあ秀兄っぽいなぁと思う。秀兄のことだから、きっとどこででも生きていけるんだろうけど、気軽に会えないのはどうしても寂しかった。

 そんなことを新一くんに相談すると、彼は彼で降谷さんに相談に行ったようだった。ママもFBIの人を訪ねていたけど、こちらは空振りで終わっている。

「降谷さんはなんて?」

「どこでだって生きていけるだろってそれだけ。冷たくねーか?」

「うーん。正直に言うと、ボクも降谷さんと同意見だけどな」

「いや、オメーはもっと心配しろよ……」

 少しだけ引き気味に新一くんはそう言うが、やはり彼の心配が取り越し苦労としかボクには思えなかった。

 だって、秀兄だ。FBIきっての切れ者で、世界最高峰のスナイパーで、詳しくは教えてもらえなかったけど、つい先日だって偉業を成し遂げた。ママや彼の身体が元に戻ったことだって、秀兄の功績が大きいと聞いている。

 ボクの一番上の兄は、そういう人だ。

 誰よりも特別で、誰よりもすごい人。そんなの、新一くんだって知っているだろうに。

「降谷さんや世良が言うこと、わからねーわけじゃねーよ。ただ、なんとなく……」

「なんとなく?」

「胸騒ぎがするというか……」

「全部終わったんだろ?」

 ボクは、細かいことを知らされていない。いくら探偵ぶったって、いくらジークンドーが使えるからって、触ってはいけない闇の部分というのはどうしても存在している。

 ボクが知っているのは、パパが死んでしまっていたという事実と、ママが元に戻ったという現実だけだ。きっとそれ以外は、ボクが知らない方がいいのだろうとわかっている。だからボクは、そこに関してだけは何も聞かない。ただ、終わったんだと。それだけを知っている。

 秀兄がそう言ったから。

「全部終わったって、秀兄は言ってたぞ?」

「赤井さんが?」

「そう」

「……燃え尽きちまうような人じゃ、ねーと思うんだけどな」

「当たり前だろ! ボクの兄さんだぞ! だから、心配なんてしなくていいんだって!」

 きっと、秀兄はFBIでやるべきことが終わったから辞めてしまっただけ。きっと、次は何をするかななんて、あの自由で誰にも縛られない兄は考えているんだ。きっとそう。

 そうじゃないと、ママや、吉兄が、潰れてしまう。

「真純。母さんと秀吉を頼んだぞ」

 頭を撫でられた記憶なんてなかったけど、それはとてもすんなりと馴染んで。触れた骨張った手はとてもボロボロで。微笑んだ顔は生まれて初めて見たものだったけど。それでも、他でもない、大好きな兄の望みがそうであるなら。

「便りがないのは元気な証拠! まあ、なんかわかれば教えてあげるさ!」

 ボクは、秀兄が初めてみせてくれた弱さを、支えなければならない。そう思った。

 間違っているのだとしても、そうしたいと、ボクは思う。

 

 

 

知らない顔をした兄




俺は、無責任だ。
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