赤井秀一という最高の捜査官を失った。誰に落ち度があったわけでもなく、そうなるべくしてなったのだろうなと、根拠のないまま確信する。彼はそういう人間だった。もっというなら、失ったわけではない。
彼は役目を果たしたから立ち去ったのだ。彼はFBIに用がなくなったからそこを去っただけ。いつだってそうだ。赤井秀一という男は、果たすべき使命のみに固執していた。組織を壊滅させること、それのみに、固執していた。そう、誰もが思っていたことだろう。それであって、彼という性質に期待した。きっとその後も彼はFBIの柱として力を貸してくれるのだと。
そんなはずはないと、己以外、誰が知っていたのだろうか。あの、何一つとして望まない性質を、一体誰が信じられるのだろうか。
彼は、優秀な潜入捜査官だった。上手く深部まで潜り込み、情報を抜き、最重要とされる幹部を捕縛する直前まで差し迫った。
そして、それを無に帰したのは他でもない己のミスだった。殺されても文句は言えないミスだった。死を覚悟したし、それ以上の罵倒や失望も覚悟した。
しかし、実際のところそれらは一つもなかった。彼は俺のミスを許した。仕方がない、また機を待つと言って微笑んだ。
微笑んだのだ、彼は。
喉から手が出るほどその身柄を望んだ男を前にして、去るしかなかったその時に、彼は微笑んだ。安心しているかのようだった。見間違いだと思いたかったが、自身を責めることしか出来ない俺の背をそっと撫で、彼は言った。
「お前に罪はない。あるとすれば、それは俺の油断だ」
それはない。彼に落ち度も油断もありはしなかった。それを誰よりも理解している彼であったはずなのに、俺に罪がないという。
なあ、キャメル。穏やかな顔のまま、彼が放ったのは、今思うと懺悔だったのではないだろうか。
「俺がこうなると、知っていたらどう思う?」
お前のミスを知っていたぞと詰られたのであれば、どれほど楽だっただろうか。
彼の顔が怒りに歪み、端正な眉が寄り、薄く口を開けて低く声が発せられたのならば、己は命だって捨てただろう。それほどのことをしでかした。わかっている。死んで償えと言われればそうしたのに。
彼はどうしようもなく穏やかに、俺のミスを許容した。知っていたと、受け入れた。
そうして、一人の女性が死んだのに。それも俺のせいだからと、ようやく彼は顔を沈めた。
荒唐無稽な話だと、何度考えてもそう思う。でも俺は、もうそれ以外の答えが見つけられなかった。
思い込みは視野を狭めるぞと何度彼に言われたのかわからないが、彼の俯瞰と比べたらなんてことはない。俺ではきっと、気が狂う。起こりうる未来を知り得てしまうなど、人がたどり着いていい場所ではない。神の所業だ。それでいて、心は変わらず人のままなど。
いったい、どれほどの苦痛を飲み込めばそこに至れるというのだろう。
「赤井秀一という人間は、きっと、ああいうふうにしか生きられなかったんでしょうね」
躍起になって赤井さんの足取りを追おうとするジョディさんに、極力感情を滲ませないように答える。憐れむなど許されない、悔やむなどお門違い。彼には誰も感情を向けられない。
なぜなら、誰一人として彼にその片鱗を分け与えられた者など、ここにはいないからだ。
その身に宿る苦難を推し量れない
俺は、結局何がしたかったのだろう。