むかしむかし。
とあるお屋敷にお父様とお母様、そして一人娘のシンデレラが住んでいました。
しかしある日、お母様は病気で亡くなってしました。
シンデレラは悲しみましたが、少し経ってお父様は新しい奥様を迎えました。
継母と、共にやってきた二人のお姉さんは、みんなとても意地悪で毎日、シンデレラに家事を押しつけては
「窓のサッシにホコリがたまってる」
とか
「味噌汁の味が濃い」
とかイヤミを言ってきました。
シンデレラは一度、ぶちギレて
「うるせぇ! 文句があるなら自分でやれ、お前らが家事を何一つできない役立たずだから、私がやってんだろうが! なんで親父はお前みたいなコブ付き能無しと再婚したんだろうな!? アレか、親父のシナびたアレをしゃぶるのがよっぽど上手いのか!? アーン!? 」
と言ってやりましたが、用意周到な継母はそれを録音していました。
そして、都合のいい様に編集した音声をお父様に聞かせたので、お父様は
「は、はぁ!? ワシのアソコは現役バリバリ! シナびてなんかないし!」
と怒ってシンデレラの立場はより悪いモノになってしまいました。
そんなある日、お城から舞踏会のお知らせが届きました。招待状には「ご家族全員でご参加ください」との旨が書かれていましたが、継母たちは
「お前は家族じゃねぇ!」
とシンデレラを置いてお城へ出掛けて行ってしまいました。
「畜生、アイツら本当に人間が腐ってやがんな…」
シンデレラが家の台所でセブンスターを吸いながらボヤいていると、目の前に眩い光と共に魔法使いが現れました。
「おお、不憫なシンデレラよ。お前の願いを何でも一つ叶えてやろう」
「私の願いを…! 何でもいいのですか!?」
「勿論じゃ」
「では、全宇宙を支配するほどの最強パワーを私に与えて下さい!」
魔法使いは驚きました。
「え、えと…。もうちょっと女の子らしい願いじゃなくていいのか…?」
「何だそれ、例えば?」
「キレイになりたいとか、お姫様になりたいとか…。」
「逆に聞きたい。一体、それに何の価値が?」
「そりゃあ、美しい姿で舞踏会に参加すれば、王子様の目にとまるだろ。そうすれば、玉の輿で人生逆転じゃないか。」
シンデレラは声高らかに笑いました。
「それ、結局、男の力に頼ってるだけですよね?」
「そりゃ、そうじゃが、王子様が相手なら将来も安泰じゃろ。楽して身分の高いイケメンに養ってもらう。これぞ、女の幸せよ」
「いやいや。もし仮にですよ。私がそうなったとしましょう。あの嫉妬深い継母たちのこと。きっとクーデターを仕掛けて私や王子様を引きずり下ろそうとするでしょう。その時、結局自分が強くないと自分の身を守れませんよね?」
「王子の勝利を信じろよ! それがヒロインの役目じゃろうがい!」
「信じて私は何をすればいいんです? 何もせず祈って家で待ってるの? 仮に王子が負けたら? 何で応援してたのに勝ってくれないんだ、と王子を責めればいいの? それって無責任じゃない?」
「それは…」
「私は、人に頼らない。欲しいものは自分の力で掴みとる。あなたが来なくても、いずれそうするつもりだった。」
「お前、本気か…!?」
シンデレラは静かに微笑みます。
「ああ。私が天に立つ」
魔法使いは何か悟った様に目を閉じました。
「ああ、私が考えていた女の幸せはもう古いのか…。いや、しかし、もしかすると、これからはお前の様な者が世界を統べていくべきなのかもしれんな」
魔法使いは杖を天高くかかげました。
「ビビデ・バビデ・ブー! シンデレラに最強の力を与えたまえ!!」
次の瞬間、杖から発された光がシンデレラを包んでいきます。シンデレラは肉体的にも精神的にも、生まれてこのかた感じた事がないような高揚を感じました。
「な、なんだ! この身体の底から泉の様に絶え間無く力が湧いてくる感覚は…! 勝てる! これなら、どんな敵にも勝てるぞ!!」
シンデレラは眉間に人差し指を当てて、継母たちの"気"を探ると「シュン」という音を残して、その場から消えました。
そう、
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シンデレラがお城のパーティー会場につくと、周りの人たちは、みんな驚いた顔でシンデレラを見ていました。瞬間移動で突然現れたのだから、当然です。
ワープしたシンデレラが前方を見ると、そこにはシンデレラが「義姉②」と呼んでいる存在…つまり、継母が連れてきた二人の義姉の内の年下の方がいました。
「アンタ、何でこんな所にいんのよ! 留守番してなさいって言ったでしょう!」
義姉②は、そう叫びますが、シンデレラには彼女の言葉の意味がよくわかりませんでした。
何故なら、シンデレラには義姉②の声が豚の鳴き声にしか聞こえなかったからです。
どうやら、生物として差がつきすぎてしまったらしい。そう悟ったシンデレラが義姉②の首を目掛けて手刀を繰り出すと、義姉②の首はまるで豆腐の様に簡単に切れ、胴体と分断されてしまいました。
義姉②の身体からドバッと吹き出した血に辺りは騒然となりますが、シンデレラは動じません。
目障りなハエを叩いただけなのに、どうしてみんな騒いでいるんだろう。
そんな気分でした。
群衆のざわめきを切り裂いたのは
「シンデレラぁ! 貴様、よくもぉ!」
という大きな声でした。
シンデレラが声のした方を見ると、そこにはRPG対戦車砲を構えた義姉①の姿がありました。その砲門は明らかにシンデレラを狙っています。
逃げなければ、と普通なら思うところでしたが、今のシンデレラは違います。
シンデレラはダッシュして義姉①に近づくと、RPGの砲門、つまり先端部を蹴りあげました。すると発射された砲弾はお城の天井にヒットし、義姉①は崩れて落ちてきた瓦礫に埋まってしまいました。
瓦礫が多過ぎて義姉①の姿は確認できません。しかし、その隙間から血が流れ出てきたので、重症を負ったことは間違いありません。あるいは、もう死んでいるかもしれません。
それを見たシンデレラは
「へぇ。薄汚ねぇ根性したヤツの血ってのは、やっぱりドス黒い色してるんだなー。」
と感心しました。
「さてと…」
シンデレラは辺りを見渡します。残る敵の一人、継母を探していたのです。
その時、
「死ねぃ、シンデレラ!」
と声がするのと同時に、シンデレラの足下の床が割れ、右手に小型ドリルを持った継母が飛び出してきました。
継母は地中に隠れて近づき、下方からシンデレラをドリルで串刺しにしようとしたのです。
しかし、シンデレラは間一髪反応し、後方に飛んで攻撃を逃れます。
「なかなかやるじゃねえか…」
さすがのシンデレラも驚きましたが、すぐさま反撃に転じます。
シンデレラが継母に向かって右手をかざし
「ハァッ!」
と叫ぶと、そこから眩い光を放つエネルギー弾が発射され、継母に見事に命中します。
継母は城の壁と参加客の一部を巻き込みながら爆散しました。
全ての敵を倒し終えたシンデレラは一旦、辺りを見渡します。
すると、ボロボロになって穴が空き外の風景が丸見えになった城の壁や散らばった瓦礫、身体の一部が吹き飛んだ無数の死体が目に映りました。僅かに生き残った晩餐会の参加客たちは皆、一様に腰を抜かして怯えた顔をしていて、誰も歯向かって来そうにはありません。
「さてと…」
シンデレラはそう呟き、玉座の方へ歩きだします。そこには、この度、王位を継承する王子の姿がありました。
シンデレラが近づくと、王子は色白で端正な顔を恐怖で歪めながら、シンデレラの前に跪きました。そして、言います。
「あ、あなたがシ、シ、シンデレラか。」
「その通り」
「先ほどまで、あの継母から『ウチにはもう一人、夫の連れ子がいるんですけど、もうブスでブスでしょうがないから置いてきたんですよー』と聞かされていたのだが…いや、美しい。」
「それ、本当に思っているのか?」
シンデレラは魔女にドレスアップを頼まず最強の力を選んだ自分のボロボロな衣装を見ながら言いました。
「ほ、本当だとも。」
そう言い、王子は懐からガラスの靴を取り出してシンデレラに差し出します。
「最強の力を持つ君こそ、僕の妻にふさわしい。結婚して下さい。」
「だが、断る。私が欲しいのはガラスの靴などではない。他にある。」
「では何を…」
「禅譲しろ」
そう言い、シンデレラは王子の王冠を指差しましたが、王子はその言葉の意味がピンとこなかった様です。
「禅譲…というのは一体…?」
「なんだ、貴様は。弱い上に教養もないのか。私に王位を譲れと言っている。」
「なっ! ぶ、無礼な!」
シンデレラはため息をつきます。
「何を怒っている? どうせ貴様はこのまま行けば王位を失う事になる。その前に、親切にも私が王位をもらってやろうと言っている訳だ。」
「どういうことだ?」
「例えば、東隣の大国は今、急激に経済を成長させると共に、社会主義体制を生かして軍備を集中的に増強している。彼らを相手に、お前程度がこの国と自分の王位を守りきれると思っているのか、と聞いている。」
「それは大丈夫ですよ。この国には西隣の大国との同盟がある。いざとなったら助けてもらえますよ」
「バカめ。西の大国こそ、我が国最大の敵だ」
「え? そんなことはありません。西の大国は長い期間同盟関係にある、我が国のトモダチですよ。」
「いいか、西の大国との同盟は当初、我が国の成長に大きく貢献した。そして、彼らの軍事力を利用した我が国は、一時は資本主義経済連合の盟主たる西の国を追い越し、世界一の経済力を誇る様になった。しかし、ここ30年、我が国の体たらくはどうだ?」
シンデレラは王子に問いかけますが、王子はキョトンとしたままです。本当に、我が国の社会危機を招いている自覚がない様だ。シンデレラは大いにイラだちを感じながら続けます。
「当時、軍事的なライバル関係にあった北の大国が自壊し滅び去るのを見た西の国は次の標的を経済成長著しい我が国に定めた。」
「へ? 特に何かされた覚えはないけどなぁ…。」
「お前やその取りまきの様な上級国民にはわからないだろうな。西の国は軍事的な優位を背景にしながら、我が国に構造改革を迫った。」
「それは言い方が悪いな。西の国は僕たちの為に良い経済のあり方を教えてくれたんじゃないか。」
「それは、改革という名で我が国の繁栄を支えた独自の経済システムを破壊し、それを西の国式な自由…いや、弱肉強食な経済システムにすげ替える行為だった。今は貴様らの様な国内の金持ちが利益を得ているが、規制を緩和した以上、そのうち西の国の大企業が進出してきて我が国の経済を喰い荒らしていくことは間違いないだろう。この国は軍事も経済も西の国に支配されるんだ」
「そうかなぁ。心配しすぎじゃないかなぁ。」
「まぁ、いい。」
シンデレラはため息をつき続けます
「どうせ待っていたら他国に支配されるんだ。今のうちに一応同胞である私がこの国を支配してやる。ありがたく思え」
シンデレラはそう言うと両腕をクロスする様なカタチで胸の前に構えます。
「シンデレラビーム!」
シンデレラの腕から発射された光線が王子に命中すると、王子は大爆発を起こして砕け散りました。
シンデレラは、粉々になった玉座の瓦礫の山から先程まで王子がかぶっていた王冠を拾い上げました。さすがに王家に伝わる格式高い冠です。あの爆発に巻き込まれてもキズ一つなく、光輝いています。
シンデレラは徐ろにそれを頭に冠りました。
そして、過半数が戦闘に巻き込まれて残り少なくなった晩餐会の参加客たちの方に問いかけます。
「お前たちの王は誰だ?」
しばらく沈黙が流れますが、誰かが呟く様に
「シンデレラ…シンデレラ様だ…。私たちの王はシンデレラ様だ。」
と言うと、群衆は堰を切ったように
「シンデレラ! シンデレラ!」
と声をあげました。
そのコールは城内に響き渡り、更には国中に、そして、世界に広がっていくのでした。
おしまい