会う理由が無くてもココでなら偶然という理由で
アイツにまた会えるかもしれん。
そんな事を願いつつ、夏祭りの会場をブラブラしとると
「タマ!」
待ち望んどった力強くてキレイな声が
騒がしい人混みの中でもハッキリと聞こえてきた。
振り返ると焼きそばの山を持つ
あん頃からなんも変わってないオグリがそこにおった。
「なんぼなんでも買い過ぎやろ」
「つい、浮かれてしまった」
その手首には食べ物の入ったレジ袋をぎょうさん引っ提げ
懐には綿アメまで抱えとる。
ホンマ相変わらずで安心してまうわ。
「ケガの方はどうなん?」
「みんなのおかげで治ってきている。
秋には復帰できそうだ」
「ええこっちゃ!
ウチの分までジャパンCのリベンジしてもらわんとな!」
「ああ!今度こそオベイにも勝ってみせるぞ!」
「せやな!楽しみにしとるわ!
でも、自分の体の事は案外わからんから無茶なことは――」
周りの騒がしさが大きくなっとる。
オグリの名前も聞こえて来とる。
もう、すっかりトップスターやからなぁ。
今のウチと違って。
「ここやとみんなの邪魔になってまうな。
静かなとこ行ってから話そか」
ウチとオグリは神社へ行くと
年季の入った石のベンチに身を寄せ合い座る。
そうしている間に山の様にあったやきそばの
ほぼ全てがオグリの腹の中におさまった。
「タマ。この焼きそば美味しかったぞ。
食べてみてくれ」
「お、悪いな」
オグリが焼きそばの最後の一口をくれた。
肉の無いキャベツとニンジンだけの焼きそば。
いつも食っとるヤツより不思議と美味しく感じてまう。
「ごっついウマいな!
こりゃいくらでも食べれるわ!」
「すまない……
焼きそばはもう無いんだ……
お好み焼きや、タコ焼きならあるが……」
「ええねん。
ウチにはコレがあるからな」
ウチはオグリと再会する前に買うたモンを見せてやった。
ココでコレが手に入ったんはビックリしたわ。
「これは……
ソース味のクレープ?」
「ちゃうで~これはイカ焼きやで~」
「タマ。イカが何処にもいないぞ」
「これがナニワのイカ焼きや。
ここいらのとは一味違うから食うてみ~」
ウチは割り箸でイカ焼きを割いて
それをオグリの口へ運ぶ。
「すごい……!
フワフワの中にイカが居たぞ!
すごく美味しい!」
「せやろ!」
目を輝かせるオグリに満足しながら
ウチもイカ焼きを食べる。
ふと気づいた。
ウチはオグリの箸で焼きそばを食って
オグリがイカ焼き食べた箸を使っとる。
「タマ……?」
いきなり箸を止めたウチをオグリが心配そうに見とる。
今日の夜は涼しいハズやのに体が暑くてしゃーない。
「あ、いや
オグリの着物ええなぁと思てん。
アサガオの柄が爽やかやな~……」
「うん!
母さんに友達と一緒にお祭りに行くんだ
と手紙に書いたら送ってくれて
シチーが着せてくれたんだ!」
ウチの苦し紛れな言葉に対して
オグリは天皇賞や有マ記念の時とは違う
ポカポカしとる笑顔を浮かべる。
こっちまで心がポカポカしてまうわ。
あんまりにも眩しい顔に見惚れてると
ある物を見つけもうた。
あの食いっぷりに目を奪われて気づかんかった
ソレを思わずオグリの頭から取ってもうた。
「なんやこれ」
見覚えしかないツラのお面がウチの手にある。
「タ、タマ……いきなり取られると
驚いてしまうぞ……」
「いや、驚くんはウチの方やって。
なんでウチのお面なんかしとんねん?」
「ごはんを買い集めていた時に見かけて
なぜか被りたくなってしまって……」
自分のお面をマジマジと見てる自分に
笑いがこみ上げてきた。
「似とらへんな~」
「そうか?本物のタマみたいな
カッコイイ表情だと思うんだが……」
「ウチこんな吊り目ちゃうて。
実物を見てみ。情けない目しとるやろ」
「私はタマの目は青くてキレイだし
カッコイイと思っているぞ!」
ムキになって反論してくるオグリが
なんだか可愛いく思えてくる。
現役の時はターフであんだけバチバチ
やりあったのになぁ……
「そうか」
「どないしたん?」
「私はタマになりたくて
タマのお面を買ったのかもしれない」
「ウチに?なんでよ?」
「私の目標はタマモクロスのままだから……」
ウチになりたいか。
あん頃のウチに。
そういやアイツのお面も
なりたい誰かのやったんかな。
オグリ。
ウチもアンタの様に強くなりたい
って思えたから頑張れたんやで。
でもな。
今のアンタはウチになる必要なんかないんよ。
ウチはかつての自分を模した面をかぶる。
「タマ……?」
「アンタがタマモクロスになったら
誰がオグリキャップするねん」
「え……?」
「オグリキャップになれんのは
オグリキャップだけやろ」
「言ってる意味がわらない……」
そん時やった。
オグリの名前を呼ぶ声が聞えて来た。
聴き慣れてない可愛い声。
たぶんベルノ達やな。
「というかアンタ。
友達ほっぽりだしてウチとおったんかい」
「しまった……
タマを見つけたのが嬉しくて……」
ベルノ達も大変やなぁ。
これ以上、迷惑かけたらアカンよな。
「ほな、ウチはこれで」
「タマ……
行ってしまうのか……」
「ウチはもうオグリのライバルやないからな」
「そんな悲しい事を言わないでくれ……」
「いなくなったヤツばっか気にしとったら
後から来たヤツに追い抜かれてまうで。
あんな江戸っ子モドキに負けたら承知せんで」
ベンチから立ち上がり、寂しそうなオグリに背を向ける。
振り向いたら戻りたくなってもうから。
今はまだ戻れへんのに。
「とにかく、今はジブンがするべき事に専念しーや」
「タマ……お面を返してくれ……」
「誰がオグリキャップか解ったら、返しに戻ってやるわ」
ウチはお面を付けたまま、オグリから逃げ出した。
そん時にオグリを見つけたベルノ達とすれ違ったけど
向こうは一切ウチに気づくこと無く
オグリキャップの元へ向かって行った。
屋台と人混みが溢れる道を通り抜け
静かな石橋の隅で息を切らせていると
一気に虚しさが込み上がってきよった。
「なにやっとるんや……ウチは……」
自分のお面を外して
改めて、そのツラを見る。
やけに腹立つ顔しとるわ。
川に投げ捨てたろうか。
って、オグリから借りたモンやろうが。
そもそも、川にゴミを捨てたらアカンやろ。
自分で自分をツッコんどると
突然、川に妙な光が映り爆音が響いた。
ああ、もう花火の時間か。
ほんで、みんながオグリを探しとったんか。
そんな事を考えながら空を見上げると
ぐちゃぐちゃな花火が夜空に咲いていた。