妖星誕生
私が生まれたのは、ポッカリと口を開けた大穴のまわりに造られた街__オースであった。
物心ついた時に、既に親と呼べるものは無かった。普通なら、親もなく、家無しの子はすぐにのたれ死んでしまうのだろうが、生憎、私は恐ろしいほどタフだった。
日がな日がな、ゴミを漁っては食べ物を掘り出した。私を助けてくれる大人は1人もない。時折、布切れしか身に纏っていない私の身包みを剥がそうとしてくる奴もいた。だから、私も周りの奴らの身包みを剥ぐことにした。当然の摂理だ。
殴られても蹴られてもびくともしない身体であったから、トンカチだったり、なんなら石さえ持ってれば大人でも容易に動けなくさせることができる。そうやって、私は周りから奪い続けた。
しばらくして、縦に走った窓?のような部分から紫の光を漏れさせる仮面を被った男が目の前に現れた。お腹が空いていたから、とりあえず襲うことにした。
でも、そいつは私の精一杯の飛び蹴りを避けるまでもなく受け止めて、
「元気が良いですね、素晴らしい。私の名前は“ボンドルド”、“黎明卿”と人は呼びます……さて、今日ここに来たのは他でもありません。あなたに素晴らしい提案をしに来たのです」
私は、ボンドルドの言うことを聞いて、従った。ボンドルドから嫌な感じはしなかったし、何より、抗っても私がどうにかなるだけだとわかってたからだ。私はアイツの一行に連れられて、アイツの研究所に住むことになった。
新しい住処は、鉄の扉に遮られ、四方を足の壁に阻まれた息苦しい部屋。部屋の中には、私と同じような子供がたくさん居た。皆ボンドルドに連れてこられたのだろう。同年代と会話するのは新鮮な感覚だった。
それからというものの、いつまで経っても景色の変わらない退屈な場所で、味がするのかしないのかわからない固形の食べ物しか出てこないとはいえ、しばらくの間、私は安定した生活を送った。風呂にも入れた。
「______、______、今日は君の番ですよ」
一日おきぐらいに、部屋の中の1人がボンドルドに連れられ消えていく。帰ってくることはない。一体何をしてるんだろう。
それを、私は自分の身で体験することになった。
「貴方程頑丈な生体もそうはいません。もしかしたらアビスの呪いに対するなんらかの耐性を持っているのかもしれません」
つまるところ、私や他の子供は全て、ボンドルドの研究材料であったらしい。ガラスばりの昇降機に入れられた私は、特段絶望しているわけではなかった。気づかなかった私が悪い。当然だ。
実験は至ってかんたんで、下がって上がるだけだ。それはすぐに始まった。
目にも止まらぬスピードで地下へ落ちていって、真っ暗闇の中で停止した。容器の中の電灯から漏れる光では、奥を見渡すことはできない。
すると、容器ごしに、生ごみが張り付いたような音がして、すぐに“肉の塊”が、よだれを垂らしながら容器にしがみついてきたのが見えた。一匹だけじゃない。何匹も、何十匹も迫ってきた。
多分、実験の成れの果てだ。
その瞬間、昇降機が作動して、肉の塊を弾きながら上に巻き戻りはじめた。変化はすぐに始まった。
とにかく身体が熱くなった。痛くて、思わず頭にてをやったら、ずるっと頭皮がむけて、もっと痛くなった。身体から湯気が上がった。骨が軋んで、砕けてくっついて砕けて、髪の毛が抜けて、腕がとれて、青いムチみたいな腕が生えて、はらわたがひっくり返るような感覚がして。
気づけば、ボンドルドが目の前にいた。
「これは……“なれ果て”なのでしょうが、……実に興味深い。君は素晴らしいですね、______」
私は、人の形を捨てていた。嬉々としてボンドルドは鏡で私に私自身を自認させた。
青ざめた甲殻に身を包んでいて、黒い嘴のような口に金色の目、至る所に空いた穴から吹き出る青い汁。2本の長いうでだったもの。斑点、吸盤。大きさは、以前の半分もない。地下の肉の塊と同じぐらい。
ボンドルドは、私にいろいろなことをしてきた。お腹を開いたり、頭を割ったり。とても痛い。でも危機感は感じない。もうそんなものでは死なないとわかっているから。
しばらくして、私は肉の塊と同じ場所に捨てられた。ボンドルドは満足したらしい。
どちゃ、と落着した私の青白い光に、肉の塊が群がってきた。肉の塊の足とも腕とも言えない物体が触れた時、頭の中に一つ、抗えない衝動が湧いた。
(オナカ、スイタ)
肉の塊を食んだ。悲鳴もかまわずに、思い切り肉を食い破った。味は昔食べてた生ごみに匹敵したが、むしろ私の衝動は唸りをあげた。
赤い血を流しながら這って逃げようとする肉の塊を2本の腕で絡め取って、ひたすら貪った。すると、身体がミシミシいいだして、もっとお腹が空くと同時に、変な情景があたまをよぎった。
ピアノを弾いている。親に頭を撫でられている。どうやら、肉の塊の記憶だったようだ。
周りを見てみると、肉の塊は後ずさっていた。私の衝動は、未だにたかぶりの一途にあった。
逃げる肉の塊をひたすらに絡め取っては食い破った。青い汁が以外と役に立つ。余すことなく食べると、肉の塊の記憶が流れた。途中から食い破ると言うよりかは、口の中に放り込むようになった。
気がついたら、私は一人ぼっちになっていた。
ああ、お腹が空いた。
悪いことは大抵ボンドルドのせいにしとけばおけ