奈落を彷徨う骸   作:にわとり肉

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待つもの、発つもの

 アビスで死んだ者は、アビスを構成する土に還る。つまり、アビスそのものに還ることになる。循環の最も単純な構造です。

 魂もまた、アビスで終われば、アビスに還る。

 枢機に還す光(スパラグモス)。これは、その循環する理の内に存在する力に過ぎないのです。奈落の理を書き換えるというのは、表面上での我々の評価に過ぎないということです。

 しかし、オストガロア。彼の光は違います。

 枢機に還す光(スパラグモス)が奈落の理を書き換える力なのであれば、彼の光は“奈落の理を喰らう”力。

 枢機に還す光とは似て非なる閃光。

 彼は、この奈落で唯一、円環の外側にあって、その行く末を左右できる力を与えられた存在なのです。

 あぁ、なんて素晴らしく、恐ろしい存在でしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ようやく私とおしゃべりしてくれる気になった?

 ボンが言ってたんだ。アンタは“はずれもの”だって。

 ……

 なぁ、アンタなら、……

 私の力はミーティを殺せるよ。

 ……

 でも、その魂は永遠に私のものになる。

 んな……

 そうなったら、ミーティは壊れちゃうよ。そして、私を苛む“怨嗟”のひとつとなる。嫌だなぁ。

 ……

 なんで、そんなにミーティを殺してやりたいの。

 それは……

 君は、本心からそれを望んでいるの。

 ……当たり前だぜ。

 ……?

 ミーティは、いるんだろ?囚われてるんだろ?……オイラはいつか死ぬかどうにかなるだろうけど、ミーティはそうはいかねえ。そんなの、あんまりだろ。

 殺したら、会えなくなる。

 ……

 囚われてたっていいじゃないか。こんなにかわいいんだから。

 ……

 自分が苦しくなることなんて、する必要ある?

 ……ミーティの苦しみは、オイラの苦しみだ。

 よくわからない。君と私、似たもの同士なのにね。

 あぁ、そうなのにな。

 ……

 ……

 君がそうしたいのなら、ボンドルドの奴に頼むか、待つといい。

 ……

 きっと彼は帰ってくる。奈落の底へ。彼の光はボンドルドの光。

 彼、って、誰だよそいつは。

 わからない。

 ……

 あぁ、そろそろミーティが起きる。内緒話は終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの日。私が酔っていた(・・・・・)あの日。

 私の住処に現れた少年。

 上を目指していた少年。

 四肢に光を宿した少年。

 人ならざる少年。

 骸に囲まれながら、私は願う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早く、戻ってきてね。友達()のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見た。

 オースに居た時の夢。

 ナット、シギー、キウイ、隊長……ベルチェロ孤児院のみんな。アビスを取り囲む街並み。

 見上げると、アマギリのおおきな葉っぱの重なり越しに、丸い空が覗ける。この上にオースの風景がある。

 テスト(・・・)に合格して、はじめての朝。

 隣を見ると、レグが寝ている。四方八方に自分の手を伸ばして、私を守ってくれながら。

 とても、苦しそう。ひどい夢を見ているのかな。

 それとも。

 ……

 

 「うっ……」

 「あ、レグ!どうしたの?ずいぶん寝苦しそうだったけど」

 

 起きた。

 ひゅるひゅると風切音が鳴って、レグの両腕が収納される。表情は芳しくない。

 

 「ひどい、夢を見ていた」

 「……」

 「とにかく、不愉快に感じる存在が囁いてくるんだ。“来い”って」

 

 そう語るレグの顔は、やっぱり気分が悪そうだった。

 少しして、身支度を済ませた私たちは、ここ深界二層__“誘いの森”踏破に向けて移動を開始した。

 当面の目指す先は、監視基地(シーカーキャンプ)。不動卿__“動かざるオーゼン”が住む、二層最下層。

 私を2度も救ってくれた、恩人の住む場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 千人楔。一つ身体に打ち込めば千人力が如き怪力を得ることができる一級遺物。

 もう何本刺したのだろうか、確か120はやったか。いや、150だったっけ。

 左腕はびっしりと埋め込まれてて、真っ黒に変色している。両脚も。見せる相手なんていないだろうからかまやしないが、化け物じみてしまったもんだ。

 鏡に映る私の顔面も、右半分があの骨野郎(オストガロア)削られた(・・・・・)から見るに耐えない。ついでに千人楔も刺したから尚更。

 果たして、これだけやっても奴に敵うだろうか。前とは比べ物にならないほど力を得た自負はある。だが、奴もそうだろう。

 また、奴が地上に這い出てくるようなことが有れば。

 最近は、こんな想像しかしていない。

 しかし、問題はそれだけじゃない。

 正直、地上に奴がまた現れるよりも、私にとっては度し難い、バカ弟子(・・・・)との約束。

 片足を失って尚、アビスへ向かいたいという欲は潰えていないらしい。

 なんて役回りを押し付けられたものだろう。

 もし、生きているのならば。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お師さま、お師さま、なにか近づいてます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「二人です……一人は赤笛なのですが、もう一人が……探窟家ですらないような……ゴンドラの準備は?……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お師さま?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ふふーん……まだ生きてたんだ。あのガキ」

 

 ならば仕方がない。

 その気ならば、送り出してあげよう。

 もはや、ある程度の予測すらもつかない場所へ。




 待たせすぎたな。
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