奈落を彷徨う骸   作:にわとり肉

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へいおんのおわり

 深界三層、大断層。なんてことはない、ただだだっ広い縦穴が空いてるだけの場所。マドカジャクや大口開けてるアマカガメ、外を飛んでるベニクチナワあたりに気をつければ特段面倒は無い。

 ネリタンタンが掘った薄暗い穴伝いに下の階層に向かう。それが探窟家の中での定石だ。もちろん、私もそうしている。

 ただ、私に関してはここが面倒でならない。背格好が無駄にでかくなってしまったから、鎧のへりだったりがあちこちにつかえてしまう。忌々しい。

 毎回ここ(大断層)を抜けるときには文句しか浮かんでこないが、仕事は仕事だから文句垂れながら進むしかない。幸い、4層はもう目前だ。

 それにしても。

 

 「やっぱり、地臥せり(ハイドギヴァー)の一人や二人、連れてくればよかったかね」

 

 真っ暗な天井から水滴が滴ってくる。

 どうにも、さっきから胸のざわつきが止まらない。久しぶりに下の方へ向かうからだろうか。それとも、例のオストガロアとやらに気圧されているのか、この不動卿(動かざるオーゼン)とあろうものが。

 

 「まさか」

 

 くだらない妄想なんてやめて、さっさと先に__

 

 「っと」

 

 揺れ、地震か。すごい揺れだ。この私が体勢を崩してしまった。崩れないだろうなこの穴__

 まて。

 

 「……」

 

 しゃがみ込んで、手を地面につける。揺れは強くなる一方だが、何かおかしな感じだ。

 まるで、何かが押しあがって(・・・・・・)来ているような。

 登る、音。

 ……

 もしそうだとしたら。私の勘は、なかなかバカにできない。

 

 「……」

 

 せっかく降った道を、また登らなきゃいけないようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勢いよく地面から飛び出す。鳥かなにかがとびさっていく音がして、周りを見渡してみると、土煙の奥に森が広がっているのがよくわかる。

 ついにきた。ここが二層、誘いの森だ。本でみたのと全然ちがう。

 嬉しくなって腕をふると、からからと骨が擦れあって、不思議な音がなる。私の好きな音。からから、からから。

 あぁ、早く探検しよう。なにがいるんだっけ、そう、ナキカバネ。どんな味がするのかな、お腹がすいた。とにもかくにもはやくいこう。

 顔を背負った頭骨で隠して、半身をじめんに埋める。腕を目がわりに、私の身体が動き始める。あぁ、なんて綺麗なこうけいだろう。むかしオースでうけたような日差しをかんじる。アビスの“力場”がそうさせているらしい。

 ここさいきん、また身体がおおきくなったから、地面をすすむごとに周りの木々を薙ぎ倒してしまう。ボンドルドは言ってた、環境破壊はいけないって。私は環境破壊してるのかな。

 奥の方に尖った山みたいのが見えてきた。なんだあれ。

 あっ、鳥の巣だ、昔見たことがある。それが山の頂上にある。

 足を止める。観察しよう、あれがナキカバネの巣かもしれない。

 巣の中をよく見る。腕についた目はそんなに良くないから見えにくいけど、こらせばなんとか……

 小さな、鳥の子供?目が変。ひたいと左目のぶぶんに目玉があって、右目がない。ということは、あれはナキカバネだ。ナキカバネの雛だ。

 美味しそうでかわいいなぁ、あ、そうだ。お腹空いているんだった。

 食べてしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全く面倒極まりないことになった。せっかく頭痛に苦しみながら上に戻ってきてやったというのに、いいことと言ったら、大断層と巨人の盃に直通の通路ができたぐらい。それだけじゃ借金まみれなぐらいだ。

 なにか巨大な化け物(・・・・・・)が這っていったような、災害が通っていったような破壊痕を辿って行ってみれば、そいつはいた。

 ボンドルドの嘘みたいな話は、どうやら本当だったらしい。

 

 『___!!!________!!!!』

 

 全身に纏わせた骨を震わせて、青い霧を体から発せながら、カラカラと不気味な音を奏でながら、龍頭のような触手でナキカバネを捕まえては、巨大な頭骨を被った真っ青な本体が貪っている。巣も例外なく。ナキカバネがナキカバネを呼んで、あの化け物、オストガロアがまとめて喰らっているって寸法だ。

 肌で分かった。あれは異質だ。六層や七層から来たと言われてもなにも異論なく受け入れることができるほどに。

 この私が、少し気圧されている。

 ただでさえここは二層。まだまだ経験の浅い探窟家が多い。仮に奴に刺激を与えるようなバカがいるとしたら。

 どうにかして地下に押し戻してやらねば。だがどうする。

 

 「……度し難い」

 

 奴も生物だ、私たちの姿形をしたものを“怖がる”ように仕向ければ、あるいは奴から身をひいてくれるか?いや、深界から赴いたものに恐怖心を植え付けることなんてできるのか?むしろ敵対心を煽るだけに終わる__

 

 「っ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すごい。食べればナキカバネが私を攻撃してくる。こんな程度効かないから、もっとたくさん食べれる。

 あはは、面白いなあ、まるで漁をしてるみたい。

 もっと来て。もっと食べたい。もっと遊びたい。

 楽しい。

 もっと殺したい(・・・・)

 いいぞころせ

 うふふ、あはは。

 カラカラ、からから。

 

 『__』

 

 んぅ?

 上の方。

 ナキカバネ?ちがう。

 腕に足、服を身につけた胴体。恐怖に歪んだ顔、青い笛。あぁ、久しぶりにみたな。

 ヒトだ。

 やれ

 殺す?必要ない。

 あるだろ。

 ボンドルドはヒトダ。

 人は敵だ。ボンドルドは敵だ。

 お前をそうさせた。俺たちを食ってしまうきっかけを作った敵。

 お前が俺たちに永遠に憎まれることになった原因。

 人がいるせいだ。だから殺せ。

 いたいのはいや。

 いやだ。

 だめだ。

 逃れることはできない。

 お前は殺しを楽しんでいる。遅かれ早かれお前はこうする。

 だから手助けしてやる。

 ちがう。

 違わない。

 楽しもう。

 あの少しでオースに着く(・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「探窟家__」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『___________!!!!!!!!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内臓がひっくり返るような轟音、オストガロアが発生源か。何が起こった。

 高台で蹲ってるのは何もしていない。だというのに、オストガロアの纏う雰囲気が変わった。青い斑点が赤く染まったとか、そういう外見上の変化もそうだが、そうじゃない。

 人が変わったような、言うなれば、酒に酔った飲兵衛のような。

 濃密な殺気を放つ存在に。

 

 「ぐっ……!!」

 

 大地が揺れる。オストガロアの両腕の先が天井に向いた。

 いや、天井を見ているのではなさそうだ。

 頭の中で“最悪”を告げるアラートが鳴り響き続けている。こんな感覚久しく感じたことがない。赤笛の時以来か。

 ともかく、こうなってしまえばなりふり構っていられない。多分どう転んでもこうなるのだったんだろう、あの豹変の仕方ならば。

 薙ぎ倒された木の影から思い切り飛び出す。目標はあの探窟家の位置。目測で500mぐらい先か。

 それなら問題ない(・・・・)

 脚に力を込める、そして、一気に跳躍。

 

 「っ……!!あ、あえっ!?」

 「しゃがんでな」

 

 1秒もしないうちに後ろの方で聞こえた声の後。

 私の頭上に、怪物の腕が振り下ろされた。




 オース史上最悪の日、はじまりはじまり。
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