旅の始まり
いたい。
いたい。なのに、ひだりあしがうそのようにないみたい。
うごけない。
くらい。
なんで、きゅうにこんなことに。
あぁ、あれのせいか。すきまから見える。おおあなからあらわれた二本首のりゅうがあばれている。なんで?
二本首のりゅうと戦っているひとがいる。よく見えないな、メガネネどこいっちゃったかな……
あれは……あぁ、“ふどうきょう”だ。あのつばのながいよろいかぶと。間違いない。
ほかのひとたち……だいじょうぶかな……
ねむい……なんでだろ。
「__こ!____ろ!!」
うるさいなぁ〜。
「リコ!何授業中に寝ている!!!」
「うわっ!!?いっだ!」
頭ッ……!!壁!?
あれ!?ここ教室!?あ、あぁ……
ノート涎まみれになっちゃった……おまけに……うわ、院長めちゃくちゃ睨んできてるよぉ〜……
「「ふふふ……」」
「次そんな態度とってみなよ、問答無用で裸吊りだからね……!
」
「は、はいっ!すいませんでしたっ!」
ぐぅう、こんな基本的な知識は聞き飽きてるのにぃ、眠たくなるのも当然じゃないのよ!あのウネウネ白黒頭!
だぁぁぁ……
「はっ、全く……じゃ、続けるよ」
冷や汗びっしょりになってる。……いつもの“夢”のせいだ。
やだやだ。過ぎたことなのに、どうしてこうフラッシュバックしてしまうものなんだろ。
まぁ良いや、切り替えてこ!午後の探窟に備えないと。
ツルハシを振る。すると、ザクッとまんまるな岩に深く刺さって、綺麗にご開帳。
何もない……
「リコってさー、いっつも寝苦しそうな顔してるよなー」
ナットの声だ。振り向いたら、姫乳房を投げつけてきた。
「一体何見たらそんなんになるんだ?……院長に裸吊りにされたときとか__」
「オストガロアが出現した時のこと」
露骨に、苦虫を噛み潰したような表情になる。ナットはわかりやすいなぁ。目線も、私の左脚にいってるのがバレバレ。
「……なぁー、お前、あの化け物に殺されかけてるんだろ?瓦礫の下敷きになってさ」
「うん」
「なんていうか、嫌になんねーの?
ナットを通り過ぎて、崖のへりに立つ。
雲が浮かぶ中に、……今日は何故だかいないけど、いつもツチバシが空を飛び回ってて、たまにサカワタリがその群れを追い回したり、巣を突っついたりする。
その下を覗くと、先の見えない大穴が口を開けて待っている。勇敢で愚かな挑戦者を。
そして、オースをめちゃめちゃに破壊し尽くした、あの化け物も、多分どこかに潜んでいるんだろう。公的には死んだ扱いになってるけど、そんなわけがない。
……いや、わからない。死んでいるのかもしれない。
だから、だからこそ。
「怖いよ。恐ろしい。今でも昔がフラッシュバックするんだから、ナットの言う通りトラウマになってるんだと思う」
「……」
「でもね」
思わず、
「そんなことで、憧れは止められないの!」
振り向いたら、ナットは呆れているような表情。
「それに、安眠妨害してくる原因の生死を確認しないと。いい加減裸吊りは勘弁だからねっ!」
「……はは、なるほどな。ほんとアビス馬鹿だなーお前……まあ、それがお前か」
ナットが笑った。
いつも心配してくれてありがとう、とは、あえて口にしない。
「さ、手を止めないで探窟進めよっ!もうちょっと、一層のギリギリまで降りていこう!」
「ええ……」
「白笛目指してレッツゴー!!」
「おー……」
探窟家の中でも、至上の英雄とされる白笛の娘にして、かの“
彼女は、人を魅了してやまない秘境、アビスに魅入られ、また、比類なき恐怖を心に抱いていた。
しかし、恐怖心では、彼女の“憧れ”を止める理由にはなりえぬのである。
彼女が歩みを止めることは無い。
己が夢に全力で向かうだけ。彼女が目指すは、甘美な深淵のその先。
もはや止められぬ彼女の運命の歯車に対して、外野ができることはただ一つ。
彼女の旅路に、溢れんばかりの呪いと祝福があらんことを、祈ることだけである。
__そして、深界五層“なきがらの海”。その外縁部。
そこに、積み重ねられた無数の
オストガロア襲来時に家屋に押しつぶされ、左脚を無くしてしまったリコちゃん。最近は義足の改造が趣味らしい。