架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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第7話 王立魔法学園の先生達

 魔王軍の襲撃もなく過ぎる日々。ゲームならヒロインキャラクターとのイベントを進めたり、能力値の底上げを図る事が出来るこの時期に、私は今日も今日とて授業に励んでいた。

 月月火水木金金。労働時間脅威の十二時間。サービス残業は当たり前。賞与昇給は一切ありません。有給なにそれ美味しいの? 会社の為ならハリケーンの中でも、親の葬式中でも喜んで出社します。世界で最も共産主義的だと言われたのは伊達でも何でもありません。見よ、これが日本の社畜魂だ。

 

 ──この世界に悪名高いKAROSHIを広めるつもりは無かったんだが……

 

 このままだと過労死するな。

 そう思いはするものの、だからといって休む気にもなれないのが私の正直な本音だった。他のボンクラ教師に主人公君を始めとした、子供達の貴重な時間を浪費させるくらいなら、まだ私が浪費した方がマシだと確信しているから。

 何せ連中ときたら酒や金で授業を放棄し、こんな小娘に責任を投げ付けて楽になったと喜んでいる様な……控え目にいって生きている価値の無い甘えた奴らなのだ。授業内容だって自習か自慢話かかんしゃくを起こすかの無能オブ無能の極みだったといえば、もうため息も出ない。

 そうボンクラ教師から奪った授業枠──授業計画も無かったので、咄嗟に思い付いた学園付近にある薬草や毒物、危険生物の授業をしている──を進めて……ゴーン、と。間延びした鐘の音が響く。本日最後の授業、その終わりの合図だ。

 

「ん、時間か。……本日はここまで。宿題は特に出さないが、最低限毒物と危険生物は覚えておく事。無敵を誇った隊の中でただ一人食い物が原因で死んだと歴史書に書かれたくなければね。それでは、解散。隣の奴が寝ている者は、ソイツを叩き起こしてから退出する様に」

 

 ガヤガヤと教室を出ていく生徒の波。その穏やかな、あるいは懐かしい光景を見ながら数えるのは、今日の寝落ち率だ。パッと見るに……五割程度だろうか? やはり正規の教員免許を持たない私の授業なんてそんなものらしい。歯がゆいが、仕方のない話だった。

 それでも、何も教えられないクセに暴力を振るうようなワガママ教師よりはマシと信じているが……どうにもな。

 

「これで私が筋肉モリモリのマッチョマンなら誰も寝ないだろうが、こんなちんちくりんではな。しかも面白い話が出来る訳でもない……ん? ユウ、何か用か?」

「あ、はい。ニーナ先生。今日の放課後の特別授業なんですが、何時からですか?」

「望めば直ぐに……と、言いたいところだが、私も一応生きているのでね。トイレと物を食う時間は欲しいんだ。それでも一時間後にはここに居るから、準備が終わったら来てくれ。……授業のリクエストはあるかい?」

「ありがとうございます! ニーナ先生。じゃあ、強くなる方法を……聞いても良いですか?」

「ふむ……?」

 

 強くなる方法。強くなる方法と来たか。銃を持てば誰だって強くなるが、ユウが言いたいのはそういう話ではあるまい。

 となるとテキトーに喋るだけではユウの望みは叶えられない。……準備が必要だな。面倒だが、しかし、ユウも女の子みたいな見た目のわりに、中身は確り男の子だった様子。ふむ、良かろう。同じ男として、一肌脱ごうじゃないか。

 

「上手く伝えられるか分からないが、良いだろう。何か上手い話を考えておくよ。それでいいかい?」

「はい! ありがとうございます! ……それと、先生。あの、えっと……」

「? 何かね。歯切れが悪い。言いたい事はハッキリと言いたまえ。どういう形であれ、明確な意思を示す事だ。甘えたいにせよ、一人で立ちたいにせよ、自分の意志は常に明確に。……いつもそう教えているはずだが?」

「そう、ですね。ごめんなさい。先生。実は、アリシアの事で……」

「あぁ……いや、聞くまい。話さんでいい。想像がついた」

 

 アリシア。アリシア・ドーントレス。この世界でのユウ君のヒロインと思わしき貴族の少女。よく手入れされた金髪と、圧倒的打撃力を持つ美麗な女の子だ。ついでに言えば胸の戦力差では私とレナを大きく上回ってもいる。

 さて、そんなアリシアの名前を呼びにくそうに出したユウの用事は、まぁ、察しがついている。恋愛相談には流石にタイミングが早過ぎる以上……要件は、昨日の夜の事だろう。

 

「確かに、私とアリシアは先日、少し衝突があったが……あのくらいはよくある事だろう? ……違うって顔だね。ふむ、そう言われてみれば、今日のアリシアは少し居心地が悪そうにしていたな。うん? いやいや、まさか、アリシアは昨日のアレを気にしているのかい? あんなちょっとした皮肉を?」

「えっと、はい。サーシャが言うには、だいぶ堪えていると。心労が溜まっていたところに突き刺さったらしくて……その、ニーナ先生」

「ん……そうか。しまったな。アリシアはもう少しタフかと思っていたんだが……まぁ、ドーントレス家の淑女といえど、まだ成人していない子供。やり過ぎたらしいね? これは」

 

 先日はつい、アリシアがレナの悪い噂に振り回されてるのを見て、よく考えもせずに皮肉をぶつけてしまったのだが……どうにも火力を誤ったらしい。三対一は卑怯じゃないか? とか。良いもん食ってんなぁ! ぐらいの事しか言ってないつもりだったのだが、あのときの私は頭に血が上っていたからな。特にレナが来なかったせいで欲求不満……ゲフンゲフン。

 ともかく、アリシアが凹んでいるというなら、それは私の責任だろう。ついどこぞの舌が三枚あるのに料理の味が分からない連中と同程度と想定してしまったのは、うっかりミスとしか言いようがない。どう考えても、ケジメ案件だった。

 

「まぁ、そうだね。逆ギレして戦争を吹っ掛けたり、我々が世界から孤立したのではなく、世界が我々から孤立したのだと言い張る様な連中と一緒にされても困るか……あぁ、分かった。アリシアには、次に顔を合わせたときに謝っておこう。少しイジメ過ぎた様だ」

「すみません。ニーナ先生……」

「いいさ。……私も、今思えばかなり大人気なかったしね」

 

 ついつい皮肉が通じるからと最大火力で行ってしまったが、よくよく考えなくても相手は子供。ましてや心労が重なって──噂にはゲロったとも聞く──弱っている女の子だ。今後はイジメる様な、そんな大人気ない真似は慎まねば。

 そう息を吐く私に、ユウは大人気……? と首を傾げていたが、やがて心配事が無くなった為か、お礼を言って教室から退室していく。

 そうして、一拍。誰も居なくなった教室で……私は座り込みたくなる衝動に駆られてしまう。疲れたな、と。

 

「今日、ずっと立ちっぱだもんな……」

 

 いつもの様にレナと一緒にベッドで寝てしまいたいが……ユウにあぁ約束した以上はやってやらねばなるまい。アリシアの事もあるし、まだまだ頑張らなければ。

 手始めに、食堂に行って適当なパンでもかっぱらってくるとしよう。そう気合を入れ直して教室を出て、ふらふらと食堂へ向かって歩いていると……ふと、人影が見えた。小脇に教科書──この学園にそんな物を使う奴が居るとは! ──を数冊抱えた、私とそう背丈の変わらない小さな人影。正規の教官服に身をつつんだ、栗毛の少女……にしか見えない同業の先生。

 間違いない。彼女は……

 

「やぁ。我が学園最後のマトモな教職員にして、この学園唯一の良心。もしくは最後の砦。エマ先生? 奇遇だね。こんなところで会うとは」

「ひぅっ……!?」

 

 バサバサ、と。教科書を取りこぼす少女……いや、成人済みの女教師。エマ先生。そんな彼女の驚きように一瞬目を見開いた後、私は彼女が落とした教科書を拾いにかかる。

 当然、お喋りは続行しながら。

 

「やれやれ、そこまで盛大に驚かれるとイタズラが成功したというより、悪い事をした気分になってくるね。エマ先生?」

「す、すみません。ニーナ先生。考え事をしてまして……あ、大丈夫です! 自分で拾います!」

「いいさ。驚かした私が悪い……ん? これは、授業計画?」

 

 教科書と一緒に運んでいたらしい何枚かの紙。そこに書かれていたのは、今後の授業計画だった。

 どうやらエマ先生はボンクラ教師とも、私とも違って、かなり正確かつ的確に計画を立てている様だ……この紙だけで一週間。恐らく頭の中には一ヶ月か、それ以上の計画が。その日まで彼女が、そして生徒が生き残っているかも怪しいのに。

 

「素晴らしい、というべきなんだろうね? この学園で授業計画を練っているのはもう貴女だけだというのに。……真面目な事だ。おっと、皮肉じゃないよ? 本心さ」

「あはは……えっと、ありがとうございます? その、私には、もうこれぐらいしか出来ませんから……授業だけでも、ちゃんとしなきゃって」

「……そうかもね」

 

 どこか影のある笑みを浮かべて、エマ先生はあくまで気丈に振る舞っていた。このぐらいなんて事ないと。だが……

 

 ──メンタルはズタボロだろうに、よくやる……

 

 確かに彼女は欠片もヘラっていない。ゲームでも彼女はずっと気丈に振る舞っていたし、弱音を吐けば珍しいといえる人物だった。

 しかし、その内心は既にグチャグチャだ。この学校に来て、二年程。既に多くの生徒が、同僚が、死んでいくところを、彼女は見続けている。変わらない顔ぶれなんてレナぐらいのもので、そのレナも元皇女殿下という事で恐れ多くて──吸血鬼や噂に対する偏見は既にないのだが、やはり地位の差は気になるのか──話し掛け難く、友達らしい友達もとうの昔に土の下。

 彼女がこうして、曲がりなりにも気丈に振る舞えているのは、その小さな身体に似合わない極めて強靭な精神あってこそ……だがそれも、今年が限界の様で。

 

 ──当然、死亡フラグは立っている。……他よりは、折りやすいが。

 

 ヒロインランキングは……確か三位だったか? やはりレナより上なのは腹立たしいが、それは彼女の出番の多さ、そして生存のしやすさが形になったからこそ。……ごめん。見栄張った。普通に魅力的な人物ですいつも助かってます授業や戦線の分担とかいやホントに。

 

 ──エマ先生が居なかったら、私は過労死一直線だっただろうからなぁ。

 

 レナを置いて、働き過ぎで死んでいた気がしてならない。そう内心で感謝の土下座をしつつ、私はエマ先生にはい、と拾った書類を手渡す。落とさない様にね、と。

 

「背後が気になるのは分かるが、だからといっていちいち驚いていては心臓が持たないぞ? バリスタの矢が飛んできても平然としていろとは言わんが、もう少し、な?」

「あ、あはは……ニーナ先生が言うと、説得力が凄いですね」

「傷跡が残っている人間の言う事には、奇妙な圧が乗るものさ。それが的外れな事でもね」

「そう、ですね。私も、もっと……」

 

 渾身の自虐ブラックジョークをスルーされながら、それでも私はエマ先生から目を離せない。死亡フラグが近いせいか、あるいはこんな状態だから死亡フラグが立ったのか? 顔色の悪いエマ先生が、心配になってしまって。

 だが……

 

 ──私としては、彼女に頼るしかないんだよなぁ。

 

 次の大規模侵攻。無事に突破出来るかどうかは、彼女次第なのだ。彼女の唯一といっていい死亡マップであり、全ての教員と多くのモブ生徒が死亡する大規模侵攻で、それでも頼るしかないのは歯がゆいが……

 

「──手札が少ないのは、ツラいねぇ」

「? ……あ、そうですね。もう少し、ニーナ先生みたいな先生が増えてくれれば良いのですが」

「ははっ。ナイスジョーク。分裂でもしたほうがいいかい? その場合、騒音のあまり苦情が入ると思うが」

「い、いえ、大丈夫ですよ……?」

 

 ブラックジョークに次ぐブラックジョークに、エマ先生はどう答えれば良いのかとあたふたしてしまっているが……こう見えて、彼女は指揮能力やサポート能力に長けた特殊なユニットでもある。その優秀さたるや凄まじく、居るだけで部隊の戦闘力が二倍になると言われた女だ。当然、多くのプレイヤーの一軍メンバーの一人であり、その重要性から詰まったときには先ず彼女の配置位置から考え直すプレイヤーは多かった。

 その単体戦闘能力はお世辞にも高いとは言えないものの、死亡フラグの少なさから終盤まで安定して参戦出来る事や、各種バフ・デバフ……特にスロウを撃ち込める為に、採用して間違いなしと太鼓判を押されたキャラクターだ。特に学園でのチュートリアル全般を担当している事からチュートリアル先生とも呼ばれ、個別ストーリーがそこまで血生臭くない事もあって、色んな意味で初心者向きと言われた女でもある。

 

 ──属性過多ではあるんだけどな。合法ロリっ子先生とか……

 

 実は成人しているという年齢設定も相まってか? えっちぃイラストの多さはキャラクター二位だったような、一位だったような……まぁ、そういう意味でも人気なロリっ子先生だった。

 私としてもレナの次くらいには……まぁ、好みのキャラクターだった人だ。レナが途中で惨殺される事もあって、最後の個別エンドはよく先生と迎えた物だが…………ふむ。

 

「エマ先生。良かったら食堂まで一緒にどうだい? たまには同じ先生同士、情報交換でもと思うんだが?」

「あ、良いですね! やりましょう! 実は私、ニーナ先生に聞きたい事があるんですが……」

「ほう? この私に聞きたい事? 答えられる内容なら幾らでも話すよ。……あぁ、そうだ。実はこの後、普段私が使っている教室で特別授業をする事になっていてね。良かったら一緒にどうだい? お互い、いい刺激になると思うんだが」

「特別授業……今からですか?」

「いや、一時間後だ。どうだい? 暇かい?」

「……ニーナ先生、諦めてないんですね。えぇ、分かりました。私も参加します!」

「? そうか。やる気な様で何よりだよ」

 

 今度の個別エンドはレナと迎えるつもりではいるが、と。そう甘ったれた思考をたれ流しつつ、それでも私はエマ先生をここで会ったのも何かの縁と食事に誘いつつ、和気あいあいと肩を並べて食堂へと向かう。

 夜、レナに美味しく頂かれるまで……まだ時間はあるのだし、と。




 同僚の女性と楽しげに食事しているのをレナに見られてしまった! 
 ニーナの“いいくるめ”。技能値70……マイナス補正あり。10以内で成功です。ファンブル。ニーナはレナにベッドまで連行されました(“信頼”なら自動成功だったのに……)

 その後……
https://kiyo-s.fanbox.cc/posts/4142783

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