架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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第11話 魔女の日記 Ⅲ

 

 五月 三十日。

 

 生きてる!? 

 

 

 六月 一日。

 

 腹部に深手を負い、瓦礫に足を潰されて、しまいには狼に腕をズタズタにされ……今度こそ死んだと思ったのだが、マッド製の肉体は思いの外耐久性に優れるらしく、またもや生き残ってしまった。

 いや、別に生き残った事に不満なんてないし、死にたい訳でもないのだが……こうも似たようなやらかしを重ねるとね? 足も無くなってしまったし、流石の私も反省せざるを得ない。

 まして、こうもレナに監視されては……そこまで不安にさせたのだと、嫌でも自覚してしまう。

 

 レッツ、ハラキリ。

 

 したくても出来ないんだが?? 

 

 こうして日記を、レナに日記帳と羽ペンを取って来て貰ってあくせくと書いている今もずーーっと見られているのだ。ケジメどころではない。

 まぁ、足が……膝の辺りから先がキレイサッパリ無くなったから、トイレに行くのも物を取るのも一苦労だし、ここにレナが居てくれて助かってはいるのだが……問題は、夜だ。

 推測に過ぎないが、このままでは夜になるなり、レナに襲われてしまうまである。足が無いから逃げるに逃げれないし、何か手を考えなければならないが……

 

 ゆうべはお楽しみでしたね? 

 

 シャラップ!! 

 

 いや、別にレナが嫌いな訳ではないぞ。断じて違う。だが、その、血に酔ったレナは積極的に過ぎてな……私も女の身体でどうすれば良いのかなんて分からないし、レナを傷つけたくないし、ついつい受けに回ってしまうから、その、男のプライドがな? 

 夜の彼女は魅力的だし、私自身彼女に攻められていると、役に立てている感じがして、■■■■■何を書いてるんだ! 私は! 

 

 追記。

 マズいな。まさかレナをここまで追い込んでいたとは……いや、というか、その、そこまで好かれているとは、なんだ、うん。

 大人しく食われるか……

 

 

 六月 三日。

 

 レナの好感度を稼ぎ過ぎた挙げ句、二回も死に掛けた私は……案の定というべきか? レナに吸い殺されかけた。他の奴に殺されるぐらいなら、自分の手で……と、そういう話らしい。

 

 ヤンデレ? 

 

 広義ではそうとも言うな。

 

 ただレナをあそこまで病ませたのは間違いなく私の責任であり、目のハイライトが落ちたレナに吸い殺されそうになったときも、まぁ、こういう最期なら納得出来ると受け入れてしまったのだが……私が無抵抗過ぎてレナが正気に戻ったのは、不幸中の幸いといっていいのか。どうなのか。

 何にせよ、今後は怪我をしないように注意せねばなるまい。レナの死亡フラグは殆ど折れてるし、もう無理をする必要はないからな……少し安全マージンを取ってゆっくりしよう。

 

 いのちだいじに! 

 

 その通りだよ。羽ペン。

 

 ……デレた? 

 

 死にたいらしいな? 

 

 

 六月 五日

 

 丸一日、意識を失っていたらしい。今も油断すると落ちそうになる。

 どうやら悪魔の槍に施されていた呪いと毒、そして狼由来の感染症がまとめて私を襲っているらしい。……あぁ、今なら日本がムキになって狂犬病を殲滅した気分がよく分かるよ。呪いと毒はまだしも、まさか狼に噛まれただけで感染症になるとは。

 駄目だ。気分が悪い。キメラである私が、このざまとはな……

 

 大丈夫? 

 

 貴様に心配されるとは……明日が命日だな? 

 いや、大丈夫だ。まだ数日は持つ。それにこんな事もあろうかと、解毒の方法は既に授業した後だ。主人公君が、ユウの奴がなんとかするだろう。

 

 

 六月 六日。

 

 朝起きたと思ったら既に夜。睡眠時間は驚異の十二時間。そんなだらしないにも程がある寝坊をかましている間に、ユウ、アリシア、サーシャ、エマ、そして数人のモブ生徒達が……つまりは主人公御一行が森へ向かったらしい。私に使う解毒薬の材料を手に入れる為に。

 仮にも私の生徒と同僚。それが本当なら見送りぐらいしてやりたかったのだが……まぁ、レナが見送ったというし、そこはむしろ格がついたと思おう。

 まさかレナに限ってパワハラを仕掛ける訳がないからな。私がペラペラ喋るよりも、よっぽど穏やかな出発だったろう。

 

 心配という心配も特に無い。

 ゲームでもそんな理由──相手は私ではなくレナやモブ生徒達だが──で森に行くのだ。しかもその森で遭遇するはずの巨人は大規模侵攻でレナに秒殺されてもう居ない。

 心配ご無用だ。

 

 大丈夫だ。問題無い。

 

 あぁ、そうだね。

 

 ……疲れてる? 

 

 多少ね。とはいえ、レナの前でもこれじゃあな……表情を作る準備をしておくか。

 

 

 六月 七日。

 

 帰ってこない。

 そんなに遠い場所でも、長いマップでもないのだが……薬草が見つからないのか? 

 

 

 六月 八日。

 

 心配になって出ていこうとしたところをレナに見つかった。

 いや、見つかったというか、気分の悪さに負けてうずくまってたところを保護されたというか……ともかく危ういところだった。主に監禁とか、首輪とか、そういう意味で。

 足が無いのに一人でトイレに行こうとしたのだと、レナがそう勘違いしてくれたのは不幸中の幸いでしかない。

 

 だが、まぁ、移動する事も困難だとはな……這って移動するのは遅すぎるし、車椅子を頼むしかないか? 

 

 

 六月 九日。

 

 病状が悪化した。後五日と持つまい。

 大規模侵攻を生き残れたのに、まさか病死の危機とは。ままならないものだな……

 

 あぁ、泣かないでくれよ、レナ。大丈夫だよ。大丈夫。明日にはユウ達が帰ってくるさ……

 

 

 六月 十日。

 

 マズい、本当に帰って来ない。ゲームではモブ生徒ですら病気では死ななかったのだし、そんなに時間は掛かっていないはずなんだが……まさか、バタフライエフェクトはそこまで大きくなっているのか? 歪みが私を殺しに来ているとでも? 

 

 追記。

 

 一悶着あったが、グリフォンを送り込む事でレナと合意した。万が一の事を考えると、これが最善のはずだ。

 王よ、私の生徒と同僚を頼んだぞ……

 

 

 六月 十一日。

 

 一日の殆どを寝て過ごしている。このまま目が覚めなくなる日は近いだろう。

 まだか? まだ帰って来ないのか? 

 

 全く、悪い冗談だ。生き残れたのに、こんなところで病死なんて……

 

 

 六月 十二日。

 

 死にたくないな……

 

 

 

 

 ? 

 

 ニーナ? 

 

 

 

 

 六月 十五日。

 

 復活! 完全復活! 

 

 パーフェクトニーナ! 

 

 HAHAHA。顔芸でもしろと? へし折るぞ

 

 ひどい! 

 

 お黙り。

 

 さて、どうやら主人公君達は昨日のうちに帰ってきたらしく、殆ど死体と化していた私に薬を投与する事に成功したらしい。

 注射器も無いのに昏睡状態の私によく薬を投与出来た物だ……と思ったのは少しの間だけ。レナの様子がどこかおかしい事に気づいてしまえば、まぁ、うん。そういうことなのだろう。

 

 ひゅーひゅー

 

 ……こんなことわざを知っているかい? 雉も鳴かずば撃たれまい。羽をむしられたくなければ黙っていなさい。

 

 そうそう、私とレナの関係も少し変化したのだが、ユウ君もアリシアやサーシャとの距離を縮めた様で……ふむ。次世代のドーントレス家は安泰だな。

 やることはヤってなさそうだが、まぁ、時間の問題だろう。あれは。

 

 ショットガン? 

 

 レナに言い寄ったならショットガンだね。ショットガンマリッジだ。まぁ、ユウはそこまで愚かでも腰抜けでもなかろうさ。

 

 

 六月 二十日。

 

 レナに夜のオモチャにされるだけが私の役目……だったら気楽だったのだが、そろそろ中盤に向けての準備を本格的に進めなければなるまい。

 

 シスター系お姫様も女剣士も来てない以上、今のユウには最難関にしてラブコメのオンパレードである王道の王都ルートを選ぶ理由がない。となると必然的に辺境ルート、もといアリシアルートだとは思うんだが……面倒だな。

 レナの死亡フラグ的にも学園を離れたくないんだが、まぁ、理由が理由だけにこちらから殺しに行った方が安全なのも事実。王都ルートよりも管理しやすいと思うとしよう。

 

 それに、私からすれば前世からのムカつきをスッキリさせれるチャンスでもある。

 レナとの旅行がてら、手早く掃除してくるとしよう。

 

 旅行なのに、お掃除? 

 

 ……君、割と純粋だよね。

 

 ? 

 

 ふむ。まぁ、知らなくても良い事だよ……

 

 

 六月 二十五日。

 

 珍しい事に、といったら失礼だろうか? まぁ、実際珍しい事なんだが、アリシアから相談を受けた。

 君主論や人間心理学の授業は興味深げに聞いているから、その話かと思ったのだが……曰く、私達を招待したいとの事だ。

 

 ドーントレス家、その領地へと。

 

 ……どうやってアリシアルートに入るのか少し不明瞭になっていたのだが、なるほど。こうくるらしい。

 勿論、私は快諾しておいた。

 自惚れ過ぎかも知れないが……私が行く以上、レナも来るだろう。最近はベッタリだからな……

 

 懸念があるとすれば、アリシアのあの表情。一瞬だけとはいえ見せたあの表情は、恐らく申し訳なさから来るもの。

 ……恐らく、何らかの罠が仕掛けられているとみて間違いないだろう。アリシアがそれに加担しているとは思えないが、きな臭さを感じているのは間違いあるまい。……あるいは、自分に身の危機が迫っているのを感じているのか? アリシアもサーシャも、そしてレナも。殺されるのはこの中盤だからな。

 辺境ルートとなると、一番胸糞悪いのはレナが処刑される事だが……それ以外も許してはならない。当然、私の生徒であるアリシアやサーシャの死亡も許さない。彼女達は私の皮肉が通じる数少ない生徒なのだ。誰が逃がすものか……! 

 

 アリシア、可哀想……

 

 お前もその仲間に入れてやろうか? 

 

 ……まぁ、いい。既にやれるだけの事はやってあるし、ドーントレス領に行けるなら私の足を生やす事も出来るだろう。

 戦力的な不安は無い。無いが……エマ先生とアリシアともう少し詳しい話をしておくか。私の推測が正しければ、中盤を生き抜くのに必要なのは戦闘力ではなく、政治力なのだからな。


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