架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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お喋りクソ女め……


第14話 心を殺して

 早朝。

 王立魔法学園の若者達が明日の為に保養地から出撃していく中。彼らとは逆側から、コソコソと保養地を抜け出していく一団があった。

 荷馬車やほろ馬車が十台。そして……華美な装飾が施された馬車が一つ、二つ。貴族の影響下にあることが丸分かりの馬車列が、まるで逃げ出す様に保養地を後にしていたのだ。

 

 いや……様に、ではない。現に彼らは逃げ出していた。

 勝ち目の無い戦いから、我先に。かといって資産を放り捨てて行く気にもなれず、持ち出せる物を保養地の別荘から持ち出して。

 さて、これからどこの国に逃げようか? いやいや、一度領地に戻って万全の準備を……と。自身の身に課せられた責任を忘却し、ワガママにも自己保身を図るその光景は、どこぞのお喋りクソ女が目撃すれば黙って街灯か手頃な柱を探し始めるだろう物であり、控え目にいって唾棄すべき物だった。

 まして、自国の若者が戦地へと向かっているのに背を向けてやっているならば、尚更。

 

 だが、彼らを止める者は誰も居なかった。

 時刻はまだ早朝。そして何より、彼らは貴種なのだ。生まれながらの貴族である彼らを邪魔する愚か者が居るはずもなく。どんなワガママであろうと、何をしようと、権力が自由を保証してくれる……はずだった。

 彼らの頭上に、グリフォンが飛ぶまでは。

 何だあれは。そう声が上がると同時、グリフォンは素早く高度を下げ、馬車列の前へと舞い降りる。馬車の動きを遮る様に。そして……

 

「おやおやおや、こんな朝早くから……どこへ行こうと言うんだい? お貴族様方? 戦場への加勢に来たなら方向が逆だよ? ひい、ふう、みい……数えるのも面倒くさいほど頭数が居て、揃いも揃って方向音痴なのかい? だとしたら信じられない奇跡だね。私が論文を書いて上げようじゃないか」

 

 馬車列の前に立ちはだかったグリフォン。その背に騎乗していたのは……一人の少女だ。

 濡羽の様な黒く艷やかな髪、それと同じ色をした淀んだ瞳。黒色系のローブを身にまとい、狼系のケモミミと尻尾をピンッと立てて、不可思議な杖を支えにグリフォンに腰掛ける少女……ニーナ・サイサリス。

 学園に居る者なら色んな意味で忘れようのない人物なのだが、しかし、貴族連中は彼女を知らないのか、あるいは無遠慮な演説がしゃくにさわったのか。苛立ち交じりに誰何の声を上げていた。何者だと。

 

「何者だ、か。随分と失礼な挨拶だね? つい数日前に会ったばかりじゃないか。えーと……そう、どっかの親は物凄く偉い人だった貴族さん? あぁ、失礼。私はどうでもいい奴の名前は覚えない主義なんだ。どうしてもというなら額に名前でも書いておいてくれ。読まないから」

 

 ハッ、と。馬鹿にするかの様な顔を浮かべながら肩をすくめるニーナに、いよいよ我慢ならなくなったのだろう。先頭に居た貴族が声を荒らげる。そこを退け、と。腰の剣を抜き放ちながら。

 明らかな脅迫。言うことを聞かなければ殺すと脅されて、しかし、ニーナの表情は殆ど変わらず。まるで見下すかの様な視線を送りながら、ゆるりと口を開いていく。馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに。

 

「ふぅん? おかしな事を言うね? 何で私が退かなきゃならないんだい? この通り足も無いのに? いやいや、別に退いてもいいんだよ? ただ……その場合、このグリフォンが君らの方に突っ込むかも知れないけど」

 

 それでも良いなら直ぐに退こうじゃないか。そうニヤリと笑みを浮かべながらペチペチと尻尾でグリフォンの背を叩くニーナに、彼らは今更ながらに不利を悟ったのか? 僅かに表情を曇らせる。これは戦力差が大き過ぎるんじゃないか? と。

 だが、それでも、彼らはどこか楽観的に状況を見ている様で。その動揺は極めて小さかった。それが余裕からくるものなのか、緩慢からくるものなのかは分からないが……しかし。

 

 ──畜群め。愚かにも程があるぞ。

 

 ニーナは、後者だと判断した。

 だから、なのか。つい、彼女の口が滑る。オーバーアクションと共に、実に感動的な話じゃあないか、と。

 

「君らが魔王と呼ぶあの厄災が目覚めるまで、この国は余程平和だったのだろうね? 偉大なる幻獣の王を前にして、こうも穏やかでいられるとは……地震や台風が無いとは聞いていたが、この様子だと親にも殴られた事が無いと見える。いやはや、素晴らしいご両親をお持ちの様だ。実に素晴らしい。諸君らのご先祖様、つまり建国期の人々は相当に苦労されただろうに……あぁ、いや。何でもないよ。ないとも。王国貴族というのは、素晴らしい歴史を持っていたのだと感心しているだけさ」

 

 他意はないとも。そうゆらゆらと楽しげに尻尾を揺らしながら言葉を回す彼女は実に愉快そうで。けれど、その淀んだ暗闇色の瞳には黒い炎が燃えていて……

 それが憎しみや恨みからくる怨念の色だと、そう気づけた者は……残念ながら誰一人として居らず。貴族とその取り巻き達は無警戒にも戦闘態勢を取り始め、ニーナに強気に迫ってしまう。馬鹿にしているのか? と。だから、彼らへの答えは、決まっていた。

 

「それは、私が決める事ではないね。それは諸君らが自分の耳で聞き、自分の脳ミソで考える事だ。もっとも、君らの耳と脳ミソがタンパク質の塊以上の機能を持っていればの話だが」

 

 ふん、と。不機嫌そうに鼻を鳴らすニーナが放った皮肉は、珍しい事に、というべきか? 普段のそれよりもずっと嫌味の色が強い──ハッキリ言ってただの悪口と何も変わらない──極めてストレートな物だった。

 ブリティッシュな、あるいは雅な皮肉の通りが悪いと見るや否やの素早い変わり身。何より内心の嫌悪を隠そうともしないそれに、貴族達がいよいよ眉間にシワを固める。不愉快な奴だと。だが……その思いは、むしろニーナの方が強かった。

 

 ──これがアリシアなら、皮肉には皮肉で返してくれるんだがなぁ……

 

 落胆。ただそれだけを浮かべながら、ニーナははぁとため息を溢す。アリシアよりも年上の貴族と言うから皮肉を投げてみたというのに、とんだ期待外れだと。

 いや、あるいは。期待通りだったのか。

 皮肉には皮肉で返す。それはある種の流儀であり、双方の格を示し合う遠回しなコミュニケーションでもある。つまり、それが出来ない様な相手は……

 

「尊敬に値しない。わざわざ言いたくもないが、この状況の為にあるような言葉だね。全く」

 

 忌々しい。そう言わんばかりのニーナだが、しかし、実際のところ皮肉が言えないからといってニーナの尊敬を勝ち取れない訳ではない。現にニーナの親友は皮肉に皮肉を返す様な事はしないし、そもそも皮肉を言う事自体がまれだ。

 けれど、彼女はニーナの皮肉を分かっている。何を言っているか分からない、なんて事はそうそう起きないし、会話していて落胆も呆れも出て来ない。

 それはニーナの教え子ですらそうだ。引きつった笑みを浮かべる事こそあれ、皮肉には皮肉で返そうとする度量がある。

 カリスマ性。あるいは器の大きさ。上に立つ者として最低限必ず持って置かなければならない物。それを持たないままふんぞり返っている者達に、ニーナが払う敬意は欠片もありはせず。お互いがお互いに軽蔑の視線を投げ合う中、いや、投げ合ったからこそか? 炎が走る。下級の火炎魔法。睨み合いに焦れて先に手を出したのは、貴族側だ。

 彼らからすれば必殺の。しかし場数を踏んだ死霊術師からすればあくびの出る様なそれは、案の定ニーナの守りを……正確にはグリフォンの守りを突破出来ず。ただの宣戦布告と化してしまう。全てを読み切っていた死霊術師の予測通りに。だから、その場に響く乾いた拍手は、彼女の予定通りだった。

 

「いやぁ、実に素晴らしい。短気で結構。手間が省けた。実のところ、君らの処理には頭を悩ませていたんだよ? 何せ明らかな獅子身中の虫。面倒事になる前に粛清するのがベストだと分かっていても、なまじ味方側であるだけに殺すにも理由がいる。ならお決まりの敵前逃亡でブッ殺すか? そう考えてはみたけれど、恐ろしい事にそもそも戦線にまで来ていない始末。これじゃ督戦のしようがないし、事故死させる事すら難しい」

 

 故に、そちらから大義名分を差し出してくれるのならば。それに越したことはない。

 そうニヤリ、と。どこか小馬鹿にする様な笑みを浮かべたニーナは、愛用杖を片手にグリフォンの上から臨戦態勢を取る貴族やその私兵を見回しながら、更に口を回す。何の淀みもなく、スラスラと。

 

「私自身君らに恨み辛みこそあれ、残念な事に殺す程の理由は無かったからねぇ。……あぁ、勘違いしないで欲しいのだが、レナをどうこうしようという計画は既に掴んであるよ。どこを探せば良いか分かっている探し物程、簡単な事はないからね。そう苦労せず確信を得れたとも。レナを処刑しようなんて……まして恥辱の果てに首を落とし、死体を晒して辱めようなんて、本気で出来ると思ったのかい?」

 

 この私が居るのに。

 そう暗く黒い声音で告げて、カンッと杖を打ち付けながら凄むニーナ。グリフォンを従える彼女に斬り込む様な勇者はこの場には……一人も居らず。自然、少女の演説は誰に妨害される事もなく続いてしまう。ペラペラと、よく回る口によって。

 

「けどまぁ……流石に物的証拠は抑えられなかったし、現行犯逮捕しようにも、そもそもまだ実行されていない以上、未遂事件ですらない。この点はとても困ったね。要するに、状況が状況だけに君らを抹殺するだけの大義名分が得られそうに無かったんだ。とても、とても残念な事にね。ならば、大義名分無しで殺すか? そんな考えが出てくる程度には私は冷静じゃない。けど、その考えに否と返せる程度には素面だった。有り体に言って、私に君らを殺すだけの理由が無いんだよ。幸いにも、レナはいまのところ無傷だし……私の恨み辛みも、この世界では事実無根でしかない。実害というのが、この段階では発生してないからねぇ」

 

 やれやれと、オーバーアクションに呆れを示すニーナは、しかし、内心でそっと言葉を漏らす。

 あるのは私の頭の中だけだ、と。

 自分だけが知っている……あるいは、自分だけの妄想。今や懐かしい思い出でしかないそれを頼りにするならまだしも、それを証拠として粛清を、断罪を始めてしまうのは……あまり横暴が過ぎる。神ならぬ人の身である以上、超えてはならない一線。少なくとも、ニーナはそう考えたし、踏み止まった。

 たとえ、レナの危機であったとしても。

 いや、だからこそ、か。ニーナはレナを理由にはしなかった。愛しいと思うからこそ、彼女を言い訳に使わなかったのだ。故に、故にそれは、妥協の策だった。

 

「そう、私は君らを殺すだけの理由がない。──けど、それは私に限った話だ。……あぁ、そうだとも。私は君らを見逃そう。だが、彼らが許すかな?」

 

 瞬間、ニーナの影から何者かの人影が浮かび上がってくる。黒く暗い闇は次第に人の形を成し……一拍。ガシャン、と。重々しい金属の音が響く。

 それは金属鎧の音。かつて栄光を誇った彼らの最後の姿。影から呼び出された彼らを見て、貴族の一人が思わずといった様子で呟く。

 帝国騎士、と。

 

「そうだ。帝国騎士。正確には帝国近衛騎士団だよ。今は亡き帝国の、その最後の守り人達だ。貴様らとは違って魔王軍相手に緒戦から奮闘し、その最後まで帝国の為に、皇帝の為に、何より民草の為に戦った最精鋭たる彼ら。──あぁ、そうだとも。私に殺す理由は無く、大義名分も無い。……けれど、彼らは違う。君らに裏切られ、見捨てられ、見殺しにされた彼らには……君らを抹殺する理由が、大義名分がある」

 

 援軍を出すと、要人を保護すると約束しておきながら、土壇場で見捨てたのだろう? そう笑みを浮かべながらコテンと首を傾げる少女を、最早誰も見ていなかった。

 闇の気配に包まれた鎧の胸に、あるいは構えられた盾や剣に施された翼の紋章。一説にはグリフォンを模した物だと言われる帝国の証に、誰もが目を向けていたのだ。今となっては誰も掲げてはいないはずの、亡国の紋章に。

 少女を守る様に隊列を組んだ彼らを盾に、少女は戦いの口火を、最後通告を告げる。死者の復讐だと。

 

「これほど筋の通った大義名分はそうそうあるまい? 何せ死人を裁く法など、貴様らは持ち得ていないのだから。あぁ、命乞いをするなら彼らにどうぞ。彼らの手綱は既に手放してあるのでね。私はホンの何割かの魔力を提供しているに過ぎないんだ。分かるかね? やはり分からんか。私は彼らを操ってはいない。ここから行われるのは、あくまで彼らの自由意志だという事さ」

 

 お分かり頂けたかな? そんな丁寧な言葉をあざ笑う様に放ちながら、ニーナはその手に持った杖をグッと旗の様に掲げて見せる。

 それはある種の指揮棒。それが振り下ろされた時がギロチンの刃が落ちる時。誰もがそれを察してしまい。けれど……杖が振り下ろされる事は無かった。

 ピクリ、と。ニーナのミミが震える。人殺し、と。そう呼ばれたが為に。

 

「人殺し? 人殺し。私が? ふむ……人殺しか。なるほど。確かにそうだろうね。けど、逆に聞きたいんだが、それの何が悪いんだい?」

 

 たらり、と。一瞬だけ伏せたミミを、垂らした尻尾を、ピッと跳ね上げて。ニーナは睨み付ける様に視線を上げる。バケモノを見るような目で見られながら、それでも、聞き捨てならないと。そう言いたげに。

 

「おやおや、そんなバケモノを観るような目で見られると悲しいねぇ。……けど、どうやら君らは答えを持たない様だ。答えを知らないのに、意味が分かってないのに、言葉を軽々しく使う……ふむ。文明が早すぎた連中が居るようだね。サルからやり直せと言ってしまうのは、サルに失礼かな?」

 

 少なくともサルは群れが消え去るまで殺し合ったりはしない。そうため息交じりに言い放ちながら、ニーナは一拍だけ呼吸を置いて、再び語り始める。尻尾をゆらゆらと揺らしながら、いつもの調子で。

 

「考えた事はないかい? なぜ殺人が絶対的な悪と呼ばれるのか? その理由は何なのか? 豚や牛を殺して食うのと、危険だからと狼や獅子を事前に殺すのと、いったい何が違うんだと。殺している事に、水とタンパク質と油の塊を破壊している事に変わりはないだろうに。ん? 詭弁だって? そうかもね。だが、これが詭弁なら獣を殺して日々の糧を得ているのも、また同じく詭弁だろう? なぜ人殺しだけがそうも悪し様に言われなきゃならない? 人殺しを悪し様に言うのなら、豚や牛、果てには穀物や果物にも、同じ感情を持たねばならんだろうに。あぁ、だがヴィーガンになれと言ってる訳じゃないんだ。ヴィーガンなんてファッション以外の何物でもないからね。本気で現状を憂うのなら潔く餓死を選ぶか、人工培養肉の開発にでも協力すべきだ。自己満足でキャンキャン吠えてる暇があるなら、来たるべき未来の為にさっさと働けと。そうは思わんかね? うん?」

 

 そもそも穀物や果物の痛みを無視している時点で偽善に過ぎんが。そう言い放った後、反論があるなら聞くが? と。そうチラリと視線を投げるニーナの目は、相変わらず淀んでいたが……しかし、何かのスイッチが入ったのか? その奥底でギラギラと何かが燃え始めていた。レスバしようぜ! と。そう言わんばかりに。

 けれど、不幸な事に彼女と言い合いを出来る人材も、口を止められる誰かも居らず。ニーナの独壇場が続く。続いてしまう。

 

「豚や牛を問答無用で殺して、解体して、店先にズラリと並べておきながら。人殺しだけは絶対のタブーだと……あぁ、いや、それは良いんだ。そこを間違えてはいけないという、絶対防衛線だというならそれはいい。問題は、人を殺さなければ、豚や牛を殺してもいいという常識。犬猫を殺しても重罪にはならないという常識。そう、常識。人殺しは悪。豚や牛は良い。犬猫はちょっと悪い。それが世の中の常識だ。常識、常識……下らん。実に下らん! 少し自分の頭で考えれば分かるはずだ。人殺しはいけません、なんて。誰が、何の為に、でっち上げたルールなのか? 簡単に分かる。そう、でっち上げだとも。殺すのが罪なら、生きとし生けるもの全てが罪だ。生きる事が罪なんだ。どうにもなるまい? だいたい人殺しが駄目なら戦争はもっと駄目だろう。なのに戦争は年がら年中毎日世界のどこかで起こっている。一人の死は悲劇だが、百万人の死は統計学に過ぎない、とか。一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄になる、とか。そんな狂った名言すら存在するのがこの世というものだ。おおブッダよ寝ておられるのですか!? と嘆きたいところだが……当のブッダがこの世はクソと言っているからねぇ」

 

 生きるも地獄、死ぬも地獄なのさ。そうよく喋る口を回しながら、ニーナは帝国騎士達に視線をやり、ゆるりと半包囲をしかせる。着々と、少しずつ。

 

「あぁ、勘違いしないで欲しいのだが……私はだから殺して良い、なんて言う気はないよ? たとえ世界が誰かを殺さないと生きていけない仕組みになっていたとしてもね。だからこそと言うべきか、そこはむしろ逆なのさ。人間社会で上手くやっていきたいなら、常識やルールを守っておくのはそう悪くないんだ。人殺しはタブーだとも。人間として生きて、人間社会で暮らす気のある者に限定すれば、だが。…………ふむ。喋り過ぎたな。では、結論を述べよう。殺すのなら、生きるのなら、覚悟を持て。そういう話だよ。太古の昔から何も変わらない真理だ。ハードボイルドに言うなら、撃っていいのは撃たれる覚悟のあるやつだけ……となるかな? あぁ、安全なところからキャンキャン吠えるのはさぞ楽しかったろうね? けど、そんな時間はとうの昔に終わっているんだよ。覚悟は出来てるかい? 私は出来てる」

 

 人殺し、なんて言われたところで、今更止まりはしない。そうどこか影のある笑みを浮かべながら、ニーナが再度杖を握り込む。いよいよギロチンが落ちる。そう悟ってしまった貴族連中やその随行員がようやく助けてくれと命乞いを始めるが……もう遅い。

 

「待ってくれ、助けてくれ……そう言った誰かを、君らは助けた事があるのかい?」

 

 呟かれたのは、小さな疑問。

 けれど、その答えは沈黙しか返って来ず……ニーナはため息と共に、落第点を付けるしかなかった。

 それが答えだ、と。

 

「殺せ。敗北主義者だ」

 

 自分の用は終わった。後は好きにしろ。そう言外に告げられた亡国の騎士達が、一斉にその鎧を動かしていく。

 あの日の復讐を、今この手で。

 野太い悲鳴が上がる中、ニーナは凄惨な現場から視線を逸らし、グリフォンに手伝って貰いながらゆっくりと一台のほろ馬車の中に入り込む。ゲーム知識から逆算するに、今ここに積まれているはずの目当ての物を頂く為に。

 

「──物取り目当ての人殺し、か。これじゃバケモノの方がまだ……」

 

 ミミをしゅんと垂らしながらそう呟いて、ニーナは直ぐに頭を振って作業に戻る。足が無いせいで這いずり回る事になりながら、それでも次々と物品を物色。これでもないそれでもないと、盗みの手を進めていく。

 全ては、愛しい少女の為なのだと。湧き上がる吐き気を噛み殺し、何度も同じ言葉を繰り返しながら──




 Q,要するに? 
 A,覚悟も決まってるし躊躇いもないけど、それはそれとして理由が欲しいお喋りクソ女の言い訳です。長いわバカヤロウ。なお同族殺しのSANチェックと反動ダメージからは逃れられない模様。

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