架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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第17話 中盤の難所 序

MISSION

「電撃包囲作戦」

 

 

 集まったかい? 

 落ち着いてくれ。静かにしてくれ! 

 

 諸君らは王立魔法学園の一員として、今日までこの保養地一帯の平和を維持してきてくれた。……今日まで。

 

 昨夜、私の出した偵察部隊が敵侵攻軍主力部隊と思わしき一団を通報してきた。

 そして先程、当該偵察部隊からの連絡が一切途絶えた。魔王軍による攻撃を受けたものと判断する。

 

 任務を伝える。

 

 この地域における膠着状態が開戦以来初めて破られた可能性がある。

 王立魔法学園の全生徒はただ今をもって戦闘態勢に移行。各員は確保してある馬車へ各自乗車し、森林地帯を駆け抜けて敵侵攻軍後方に展開。敵主力の発見、捕捉、撃破をもって敵の狙いを阻止せよ! 

 

 この作戦はスピードが肝心だ。特に質問がなければ、直ちに作戦を開始したいと思うが? 

 ……ないようだね。では、作戦開始だ。連中の度肝を抜いてやろう! 

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 昨夜捕捉した敵侵攻軍。その後方を突くべく、私を含めた全ての学園の人間は夜明けと同時に馬車に乗り込み、森林地帯を駆け抜けていた。

 道中で廃棄する事を考え、学園の物ではなく善意の協力(そういう事にする)の元盗……借り受けた妙に華美な馬車の中。私は中核メンバー──私、レナ、エマ先生、ユウ、アリシア、サーシャだ──に改めて作戦を確認する。既に耳ダコだとは思うがと前置きして。

 

「本作戦は鉄床戦術を基盤とした電撃包囲作戦だ。ドーントレス家の主力軍が鉄床として敵正面部隊を拘束している間に、我々がこの森林地帯を一気に駆け抜けて戦場を迂回。電撃的に敵後方を脅かす事が主題だ。その後は槌としての役目を果たす事になるのだが……まぁ、なるようにしかなるまい。さて、この為に必要なのは一にも二にも速さ。速さが肝心だ。今のところは交易路として整備された道を走っているから問題は無いが……ユウ。分かっているね?」

「はい。この林道を抜け切ってから魔王軍に向かってしまうと時間が掛かり過ぎ、ドーントレス家の主力軍が耐えきれなくなってしまう……だから途中で馬車から降りて、その後は地元の人間しか知らない林道を進む。ですね?」

「その通りだ。ついでに言えば、林道の方は近くの住人が頻繁に利用しているのか、迷わない程度には整備されている。走る事も出来んではないだろう。だが、所詮は村人の作った林道。視界は悪く、足場もよろしくはない悪路だ。余程の方向音痴でもない限り億に一つも迷う事はないだろうが、戦闘ともなれば専門の技能を要求されるだろう。戦闘が避けられない場合や、何らかのトラブルが起きた時はサーシャを頼る様に」

 

 いいね? と。そう言葉を投げてみれば、ユウとサーシャが力強い頷きを返してくれる。サーシャはともかく、我が教え子の成長振りと頼もしさは中々の物……流石は原作主人公というべきか? 今後が楽しみになる成長性だ。教え甲斐がある。

 とはいえ、だ。それでフォローが要らなくなる訳でもない。というか、原作が原作だけにユウを過信してはならないというか、主人公補正というものを勘定に入れられないというか。ともかく、ユウはユウの分だけしか働けないし、それ以上を求めてはならないのだ。故に、それ以上が欲しいのならば、手は打てるだけ打っておかねばならない。

 

「エマ先生。これは、正直なところ、誰か一人に任せる様な事ではないとは思う。思うのだが……残念ながら、貴女しか任せられる人が居ない。私の代わりに、生徒達を……」

「任せて下さいッ!! ニーナ先生の分も、生徒達は守ってみせます!」

 

 胸元でグッと拳を握りしめながら、やる気満々で──なんなら食い気味に──返事を返してくれたエマ先生に、若干引きつった笑みを返しつつ。私は目をそらすついでとばかりに、そっとアリシアの方へと視線を向ける。

 馬車の持ち主に気づいてしまったのか、それとも戦場に居る親が心配なのか。どこか不安そうな彼女。正直、掛ける言葉は全て気休めにしかならないのだが……

 

「アリシア。その、気休めにもならんだろうが……」

「いえ……大丈夫ですわ。ニーナ先生。ドーントレス家の淑女として、既に覚悟は出来ていますから。この作戦にも不満はありません。学園の生徒として、必ず、やり遂げてみせましょう」

「そうか。……大丈夫なんだね?」

「えぇ、勿論ですわ。作戦の奇抜さには驚かされましたが……反対する程の理由もありませんし、何より、ニーナ先生自身、慣れていらっしゃる様でしたから。こういう事は経験者にお任せした方が良いと、そう教わっております」

 

 フフ、と。余裕ありげな笑みを返してくるアリシアに、私は同じ種類の笑みを投げ返しながら曖昧に頷く。経験者かどうかはご想像にお任せするよ、と。

 

 ──軍事の専門家ではないけど、この状況に対する答えなんて……知っている人間なら知っている話だしね。

 

 後方奇襲の為に森林地帯を駆け抜ける、なんて。知っている人間からすればあくびの出る話なのだ。まして相手側の知性が獣並みと分かっているのなら、尚更に。

 まぁ、そういう意味では経験者と言えるのかも知れないが……実際のところは門前の小僧に過ぎないのが現実。事前準備だけでも結構な粗があるし、対応バリエーションも限定的で、間違っても自信を持てる話じゃない。

 それこそ、フランスのアルデンヌの森──湿地帯を含む上に一部は方位磁針が利かなくなる迷いの森──を入念な事前準備と高機動力で突破したドイツ軍と、その作戦を立案した将軍とは雲泥の差がある。

 

 ──まぁ、逆を言えば猿真似程度なら出来ん事はない。という意味でもあるが……

 

 それだって、誰にでも出来る話だ。誇れる話じゃない。

 西側に重装備の味方主力軍。敵侵攻軍は一団となって東側から進撃中。決戦が行われるだろう平原の南側には整備された森林地帯が広がっており、北側には小さいながらも河川がある。……ここまで言われてこの作戦が立案出来ない奴は居ないだろう。中学生にだって立てれる作戦だ。

 そう内心で自虐する事、暫し。定点観測をさせていたゴーストが撃破された事を感じ取った私は、おもむろに咳払いを一つ響かせる。時間だと。

 

「では、後は頼んだよ。私はここから別れて、グリフォンや死霊部隊と共に南側から攻勢を仕掛ける。攻撃タイミングは可能な限りそちらに合わせるが……間に合わないと判断すれば、私だけで仕掛けるからね?」

 

 くれぐれも無駄死にさせないでくれよ。そう軽口を叩いて……一拍。私は私に向けられていた視線の色が変わった事に、嫌でも気付かされた。

 驚きと、呆れ。先程まで憐憫や安堵が複雑に浮かんでいたにも関わらず、今や彼ら彼女らの視線はそれのみに染まっていたのだ。

 いったいなぜ? 何が原因だ? そう予想外な反応に困惑し、初期対応が遅れた私に……エマ先生が声を上げる。待って下さい、と。どこか呆然とした声音で。

 

「冗談、ですよね? ニーナ先生。本気じゃないですよね? ニーナ先生は、怪我人なんですよ? 歩く事すら、出来なくなったんですよ!? それなのに、別行動? 今から!? そんな話は、一言も!」

「言ってないね。レナにも話してない事だ。しかし、いや、だが、当たり前の話だろう? これくらい。私は生徒を危険に晒しておいて、それで安全で快適な場所から高みの見物を決め込む様な、そんな愚かな教師にはなれないんだ」

 

 尻で椅子を磨けないタチでね。そう軽い調子で言葉を繋ぎ、仕方ないだろう? と肩をすくめてみせる。本当の理由を……盗聴を警戒してギリギリまで秘匿していたとは、言える訳もなく。

 

 ──連中の知性は獣のそれから大きく逸脱しないが……今回の指揮官級はこちらの精神に干渉してくるからね。

 

 それを考えれば秘匿のやり方は限られてくるし、時間や準備が足りない事を考慮すれば……策はこれしかなかったのだ。相手がこちらの精神を覗き込んで秘密を暴いてくると言うのなら、そもそも誰の手にも秘密を預けなければ良い、と。

 この場合、私だけならどうとでも対抗策を打てる以上、奇襲は確実に刺さる。仮に万が一、私から情報を得れていたとしても──私という鉄砲玉相手に──戦力の分散は避けられない。連中は遠征軍に過ぎないからな。そうなれば、三方のどこかに必ずスキが出来る。

 まさに敵を騙すには味方から、という訳だ。

 とはいえ、それが分かっていない……いや、分かっていても納得出来ないのだろう。エマ先生は予想以上に頑迷に抵抗してくる。認められない、と。

 

「駄目ですっ! 絶対に! ニーナ先生は、ニーナ先生は足が無くなるまで戦ったんですよ!? それを、それなのに……! こんな、こんなのって……」

「すまないね。エマ先生。私はまだ戦えるんだよ。どれだけ見苦しかろうと、やれるならやらないと……だろう? ユウ。君はどう思う? 我が教え子」

「…………そう、ですね。分かりました。先生。僕らも間に合う様に急ぎます」

「ユウ君!?」

「エマ先生。少し、お願いが──」

 

 私の言い分に納得してくれたのか、何やらエマ先生に耳打ちし始めたユウにそれでいいと頷きを返した後、私はそっとレナに視線を送り、その細い──しかし吸血鬼として人外の筋力を持つ──腕に抱き抱えられて、ゆるりと馬車の出入り口へと向かっていく。

 香水だろうか? 品のある甘い香りに包まれながら、まるでお人形の様に運ばれる状況に思うところがないではなかったが……足の再生が間に合わなかった以上、仕方のない話だった。

 

 ──一応、準備自体は終わっているんだが……

 

 貴族連中から盗んだ品と、私自身コツコツと回収していた品。何より私の身体の特異性を考えれば、理論上は足を再生する事が可能なはずなのだが……如何せん初めてやる事だし、失敗すれば次のチャンスは無いのだ。慎重にもなる。

 いやまぁ、正確に言えば戦後なら幾らでも可能なのだろうが、戦後まで──レナの願いを加味しても──生きている気がしない私としては、それは無いのと同じ事。戦力的な意味合いからしても早期に足を生やしたいのが本音なのだが、やはり、どうしても慎重に事を進めるしかないのが現実であり……今レナに抱き抱えられ、後頭部にちょこんとあごを乗せられているのもまた、現実でしかなかった。

 

「うん。やはり足が無いのはやはり不便だね。車椅子やグリフォンで誤魔化すにも限度がある。こうして、レナにも迷惑を掛けてしまう訳だし……すまないね? レナ」

「ん、気にしないで。ニーナ。レナは気にしてない。それに、ニーナ、温かいから」

 

 ぎゅっ、と。私を抱き締める力を少し強めながら微笑を浮かべるレナに、私からやめてくれ……なんて言える訳もなく。私は曖昧な笑みを浮かべたまま、レナの手によって馬車の出入り口まで送り届けられてしまう。

 後続に続く馬車。流れていく木々。天気は快晴……吸血鬼に取っては最悪な、しかしグリフォンからすれば良好な空を見上げた後。私は愛用の杖を呼び出して、グリフォンを召喚しに掛かる。どこか安心した様子の、あるいは微笑ましいものを見るような同僚や生徒達には目もくれず、何なんなら指摘すらせずに黙々と。

 それが、悪かったのだろう。レナがバサリとコウモリ羽を広げる。広げてしまう。

 

「ん? レナ?」

「飛ぶよ」

 

 ただそれだけを告げて、レナの羽が力強く空を切る。バサリ、と。そう空気を叩いた次の瞬間。私はレナに抱えられたまま馬車の外へと……いや、大空へと上がっていく。

 太陽が顔を出した、雲一つない朝の空へと。

 

「ッ!? レナ! 太陽が!」

「ん、大丈夫」

「何がっ! 吸血鬼だろう!?」

 

 闇精霊の加護もなく、太陽光の下に身体を晒すなんて! そう叫ぶ暇もなく、レナの体は太陽の光に……焼かれていなかった。

 いや、そもそも体調不良すら感じていないのだろう。レナは気分良さ気に羽を動かし、悠然と空を飛んでいる。パタパタと。優美に、あるいは愛らしく。

 

「ニーナと一緒なら、大丈夫だから」

「……なら、良いが」

 

 いや、良くないが。しかし、現実として問題が発生してない以上──何よりレナがそう言っている以上──そういう事なのだろう。どういう事なのか全く分からないが、そういう事なのだ。

 

 ──いや、どういう事なんだ? 

 

 だから、そういう事なのだ。

 納得出来ない? そうだろうとも。吸血鬼であるレナが太陽光を浴びるなんて、イカが地上を支配するぐらいあり得ない。だが、しかし、他ならぬレナの言う事なのだ。私が納得出来なかろうと、私は躾けられた犬の様に忠実にならねばならない。どれだけ納得いかない現実であろうとだ。

 そう必死に自分を納得させようと奮戦する事、暫し。それでも、どうやっても納得いかなかった私は、やむなくもう一度説明を貰おうとレナの方を見上げて……気づく。レナが、いや、レナの身体を覆うように、あるいはコーティングするように、極めて強力な闇の魔力が発生している事に。

 

「レナ、その闇の魔力はどうしたんだい? レナの魔力にしては黒過ぎるし、魔石から取り出したにしては大き過ぎる。いったいどこからそんな魔力を……というか、いや、これは。そんな、まさか? 月……なのかい? こんな朝方に、これだけの月の魔力を?」

「ん、ニーナのおかげ。これなら、陽の光も怖くない」

 

 私の? そう聞き返さなかったのは、単に、レナの微笑みに……見惚れてしまっていたから。そうでなければ私は猛烈な反論を述べていた事だろう。こんな私が役に立つはずがないと。こんなバケモノの私が……バケモノ。バケモノ? 

 

「……なるほど。そういう事か」

 

 おぞましい我が肉体も、たまには役に立つらしい。死体を継ぎ接ぎされたキメラとして、あるいは死を冒涜する死霊術師としての力。そのドス黒い闇の力が、レナに力を与えているのだろう。

 だが……

 

 ──ならば月の魔力は? 闇でありながら、同時に輝いてもいるあの魔力はなんだ? 

 

 元々この世界の住人ではなかったせいか、私は魔力というものを理解しきれていないのだが……それでも、月の魔力というのは分かる。

 何せあの魔力は特別なのだ。科学的にいえば太陽の光を反射しているに過ぎないのに、魔法的には全くの別物。私の様なドブネズミから、レナの様な夜の支配者に至るまで、ありとあらゆる闇の者達に力を、それ以外の者にも安らぎと眠りを与えてくれる特別な光。それが分からない程、私は鈍くない。

 だからこそ、分からない。なぜ月の力が、こんな朝方にレナを守っているのかが。

 

 ──いや、そういえば……

 

 ふと、思い出す。私が愛用している杖のフレーバーテキスト。そこには確か月の魔力がどうとか書かれていたはずだが……と、そこまで記憶を引っ張り出した私は、しかし、直ぐに思考を中断する事になった。

 木々が途切れた先にある平原。そこに蠢いているのは……無数の黒い影。敵だ。

 

「ふぅん? 予想より数が多いね。しかし、まだ開戦してないとは……慎重なのか。それとも何か狙いがあるのか。まぁいい。レナ。森に降りてくれるかい? 準備に入ろう」

「ん、分かった」

 

 まだだ。まだ今は見つかる訳にはいかない。そんな思いを声に乗せて一声掛ければ、レナは直ぐに高度を下げて着陸に入ってくれる。

 滑空しながら木々の合間に潜り込み、するりと滑る様に地面に降り立ったレナに、文句なんてあろうはずもない。無音の着陸。完璧だ。とはいえ、相変わらず私から手を離そうとしないのには閉口するしかなく……

 

 ──お人形扱いとは、参ったね。レナにはユウ達に付いていて貰いたいんだけど…………駄目かな? 駄目だね。これは。

 

 ユウ達の方に行ってくれないか? そんな思いを混ぜた視線をふいっと避けられてフラれた以上、私はやれやれだとため息を吐きながら、甘んじてレナのお人形役を引き受けるしかなかった。レナがそうしたいのなら、止める事は出来ないと。

 だが、それで仕事を忘れる訳にもいかず。私はレナのやわらかな両腕に包まれながら、死霊術を連続行使していく。木々の影に隠れる様に、死霊騎士やスケルトンを次々と。

 

 私の影から。あるいは木々の闇から出てくる彼らを横目に、私は淡々と軍勢を揃えていく。

 全ては勝利の……いや、レナの明日の為に。




ステンバーイ……ステンバーイ……
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