架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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第2話 魔女の日記 Ⅰ

 

 三月 二日。

 

 万が一、記憶がこれ以上欠けてしまった時に備えて日記を付ける事にする。後で読み返せる様に、記憶を失っても少しは補完が出来る様に。

 それと箇条書き程度だが『スカーレット・ダイアリー』についてメモも残しておく。億が一の可能性を引いてしまった場合は、この文字が読めるうちにメモを確認する様に。この日記帳の最後の方だ。

 

 ……全く、記憶喪失にそなえなければならないとは。我ながらアホらしい話だ。

 まぁ、私は前世を覚えている前世持ちであると同時に、異世界転生を果たした転生者でもあるのだから……前世の記憶というのが酷く歯抜けなのは仕方ない事だろう。転生のショックというのは無視出来ない要素だ。それにマッド共に脳ミソを弄くられた果ての結果としては、上出来な部類ではないだろうか? 前世の事をまだ覚えてるだけマシと思おう。

 だとしても既に前世の名前や家族構成なんかが思い出せないのはハッキリ言ってよろしくないし、時間経過による劣化も凄まじいんだが……いや、だからこそこうして日記を付けているのだ。前世の事を完全に思い出せなくなれば、それはアイデンティティの喪失に繋がりかねない。故にボケ防止を兼ねて保険を用意する事にした訳だろう? 今の私を、日記という形で書き残す事で。

 

 ……羽ペン、思ったよりも手が疲れるな。書くのが面倒くさくなってきた。

 何か対策を考えねば。

 

 

 三月 三日。

 

 あったあった。全自動羽ペン。

 これで書くのが楽になる。なった。超楽。

 コイツは魔法世界にありがちな品だが、この『スカーレット・ダイアリー』の世界にもあるのを知っていたのは幸いだった。見た目は普通の羽ペンと然程変わらないからな。確信を持って探さなければ見つからなかっただろう。

 フレーバーテキストまで暗記してた前世の私に感謝だな。よくやった、暇人。

 

 さて、良いアイテムも手に入れた事だし、引き続き記憶を記していこう。何せ、いつ記憶が消し飛ぶか分からないからな……まぁ、転生して脳ミソが変わったのに以前の事を覚えている方が不自然だったのだ、これぐらいは仕方ない話だろう。

 

 いや、不自然というのは語弊があるな? むしろこれは自然な話だ。古代中国の道教に記述された魂魄理論──魂は精神の魂、魄は肉体の魂。気や魂は二種類あるという考え──から考えれば……身体と魂、それぞれに知識や記憶が刻まれていたと推察出来るのだ。であれば今の状況も説明がつく。魂が魂魄に分かれて存在していたからこそ、脳ミソが変わった後も前世の記憶や知識を魂に刻まれたソレから思いだせるし、脳ミソに加えて魄を欠落した故に多くを取りこぼしてしまい、魂にしかない情報は魄のサポートを得られないが為ポロポロと溢れ落ちて戻って来ないのだ。まして肉体の変化に伴い魂魄に齟齬も発生している。記憶の欠落ぐらいで済んでいるのは奇跡というべきだろう。下手すると次の瞬間アンデッド……キョンシー辺りになってもおかしくないのだ。このぐらいで済んだのは幸運だったと思わねば。

 

 しかし、驚異的なのは魂の存在か。

 いや魂の存在はある量子脳理論からのアプローチや、とある超心理学研究者の精神科教授の行った統計学的な研究結果から科学的説得力を得ていたが……まさか時空間を飛び越えて異世界まで飛翔するとは。この私の目を以ってしても見抜けなんだ。

 ある博士は脳で生まれる意識は宇宙世界で生まれる素粒子より小さい物質である為、重力、空間、時間に囚われない性質を持つと語ったが……私の魂が移動した瞬間の科学的データが取れていれば、超自然学や量子に関する研究が進んだかも知れん。

 

 うーむ。何か惜しい気分だな。

 

 

 三月 四日

 

 ああいうのはメモ欄に書くべきなんじゃないのかね? 昨日の私よ。

 

 いや、これもこの全自動羽ペンが緩いのが悪い。たぶん表層心理を読み取っているのだと思うが、それを余すところなく書き記すのはどうなんだ? ちょろっと考えただけだぞ?? 

 幾ら脳波コントロール出来る! 代物だとしても……いやまぁ、正確には魔力コントロールだが。やっている事は某アレと同じだ。主に手を使わなくて良いという辺りが、特に。

 

 ……まぁ、いい。

 無学は神の呪いであり、知識は天にいたる翼である。かの劇作家も言っていたように、知識というのは重要なのだ。実際重要。知識重点。古事記にもそう書いてある。

 

 書いてねぇよバカ野郎コノヤロウ。

 

 ……練習しないと駄目だな? この羽ペン。

 

 

 三月 五日。

 

 魔法学園に送り付けた手紙……もとい履歴書の返信が来た。

 

 返信は一文。

 登用する、との事。

 

 文書の簡潔さは流石レナと言ったところだ。面倒くさかったのだろう。あるいはこれで充分だと判断したのか……いやいや、単に忙しかったという可能性もあるな。彼女のイベ死の背景には過労や精神的ストレスがあったのだし。

 いや、だとしても試験すらないというのはそれで良いのかと思わないでもないが、まぁ、それだけ魔法学園が人員不足という話なのだろう。

 メインキャラも油断すれば永久退場するし、モブの死亡率はかなり高いからな。序盤でくたばったモブ教師陣の後任は最後まで入らなかったし。さもありなん。

 

 さて、運んでくれたコウモリ君──レナのペットだろう──もエサを食い終わった様だし、今度は魔法で送り付けずに彼に返信を預けるとしよう。

 司書として頑張りますと。

 ……スカーレット、司書、ふむ。髪を紫に染め直した方が良いかな? いや、良いか。どうせ直ぐに兼業になるんだし。

 

 …………油断するとこれだ。この羽ペンめ。

 

 

 三月 九日

 

 推しキャラと模擬戦は聞いてない。

 

 だが、何とか相討ちに持っていけたので良しとしよう。……グリフォンの奴は不貞腐れてるのか、召喚に応じなくなってしまったが、まぁ、一月もすれば機嫌も直るだろう。駄目なら長々とヨイショしてやるさ。

 

 しかし、この学園思ったより広いんだな。悪名高いかの新宿地下ダンジョン程ではないが、ゲーム以上なのも事実。

 改めて地形把握に努めなければ。

 

 

 三月 十日

 

 学園出勤初日。

 私は当初の想定通り出勤する事が出来た。同僚への挨拶は……まぁ、どうせ助けられないしとそこそこに。しかし、仕事だけは真面目にこなす事で上手いこと魔法学園に潜り込めたと言えるだろう。物語中盤まで舞台となる、文字通り世界の中心へ。

 

 まぁ、正直なところ素性調査すら無かったのは拍子抜けとしか言いようがないのだが、ダークファンタジー寸前の末期戦をやっている様な世界だと思えば、それも仕方がないのだろう。

 それに、先生としてじゃなく木っ端の司書兼事務員としてだしな。さもありなん。怪しければ殺せば良いという訳だ。殺伐。

 

 この調子だと、登校初日と洒落込まなかったのは正解だったな。今世のボディが多くの不安点を持っている事と、行動の自由度を考えて職員に紛れ込む事にしたのだが、大正解という訳だ。

 

 さてさて、レアな魔導書なんかは、今のうちに場所を把握しておきたいが……まぁ、ゆっくりやろう。幸いにもストーリー開始までまだ半月はあるし、あんまり真面目一辺倒に働き過ぎると排斥運動が起きちゃうからな。その辺りは適度に手を抜いて、程々にコミュケーションを取っておくとしよう。

 この世界にまで地獄の鬼もドン引きするKAROSHIを広める必要もあるまいて。ゆっくりのんびりとやろう。ゆっくり、ゆっくり……

 

 ゆっくりしていってね! 

 

 …………もう、何も言わんぞ。私は。

 

 

 三月 十三日。

 

 素性調査が無いと言ったな? あれは嘘だ。

 

 どうにもノーガード戦法だっただけで、素性調査はしていたらしい。

 雇った後に。

 

 恐らく、それで黒となれば捕縛して尋問……もとい拷問に掛けるつもりだったのだろう。敵対組織の情報を得る為に。

 ギロチンまでは許容するが、苗床は勘弁して欲しい物である……え? 生爪を剥いで焼けた鉄串をブスリ? いやーキツイっす。

 

 しかし、あれだな? 『スカーレット・ダイアリー』の世界が予想よりも過酷過ぎて草も生えない。あの世界はまぁまぁ過酷な末期状態だったと記憶しているが、ここまでダークな雰囲気が表に出てきているとは。語られなかった設定なのか、あるいは……

 ……そういえば、『スカーレット・ダイアリー』のスカーレットは比喩表現だというのが通説だったな。夕日とか、血とか、つまり、世界の終わり的な意味だと。

 

 ……これ、主人公君が既に死んでいる可能性あるな? 

 暇を見て確認しに行こう。

 

 

 三月 十五日

 

 同僚──序盤でオレサマオマエマルカジリされる──や、同僚──俺帰ったら結婚するんだ──から仕事を教えて貰いながら、今日も今日とて残業である。

 残業。即ち、襲い掛かる魔物共の撃退だ。

 全く、誰だよ、こんな魔王軍の隣に学校建てたの。何? 向こうからやってきた? ボロ負けしてんじゃないよボンクラ共が……

 

 まぁ、『スカーレット・ダイアリー』のバトルシステムがタワーディフェンスな理由を身体で経験する事になったのは……ファンとして喜べば良いのか、泣けば良いのか。

 

 笑えば良いと思うよ。

 

 やかましい。羽ペン。

 

 ともかく、私は生き残った。呼んでも来ないグリフォンに見切りをつけて、死霊術でスケルトン軍団を大盤振る舞いで召喚し、ソイツらを囮にして前線を構築していたのは我ながら冴えていたとしか言いようがない。おかげで無傷だ。私はな。

 犠牲者一名。油断していたらしい同僚が上空から奇襲を受け、頭ザクロになってくたばりやがった。

 私の隣で。

 クソが。当分ハンバーグ食えないじゃないか……すき焼き食いてぇ。しかも隣でくたばったから、そこが突破口だと思われたらしく、圧力が三倍になりやがったのだ。

 

 空と陸からの両面攻撃。

 押し寄せる魔物共の姿は、今思い出してもゾッとする。

 

 追加でスケルトンソルジャーを呼び出し、決死の遅滞戦を即座に開始出来たのは、プレイ時間カンスト勢の面目躍如といったところか。どこにユニットを回し、どのタイミングでスキルを使い、どうやって時間を稼ぎ、そして敵をすり潰していくか? 染み付いた技は、案外応用が効いたのだ。

 

 タワーディフェンスのちょっとした応用だ。

 

 とはいえ、それでも多勢に無勢。もしレナの救援があと一分遅れてたら……私はあそこで死んでいただろう。雨あられと打ち下ろされる魔法弾で敵の陣形が乱れてなければ、私はあのまま物量に押されて串刺しにされていた。それは間違いない。

 流石レナ。さすレナ。二度と足を向けて寝れない。今度お茶請けを持っていくから一緒にティータイムと洒落込みたいところだな。まぁ、老人共から全権をブン投げられたせいでそんな暇はないだろうけど。……ん? それは老人の責任逃れじゃないかって? そうだよ。

 

 

 三月 十七日。

 

 書類をレナに提出するついでに、少しだけレナと話す事が出来た。

 初日にあったようにゲーム通りの……いや、ゲーム以上に美しく、可愛らしい少女だ。天然というか、不思議ちゃんというか。ちょっと間の抜けたところすら愛おしく思えるね。

 

 彼女の為なら死ねる。

 

 不安なのは、ちゃんと面白い話を出来たか? という事だな。

 彼女の好みは表面上把握しているが、なにせ、その、私は喋り過ぎるからな。微笑んでくれていたから、大丈夫だとは思うんだが。

 

 

 三月 十八日。

 

 レナから休暇を貰った。昨日は楽しかったという言葉と一緒に。

 

 ……皮肉、とかではないと思う。あの子はそういう子ではないし、刺すときはナチュラルに刺してくるタイプだ。何のためらいもなく、ブスリと容赦なく。

 なので今回は額面通り、よく働いている事に対するお礼と見ていいだろう。クビとかではないはずだ。うん。

 

 という訳で、この機会に主人公君の様子を見に行こうと思う。遊びに行くところも無いしな。

 思い立ったが吉日。取り敢えず馬車……よりも死霊術で死霊馬を出して乗ったり、魔法を使って走ったり飛んだりした方が速いので、生身で主人公が居るだろう村目掛けて爆走中だ。

 グリフォン? まだ不貞腐れてるよあんにゃろう。そんなに引き分けが嫌だったのか。嫌だろうな。死んでいるとはいえ幻獣の王。プライドは山より高いだろうし。

 

 ともかく、村についたら魔法学校の司書として現地調査を云々とか言って、手当り次第にインタビューして行こうと思う。第一村人は主人公……は気が早過ぎるので、その辺のオッサンでも構わん。確か宿屋は小さいがあったはずだし、そこを拠点に調査を進めようと考えている。

 

 何せ、主人公の顔も分からんしな。

 

 ……いや、『スカーレット・ダイアリー』の主人公はある程度自由にキャラクリ出来るんだ。野郎だというのは決まっているし、キャラクリの幅も狭いんだが。狭いんだが……もし筋肉ダルマだったらどうしような? 

 いや、イケメンだったらイラッ☆と来るだろうし、成長性の無いオッサンやジジイでも困るんだが。

 無難な青年であって欲しいところだ。具体的に言えばデフォルトの状態がベスト。何も変わらない君で居て欲しい……

 

 

 三月 二十日。

 

 ショタかよォォォ! 

 

 

 三月 二十一日。

 

 ショタである。もっと言えば可愛い要素が強すぎて、殆ど男の娘である。ぶっちゃけ男には見えないあれだ。ヤツが女湯に入っても私は気づかんぞ。

 

 ……いやまぁ、そうだよな。見た目が女性的過ぎるのはともかく、年齢的にはショタでもおかしくはないのだ。年頃は十二か三か。ガチショタではないが、広義のショタだ。つまりショタだ。ガキだ。

 もうため息しか出ない。これでは色んな人から子供は戦場に出るな! と撃たれながら批判されてしまう。私的にも出来ればもう三歳ぐらい歳を食っていて欲しかったところだ。主に戦力的な意味で。

 

 とはいえ、赤ちゃんやボケジジイよりはマシ。魔法学校にさえ放り込めば何とでもなるだろう……そう思っていた時もありました。

 

 主人公、魔法学校行かないってよ。

 

 

 三月 二十二日。

 

 なめとんのか貴様? そう殴ってやりたいのは山々だったが、聞けば納得であった。

 曰く、行く理由が無い。

 

 行く理由が無いなら物語の舞台に行く訳が無い。道理である。

 ……そういえば、ゲーム主人公の魔法学校入学理由はなんだったかな? どうにも主人公の設定は──どうでもよさ過ぎたせいか──忘れてしまった。割りと重めの内容だった気がす、ん? 火事か? にしては騒ぎがおかしい──あ、しまった忘れてたァ!! 

 

 間に合──

 

 ……………………

 …………

 ……

 

 厄災は突如として現れる。

 村の老婆が口を酸っぱくして繰り返し伝えていた事は、今や現実として少年に緋色の結末を見せつけていた。

 

 夕日が落ち、闇夜に染まったはずの村は赤々と燃え上がり、そこらじゅうに見知った顔が倒れている。地に伏せたその身体から血を流し、あるいは魔物に食われながら。

 そして、それは少年とて他人事ではない。まだ両親が残っているというのに、我が家はごうごうと燃え上がっているのだ。だというのに少年は……まだ、動けずにいた。炎に飛び込む勇気もなく、かといって逃げ出せる程の決意も湧かずに。

 

 当然、そんな奴は美味しいカモでしかなく。他の村人を殺し終わった数匹の魔物がギョロリ、と少年の方を向く。

 次はお前だと。

 

「ひっ……」

 

 生来気弱な質だった少年は、もう後退る事しか出来なかった。悲鳴らしい悲鳴すら出てこないまま、ズルズルと情けなく。

 だが、そんな歩みで魔物から逃れられるはずもなく。気づけば、魔物達は少年の直ぐ近くまでやってきてしまっていた。

 死ぬ。

 殺される。

 誰か助けて。

 そう恐怖が喉元まで上がってきた……その瞬間。雷光が魔物を引き裂き、少年の前に誰かが駆け込んで来る。

 ひるがえるのは黒いローブ。立ち塞がる様に、あるいは庇う様に地を踏み締めるその人影は……思ったより小さく、自分とさほど変わらない年齢に見えて。けれど、けれど。

 

「あ、貴女は……」

「下がっていたまえ、少年。それとも、私と共に戦うかね? 私はそれでも構わないぞ。仲間が増えるというのは楽でいいからな。それが優秀なら言う事はない……そうは思わないか? 少年」

 

 どこからともなく槍の様にも見える杖を召喚し、それを魔物目掛けてスッと構えて見せる少女──確か村に調査に来たという魔法学園の先生──は……こんな状況だというのに、饒舌に少年に声を掛ける。立ち上がれと。

 

 ──男の子なら、女の子の前で格好悪い事は出来ないな! 

 ──ユウも男の子ですものねぇ。でも、怪我はしちゃ駄目よ? 

 

 声が、聞こえた気がした。燃え落ちた家でも、少年の内からでもなく、少女の影の中から。陽気だった両親の声が。

 負けられない。

 死の恐怖は、不思議と消え去っていた。あるのは胸の内から湧き上がる熱い想い。少年は誰かに背を押されるかのように立ち上がり、少女の言葉に頷いて細剣を手に取る。家の玄関の前。地に突き立っていた……両親の形見を。

 

「ほう? レイピアか。しかもそれなり以上の魔法の品だ。乱造された品じゃない。職人か、あるいはダンジョン産の魔法剣。魔法のレイピア。魔法のレイピア? あぁ、いや……そうか、彼らは間に合わなかったか」

 

 残念だ。そう黒のケモミミをしゅんと力なく伏せながらも、彼女は寄ってくる魔物を次々と討ち倒していく。

 彼女の側に寄るなりグッと動きが鈍くなる魔物目掛けて魔法の紫電を浴びせ、あるいは杖の石付きを強かに突き込んで。

 紫電一閃。今もまた魔法の雷が魔物達を切り裂いて討ち滅ぼしていく。その有り様は正しく無双。少年がレイピア片手に彼女の横に立つ頃には、近くにいた魔物は全滅していて……しかし、少女は喜ぶ事もせずにむぅと難しそうな声を上げる。ローブをめくりあげながら、黒くてもふもふな尻尾をピンと立てて。魔物が集まって来ている、と。

 

「ふぅん? なるほど、こうなる訳か。これなら確かに防衛戦になるな。……少年、戦えるな? いや、戦って貰うぞ。両脇は私が面倒を見てやる。一匹も通さんし、近づけん。君は正面の敵だけに集中するんだ。いいね?」

「っ! はい……!」

「いい返事だ。さぁ、チュートリアルと行こうか!」

 

 戦い方を教えてあげよう! そう高らかに歌い上げる様に啖呵を切った少女と共に、少年は一歩前へと踏み出していく。

 燃える村。死体となった村人。襲い掛かる魔物達。

 しかし少年の心に恐怖は既に無い。あるのは怒りとも、憎しみとも違う……燃え上がる熱い想いだけ。そんな少年の姿を、少女と暗闇だけが、暖かく見守っていた。

 

 あぁ、彼の者の戦いに……栄光あれ!





 魔法の羽ペン。
 持ち主の思考を読み取り、それを書物にそのまま書き写す魔法の羽ペン。極めて便利な品であり、世界中で広く使われている。

 だが……なぜ誰も疑問に思わないのだろう? 脳ミソも、脳ミソの代わりになる物もない羽ペンが、どうして人の思考を現せるというのか? 書くべきものと書くべきでないものを、どうやって判別するというのか?
 本当に、人が羽ペンを操っていると言えるのか? 深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いているというのに? 羽ペンが人を覗き込んでいないと、思考に介入していないと、なぜ言えるのだろう?

 注意せよ! 脳ミソが無いのに自分で考える魔法の品は、等しく闇の品なのだ! 油断大敵!
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