架空原作TS闇深勘違い学園モノ   作:キヨ@ハーメルン

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 自分について多くを語ることは、自分を隠す一つの手段となり得る。
 フリードリヒ・ヴィルヘルム・ニーチェ。


第25話 過去の影

 ロッジ内での不意遭遇戦……160番代から180番代、果てには190番代の出来損ないまでもが乱入してきた一戦を何とか潜り抜けた私達は、ついにと言うべきか? ロッジ最深部に辿り着いていた。

 薄暗く、しかし所々に青色系の明かりが灯る、どこか近未来的な施設。超古代魔法文明の遺跡を接収したか、あるいは模倣したのだろう場所……ホムンクルスの製造施設、その入り口に。

 

「ここは……あの、ニーナ先生。ここは、いったい?」

「──うん? あぁ……ここかい? ここはホムンクルスの製造施設だよ。管理番号は、確か三番だったかな? このロッジ内で最も頻繁に使われ、そして多くの失敗作を作り出した、ロクでもない場所さ。……とはいえ、その地獄の坩堝もあらかた壊された後らしいけど……ん、もしかして興味があるのかい? ユウ、それにエマ先生も? ふぅん……そうだね。なら、好きに調べてみるといい。ロクな知見は得られないだろうけど……幸い、ブービートラップは無さそうだし、そもそも秘密は甘い物。あぁ、止める気はないよ? 私にはね」

 

 好きにすると良い。そうよく回った口を自然な流れで閉じた私は、自分の生まれ故郷に……陰鬱で怪しげな科学施設に、改めて視線を戻す。

 破壊された培養槽──オリジナルではなく、連中の劣化コピー品──や、そこから零れ落ちた培養液。そしてそれらを管理、維持していたコンピューターやパイプライン等の機械設備。どれもこれも外の技術レベルを数百年は上回るそれらを見て……私の心がちっとも揺れ動かないのは、良い事なのか、悪い事なのか。どちらにせよ、確かなのは不動を貫けているのは私だけ、という事だろう。

 何せ、ほら。あのレナですら私から目をそらして何かを囁いている。私ではなく、エマ先生に。

 

「ねぇ、エマ先生。何か分かる? 今日のニーナ、なんだか……」

「すみません。生徒会長。私も何がなんだか……先日の天文台より更に高度な技術が使われているのは分かるのですが、それ以上は……何も」

「ん。じゃあ、ホムンクルスの方は?」

「ホムンクルス、ですか。たしか、百年程前に失敗した錬金術の秘技だったはずです。その件では亡くなった人と瓜二つの命を作り出し、ある種の生き返りを達成しようとしたそうですが……結果は失敗、いえ、大惨事を引き起こしました。培養されていた命はある日突然変異を起こし、人間どころか討伐すら困難な怪物が生み落とされたのです。それは町一つを壊滅に追い込んだ後に自壊し、残ったのは瓦礫の山と死体だけだった……と、私が読んだ本にはそう書いてありました」

「そう……バケモノ、なんだ」

「はい。文献には制御不可能な怪物である為、作り出す事は勿論、研究する事すら禁ずるべきである、と。それが確かなら、ここは……」

 

 ニーナ先生の言う通り、ロクでもない場所なのでしよう。そう嫌悪感を隠す事もせず吐き捨て、どこか苛立つ様子を見せるエマ先生に、私が掛けれる言葉は……無い。

 だって、その通りなのだ。ホムンクルスは、私は、制御不可能な出来損ないのバケモノで、いつ消えてもおかしくない……いや、いっそ消えた方が皆の為になる泥でしかないのだから。それを思えば、エマ先生の嫌悪感は正常な物でしかなく、至極真っ当な感情であり、教師として正しい姿だとすら言えるだろう。

 私とは違って、綺麗で真っ直ぐな、人としての姿だと。

 

 ──けど、それでも。

 

 まだ、まだ私は立ってなきゃいけない。まだ私にはやらなきゃいけない事があるんだ。

 叱咤激励。いつの間にか下を向いていた視線を、半ば無理矢理に正面へと上げて……そうして突き刺さるのは、やはりというべきか、生徒達の視線だった。恐る恐る周りを観察した上で、チラリチラリと、私に視線を投げ掛けていたのだ。これは何だろう? 見た事もないと、それでも私なら説明出来るのだろうと、だが今それを聞いてもいいのだろうかと、そんな優柔不断な思考がにじみ出たそれを。

 それらの声にならない声を無下に出来る様な奴なら、私は……あぁ、先生などと、間違っても呼ばれなかったのだろうな? 

 

「…………昔話をしよう。もう何百年も前の話だ。ある馬鹿共が途方もない夢に挑もうとした。荒唐無稽であり無知蒙昧ですらあるバカ話。多くの権力者が夢見た、人類史上最も愚かで嘆かわしい希望……不老不死にね」

 

 つまらない話だよ。そう吐き捨てる様に、あるいは前置きする様に、生徒達の視線に根負けした私は言葉を繋げる。

 話したくはない。けれどいつかは話そうと思っていた言葉を、事実を、調べ上げた歴史を。学園教師の端くれとして……いや、罪人の一人として。嘘偽り無く話す為に。

 

「くだらない話さ。あぁ、当然の事ながら、その馬鹿共の目的は未だに達成されていない。当たり前だろう? 不老不死なんてモノがそう簡単に手に入るはずがない。連中は副産物として無数の失敗作と悲劇を生みこそすれ、成果らしい成果はロクに上げられなかったんだ。膨大な資金、人員、政治力……ありとあらゆるリソースを食い潰しただけの穀潰し。無能。居ない方がマシのクズ野郎。それが連中の全てであれば……あぁ、どれだけ良かったか」

 

 やれやれだと、そう頭に手を当てて、首を横に振りながらため息を吐き……けれど、誰かが何かを言う前に、私の口から声が再び転げ落ちていく。苦笑混じりに、半ば茶化す様な声が。

 

「困った話だよ。本当に。神か悪魔かは知らないが、奴らに特大の幸運をプレゼントしたバカ野郎が居たらしくてね? 自然消滅を待つだけだった連中の一派が、ある日、古代文明の遺跡を掘り当てたんだ」

 

 そして、それが転機になった。……そう肩を落としながら言葉を吐き出した私は、一息だけ呼吸を入れた後、直ぐにため息混じりの声を零していく。

 

「誰が仕組んだ地獄やら。それとも全ては偶然だったのか? どちらにせよ、連中は超古代魔法文明の遺産を、そこに眠っていた空前絶後の技術力を手に入れたんだ。笑えない話さ。五世紀分は向こうにあっただろう圧倒的な技術力や、想像も出来ない様な魔法遺産を手に入れた連中は、それらを背景に勢力を急速に拡大。あっという間に大陸中に広がり……その勢いのまま、けれど人目を忍びながら、そこかしこで地面を掘り起こし始めた。一心不乱に、確信を持ってね? ……あぁ、そうさ。出てきたよ。古代文明の遺産が、技術が、兵器が、あちこちから!」

 

 間違いなく独占状態だったろうさ! そう吐き捨てる私の声は、思ったよりも力強いもので。けれど、私はその勢いに任せたまま、喋り倒す。誰も止めないのを、良い事に。

 

「そうして掘り起こした遺跡を誰に邪魔される事も無く接収した奴らは、それらを拠点に支部やロッジを作り、勢力を更に拡大。闇に隠れながら、未だに勢力を拡大させ続けているんだ。片手で信者を増やしながら、もう片方の手で遺跡を掘り起こして活用する事でね。……あぁ、ここまで言えば、もう分かるだろう? ソイツらこそが、この戦乱の世で唯一利益を得ているクソったれ。魔王軍や魔王種を陰で煽り、操り、けしかけて、労せず目的を果たそうとしている汚い奴ら。表向きは宗教団体を名乗りながら、その実はイカレたマッド共の集まり。……そら、答え合わせといこうじゃないか?」

 

 答えてみたまえよ。連中が、世間で何と呼ばれているのかを。……そんな言葉と共に投げ掛けた視線を受け取ってくれたのは、やはりというか、レナ、ユウ、エマ先生にアリシアの四人だった。

 私とよく話していた、私の思考パターンを理解してくれる、得難い人達。そんな彼ら彼女達へのパスは、無視される事も無く、かといって捨てられる事もなく、直ぐに返って来る。迷いが見れる、けれど確かな声で。

 

「まさか、それが邪教徒……?」

「正解だよ。エマ先生。それが連中の正体で、この戦乱の真実だ。……おっと、連中の考えなんて聞かないでくれよ? 設立当初なら兎も角、今日に至っては当初の目的とは別の目的を持つ奴の方が多いんだ。他に居場所がない奴も居れば、死んだ誰かに会いたいとか、より強大になりたいとか、人類種に秘められた未知の可能性とか、能力の限界値とか……あるいは、神に成りたい、とか。そういうどうしようもない連中が殆んどだからね。手段の為には目的を選ばない奴らの考えなんて知らないし、知りたくもないよ」

 

 クソくらえだ。そう吐き捨てた私は苛立ち紛れにコンピューターを──私からすれば骨董品レベルのそれを──蹴りつけて……わざとらしく、大きな息を吐く。落ち着く為に。あるいは、今まで後回しにしていた本題に入る為に。

 けれど、直ぐに続くはずの言葉は簡単には出てくれず。少しだけ、レナの疑う様な視線が強まって……それでようやく、言葉が滑り落ちてくれる。さて、ここからが本題なんだがね? と。そんなありきたりな前置きが。

 

「そう、たしか……十年程前かな? 偶然なのか、計算の結果なのか。はたまた古文書にでも書いてあったのか。邪教徒の一派がここを……超古代魔法文明のホムンクルス製造施設を掘り当ててね? そうして始まったのが、N型ホムンクルス……次世代戦闘用ホムンクルスの製造だ」

 

 まぁ、連中の愚痴と実験レポートを信じるなら、だけどね? と、そう茶化す様に言葉をつけ足した私はよく喋った口を一度閉じ、皆を置いて更に前へと足を踏み出していく。

 ここから先を説明するなら、もっと奥の方が都合が良いはずだからと。

 たとえ、そこに、見られたくないモノがあったとしても。

 いや、むしろ、それこそを見せるべきだろう? そうしてこそ、私は拒絶され、死ぬ事が出来る……

 

「ッ……」

 

 走る頭痛。影の囁き。揺れる視界。それらを知覚した私の無意識が、無意識のまま鎮静剤を再度服用するのを自覚しつつ……それを考えたくない私は、あえて別の事を思考に上らせる。そう、例えば、ここで行われていたN型ホムンクルス開発計画の事……いや、この言い方は正しくないな。正しくは──

 

 ──次世代戦闘用ホムンクルス開発計画、か。

 

 当時教団主力戦力であった戦闘用ゴーレム……旧式化が著しい旧型のポンコツを完全に過去の物とし、それらを全て代替、一新する事でホムンクルス派の教団内での影響力を確固たるものにすると同時に、教団そのものの柔軟性を拡張しうるとされた一挙両得の策。それが新型ホムンクルス開発計画の表向きの顔だった。

 ……そう、表向き。表向きだ。建前と言い換えても良い。実際、裏ではあれやこれやと個々人の思惑が動いていたし、上の命令を無視して独断専行なんてよくある事でしかなかった。というより、大人しく従っていた時間の方が短いまであるだろう。それは他ならぬ私が、文字通り身を持って知っている事だが……と、そこまで一息で思考が走ると同時、閉じたはずの口が再び動き出す。とはいえ、開発計画は最初から暗礁に乗り上げていた、なんて、周りの理解を求めない独り言を、ただ淡々と。

 

「当たり前といえば当たり前だろうけどね。当初は全く成果が出なかったんだ。何せ、連中が最初に作ろうとしたのは人の形を捨てた一騎当千の魔法生物、キメラ。獣の支配者にして接ぎ木の王だよ? 上手くいく訳がない。そりゃあ人型に拘らないといえば聞こえは良いけど……その内実は前代未聞の難題に手かがり無しで挑む様な、ハッキリ言って無謀な試みだったんだ。実際、実験体や貴重な素材に資源。何より莫大な予算を使い込みながら190通りもの失敗を繰り返し、にも関わらず何の成果も無い彼らは教団内においても処理対象でしかなく……他のロッジが事故や摘発で破壊された事、何よりあまりの愚図っぷりに我慢ならなくなった本部から大司教、ないし枢機卿クラスが派遣されて、案の定方針を転換するハメになった。責任者は軒並み更迭された上、200番代には人外ではなく本部お得意の人型が採用。目的地もキメラから本来のホムンクルスに修正され、更に派遣されたお偉いさんの鶴の一声で温存されていたドラゴン等の幻想種の素材や、人間の死体等も後先考えず投入。使える設備やノウハウも惜しみなく注ぎ込まれ……あぁ、そうした紆余曲折の果てに、次世代戦闘用ホムンクルスは一応の完成を見たんだ。純粋なホムンクルスではなく、キメラとしての性質も持ったプロトタイプ……217番、彼女がロールアウトされた事でね」

「? 217……?」

「もっとも、連中の興味は既に次の段階……量産化にあったらしくてね? 217番の扱いはかなり雑かつザルなものだったんだが……っと、やっぱりか」

 

 217。そんな音の響き、いや、あるいは別の何かが引っ掛かったのだろうか? 何かに気づきかけたレナを、彼女の声を、あえて無視して喋り倒していた私だったが……ついに、というべきだろう。私は、私達は、既に製造施設の奥深くまで足を踏み入れていて……自然、まだ無事な培養槽を、破壊工作を受けなかったソレを見つけてしまう。

 それは中身の無い、培養液だけが満たされた容器だったが……それは、最初だけ。奥に行けば行く程、中身入りの割合は増えていく。

 あぁ、獣や魚に似た物は、まだ良かった。生徒達もそれがナニカ分からなかっただろうから。

 その奥にあった丸まった胎児の様な、あるいはそれにしては歪なナニカもまだマシだろう。博識なエマ先生は何かを察してか口元を押さえてしまったが、まだ決定的とは言えなかった。

 そう、まだ決定的とは言えない。赤子の様な肉塊も、少女の面影が見える異形も、なり損ないのキメラも、まだマシだ。だって、まだ私じゃない。

 けれど、けれど……ソレを見てしまえば、もう後戻りは出来なかった。最奥に近い培養槽。その中に浮いていた少女は…………あぁ、私だ。私の顔が、そこにあった。

 

「ッ……!? ニーナ……!?」

「私はここだよ。レナ。大丈夫だ」

 

 大丈夫だよ、と。そうレナの肩に手を回して、抱き寄せる様にしながらゆっくりと声を掛けたのは……殆んど反射でしかなかった。

 培養槽に浮かぶ私と瓜二つの少女。ソレの顔を見たレナの呼吸が止まってしまいそうだったから、つい、そうしただけ。

 だからこそ、私は直ぐにレナから手を離し……スルリと彼女の側を離れて培養槽を調べにかかる。これ以上レナに触れてはいけないと、何も感じてはいけないと、分かっているから。ただ、無心のままに。

 

 ──識別ナンバーは……無し? よく出来てる様に見えるが……いや、見えるだけという事か。

 

 あいも変わらず、と言うべきなのだろう。生きている様にしか見えないこの子も、所詮は目覚める事すらない失敗作……あぁ、何が起こったのかは想像するまでもない。恐らくは培養中に何らかの問題が発覚し、そのまま稼働を停止したものの……段階が段階だけにそのまま破棄も出来ず、再利用の機会を待っているうちにロッジが破棄される事になり、破壊工作も間に合わなかった……あるいは、再利用の可能性を鑑みて放置された個体、といったところだろう。

 哀れだが、ここではよくある話でしかない。そう私と同じ顔をした同胞に……いや、同胞にも成れなかった妹に思いを馳せていたせいだろうか? つい、口が滑る。推測に過ぎないが、と。そんな前置きまでして。

 

「私を増やそうとしたんだろう。頭の中から爪の先まで、散々弄くり倒して知り尽くした気になっている私を……唯一の成功例である私をね」

 

 全く、笑える話だ。そう思ってもない事を口にしながら、私はただ一人、更に先へと足を進ませる。困惑が強くなり、ほぼ疑いの目を向けてくるレナやエマ先生、生徒達を半ば置き去りにして。

 ……あぁ、分かっている。弁解に言い訳、あるいは説得や言いくるめ。出来る事は幾らでもあるのだろう。だが、私にそんな事をする気持ちはもう欠片も湧いてこず。である以上、私は一分一秒を急がなければならなかった。彼らの信頼が尽き果てる、その前に。私は。

 

 ──大丈夫。大丈夫だ。このペースなら、問題なく間に合う。

 

 残り時間は殆どなく、上手くいく確証も未だ無い。だが、それでも、私は不安という不安は感じていなかった。だって、あと少し、あと少しなのだ。三番培養室から続く奥の部屋……私が生まれた最奥部に足を踏み入れた今となっては、本当にあと少し、あとほんの数時間もあれば、最後の役目を終える事が出来るのだから。

 だから、そう、だから。まだ稼働中の培養槽──それも劣化コピー品ではなく、古代文明の残したオリジナル──を見つけた時、湧き上がる感情なんて、一つも無かった。あったのは、あぁやっぱり、という納得だけ。

 

「N-200シリーズ……やはり、残されていたな」

 

 ゴポッ、と。時折気泡が上る培養槽の中に居るのは、私とは少し違う私だ。先程見た子よりも少しだけ幼く、少しだけ生気が見れる私。稼働中のポッドの中でまだ生きている、N-200シリーズの生き残り。

 あぁ、こういう個体があるとは、最初から思っていた。いや、狙っていたと言っていい。もっと言えば、知っていたとすら言えるだろう。何せ連中ならオリジナルのポッドを破壊したりしないだろう事は考えるまでもなく、N-200シリーズに掛かるコストを思えば破棄しないのは妥当でしかないのだ。現に、ポッドに貼り付けられたメモに書かれている製造ナンバーは……

 

「230番。使用された材料は…………ほう? なるほど、N-200シリーズの集大成という訳か」

 

 少し幼いのが気に掛かるが……なんて、思ってもいない事を口にしながら、私は内心で安堵の息を吐いてしまう。どうやら最後の最後で私にも運が向いてきたらしいぞ、と。

 何せこの個体……生育途中なのか、あるいはここから追加で調整を施す予定だったのか? 今の私より少しだけ小柄なこの子は、しかし、私達姉妹の頂点に立つ存在としてデザインされているのだ。

 勿論、全ては推測でしかない。だが、使用された材料を見るに、まず間違いないだろう。少なくとも直接戦闘能力は私を幾らか上回るだろうし、素の指揮能力に至っては私を大きく上回るはずだ。何せ、この素材ならテレパシー能力を獲得出来るだろうからね。しかも、そうした高性能や新能力を獲得していながら、総合性能やトータルバランスは崩れる要素が殆どなく、キャパシティに至ってはプロトタイプである私の三倍以上。カタログスペックがそれなのだから、ロールアウト後の訓練を加味した場合の性能は計り知れないといっても過言ではあるまい。まして比較対象が私……旧式のポンコツでは、尚更だ。

 

 ──この個体なら不足はない……いや、今のレナを思えば、むしろ適任か。

 

 出会った頃は消極的で人見知りなところがあったレナも、今や打って変わって積極的かつ社交的になった。それは日常生活は勿論、戦闘スタイルや各種能力面にもプラスに働いており、今のレナに対人関係や戦闘面での不足は殆どない。あるとすれば組織の運営や運用、戦場での部隊指揮能力。そして政治、経済面で少し不安が残る程度であり……それすらも、この個体を新しい私とする事で解決出来るだろう。

 死に体の私が頑張るよりも、遥かにスマートかつエレガントに。この先どんな状況になろうと、確実に。

 

「……約束を果たす時、だな」

 

 懐に隠し持っている一本の羽ペン。それを服の上からやんわりと押さえつつ、私はそっと息を吐く。ようやく、肩の荷を降ろす事が出来そうだと。

 私以上の私。レナを守る最後の手段。かつてした約束を履行する唯一無二の方法。今や、それは手に届く場所にあるのだ。後はこの空っぽの器に、230番の身体に火を入れるだけ──

 

 ──残る懸念は実行方法……だが、それも理論上は上手くいくと結論が出ている。

 

 なら、後は実行するだけだろう。

 そう自身の思考に決着をつけた私は、最後の仕事……に取り掛かる前に、生徒達を立ち去らせに掛かる。

 だって、そうだろう? これから行われる外法を見せる必要なんてどこにもないのだ。ユウやアリシアは勿論、引率のエマ先生も……それと、どこから拾ってきたのか、燃えかけのレポート用紙を読んでいるレナも含めて、誰も立ち会うべきではない。誰にも、見せてはいけない。いや、見て欲しくは、ないんだ。

 

 ──もう、見せるべき物は見せたからね……

 

 真相も、裏側も、嫌悪にたる真実も、全て見せた。

 そうである以上、もう私の感傷に付き合わせる必要も、魂を引き裂く外法を見せる必要もない。

 だから。いや、だからこそ、なのか? 決別の言葉が、その出だしが、スルリと口からこぼれ落ちていく。さて、と。そんなありきたりな呼び掛けが。無意識のうちに。

 

「生徒諸君。君達もいい加減、私がどういう存在なのか……分かってきた頃合いだろう? あぁ、そう、そうだとも。君達の予想通りだろうね。だからこそ、改めて自己紹介しよう。私は次世代戦闘用ホムンクルス、そのプロトタイプモデル。識別ナンバー、N3-217。邪教徒共の手駒の一つであり、人を模した泥人形。あるいは、人と獣の死体を混ぜ繰り回せたおぞましきキメラ。それが、私だ」

 

 私の……全てだよ、と。そう決定的な情報を無責任に吐き出した私は、意図して笑みを浮かべてみせる。

 何にせよ。これでようやく、終わる事が出来ると。




 燃え残った研究レポート No.217。

 一部が焼失しているレポート用紙。研究員が覚え書きに使っていた物らしく、当時番号で管理されていた少女に行われた非人道的な実験、そしてその成果が書かれている。

「成功だ! やはりあの方は正しかったのだ!」

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