アブノーマリティに転生したが...ノーデスを目指しますが......知らないアブノマーリティしか来ないんですけど? 作:サイコロさん
私の居場所はなかった。
私はここから抜け出せなかった。
私は全ての絶望を受け止めなければいけなかった。
もう……期待はしなかった。
しかし、初めてあなたを見てしまった時……
いつもは忙しく動く足音に書類の重なる紙の音、またはタブレットのメールの着信音に電子機器の電子音。いつも通りな変わらない職員達の会話も、アブノマーリティの呻き鳴くおぞましい声も、今では聴こえない。俺は今、管理室へと歩いている。
「……」
そして管理室へと辿り着くとその取っ手を掴み取り開ける。そこには……
「よく来てくれましたね。【T-00-01《救世主》】さん」
青く光る多数の画面を背景に、高級そうな社長の椅子に座ったアンジェラがいた。
「すまねぇな。クリフォト抑制を無効化するのに手間取った」
「いえいえ、……しかし、クリフォト抑制すらも効かないとは、本当にどうすればいいんでしょうね」
そうやって困ったフリをするアンジェラ。
「でもあなたなら、職員達を襲わないんでしょうね」
「まぁ、アブノマーリティの情報を読み返したり、職員やオフィサーから借りた映画を鑑賞するぐらいかな」
「そうね……そろそろ本題に入るわ」
呆気なく答える俺。アンジェラは、一段目を鋭くさせてから俺に話し掛ける。
「
そして鋭い目線が俺を貫く。俺は難なく答える。
「簡単な話だ。俺は皆の笑顔を見たいからだ。ただただそれだけだ」
「あなたと他のアブノマーリティと一緒にしないで、他のアブノマーリティは「人を殺すことでより多くのエネルギーを作り出すか?」……どうしてその事を」
俺はアンジェラの疑問を無視して話を続ける。
「100倍遅く感じられるように設定され、記憶も忘れず、職員達が無惨に残酷に死なさせる方法をしか知れず、この地獄に閉じ込められた。だからお前さんは"光"を奪うことで復讐してやろうと……おいおい、そんな顔をするな。折角、美人な顔もむすっとしたら怖くなっちまうよ」
「……あなたは……どこまで知っているの」
珍しく動揺するアンジェラ。俺はその疑問に答えなかったが……
「俺はアンジェラ、お前の居場所を作ってやれる」
その言葉で目を開くアンジェラ。
「……それはどういうことなのかしら」
「決まってんだろ。最後の結末に、捨てられた……いや、"棄てられた"お前を助けるということさ」
「……」
「……」
長い沈黙が俺とアンジェラを包み込むように、この無音な空気と暗い空間が俺の心拍数を上げてくる。こんなに緊張したのは……大学受験と初めての仕事の面接の時ぐらいだな………いや、それ以上だ。
「……あなたは、私の全ての願いを叶えられるの?」
先に口を開いたのはアンジェラだった。そんなわかりきっている質問に俺は……
「うーん...わからん!」
素直な答えを出した。
「……はっ?」
アンジェラもこの答えは予測していなかったようだ。まあわからないモノはわからないけど……
「でも、お前が全て願うことをこんな
俺はアンジェラの目を見る。
「――だからお前を
そう呆気なく答える俺。そんな俺の姿を見たアンジェラは溜め息をついた。
「……あなたは私を助けたいの?」
「え? 助けたいけど?」
「そんな混沌無形な説得で、私を納得させることが出来るの?」
「いや~、お前なら納得してくれると思っているぜ。だって――」
俺は絶対的な根拠を話した。
「
何故、俺が話を聞いてくれるだけで確信するのか。それはアンジェラは冷たいからだ。まさに機械のように何よりも冷たい。それは何度も何度も繰り返された反復による心の磨り減り。いつ、どこで、誰が絶望するのかを全て覚えているからこそ、他の者にとっては初めてだけど、アンジェラにとっては何万回も同じ
アンジェラこそが、
「…………わ………を」
「ん?」
アンジェラが小声で何か言った。俺は聞き取れなかった。
「あなたを信用するわ。私を
今度はしっかり聞き取れた。………そうか(ニヤリ)。
「任せな。俺はお前を助けてやる。必ずな」
「ええ、期待しているわ」
俺とアンジェラは互いに不敵な笑みをした。こうして、アンジェラとの最初の密談は終わった。
わいわいガヤガヤと談話を楽しむ職員とオフィサー達。中には新メニューが出て喜ぶ声、どうでもいい普通の会話の声、誰かが弁当を作ってきた声にそれを妬む男性の舌打ち。さまざまな声や会話が聴こえる。
「でね。結局、私は嫌な予感がしたのに管理人が続行という指示があったから使い続けたのに……私のせいにしてくるのよ。酷くない?」
「まぁ所詮、人間は誰でもいいから感情を吐き出したいんだよ。多分、死んでしまう恐怖でパニックになっていたんじゃねぇか?」
俺はサリ姐さんとの会話(もとい愚痴)を聞いている。どうやら新しいアブノマーリティの能力に対する愚痴のようだ。
「確かに、その後、ちゃんと謝ってくれたわね。でもまあ、あのアブノマーリティは二度と勘弁だわ」
「まあまあ、それより新しいアブノマーリティってどんな感じなんだ?」
「例えるならシェルターね。タブレットによると何人でも使用できるらしいけど、その分クリフォトカウンターの減少速度が下がるらしいわ」
あの3月27日のシェルターの強化したっぽいアブノマーリティだな。するとサリ姐さんが席から立ち上がる。
「やれやれ、今からライムちゃん*1とのふれあいだから癒やされてくるわ」
「オーケー。あっ、でも収容室に落ちてある赤いスライムには触んなよ。あれは身体にも精神にもダメージ与えるからな」
「わかったわ、気遣ってくれてありがとね♪」
そしてサリ姐さんと入れ替わるように、とある一人が俺の前の椅子に座った。
「すまない。少し時間くれないか?」
「お? いいぞ。名前は……あぁ、自分から名乗らないとな。俺はハヤトと呼んでほしい。よろしく」
「俺は……そうだな、"管理人"だ。宜しくな」
「ん? 管理人さんよ。勝手にアブノマーリティとの接触はいけないんじゃねぇのか?」
「安心してくれ。既に許可は貰っている。早速だが話し合わないか?」
「いいぞ。ならこの前、とある職員がジムを建てて欲しいとー……」
俺と管理人は互いに、自分のことや世間話を軽く談笑しながら話をする。すると管理人が思いきったように話し掛けた。
「なあ……前回、新人に対しての実戦形式の研修……及びアブノマーリティの鎮圧をさせていただろ?」
「ああ、あれが響いているのか知らねぇが、結構鎮圧速度が速くなっていると、風の噂で聞いたな」
「その時の動画を見せて貰ったよ。かなり…いや、俺と比べるなんておごましい程の手腕だった。そこで――」
マグカップを降ろして、手を組み俺を見る。
「――どうやってやったのか、教えて欲しいんだ」
「はい、パソコンです」
「ほへぇ?」
俺が簡単に教えるとは1ミリも思わなかったのか、目をキョトンとさせる管理人。意外と変でかわいい声を出したな。
「いやいやそんな訳...っは!? 管理画面とほぼ一緒じゃないか! しかもなんだこれ! 認知フェルターのON·OFFに、クリフォト抑制、鈍化の加減すらもいじれるなんて.....ハイ!? しかも無線機能付き!? もうおかしいだろ!」
「おいおい落ち着け。周りが驚いているぞ」
「これが驚かない訳がないんじゃないか! アブノマーリティがここまでシステムを操作可能なんて……うん? どうやって充電しているんだ?」
「それはなぁ……こういう訳なんだ(ヌギヌギ)」
俺はスーツを脱いで、上半身裸になる。
「ッ!? 何をしているんだ……!?」
俺の体には普通の人間と同じように見えるが、一ヶ所だけ違う点があり、それは心臓部位から左手、両足が機械化されてある。それは青く鈍く光り、最新鋭な機械と歯車のような古い部品で構成されている。要するに見た目は古そう、中身は最新鋭の
「そしてこうすると……ほら、充電出来ているだろ?」
「あ、ああ、なるほどなぁ……スゴイナァ」
「語彙力低下しているぞ」
するとピンポンパンポンと放送がかかる。
『管理人、管理人。重要な会議があるため、コントロール部門第二会議室までお越しください』
「ほらほら、管理人さんよ。呼ばれておりますぞ」
「……そ、そうだな。貴重な体験を色々ありがとうな」
「おうよ! いつでも来いよ!」
そして早足で、会議室へと向かう管理人の後ろ姿を見届けている間、一つだけ気になったことを思い返した。
どうしてあそこまで、管理人は怯えていたような感情をするのか。ただそれだけ気になった。
「ふざけるのもいい加減にしろッ!!」
コントロール部門第二会議室へ移動した後、会議は始まった。議題は『アブノマーリティの作業効率向上案』『ビール自販機の設置今後のアブノマーリティ対策方針の決定』『セキュリティシステムの更新』『T社との今後の方針』そして『対アブノマーリティチームの結成』……最後のはアンジェラが直々に提案したものだ。しかし、この案にはここでは考えれない程の馬鹿馬鹿しい内容だった。
「何が、【T-00-01《救世主》】を軸とした対アブノマーリティチームを結成するだと! しかも
それはそうだ。人間に敵対するアブノマーリティを、一つの部門を締め括るセフィラよりも上の立場にするなんて……いくらなんでも馬鹿げてる。
「そうです! アンジェラさま、説明をお願いします!」
「まだ大した情報も出揃っていないのに、こんなのは不確定要素が多すぎます!」
「私たちが信用出来ないと言いたいんですか、アンジェラさま!」
各部門の代表からも非難が相次ぐ。それだけ可笑しすぎる内容なのだから当たり前だろう……しかし……
「黙りなさい、これは決定事項です」
アンジェラの冷淡な一括によって非難を黙らせた。しかしセフィラたちは渋々ながらも黙った。
「しかし、あなたたちの言うこともわかるわ。確かに不確定要素が多いアブノマーリティが、あなたたちよりも上の立場になって命令するなんて考えれないよね」
「だったら「俺は賛成だな」ネツァク、どうして!?」
そんな中、最初の意見を言ったのは緑色の機械、ネツァクだった。
「どうしてって? 簡単だろ。死者やパニックが今のところ0人なんだぞ。これはもはや異常事態だろ?」
「それはまだ、管理が簡単なアブノマーリティしかいなかったから「でも、"2日目の惨劇"では大した武器や職員がいなかったけど、【T-00-01《救世主》】のおかげさまで生きているんだぞ。俺の代わりになってくれないかな」……くっ」
「でもまあ、確かにチームを結成させるには人数不足ね。ひとまずこの件は保留とさせて貰います。各自、各々の仕事に戻りなさい」
そうして終わった重要定例会議。各々何かしらの思惑があるだろう。しかし、たとえアンジェラを尊敬するものも今回ばかりは許せないだろう。今は管理室までアンジェラと一緒に歩いている。俺はどうしてそんなことをしたのかと尋ねてみると……
「私は舞台を整えるのが役目なんです。だからこそ、私は私の役目を果たしただけです」
……これだけしか言わない。舞台を整えること……つまりハヤトが舞台に立たせる……これでは我々には――
「ハヤトが必要であるっと言いたいんですね。しかしお喋りが過ぎました。どうにかしてセフィラたちを納得させないとですね」
肩をすくめるアンジェラ。以前のアンジェラはもっと冷酷で冷たく、まさに機械だった。しかし今はほんの少しだけだが口の両端が上がっているように見える。
いったい何が彼女を動かしたのか……わかっている。初めてハヤトの我々とは異なる点、異常性を見た時、俺は……
畏怖と尊敬の念を抱いた。
このシェルターはとても安全です! アブノマーリティや便利屋、掃除屋でも侵入不可能! さらには攻撃すらも無効にする機能付き! まさに難攻不落! 全てはあなた方の尊い命の為に。