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ストロングゼロを飲んで風呂に入ったら
揺り篭の中にいた。
気が付いたら揺り篭の中にいた。
なんにせよ、俺は転生したのだ。とにかく前世の記憶がある。
正直、この記憶がいつまでもつかはわからんが、とにかく今、流行の転生ものだ。
前世の記憶のあるチートスタートだ。
さて、どんな世界に生まれたのか?セオリー通りに異世界なのか?
セオリー通りに勝ち組スタートなのか?ならいんだが。
流石に最近は飽和してたから、裏をかいてとんでもない負け組スタートかも知れない。
まどマギみたいなやつだよ。ほら。セオリーの裏っかえっしの。
が。
しかし、その心配は無用。
なんせこの揺り篭だ。普通じゃない。金の装飾とかあるぞ。これ。
超いい感じ。絶対に金持ち。
乳母とか普通にいるしな。
とにかく親が金持ちなのは間違いない。
周りの大人もみんなとんでもなく、いい服着てる。
籠から抱き上げられて部屋を一望した時にはもう確信した。勝った。圧倒的に勝った。みたこともない調度品。
普通子供の部屋にこんなの置くかね。壺やら絵画やら。
これ服やら調度品やら、少し中世趣味っぽいけど、時代は未来だな。バスタブで何となく察した。科学のある世界だ。中世じゃなくて良かったぜ。不衛生なリアルファンタジーやダークファンタジーは勘弁な。
2
言葉に関しては、最初わからなかったから、完全な異世界だと思ったけどね。英語でもないしな。フランス語やスペイン語だって習ってないけど、聞けばなんとなくわかるだろ?
まるで聞いたことの無い言葉だった。
とにかく、俺はどこかの国の王侯貴族だとは思ったけど。
俺の家族が喋ってるのがヘブライ語だってわかるのはもっと先だ。
おっと。それなのに俺は日本語でこれを書いてるな。てことは俺の記憶、俺の前世の記憶が生涯、維持できたことはもうネタバレだな。段々、忘れるようなパターンでは無かったよ。
まぁ前世じゃ碌な生き方してなかったから、あんまし役に立たなかった……
と言いたいが、この古い地球の知識は、大事な友を得るのには非常に役にたった。
続けようか。
当時、俺の限られた視界に入るのは、
乳母のデボラ。その他多数の、お祝いにくる来客たち。
やたら顔色の悪い禿かかった父親。名前は「旦那様」。
どっかで見た顔だとは思ったけど、頭がどんがってる禿げとしかその時は思わなかったね。
たまに顔を見せる母。ほんとにたまにだ。あまり愛されていないのかも知れない。名前すらわからない。
そして、ギョッとした。
初めて見た時には本当にギョッとした。
俺を見下ろす、その少年の目はまるで蛇のようだった。
俺を見ながら笑いもせず、ただ無感情に見えた。そして最後にフッと鼻を鳴らして去っていった。
蛇は兄だった。
3
たまに姿を見せる蛇は最後にいつもフッと鼻を鳴らした。
冷笑というか軽蔑というか、まさに「一瞥」という感じだった。
本当に不可解な少年だった。
「こんなくだらないものどうでもいい」という態度ではあるが「こいつをどう使うか」のような関心も持っていたのだろう。だから何度か俺を見に来てたんだとは思う。しかし、どちらかと言うと「こいつは使えんな」だったかも知れない。
まぁ少年と言っても、こちらは赤ん坊なわけで、
まさに俺からすると巨人だったわけで、まさに兄だったわけで、俺は基本的に蛇に睨まれた蛙のような気持ちだった。
蛇に関してはいまだによくわからない。わかった部分もあるが、それが演技だったのか、本当の姿だったのか。
冷徹なのか、甘いのか、孤独なのか、いや孤高なのか。
とにかく、乳母のデボラが蛇の名前を呼んだ時に
全てが判明した。
「ギレン坊ちゃま。サスロ様がおびえていますよ。ほどほどに」
4
確かに、俺はサスロと呼ばれていたが、何分、最初は言葉がよく
わからんかったしな。赤ちゃんとか坊ちゃんみたいなもんかと思ったし。「さする」みたいでヨシヨシかと思ってたよ。
親父はみんな「旦那様」だしな。
だけど「ギレン」の名を聞いて全てが判明した。
こりゃとんでもないことになった。とね。
俺はガノタだから知っていたんだ。俺が戦争の始まる世界に産まれたこと。この世界がいわゆる、ディストピアだってこと。
そして、そもそも戦争が始まる前に俺は爆破テロで暗殺されること。
こりゃとんでもないことになった。
とんでもないことになった。
とんでもないことになったんだよ。
俺は揺り篭の中でジタバタした。泣きたかったが、泣いてもミルクを飲まされるか、オムツを替えられるだけだ。
本当にまいってしまった。
とりあえず生き延びよう。
生き延びたい。
君は生き延びることができるか?
って?やかましいわ。