転生したらサスロ・ザビだった件   作:Munch

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三章 家族の肖像

1

正直、妹が生まれるまでは、この世界に馴れようと四苦八苦するだけで

家族のことをまともに見て無かったかも知れない。

 

家族というよりも「このガンダム世界」の一部のように俯瞰してたし、この世界が戦争で壊れ、この家族が死ぬことを真面目に考える余裕は無かった。

 

なんせ俺自身の暗殺の問題もあったしな。「他人」のことを考える余裕はなかった。

 

妹が生まれた時に、俺は二つのことを考えた。

「俺のガノタ知識だと、こいつが俺を暗殺する可能性大なんだよな。安彦のTHE ORIGINではそんな空気だった」

「あとこいつが、ギレン兄貴も殺すのか」

俺は、俺の命を守ると同時に、家族のことも考えだした。

 

兄貴はとにかく天才で、スーパーマンで、なんでもできて、目つきは悪いけど、イケメンの部類だったし、人を寄せ付けないかのようでいて、「フッ」と時に笑って、他人のメンツや立場を配慮する発言もしてあげたりもできて、人を操る術を、全て知っているような人物だった。

IQ240のカリスマ独裁者。まさにそれの卵だ。何を考えてるかわからんが、俺が無能すぎて役に立たないことはわかってるようだった。

 

弟のドズルはとにかく絵に描いたような、剛直番長だ。親分肌で喧嘩が強くて、強面で、それでいて案外優しくて、

それでいて、結構、勉強もできる。

 

親父は、「旦那様」で君主のような人だった。

誰も逆らわないし、君臨する人だった。色々と政治活動も当然、始めててメディアにも名前が載り出してた。何をやっているかわからんが、

兄貴は「何をやってるか知ってますけどね」と言う風で、弟はとにかく、偉大な親父を尊敬していた。

 

俺は、怯えてるに近かったかな。

当然、「パパ。俺、前世の記憶が俺にはあるんだけど」なんて言えないしないな。それを悟られるのも怖かった。まぁ言ったところで、精神病院だろう。当時は俺は自分のことだけで精一杯だ。

 

俺を変えたのが妹だったかも知れない。

妹の存在はいやがおうでも、俺を「この世界の現実」に引き戻させた。

 

 

2

そもそも、この家族はどこか歪んでいたとは思う。

母親が同居しておらず、まともに母に会ったことがない。

兄妹の母親が違うと言うのはたぶん、本当だ。

だから、「別の母」に遠慮して、母が家にはいないのだ。

 

俺は転生脳だし、兄貴はあんなだから、母親をそこまで必要としなかったが、ドズルは乳母のデボラが母の代わりだった。

ドズルはだいぶデボラに甘えていたな。

 

ただ、親父の威光と、英邁な兄貴に照らされて、そのうち、やたら男気キャラになって「ザビ家の漢は~」とか言い出したわけ。俺のようになったらまずいという危機感だろうか。いや、俺のいない世界、というか、俺がそこそこ有能だったはずの「本物のサスロのいた」世界でも、ああなったわけだし、よくわからんな。

 

問題はキシリアだ。

キシリアが生まれて半年ほどした時に、デボラが亡くなってしまった。

なるほど彼女は母親不在で育つわけだ。家には男だけで、使用人はいても、母のいない家庭。それが彼女を歪ませるのかも知れない。

 

流石に考えたよ。

赤ん坊のキシリアを見て。彼女を殺せば、全て解決するんじゃないかと。

俺は生き延びることができるかも知れない。

だけど、できなかった。普通無理だろ。赤ん坊殺すとか。

 

だから俺は逆に考えた。俺がこの子に構いまくって、残忍じゃなくすればいいんだと。


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